フランシュシュのミーティングルームでは、メンバーたちが次回のライブ企画について話し合っていた。巽さんがホワイトボードに乱雑な文字を書き殴る中、紺野純子は少し困惑した表情で手を挙げた。
「えっと、巽さん、少しお伺いしたいのですが…。今、サキさんがおっしゃった『バズる』って、どういう意味でしょうか？」
その言葉に、サキさんが勢いよく振り返った。
「おい、純子！ マジでわからねぇのかよ？ 『バズる』ってのは、ネットで話題になってドカーンと注目されるってことだよ！」
純子は目を丸くして、首をかしげた。
「サキさん、そういう意味なんですね…。でも、『ドカーンと注目』って、具体的にはどういう状況を指すのでしょう？ 私の時代だと、新曲がラジオで流れたり、雑誌に載ったりするのが注目されるってことだったんですが…」
愛さんがクールな声でフォローに入った。
「純子、現代だとSNSで拡散されて、たくさんの人が見たりコメントしたりする状態を言うのよ。さくらやリリィが可愛い写真を上げて、それが何万も『いいね』されたら『バズる』って感じね」
純子は「なるほど」と頷きつつも、少し戸惑った表情を浮かべた。
「愛さん、ありがとうございます。『SNS』は…あの、携帯電話で皆さんがよく使ってるものですよね。私、愛さんに教えていただいて少し触ってみたんですが、『いいね』って何かもよくわからなくて…。私の頃はファンレターが届くのが嬉しかったんですけど、それとは違うんでしょうか？」
ゆうぎりさんが穏やかに微笑みながら口を開いた。
「純子はん、わっちらの時代とも少し違うでありんすが、『いいね』は現代の応援の形の一つでありんす。手紙を書くより気軽に気持ちを伝えられるから、みなさんがやってるみたいでありんす。」
「ゆうぎりさん、そうなんですね…。気軽に、というのは素敵なことかもしれませんけど、私には少し寂しく感じます。ファンの方の直筆のお手紙って、温かみがあって…」
純子は少し遠い目をして、そう呟いた。
その時、リリィさんがキラキラした目で割り込んできた。
「純子ちゃん！ リリィの写真がバズった時は、すっごく嬉しかったよ！ ファンのみんなが『可愛い！』ってコメントしてくれて、まるでステージで拍手もらってるみたいだったんだから！」
純子はリリィさんの笑顔を見て、少しほっとしたように微笑んだ。
「リリィさん、そういう感覚なら私にも少しわかる気がします。ステージの拍手は本当に励みになりますよね。ただ…たえさんが時々変な顔で映ってる写真が『バズる』のは、ちょっと理解に苦しみますけど…」
その言葉に、さくらさんが笑いながら手を振った。
「純子ちゃん、たえちゃんの変顔がウケるのは面白いよね！ 私もびっくりしたよ！」
純子は苦笑しながらも、丁寧に答えた。
「さくらさん、そうですね…。面白いかどうかは私には難しいところですが、皆さんが楽しんでるならいいのかもしれません。巽さん、これが現代のアイドルの形なんですか？」
巽さんはサングラスをクイッと上げて、大げさに頷いた。
「純子！ これが令和のアイドルだ！ お前らの昭和の感覚も悪くねぇが、現代じゃバズらなきゃ意味がねぇぞ！」
純子は小さくため息をつきつつも、静かに頷いた。
「巽さん、わかりました。少しずつ慣れていきますね…。でも、やっぱりファンレターの温かさは忘れられません」
ミーティングはその後も続き、純子のジェネレーションギャップはメンバーたちの笑いものになりつつも、彼女の真面目さが少しずつ現代に馴染んでいく瞬間でもあった。