あの後。
その場が。しんとした。
斬撃が止んだ。
その瞬間。
ゲームが正常に戻ったような気がした。
バグが取り消されたような。
ようやく均衡が戻った感覚がした。
死んだ。
どちらかが死んだ。
斬撃によって斬られた学校の土地は
大きなクレーターとなった。
「不動明王」の効果範囲はおよそ半径800メートル。
学校だった場所は綺麗な円形をして
崩壊していた。
斬撃によって斬られた学校の土地は
大きなクレーターとなった。
全て切り尽くされた。
瓦礫も
雑草も
何もない。
そんな中
1人の男が立っていた。
その背中は朝日に照らされていた。
血が太陽の光を受け取って、光っている。
明け方。優しい風が吹いている朝のことだった。
彼は向こう側に倒れていた男に向かって刀を向けた状態で立ち尽くしている。
そう。

立っていた男こそが。

「笹丸！！！！！」
メイリスが駆け寄る。
「笹丸！！聞こえる！？笹丸！！」
笹丸を、支えるように肩に捕まる。
しかし、一向に刀を下げない。
もう勝敗は決まったはずだ。
その瞬間。
誰かが向こうで立ち上がった。
「えっ？」
そして、メイリスが困惑しているとその男は
メイリスとの距離を一気に詰め。
ナイフで首を狙った。
首にわずかながら切り傷が出来る。
このままいけば、
そう思った時にはもう。
ナイフは微塵切りにされ、
形を保っていなかった。
メイリスがナイフを壊したのではない。
彼女の目の前には。
一本の刀が朝日を受け取って輝いていた
「笹丸……….？」
笹丸が守ったのである。
最後の力を振り絞って。
「はっ…死してなお、人を守るために動くんすね。本当、バグっすわ。」
刀を握っていた手の力が抜ける。
そして、笹丸は役目を終えたかのように倒れた。
笹丸は片目を潰され、
風穴がいくつも空いていて、
返り血か、自分の血かわからないくらい
沢山出血していた。
「は？なんで…お前が。」
本当の勝者は。
笹丸ではなかった。

「勝ったのは俺。死んのだは」



「笹丸っすね。」
　

鰲海だった。
鰲海はにっこり笑って言う。
「いってぇ〜。流石に帰らせてもらうっすわ。メイリスさんと戦う元気はもうないっすからね。」
斬り落とされた腕を拾い鰲海はそのまま8Sのヘリに乗って帰っていってしまった。
「なんで………。」
本当は。
笹丸はとっくに自分の寿命を使い果たしていた。
おそらく「不動明王」を打ったあたりから寿命はほとんど、秒読みだった。
そして、最後首を切る瞬間。

運悪く。
命が尽きた。


「悠真君…..」
涙は出ていなかった。
メイリスの表情はまだ、現実を受け入れていなく、困惑した表情だった。
そして、死んだ笹丸の顔はどこか、寂しそうな顔をしていた。
頭から流れる血が
目を通る。
まるで、笹丸が
泣いているように見えた。
「「姫。すぐに動きましょう。」」
「……..」
メイリスは死んで動かない笹丸を、抱きしめ続けている。
ドンドン体温が低くなっていく。
心音などは聞こえない。
「「姫。このままだと。ナイトメアがKANから除外されてしまいます。」」
「………わかってるよレイジ。」
メイリスは何の気力もなかった。
「「理由は何故かわかりませんが、貴方はナイトメアをこのKANから離脱させたくないはずです。」」
「その通りだよ。。」
「「ならばすぐ動きましょう。」」
「…………。」
「「姫。こうなることはあらかじめ予想のついていたことです。寿命間近の笹丸はもう戦えるはずがなかった。それでも任務を遂行し続けていた。安静にしていればよかったものの、。まぁ要するに自業自得です。」」
さらに抱きしめる力を強くした。
そして、笹丸を抱え上げる。
メイリスが口を開く。
「自業自得じゃないよ。笹丸にはとある夢があったんだよ。………….まぁこの話は後でいいか。」
「「……」」
「おそらく、笹丸を殺した理由はナイトメアをKANから離脱させるため。」
「「そうでしょうね」」
笹丸を抱えながらレイジに向かって歩いていく。
「それだとまずいんだなぁ。ならわかるよね。レイジ。」
「「まさか、ナイトメアをかくまう気で？」」
「その通り。」
「「匿っている事がバレたら火ノ川家。いや、KANの秩序執行部隊が黙ってませんよ」」
「なにを。もし、秩序が私たちを殺そってんなら。ぶっ殺し返せばいい。」
彼女の目は恐ろしかった。
まるで
獲物を奪われた時の
狩人の、ような目をしていた。
「ナイトメアに行こう。レイジ。」　
死体を抱えながら彼女らは朝日に向かって歩き出す。
そして
風が優しくメイリスの頬を撫でる。


ナイトメアを、頼む。


そう。笹丸が言っているような気がした。
もう、死んでいるのに。
そんな気がした。
「わかってるよ。悠真君。」
「「どうかしましたか？」」
「何でも？それじゃ。行こうかレイジ。」



そして、現在に至る。