【参加型】ハーミット魔道学園は今日も事件だらけのようです。
「行っくよー!固有魔法、【百花繚乱】!」
そう叫ぶように唱えるノエルさんの声が開戦の合図となり、呼応するように足元から毒々しいまでに色鮮やかな花々が咲き乱れる。
ふわりと立ち込める甘い匂いをつい吸い込みそうになるが、一瞬遅れて脳天まで届いたビリビリと痺れる感覚で、これは毒だ、と理解したっす。
『おっと。黒猫寮一年ノエル選手、梟寮三年のヴィオレット選手を拘束だ。』
『いやー、なかなかの強度じゃねェか!!綺麗な花には、ってか!?!?』
あの星の先輩、ヴィオレット先輩って言うんすね…って、今はそんなコト考えてるヒマなんてないっすけど。
このまま一気に柚月さんの音響攻撃で…
「オッケー!【子守唄】…食らっちゃえ!」
その途端、ヴィオレット先輩の力がふっと抜ける。さっきみたく油断して足を引っ張るわけにはいかない…そう思い、未来視の範囲を広げていく。
視えた。
十秒後、筋骨隆々の大男が容赦なくこの場の全員を吹っ飛ばしている。
一番近いのはノエルさんっすね。範囲が広い、今から動いて間に合うかどうか…
いやコレ、考えてるヒマはねぇっすね。
時間がねぇ、引っ張るか…いや、多分突き飛ばすしかないっぽいっす。後で謝ろう。俺の位置からなら何とか、足元をくぐって逃げられるハズで…
咄嗟の判断というには少しばかり長すぎるような気もするが、珍しくフル回転している頭で目算する。
…よし、ここだ!
「おっりゃぁ!!」
裂帛の気合いと共に、棍棒を掲げた相手とノエルさんの間に滑り込む。
そのまま背中で軽く柚月さんの方に向けてノエルさんを押し出すと同時に、魔力を固めただけの適当な魔弾で足元を砕く。
敵の体制を崩して動きを邪魔すると同時に、足元に向かって転がり込んだ。
勢いを殺しきれずに一転、二転する。腹を瓦礫で思い切り打った。目に砂利と瓦礫が刺さって、完全に塞がっている。口の中に石がゴロゴロ入って気持ち悪いし、ぶっちゃけ鉄錆臭いっす。
「っははは、何とかやれたっすね…」
たったの数アクションで、我ながらどうしようもないくらいにズタボロだ。
この中で一番マズいのは…両目の怪我っすね。砂利ごと行ったんで多分、今の手持ちのポーションでさっと治すのは無理っす。
灰さんと合流できるまで待つしかない、か。
完全に目の前が塞がってるっすけど…まぁ、魔力ポーションを口に押し込んで、探査魔法と未来視を再発動すれば視界の代わりになるだろう、そう踏んで魔力を流す。
だが。
「ウソだろ…視えねぇ、っす…」
一先ず追撃の気配も無いし、今はもう大男は消えてるっぽいっす。幸い隣には柚月さんがいて、今すぐにやられる心配はなさそうではある。
それでも、未来が見えないのは完全に致命的だ。
あぁでもまずは、ノエルさん突き飛ばしちまったの謝んねぇとっすね。
「…咄嗟だったんで突き飛ばしちまったっすけど…ノエルさん、大丈夫だったっすか?」
「うん。今、あっちで大きめの花を広げて攻撃を防いでくれてる。けど…留歌は、平気なの?」
柚月さんが囁く。
「…大分、マズいっすね。ケースAっす。」
ケースA…「固有魔法が発動しない」…そんな状態を指す、俺たちの暗号だ。
ちなみに、Bは「物理的に戦闘不能」で、Cは「ポーション切れ」って意味だったりする。って、誰に言ってるんすかね俺。
まぁそれはさておくとしても実際、俺たちの基本の作戦は全員が自由に動けて初めて完璧に機能する物だ。
他の作戦もあるとは言え、優位性を断たれたとも言えるこの状況を直接にやりとりするのは危険すぎるっす。
『それに、起きない方がいいとは言っても…暗号って、カッコよくないか〜?』
そう言って笑っていた灰さんを思い出し、まさにその通りになってしまった自分を恥じる。
「留歌の固有魔法は結局、発動条件も分からなかったからね…ひとまず休んでてよ、ぼくらで何とかする。」
「すんません……」
そうだ、ヴィオレット先輩は?
