【参加型】ハーミット魔道学園は今日も事件だらけのようです。
授業決めから三週間。
ハーミットの授業は、俺が通っていた魔法界の普通の公立中学校なんかより遥かに難解だ。
というか、比較対象にすらならない。次元が十個ぐらい違うっす。
まぁ文字通り四界最高峰の学校なのだから、それも当たり前か。
あの先輩方のおかげで授業の根本から分からないという事こそ無いものの、他に比べるとできていた魔法史だって大分あやしいっす…
「えっと…使い魔の大反乱…魔法史378年…この一件いらい人型の使い魔が禁止…っと。」
ノートを纏めるだけで一苦労だ。と言っても、最近は大分慣れてきたような気がするっすけど。
部屋の外で爆発音がする。これもこの三週間で大分慣れた。いや、慣れちゃダメっすけど。この音は…多分、ノアさんっすね。あの人、たまにロケランで壁ぶち抜いて出てくるからな…
「しっかし、あと一週間で寮分けのテストか…」
口にして確認した途端急に、ブランに餌をやったり、部屋を掃除しないといけないような気がしてきた。
だが、ブランにはさっき餌をやった上に、部屋もそれなりにきれいである以上、これは現実逃避でしかない。
よって、必死になって雑念を追い出してもう一度机に向かう。
「うん、ダメっすねコレ…集中できねぇ…」
現実逃避だってたまになら問題はない。一旦談話室にでも行こう。そんで菓子でも食おう。ついでにノートでも持っていって眺めながら食ってりゃ、それでいいハズっす。
[水平線]
降りていってみると、やはり勉強しているヤツが多い。席は結構あるし、空いてる所に座って…お、今日の菓子はマフィンっすか。相変わらず美味い。
口に入れ、柔らかい口あたりとバターの香りを楽しんでいると、眼前に中等部の制服を着た、背の高い白髪の少年が現れた。どことなくサモエドみたいな雰囲気っすね。
「ねぇ。そこ、ちょっとどいてくれない?」
さっき座ってたんだけど、イヤホン落としたみたいなんだよね、と言いながらも、目はスマホから離さない。どうやらゲームをしているっぽいっす。
でも勿論俺に否やはないため、ささっと横に避ける。相変わらず、え、とか、あ、はい、とか言いながら。我ながら分かりやすく陰キャである。
「ん、あった。あ、ここ座るね〜。わざわざ動くのもめんどくさいし…」
「あ、はい、どうぞ…」
イヤホンを付け直した彼は、そう言ってそのまま俺が避けた場所に座ったが、件のイヤホンからは音が漏れている。
本人、気づいてねぇんだろうな…指摘し辛いっす…まぁでも、そのうち気づくだろうし、いざとなれば俺が動けばいいか……
[水平線]
そう思って5分ほど経つが、気づく気配がない。
周りの人も迷惑そうな顔をしてこちらを見ている。揉め事になったら嫌だし…
仕方ない、覚悟を決めて声をかける。
「えっと…あの、申し訳ないんすけど、音漏れしてるんで…音量下げる、とかって…?」
「え、無理〜。今ボス戦してるの、分からないわけ?」
いや自由か。なんなんすか。
そう思っていたのも束の間、どうやら戦っていたボスに勝ったらしく、ゲーム少年はやっとスマホから顔を上げて、唐突に問いを発した。
「というかさぁ〜?君の方こそ、なんで勉強なんてしてるの?めんどくさくな〜い?」
「え、俺一年なんで、もうすぐ寮分けのテストががあるからっすけど…」
質問の意図が読めず困惑しながらも返答するが、どうやら相手の望んでいた答えではないらしいっすね。
そのせいか軽く顔をしかめて、再度聞いてきた。
「いやだから〜。知ってるよ?それぐらい。僕も一年だし。分かんないのはさ〜、なんでそんな事のために勉強してんの?って事。テストなんて簡単じゃん。」
あ〜あ、めんどくさ〜、いっぱい喋っちゃった、なんて言いながら、中々心にザスザスと刺さる言葉を放ってくる。
とてもキツい。
でも相手の顔を見るに、一切悪意がなさそうに見えるため、どうやら本気で理解できないらしい。
「あー…えっと、俺はあんま、頭よくねぇからっすね…はは……」
