二次創作
# 最愛の君へ銃口を .
ウィンザーの挨拶が終わった後、●●とウィンザーは腕を組んだまま 会場の中央へと降りてきた。
彼らはまるで絵に描いたようにお似合いの二人だ。
ジュリアスは親しげに●●の腰に手を回し ●●もまた、彼に寄り添うように肩を預け、微笑んでいる。
その姿は、俺の視界を酷く乱す。
( ... ボスは、最初から分かってたんかもな )
俺はシャンパンのトレイを握りしめる手に、一層力を込めた。
彼らの周りにはすぐに人だかりができ、社交辞令と賛辞が飛び交う。
●●は、一人一人に丁寧に対応し、そのたびにジュリアスと目配せして笑い合っていた。
その完璧な演技に、背筋が寒くなる。
俺が知る彼女は、こんな風に社交的な場に溶け込むタイプではなかったはずだ。
『 人が多いのは苦手〜 ... だから、いふくんと二人きりで話す時間が大好きなの 』
任務終わりの通話で、そう話してくれていた。
顔は見えずとも、通話口の彼女がどれだけ幸せそうな笑顔でいるかは今も簡単に想像出来る。
それだけで幸せだった。
「 本当に美しい方ですね。ウィンザー様もお幸せそうで 」
近くで婦人の声が聞こえ、俺は思わず現実に引き戻される。
「 ええ、彼女は私の人生に光を与えてくれた 特別な存在です 」
ウィンザーがそう答え、●●の頬に軽く口付けを贈る。
会場からは感嘆の声が漏れた。
俺はその瞬間、トレイの上のグラスを一つ、粉々に砕いてしまいたい衝動に駆られた。
ガラスで手の皮膚は切れ、出血もするだろう。
それでも構わなかった。
だが、完璧な執事の仮面は、どんな感情も許さない。
俺は、表情一つ変えずに、その場を通り過ぎた。
ジュリアスと●●の関係性に、俺の胸中に燻る感情はさらに熱を帯びていく。
出来ることなら今すぐにでも ●●の手を引いて連れ去ってしまいたかった。
その時だった。
「 ___ お前が新人だな。まだ顔合わせはしていなかったと思うが。 」
突然、ターゲットが俺の目の前に立ちはだかった。
隣には 優雅に微笑みを湛えた●●が立っている。
俺は再び執事を装い、深々と頭を下げた。
「 はい、ウィンザー様。本日より、皆様のお役に立てるよう精進いたします 」
俺の声は、信じられないほど落ち着いていた。
心臓は激しく波打っているのに、声帯は完璧に命令に従う。
「 ああ、良い心がけだ。優秀な人材だと聞いている。期待しているぞ 」
ジュリアスは満足げに頷き、ポンと俺の肩を叩いた。
その視線が、隣の●●へと向かう。
「 ユリ、彼が今日からここの執事として働くことになった。何かと世話になるだろう 」
「 ええ、もちろんよ、ジュリアス。初めまして、よろしくね 」
●●は、まるで初めて会う人間であるかのように、俺に微笑みを向けた。
その瞳の奥に、一瞬だけ、微かな動揺が垣間見えたような気がした。
しかし、それはすぐに笑顔の仮面の下に隠された。
俺は彼女の目を見て、静かに頷いた。
「 こちらこそ、ユリ様。どうぞ、お見知りおきを 」
偽りの言葉を交わすたびに、心臓の奥が軋むような痛みに襲われる。
俺たちの間には、かつて確かに存在した温かい絆があった。
だが、今、俺たちは敵と味方、あるいは獲物と狩人として、この華やかな舞台で対峙している。
( 「ユリ」……それが、今の彼女の偽名なんやな )
脳裏にその名前を刻み込む。
偽名を使うこと自体は、この世界では日常茶飯事だ。
斯くいう俺も、偽名を使ってここにいる。
だが、彼女がなぜここにいるのか、そしてジュリアスとの関係がどこまで深いのか、その全てが未だ謎のままだった。