探査魔法を慌てて発動する。どうやらこっちの魔法は問題なく発動できたらしく、周囲の情報が入ってきた。
大男はどうもヴィオレット先輩の魔法だったらしいっす。今も花で縛られたまま次々に、よく似た二人組の戦士やら大弓を持ったケンタウロスやらを繰り出している。
「手数多いっすねホントに…」
「そうだね、規則性探さないとキリが無いかも。」
大男にケンタウロスに……だめだ、俺なんかじゃ分からないっすね。
あ、今羊が追加されたっす。って、睡眠魔法撒き散らしてるっすよあれ…俺も眠く……って、マズイっす。
幸い、目が痛いんで今のところは寝ずに済んでるっすけど。
「っ!やっぱり毒の効き、悪いっぽい!!けど……死なないギリギリだよ?普通は痺れて動けないはず!!」
「手加減する余裕があるのか?それじゃあ俺には勝てねぇよ。」
やっぱ、さっき力を抜いたのはブラフだったんすね…さすが三年、隙が無さすぎるっすよ……
なんて、考えていた矢先の事だった。
「っぐぁ!!」
「灰っ!大丈夫?」
嘘だろ、灰さんがこっちまで吹っ飛んで来たっす。結構離れてるハズなのにこんな飛ぶんすか……
つーか、がっつり枝が絡まってるっすね…
「待っててね灰、今音波で…」
「いや、大丈夫だぞ〜…」
自分に手を向け、レーザーで枝を焼き尽くす灰さん。明らかにキツそうっすね……とはいえ、こんな状態でも場外まで投げられなかったのは紛れもなく灰さんの実力だろう。
まぁでも、ピンチなのは違いねぇっすけど。
「そっちは、大丈夫?」
「…言いたくないけど…少し、一人だと分が悪いかもな〜…」
「ううん。実は、こっちもそうだから…」
突っ込んでくる雄牛を音波で破壊しながら、簡単に戦況を説明する柚月さん。それを聞く灰さんも、手早くヤギをレーザーで溶解していく。
「多分、あっちも俺が場外まで出てない事は気づいてるハズだ〜。」
「となると、こっち来るってのもあるんすね……」
「完璧主義っぽい感じ、したもんね……」
じゃあその前にヴィオレット先輩から逃げるか…
もしくは、倒し切るか。
いや、こっちはかなりキツそうっすけどね!
