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独りぼっちの英雄

#1


高山徹は、誰よりも強くなることを夢見ていた。彼にとっての強さは、他人の期待に応えることでも、仲間と助け合うことでもなかった。徹が目指していたのは、ただ一つ、「悪者」になること。それが、彼の唯一の信念だった。

放課後、教室の片隅で、徹はひとり座っている。その無表情な顔を見ても、誰も彼の本心を理解しようとはしない。外の世界は明るく、楽しげに笑い合う友達の声が聞こえるが、徹にはそれが何もかも遠く感じられる。

そこに現れたのは、学校で一番人気のある佐藤悠真だ。誰からも好かれる、まるで「正義の味方」のような存在。悠真は、教室に入ってきた瞬間にすぐに徹に気づき、優しく声をかけた。

「おい、徹。元気ないな。何かあったのか?」

徹はその声に反応せず、じっと窓の外を見つめ続けた。悠真は少し黙ってから、彼の前に座り込んだ。

「最近、お前変わったよな。何か悩んでるんじゃないか?」

その言葉に、徹の胸の中で何かが弾けるような感覚が走った。悠真の無邪気な笑顔、それが徹には耐えられないものだった。彼が求めていたのは、こんな「きれいごと」じゃない。自分が抱える暗い感情や、誰にも理解されない孤独を吐き出す場所が欲しかった。

「悩みなんてねぇよ。」

徹は冷たく返すと、悠真が少し驚いたような顔をした。だが、すぐに柔らかく笑って言った。

「本当にそうか? でも、何か隠してるように見えるな。」

その言葉に徹は、一気に堪えていた感情が溢れ出すのを感じた。胸の中の怒りが、言葉として吐き出された。

「お前、正義のヒーローみたいな顔してるけど、結局はみんなに頼られてるだけだろ?」

悠真は黙って徹を見つめた。だがその目は、どこか優しさを感じさせるものだった。

「お前がやってることは、ただのきれいごとだ。そんなのはもう飽きた。」

徹は怒りに任せて立ち上がり、悠真をじっと見つめた。その目には、冷徹な光が宿っていた。

「俺は世界一の悪者だからな!」

その言葉は、徹の心の中で燻っていた怒りと痛みを一気に解き放つものだった。悠真の優しさが、逆に徹を追い詰めていると感じた。

悠真はしばらく黙って立ち尽くし、徹の目を見つめ続けた。沈黙の後、悠真は静かに言った。

「お前、悪者になりたいのか?」

その問いに、徹は何も答えなかった。ただ、無言で背を向け、立ち去ろうとした。その時、悠真の声が再び響いた。

「でもな、悪者ってのは、ただ人を傷つけるだけじゃない。もっと深いものがあるんだ。」

その言葉に、徹は足を止めた。自分が目指しているもの、そしてそれが本当に「強さ」につながるのかどうかが、彼の心の中で揺れ動く。

しかし、すぐに彼は顔を強張らせて言った。

「うるせぇ! お前に何がわかる!」

その言葉と共に、徹は悠真に背を向け、歩き出した。その背中は、まだどこか迷いがあるように見えたが、彼の中で決して譲れないものがあった。

彼が目指すのは、世界一の悪者になること。ただそれだけだった。

作者メッセージ

この物語を通じて、徹というキャラクターが抱える矛盾と葛藤を描きたかったです。彼は「世界一の悪者」になりたいという強い信念を持ちながらも、その過程で本当の強さとは何かを見つめ直さなければならないと気づきます。悪者になることを目指す彼が、最後に何を選ぶのか、それが物語のテーマでした。

「悪者」とは一体何なのか、強さとはどんなものなのか。徹の成長を描く中で、少しでも読者の心に響く部分があれば嬉しいです。悠真の言葉に対する徹の反応を通じて、彼の心の変化を少しずつ感じ取っていただけたらと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

月影

2025/03/16 15:33

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
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