よって必然的に、こんな答えを返す事になるんすよね…。自嘲混じりの渇いた笑いが、喉にヒリついて痛い。今一番自覚したくなかった事実に、胸がギュッとする。
「ふ〜ん…なんかごめんね。」
そう言って、彼はマフィンを口にする。空気が重い。相手もなんとなく気にしていそうに見えるので、俺が勝手に居心地悪さを感じているだけではないだろう。なんか、いい話題ないっすかね。無言って辛い。
「あー…そういや、アンタは勉強しなくていいんすか?中等部一年、なんすよね?」
「え〜めんどくさ〜、ゲームしてた方がいいじゃん?」
「いやなんでっすか!?…って、あー…すんません…」
「いやだから〜、なんで謝るの?」
あ、ダメだ、話題選びミスったっすねコレ。
沈黙が続く中、マフィンを食べ終わったらしい相手が口を開いた。
「君、もしかして〜、ゲームやる人?」
「え、あ、はい、一応…」
そう答えると、じゃあコレは?と聞いて相手が見せたのは人間界の某ソシャゲ。オープンワールドな世界観と多彩なキャラクターがウリのあのゲームっすね。
「あー…やってるっす。」
と言うより、特に友人がいなかった中学時代は、やる事がそれしか無かっただけなのだが。うん、実に暗い。
「やっぱり、筆箱にスライムついてたし〜。じゃ、世界レベルは?」
「え、あ、9、っす…」
なんだ、全然一応じゃないじゃん、とやっと表情を動かした彼につられ、俺も思わず頬が緩む。
好きなキャラや任務等、色々話せるような人に初めて出会ったのもあり、珍しく結構会話ができた。
共通の話題があれば、意外と会話も弾むモンなんすね。
[水平線]
「なんだ、結構話せるんだ〜。」
「え、あ、どもっす。あー…よかったら、フレンドなってもらえねぇっすか。」
決死の思いで申し出たそれを、いいよ、とだけ言ってあっさりと相手は承諾した。
「え、いいんすか…ありがてぇっす。」
「申請、すご〜い溜まっててさ、探して承認するのめんどくさいし〜、こっちから送るから。」
しっかし、案外話し込んじまったっすね。ここに来た時と比べると、時計の針が4分の3周している事実に気づき改めてそう思う。
「えっと…あ、この人っすか。」
「そうそれ〜。」
うわぁこの人も大概やり込んでるっすね…
レベルがいかつい。って…
「…そういや、アンタ…名前は…?」
「あれ〜、言って無かったっけ?闇月冷だよ〜。君は?」
自己紹介に合わせて、ゲームでの名前の由来もついでに言ってみたら、僕はゲームの名前も冷、めんどくさいし…と返された。
こうしてだらりとしている冷さんは、サモエドと言うよりナマケモノに見える。心底失礼っすけど、ついそう思ってしまったっす。
「ってやべぇ、結構時間経っちまったっすね…」
「え〜いいじゃん、ちょっとぐらいゲームしよ〜?」
今ならマルチ付き合ってあげてもいいよ〜?なんて言われて、今まで一緒にゲームをやれるヤツなんていなかった俺がこの誘惑を振り切って勉強に戻れるか。
答えは否だ、絶対に無理っす。
[水平線]
「うお、やっべぇ…そろそろ勉強戻らねぇと…」
「僕も、家帰らないとだ…」
ふと気がついて辺りを見渡すと、西日が差すような時間になっていた。思わず全力で遊んじまったっすね…
まぁ、たまにはいいっすよね、多分。ここ数日ちょっと根を詰めすぎてたような気もするし。
「結構、悪くなかったよ。」
「あー…どもっす。俺も、楽しかったっす。えっと…また、やらねぇっすか。テスト終わったら。」
うん、また、と言ってもらえたのを聞いて、ホッと胸を撫で下ろし、それじゃ、と振り向いて軽く頭を下げ、俺は談話室を後にしたっす。
家じゃこんな事はできなかったな、なんて思いながら廊下の一番端の部屋のノブに手を掛け、くるりと回すと教科書の山また山。
そういえば、そうだったっすね…うげぇ……
あまりの量に思わず頬が引き攣る。ついでに、これをしなくてもいい頭脳の冷さんを羨ましくも思う。
ま、俺にはないモンだし羨んでもしょうがねぇ、頑張るとすっか…
「…とはいえ。とはいえ、だ。うん。紅茶でも淹れてこよう。紅茶できるまでは何も考えない事にするっす。」