「そういえば留歌、目はどうしたんだ〜?」
「派手にこけちまって、ポーションじゃ治せそうになかったっす…すんません灰さん、お願いしていいっすか?」
そうだ、そういやすっかり忘れてたっす。
灰さんが手を翳すと、視界がクリアになっていく感覚と一緒に痛みがスッと引いていく。
「そうだ、灰はあのヴィオレット先輩の攻撃ってどう思う?」
「あぁ、あの人ヴィオレット先輩って言うのか〜。」
こんな状況でも冷静に人の名前を確認している灰さんには毎度驚かされるっす。
「うん、そうなんだって。でね、思ったんだけど…」
「分かるぞ〜。一つの魔法とするには多彩すぎる、だろ〜?」
何かの法則性があるハズなんだよな〜…と呟いた灰さんは、今はじっと新たに追加されたライオンを眺めている。
「ちょちょちょ!!キリが無いってー!!さすがに逃げられちゃいそうなんだけど!?」
「あ、ごめんね。今行くよ!」
「いや、ノエルさん。悪いけど、もう少しだけ抑えててもらっていいか〜?」
そのまま三秒後ぐらいに花ごと三時の方向に動かしてくれ、と冷静に告げる灰さん。その方向を見たノエルさんも、納得したようにうなづいている。
いや、全くもって見えないんすけど俺には。
「よし、今!」
ノエルさんが叫ぶ。
ヴィオレット先輩はまだ、花の檻の中だ。
ノエルさんはそのまま、ヴィオレット先輩を花ごと上に思いっきり持ち上げる。
「って、うわぁ!?!?」
柚月さんに引っ張られるような具合で飛び退ったその直後、天から木の槍が降って来た。
超上空から降り注ぐ、土砂降りのような絨毯爆撃。
蔦が大量に絡みついているので、おそらく炉山先輩の攻撃だろう。
コレを捌き切るのは難しい。いや、ソレどころか…かなり、不可能に近いっす。
「ヴィオレットか。縛られとる所悪いけど、君も含めて意識落とさしてもらうで。」
しかし、ヴィオレット先輩は。
「全部消し飛ばせば済む話だろ?」
薄笑いの、ままだ。
手を真上に突き出すようにして、先輩は高らかに唱える。
「さっさと済ませるぞ。焼き尽くせ、【[漢字]流星[/漢字][ふりがな]メテオール[/ふりがな]】!」
地上から天へ、突き上げるような一撃。
炎を纏った巨大な石は、雨を一直線に貫いた。
『おっと、さすが三年同士の戦いだ。華があるね、あと一組脱落すれば終了だよ。』
『そうだなァ!ま、余波で会場もかなりブッ壊れてるけどよ!!』
そんな解説に合わせて、灰さんが「う〜ん、共倒れしてくれたら一番ありがたかったけどな〜。」と呟いてるっす。マジっすか。
「……いやコレ、マズくねぇっすか!?絶対に余波とかヤベェっすよ!?」
「それでも、結局は余波だからね。あの槍よりはいくらかマシ…って事なんじゃないかな?」
柚月さんの言う通り、まぁ確かに多少はマシなのかもしれねぇっす。
そう、つまり。
一切の手加減なく放たれたソレはそのまま、ヴィオレット先輩だけでなく、俺達にとっての傘ともなりうるモノで。
「しっかしヴィオレット先輩…宣言通り全部、消し飛ばしたっすね……」
「うん。おかげで、ひとまず目下の脅威はなんとかなった!私、頑張ったんじゃない!?」
「そうだな〜、ナイスタイミングだったぞ〜!」
ハイタッチの軽い音が響く。なんつーか、これは……
きっとこれ以上は無いってぐらいに、最高最悪の一手だったっす。
「あ、けど…良いように使われてるようなモンっすよね?ヴィオレット先輩、怒ってねぇと良いんすけど……」
「出力を小さくするより、まとめて焼いた方が早かったからそうしただけだ。」
「うぎゃぁあ!?!?」
いつの間にか隣立ってるんすけどこの方……
え、なんだ、いつの間に?
