屋上の天使
#1
1話:Prologue
よく晴れた夏の夕刻のことだった。
僕自身も、彼女も他の誰でさえも予想できなかっただろう。
あの子が真っ白な羽で空を飛ぶことになるなんて。
高校2年の夏。
大学を受験するか否かで学年の話題が埋まり始める。
僕は特に将来の夢の一つでもあるわけじゃないし、
母さんに行けと言われたら行こうかなくらいで見ている。
ずいぶんと飛躍した話をするが、
「ニンゲン」が地球を支配していた時代があった。
80億人も狭い星に住み、邪智暴虐の限りを尽くしたという。
今世界にはたくさんの種族がいるが、ニンゲンはその1%にも満たない。
歴史と希少性も相まって現代では生きづらいことだろう。
うちのクラスにも、ニンゲンが一人いる。
この県で3人しかいないうちの一人。
あまり関わることがないからうろ覚えだけど、弥生さんとかだったと思う。
陶器のような白い肌、薄黄色のセミロングヘア、サファイア色の瞳。
ニンゲンでなければさぞかしモテただろう。
「ねぇ弥生さーんwwww」
猫人族の暁月るなが弥生さんの机に近寄っていく。
その後ろには天狐族の百夜清華、龍族の錦織アズサと並んだ一軍メンバー。
あーあ、また始まるよ。
「そんなに本ばっか読んで、辛気臭いねwww」
「弥生さんがモテるわけ無いじゃん、ニンゲンなんだから」
「確かに〜」
いつものイジり。読みかけの本を取り上げるのもおなじ。
でも今日は違った。悪い意味で。
手に取った本をまじまじと眺め、そのまま破る。
「心理学…?そんなの怪しい奴が読むやつやん!!」
捨てられたページは、教室の窓から散っていった。
3人が去った後の机には本の表紙と栞、小さな雫のみが残っていた。
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