相変わらず終わらない俺の現実逃避を咎めるように、ブランがホウと鳴いた。
ハーミットの授業は、俺が通っていた魔法界の普通の公立中学校なんかより遥かに難解だ。
というか、比較対象にすらならない。次元が十個ぐらい違うっす。
まぁ文字通り四界最高峰の学校なのだから、それも当たり前か。
あの先輩方のおかげで授業の根本から分からないという事こそ無いものの、他に比べるとできていた魔法史だって大分あやしいっす…
「えっと…使い魔の大反乱…魔法史378年…この一件いらい人型の使い魔が禁止…っと。」
ノートを纏めるだけで一苦労だ。と言っても、最近は大分慣れてきたような気がするっすけど。
部屋の外で爆発音がする。これもこの三週間で大分慣れた。いや、慣れちゃダメっすけど。この音は…多分、ノアさんっすね。あの人、たまにロケランで壁ぶち抜いて出てくるからな…
「しっかし、あと一週間で寮分けのテストか…」
口にして確認した途端急に、ブランに餌をやったり、部屋を掃除しないといけないような気がしてきた。
だが、ブランにはさっき餌をやった上に、部屋もそれなりにきれいである以上、これは現実逃避でしかない。
よって、必死になって雑念を追い出してもう一度机に向かう。
「うん、ダメっすねコレ…集中できねぇ…」
現実逃避だってたまになら問題はない。一旦談話室にでも行こう。そんで菓子でも食おう。ついでにノートでも持っていって眺めながら食ってりゃ、それでいいハズっす。
[水平線]
降りていってみると、やはり勉強しているヤツが多い。席は結構あるし、空いてる所に座って…お、今日の菓子はマフィンっすか。相変わらず美味い。
口に入れ、柔らかい口あたりとバターの香りを楽しんでいると、眼前に中等部の制服を着た、背の高い白髪の少年が現れた。どことなくサモエドみたいな雰囲気っすね。
「ねぇ。そこ、ちょっとどいてくれない?」
さっき座ってたんだけど、イヤホン落としたみたいなんだよね、と言いながらも、目はスマホから離さない。どうやらゲームをしているっぽいっす。
でも勿論俺に否やはないため、ささっと横に避ける。相変わらず、え、とか、あ、はい、とか言いながら。我ながら分かりやすく陰キャである。
「ん、あった。あ、ここ座るね〜。わざわざ動くのもめんどくさいし…」
「あ、はい、どうぞ…」
イヤホンを付け直した彼は、そう言ってそのまま俺が避けた場所に座ったが、件のイヤホンからは音が漏れている。
本人、気づいてねぇんだろうな…指摘し辛いっす…まぁでも、そのうち気づくだろうし、いざとなれば俺が動けばいいか……
[水平線]
そう思って5分ほど経つが、気づく気配がない。
周りの人も迷惑そうな顔をしてこちらを見ている。揉め事になったら嫌だし…
仕方ない、覚悟を決めて声をかける。
「えっと…あの、申し訳ないんすけど、音漏れしてるんで…音量下げる、とかって…?」
「え、無理〜。今ボス戦してるの、分からないわけ?」
いや自由か。なんなんすか。
そう思っていたのも束の間、どうやら戦っていたボスに勝ったらしく、ゲーム少年はやっとスマホから顔を上げて、唐突に問いを発した。
「というかさぁ〜?君の方こそ、なんで勉強なんてしてるの?めんどくさくな〜い?」
「え、俺一年なんで、もうすぐ寮分けのテストががあるからっすけど…」
質問の意図が読めず困惑しながらも返答するが、どうやら相手の望んでいた答えではないらしいっすね。
そのせいか軽く顔をしかめて、再度聞いてきた。
「いやだから〜。知ってるよ?それぐらい。僕も一年だし。分かんないのはさ〜、なんでそんな事のために勉強してんの?って事。テストなんて簡単じゃん。」
あ〜あ、めんどくさ〜、いっぱい喋っちゃった、なんて言いながら、中々心にザスザスと刺さる言葉を放ってくる。
とてもキツい。
でも相手の顔を見るに、一切悪意がなさそうに見えるため、どうやら本気で理解できないらしい。
「あー…えっと、俺はあんま、頭よくねぇからっすね…はは……」
よって必然的に、こんな答えを返す事になるんすよね…。自嘲混じりの渇いた笑いが、喉にヒリついて痛い。今一番自覚したくなかった事実に、胸がギュッとする。