「終わりだ。寝てろ。」
腹を何かで貫かれる感覚。今までとは比べ物にならない切迫感。けど、俺の腹からは何も突き出ちゃいねぇっす。となると多分、魔法か魔術だ。
俺は二人に比べて遥かに魔力が低いから、その分魔力は関係する攻撃への防御力も低いっす。
あの人達にとってのちょっとした攻撃が、俺には大ダメージになるってコトっすね。
それを分かっていながらも、つい前に前にと出ちまった。
「「留歌!!」」
真っ黒になる視界の中、灰さんの羽と柚月さんのギターの破片らしき物だけが目に入ったっす。あぁ、やっぱ無力っすね俺は。何も変わっちゃいねぇっす。
なんだか、昔どこかで見たような……既視感のある光景だった。
いや違う、この二人じゃなくて……もっとこう、小さかったような……そんな気が、するんすけど……
血と同じようにあっちこっちに飛び散る思考を抑えきれず、俺は地面に倒れ込んだ。
そう叫ぶように唱えるノエルさんの声が開戦の合図となり、呼応するように足元から毒々しいまでに色鮮やかな花々が咲き乱れる。
ふわりと立ち込める甘い匂いをつい吸い込みそうになるが、一瞬遅れて脳天まで届いたビリビリと痺れる感覚で、これは毒だ、と理解したっす。
『おっと。黒猫寮一年ノエル選手、梟寮三年のヴィオレット選手を拘束だ。』
『いやー、なかなかの強度じゃねェか!!綺麗な花には、ってか!?!?』
あの星の先輩、ヴィオレット先輩って言うんすね…って、今はそんなコト考えてるヒマなんてないっすけど。
このまま一気に柚月さんの音響攻撃で…
「オッケー!【子守唄】…食らっちゃえ!」
その途端、ヴィオレット先輩の力がふっと抜ける。さっきみたく油断して足を引っ張るわけにはいかない…そう思い、未来視の範囲を広げていく。
視えた。
十秒後、筋骨隆々の大男が容赦なくこの場の全員を吹っ飛ばしている。
一番近いのはノエルさんっすね。範囲が広い、今から動いて間に合うかどうか…
いやコレ、考えてるヒマはねぇっすね。
時間がねぇ、引っ張るか…いや、多分突き飛ばすしかないっぽいっす。後で謝ろう。俺の位置からなら何とか、足元をくぐって逃げられるハズで…
咄嗟の判断というには少しばかり長すぎるような気もするが、珍しくフル回転している頭で目算する。
…よし、ここだ!
「おっりゃぁ!!」
裂帛の気合いと共に、棍棒を掲げた相手とノエルさんの間に滑り込む。
そのまま背中で軽く柚月さんの方に向けてノエルさんを押し出すと同時に、魔力を固めただけの適当な魔弾で足元を砕く。
敵の体制を崩して動きを邪魔すると同時に、足元に向かって転がり込んだ。
勢いを殺しきれずに一転、二転する。腹を瓦礫で思い切り打った。目に砂利と瓦礫が刺さって、完全に塞がっている。口の中に石がゴロゴロ入って気持ち悪いし、ぶっちゃけ鉄錆臭いっす。
「っははは、何とかやれたっすね…」
たったの数アクションで、我ながらどうしようもないくらいにズタボロだ。
この中で一番マズいのは…両目の怪我っすね。砂利ごと行ったんで多分、今の手持ちのポーションでさっと治すのは無理っす。
灰さんと合流できるまで待つしかない、か。
完全に目の前が塞がってるっすけど…まぁ、魔力ポーションを口に押し込んで、探査魔法と未来視を再発動すれば視界の代わりになるだろう、そう踏んで魔力を流す。
だが。
「ウソだろ…視えねぇ、っす…」
一先ず追撃の気配も無いし、今はもう大男は消えてるっぽいっす。幸い隣には柚月さんがいて、今すぐにやられる心配はなさそうではある。
それでも、未来が見えないのは完全に致命的だ。
あぁでもまずは、ノエルさん突き飛ばしちまったの謝んねぇとっすね。
「…咄嗟だったんで突き飛ばしちまったっすけど…ノエルさん、大丈夫だったっすか?」
「うん。今、あっちで大きめの花を広げて攻撃を防いでくれてる。けど…留歌は、平気なの?」
柚月さんが囁く。
「…大分、マズいっすね。ケースAっす。」
ケースA…「固有魔法が発動しない」…そんな状態を指す、俺たちの暗号だ。
ちなみに、Bは「物理的に戦闘不能」で、Cは「ポーション切れ」って意味だったりする。って、誰に言ってるんすかね俺。
まぁそれはさておくとしても実際、俺たちの基本の作戦は全員が自由に動けて初めて完璧に機能する物だ。
他の作戦もあるとは言え、優位性を断たれたとも言えるこの状況を直接にやりとりするのは危険すぎるっす。
『それに、起きない方がいいとは言っても…暗号って、カッコよくないか〜?』
そう言って笑っていた灰さんを思い出し、まさにその通りになってしまった自分を恥じる。
「留歌の固有魔法は結局、発動条件も分からなかったからね…ひとまず休んでてよ、ぼくらで何とかする。」
「すんません……」
そうだ、ヴィオレット先輩は?
