小さく呟いた彼女は、泣いていた。
それに驚くと同時に、俺が守ってやりたいと思った。
そうっと目尻をぬぐってやる。
彼女のことなど何も知らないが、きゅうっと目を細める姿を見て、余計な思いは全て吹き飛んだ。
理由なんていらない。俺は、この子が好きだ。

「私と、来てくれますか」

俺の意味の分からない言葉に、何度もうなずく彼女をしっかりと抱き抱える。
走れば走るほど必死にしがみついてくる彼女が可愛くて、嬉しくて、ついスピードを上げてしまったのは秘密だ。
白いゴールテープが風に揺れるのを横目に、彼女のつむじに流れるようにキスをする。

「...えっ？」

真っ赤になる彼女。
それだけで俺の機嫌はぐんとよくなる。自分でも呆れるほどに単純だ。

「私のお題、何だったと思います？」

しばらく、いや、かなりの間、考え込んでから、彼女は口を開いた。

「『自分のことを好きな人』？」
「.........」

おいおい。聞き間違いではなくて、君がその日本語の意味を正しく分かっていながら使っているとすれば、俺はどうすればいいんだ。
色々な気持ちがごちゃ混ぜになって流れ込んできて、でも...うん。

何か俺たち、すれ違ってたみたいだ。
最初からこうしておけばよかった。

壊れ物を扱うように、いやそれよりも丁寧に、ゆっくりと彼女を地面に降ろす。
震える手で彼女の手に小さな紙を握らせると、困惑したような表情を見せた。
じっと彼女を見つめる。
じっと見つめ返される。

ああ、もう抑えきれない。


俺は、

「あなたが好きです」




胸がうるさい。

好きだ、好きだ。どうか届いてほしい。

彼女が口を開いた。

やっと、

やっと。


「私も、あなたが好きです」





ああ、やっと聞けた。