獣人専用高校で人間だけど恋愛します
そんなことがあっても、彼女はいつも通りに話しかけてくる。
それはそうか。俺が勝手に盗み聞きをして、勝手に傷ついて、勝手に落ち込んでいるだけなのだから。
「先輩の、名前って...聞いてもいいですか?」
君は何も悪くない。
でも、ごめん。これ以上仲良くなって、これ以上傷つくことは耐えられない。
だから、許してくれ......。
「知って何になるのです?」
突き放すようにそう言い放った。
我ながら最低だな。乾いた笑いが出る。
そうだ。君のことを、俺のことを、知って何になる?
仲良くなるのか?
そしていつか俺は君が別の男の隣で笑うのを指を咥えて見ることになるんだろう。
そんなものまっぴらごめんだ。
彼女は何も言わなかった。
別に今までだって、そんなに頻繁に話していた訳でもないし、彼女は変わらずに委員会に参加していた。
それなのに、何故だか急に自分達の距離がずいぶんと遠くなったような気がした。
これでいいんだ。これでよかったんだ。
変なことを考えないように、より一層仕事に打ち込んだ。
勉強も、運動も、とにかくがむしゃらに取り組んだ。
馬鹿だなあ。
こんなことして、何になるというんだろうか。
ぼうっとそんなことを考える。
.........。
今日は体育会だ。
..................可愛い。
なるべく視界に入れないようにとか、そんなことも考えたけれど、やっぱり見てしまった。
そして彼女はすごく可愛い。
彼女は俺を見てくれているんだろうか。
少しでも格好いいと思ってほしい。それから情けないところは絶対に見せたくない。
リレーは前だけを向いて必死に走った。
息を整えながら彼女のことを思う。
見てくれただろうか。走っている途中に変な顔をしていたらどうしよう。
......ここ数週間で、一つ分かったことがある。
俺はとてつもなく彼女が好きだということだ。
彼女のことを考えないなんて無理。
諦めるだなんて、到底できないのだと思い知った。
どうせなら、彼女が誰かの隣に立つ日まで、しぶとくしがみついてやろうかと思う。
「はあ?代理?私が?」
「そう!橘、走るの速かったじゃん!どう考えても走るの無理そうだし、俺」
そう言って足を指差す彼の膝のガーゼはなるほど確かに、痛々しい赤色に滲んでいた。
...確か彼女はまだどの競技にも出ていなかったはず。
そうすると、もしかしたら借り人競争に出る予定かもしれない。
変に理由をつけてまで断るようなことでもないし。
「私でいいのでしたら、喜んで」
「さっすが橘!サンキューな!」
ずりずりと右足を引きずって歩き、去っていく彼に、俺はのちほど平伏するほどの感謝をすることになるのだが、それはもう少しだけ先の話だ。
「借り人競争、ようい、はじめ!」
ピストルと同時に走り出す。
小さな紙を、少し苦戦しながらも開く。
出てきた文字は、読めるが読めなかった。
意味が理解できず、思わず二度見してしまった。
『好きな人』
小さな紙に、小さな文字で、それだけ。
何だかそっけなくも見えるその紙をぎゅっと握りしめる。
こんな王道な展開が!俺に!来るだと!?
内心で思い切り頭を抱えた。
俺はここで彼女を連れていくほどの勇気も行動力もない。
途方に暮れたが、一応は彼女を探してみる。
観覧席に見当たらなかったから、もしかしてと思ったが、やはり彼女はこの競技に参加していたようだ。
俺が彼女を見つけたときには、彼女はうつむいていた。
胸がざわつく。
気分が悪いのか?
