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運命の赤い糸

#1


『―結婚の決め手は何だったんですか?』

『―やっぱりこの人しかいない!て強く思って。今思えば「運命」だったんですかねぇ。』

『「運命の赤い糸」で繋がれていた、と言うわけですか~!』

『そっすね、一生掛けて幸せにします!』


楽しそうに出会いを語る俳優を一瞥すると、私はテレビの音量を下げた。

「運命とかアホくさ。」

テレビの見出しにはでかでかと『大人気俳優 伊藤直哉 一般女性と電撃結婚!!』と書かれていた。

嬉しそうな声色で結婚指輪を見せびらかす俳優の左手の小指には無数の深紅の糸が、まるで蛇がとぐろを巻くかのようにして巻き付いていた。

[水平線]

事の発端は数年前、当時五歳だった私は今とは違い、好奇心が旺盛な子だった。

友達の家に遊びに来ていた私は、ふとそばに居た友達の母親の左手に目がとまった。

『ねえ、おばちゃん。それなあに?』

『―え?ああ、これ?これは結婚指輪って言ってね――』

言い、きらきらと輝く指輪を見せる母親の言葉を遮るように私は声を重ねた。

『ちがうの、あのね、となりのゆびなの。』

言い、母親の小指を指差す。

私の目には、小指に赤い糸が『2本』絡みついて見えた。

『まっかないとがついてるよ?』

『え…?』

彼女は数秒、顎に手を当て考えるような素振りを見せた後、わざとらしい程の明るい声で放った。

『もしかしたら紬ちゃんには運命の赤い糸が見えてるのかもね~。』

『うんめいのあかいいと…?』

聞き慣れない言葉を小さく呟き、オウム返しをする。

すると、隣で見ていた友達が身を乗り出して

『あかいいとってなぁに~?』

と聞いた。

友達の目はまるでお気に入りの玩具を見つけたかのようにきらきらと輝いていた。

『自身のいずれ結婚する人と繋がっているって言われている糸のことよ。』

ね、と言い左手をひらひらと振る。

説明する彼女の顔は、何処か引きつっているようにも見えた。

その出来事から数ヶ月後だった。

友達が遠方へ引っ越してしまったのは。

原因は『母親の浮気』。

友達の両親は離婚し、友達は父親の方について行ってしまった。

まだ幼かった私は何が起きたのか理解が追いつかなかったが、今なら母親の顔が引きつっていた意味も、私の言動の愚かさも、全ての意味が分かる。

私は一言だけで友達の『運命』を滅茶苦茶にしてしまったのだ――。

[水平線]

この出来事が起こってから、私の性格は段々と閉鎖的になっていった。

ふ、と物思いに老けている私を現実に引き戻したのは軽快なCMの音。

「……やなこと思い出した。」

すぐ傍に置いていたリモコンを手に取ると、赤いボタンを押し込む。

プツと言う音と共に目の前の画面が暗転する。

最悪の気分だ。

どうせあの俳優もすぐ別れるでしょう。

……あんなに糸が絡みついていて。幸せな結婚生活なんて迎えられるわけが無い。

さて、スキャンダルが発覚するのもいつまでか。

そう思うと、床の上にごろりと寝転んだ。

2025/02/06 22:48

なつめ ID:≫ 380oc/xthzvmY
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