ジリリリリリ…ジリリリリリ…。
一定の間隔でうるさく鳴く電話のベルの音が、小さいボロ家の中で鳴り響いた。
俺は受話器にそっと手をかけ、耳の方へと持っていった。
「もしもし？」
俺の名はラヴィカ・ラグナス。自称齢40の人間の男だ。訳あって身元を隠して生活している。
いつもの調子で電話に出ると、電話の主から返事が返ってきた。
「もしもし。こちらリコ。少し急ぎで頼みたいことがあるの。」
出てきたのはリコさんと言う女性だ。見た目はとても綺麗で、表でモデルをやっており、裏では俺と同じ仕事に就いている。
「リコさん。頼みたいこととは？」
俺がそう聞くと、リコさんはややため息混じりで答えた。
「実はね、急遽モデルの仕事が入っちゃって、ちょうど仕事の日時と重なっちゃったのよ。」
「いつになりますかね。」
俺が聞くと、リコさんは答えた。
「明日の午前２時。場所はレーグレイ駅前の酒屋の裏。ちょうどそこで違法取引があるみたいなの。」
リコさんと俺の仕事は、そう言った行為を取り締まること…いわば警察と言ったところか。
いや、おおやけにはなっていないので、秘密警察と言えば良いだろうか。
日時と場所を聞いたので、俺は返事を返した。
「相手の特徴などは？」
俺がそう聞くと、リコさんは答えた。
「金の瞳で、茶髪。もう一方は灰色の目で、あなたと同じ様な白銀の髪よ。背丈はどちらもヒグマほどで、体格もいいらしいわ。おそらく持ち物とかは服の中に隠し持っているはずよ。」
「なるほど、俺よりは高そうだな…」
「それ言ったらあなたより低い人を見つける方が難しいわ。」
「子供には勝てますよ。さすがに…」
「とにかくよろしくね。お酒奢ってあげるから、頑張って。」
気づくとリコさんからの電話は切れていた。
半ば強引に依頼を押し付けられたものの、俺は酒が飲めると聞いてやや有頂天になっていた。
早く終わらせて、早く酒を奢ってもらおう。
依頼の心配よりも、むしろ喜びの方が勝っていた。

…ところで、背を伸ばす方法などは解明されていないのだろうか。
俺は自分より高い所にある電話機へめいっぱい体を大きくし、腕をぐいぐいのばし、背伸びも限界までして、やっとの思いで受話器をおさめた。
(自称)齢40にして、背丈は145センチ。
きっと伸びると信じ、俺は買い物へ出かけた。