足は、勝手に動いていた。
段々と歩みを速めて、彼女に近寄る。
嫌な予感というものは、何だか大抵当たってしまうものだ。
彼女は、ふらりと体を傾けた。
「............っ!」
名前を呼びたいのに、呼ぶことができない。
こんなにもどかしいことがあっただろうか。
何とか手を伸ばして、彼女を抱きとめることに成功する。
彼女は小さく、言った。
「せんぱい......」
それはそうか。俺が勝手に盗み聞きをして、勝手に傷ついて、勝手に落ち込んでいるだけなのだから。
「先輩の、名前って...聞いてもいいですか?」
君は何も悪くない。
でも、ごめん。これ以上仲良くなって、これ以上傷つくことは耐えられない。
だから、許してくれ......。
「知って何になるのです?」
突き放すようにそう言い放った。
我ながら最低だな。乾いた笑いが出る。
そうだ。君のことを、俺のことを、知って何になる?
仲良くなるのか?
そしていつか俺は君が別の男の隣で笑うのを指を咥えて見ることになるんだろう。
そんなものまっぴらごめんだ。
彼女は何も言わなかった。
別に今までだって、そんなに頻繁に話していた訳でもないし、彼女は変わらずに委員会に参加していた。
それなのに、何故だか急に自分達の距離がずいぶんと遠くなったような気がした。
これでいいんだ。これでよかったんだ。
変なことを考えないように、より一層仕事に打ち込んだ。
勉強も、運動も、とにかくがむしゃらに取り組んだ。
馬鹿だなあ。
こんなことして、何になるというんだろうか。
ぼうっとそんなことを考える。
.........。
今日は体育会だ。
..................可愛い。
なるべく視界に入れないようにとか、そんなことも考えたけれど、やっぱり見てしまった。
そして彼女はすごく可愛い。
彼女は俺を見てくれているんだろうか。
少しでも格好いいと思ってほしい。それから情けないところは絶対に見せたくない。
リレーは前だけを向いて必死に走った。
息を整えながら彼女のことを思う。
見てくれただろうか。走っている途中に変な顔をしていたらどうしよう。
......ここ数週間で、一つ分かったことがある。
俺はとてつもなく彼女が好きだということだ。
彼女のことを考えないなんて無理。
諦めるだなんて、到底できないのだと思い知った。
どうせなら、彼女が誰かの隣に立つ日まで、しぶとくしがみついてやろうかと思う。
「はあ?代理?私が?」
「そう!橘、走るの速かったじゃん!どう考えても走るの無理そうだし、俺」
そう言って足を指差す彼の膝のガーゼはなるほど確かに、痛々しい赤色に滲んでいた。
...確か彼女はまだどの競技にも出ていなかったはず。
そうすると、もしかしたら借り人競争に出る予定かもしれない。
変に理由をつけてまで断るようなことでもないし。
「私でいいのでしたら、喜んで」
「さっすが橘!サンキューな!」
ずりずりと右足を引きずって歩き、去っていく彼に、俺はのちほど平伏するほどの感謝をすることになるのだが、それはもう少しだけ先の話だ。
「借り人競争、ようい、はじめ!」
ピストルと同時に走り出す。
小さな紙を、少し苦戦しながらも開く。
出てきた文字は、読めるが読めなかった。
意味が理解できず、思わず二度見してしまった。
『好きな人』
小さな紙に、小さな文字で、それだけ。
何だかそっけなくも見えるその紙をぎゅっと握りしめる。
こんな王道な展開が!俺に!来るだと!?
内心で思い切り頭を抱えた。
俺はここで彼女を連れていくほどの勇気も行動力もない。
途方に暮れたが、一応は彼女を探してみる。
観覧席に見当たらなかったから、もしかしてと思ったが、やはり彼女はこの競技に参加していたようだ。
俺が彼女を見つけたときには、彼女はうつむいていた。
胸がざわつく。
気分が悪いのか?
足は、勝手に動いていた。
段々と歩みを速めて、彼女に近寄る。
嫌な予感というものは、何だか大抵当たってしまうものだ。
彼女は、ふらりと体を傾けた。
「............っ!」
名前を呼びたいのに、呼ぶことができない。
こんなにもどかしいことがあっただろうか。
何とか手を伸ばして、彼女を抱きとめることに成功する。
彼女は小さく、言った。
「せんぱい......」