「ふ〜ん…なんかごめんね。」
そう言って、彼はマフィンを口にする。空気が重い。相手もなんとなく気にしていそうに見えるので、俺が勝手に居心地悪さを感じているだけではないだろう。なんか、いい話題ないっすかね。無言って辛い。
「あー…そういや、アンタは勉強しなくていいんすか?中等部一年、なんすよね?」
「え〜めんどくさ〜、ゲームしてた方がいいじゃん?」
「いやなんでっすか!?…って、あー…すんません…」
「いやだから〜、なんで謝るの?」
あ、ダメだ、話題選びミスったっすねコレ。
沈黙が続く中、マフィンを食べ終わったらしい相手が口を開いた。
「君、もしかして〜、ゲームやる人?」
「え、あ、はい、一応…」
そう答えると、じゃあコレは?と聞いて相手が見せたのは人間界の某ソシャゲ。オープンワールドな世界観と多彩なキャラクターがウリのあのゲームっすね。
「あー…やってるっす。」
と言うより、特に友人がいなかった中学時代は、やる事がそれしか無かっただけなのだが。うん、実に暗い。
「やっぱり、筆箱にスライムついてたし〜。じゃ、世界レベルは?」
「え、あ、9、っす…」
なんだ、全然一応じゃないじゃん、とやっと表情を動かした彼につられ、俺も思わず頬が緩む。
好きなキャラや任務等、色々話せるような人に初めて出会ったのもあり、珍しく結構会話ができた。
共通の話題があれば、意外と会話も弾むモンなんすね。
[水平線]
「なんだ、結構話せるんだ〜。」
「え、あ、どもっす。あー…よかったら、フレンドなってもらえねぇっすか。」
決死の思いで申し出たそれを、いいよ、とだけ言ってあっさりと相手は承諾した。
「え、いいんすか…ありがてぇっす。」
「申請、すご〜い溜まっててさ、探して承認するのめんどくさいし〜、こっちから送るから。」
しっかし、案外話し込んじまったっすね。ここに来た時と比べると、時計の針が4分の3周している事実に気づき改めてそう思う。
「えっと…あ、この人っすか。」
「そうそれ〜。」
うわぁこの人も大概やり込んでるっすね…
レベルがいかつい。って…
「…そういや、アンタ…名前は…?」
「あれ〜、言って無かったっけ?闇月冷だよ〜。君は?」
自己紹介に合わせて、ゲームでの名前の由来もついでに言ってみたら、僕はゲームの名前も冷、めんどくさいし…と返された。
こうしてだらりとしている冷さんは、サモエドと言うよりナマケモノに見える。心底失礼っすけど、ついそう思ってしまったっす。
「ってやべぇ、結構時間経っちまったっすね…」
「え〜いいじゃん、ちょっとぐらいゲームしよ〜?」
今ならマルチ付き合ってあげてもいいよ〜?なんて言われて、今まで一緒にゲームをやれるヤツなんていなかった俺がこの誘惑を振り切って勉強に戻れるか。
答えは否だ、絶対に無理っす。
[水平線]
「うお、やっべぇ…そろそろ勉強戻らねぇと…」
「僕も、家帰らないとだ…」
ふと気がついて辺りを見渡すと、西日が差すような時間になっていた。思わず全力で遊んじまったっすね…
まぁ、たまにはいいっすよね、多分。ここ数日ちょっと根を詰めすぎてたような気もするし。
「結構、悪くなかったよ。」
「あー…どもっす。俺も、楽しかったっす。えっと…また、やらねぇっすか。テスト終わったら。」
うん、また、と言ってもらえたのを聞いて、ホッと胸を撫で下ろし、それじゃ、と振り向いて軽く頭を下げ、俺は談話室を後にしたっす。
家じゃこんな事はできなかったな、なんて思いながら廊下の一番端の部屋のノブに手を掛け、くるりと回すと教科書の山また山。
そういえば、そうだったっすね…うげぇ……
あまりの量に思わず頬が引き攣る。ついでに、これをしなくてもいい頭脳の冷さんを羨ましくも思う。
ま、俺にはないモンだし羨んでもしょうがねぇ、頑張るとすっか…
「…とはいえ。とはいえ、だ。うん。紅茶でも淹れてこよう。紅茶できるまでは何も考えない事にするっす。」
相変わらず終わらない俺の現実逃避を咎めるように、ブランがホウと鳴いた。