探査魔法を慌てて発動する。どうやらこっちの魔法は問題なく発動できたらしく、周囲の情報が入ってきた。
大男はどうもヴィオレット先輩の魔法だったらしいっす。今も花で縛られたまま次々に、よく似た二人組の戦士やら大弓を持ったケンタウロスやらを繰り出している。
「手数多いっすねホントに…」
「そうだね、規則性探さないとキリが無いかも。」
大男にケンタウロスに……だめだ、俺なんかじゃ分からないっすね。
あ、今羊が追加されたっす。って、睡眠魔法撒き散らしてるっすよあれ…俺も眠く……って、マズイっす。
幸い、目が痛いんで今のところは寝ずに済んでるっすけど。
「っ!やっぱり毒の効き、悪いっぽい!!けど……死なないギリギリだよ?普通は痺れて動けないはず!!」
「手加減する余裕があるのか?それじゃあ俺には勝てねぇよ。」
やっぱ、さっき力を抜いたのはブラフだったんすね…さすが三年、隙が無さすぎるっすよ……
なんて、考えていた矢先の事だった。
「っぐぁ!!」
「灰っ!大丈夫?」
嘘だろ、灰さんがこっちまで吹っ飛んで来たっす。結構離れてるハズなのにこんな飛ぶんすか……
つーか、がっつり枝が絡まってるっすね…
「待っててね灰、今音波で…」
「いや、大丈夫だぞ〜…」
自分に手を向け、レーザーで枝を焼き尽くす灰さん。明らかにキツそうっすね……とはいえ、こんな状態でも場外まで投げられなかったのは紛れもなく灰さんの実力だろう。
まぁでも、ピンチなのは違いねぇっすけど。
「そっちは、大丈夫?」
「…言いたくないけど…少し、一人だと分が悪いかもな〜…」
「ううん。実は、こっちもそうだから…」
突っ込んでくる雄牛を音波で破壊しながら、簡単に戦況を説明する柚月さん。それを聞く灰さんも、手早くヤギをレーザーで溶解していく。
「多分、あっちも俺が場外まで出てない事は気づいてるハズだ〜。」
「となると、こっち来るってのもあるんすね……」
「完璧主義っぽい感じ、したもんね……」
じゃあその前にヴィオレット先輩から逃げるか…
もしくは、倒し切るか。
いや、こっちはかなりキツそうっすけどね!
「そういえば留歌、目はどうしたんだ〜?」
「派手にこけちまって、ポーションじゃ治せそうになかったっす…すんません灰さん、お願いしていいっすか?」
そうだ、そういやすっかり忘れてたっす。
灰さんが手を翳すと、視界がクリアになっていく感覚と一緒に痛みがスッと引いていく。
「そうだ、灰はあのヴィオレット先輩の攻撃ってどう思う?」
「あぁ、あの人ヴィオレット先輩って言うのか〜。」
こんな状況でも冷静に人の名前を確認している灰さんには毎度驚かされるっす。
「うん、そうなんだって。でね、思ったんだけど…」
「分かるぞ〜。一つの魔法とするには多彩すぎる、だろ〜?」
何かの法則性があるハズなんだよな〜…と呟いた灰さんは、今はじっと新たに追加されたライオンを眺めている。
「ちょちょちょ!!キリが無いってー!!さすがに逃げられちゃいそうなんだけど!?」
「あ、ごめんね。今行くよ!」
「いや、ノエルさん。悪いけど、もう少しだけ抑えててもらっていいか〜?」
そのまま三秒後ぐらいに花ごと三時の方向に動かしてくれ、と冷静に告げる灰さん。その方向を見たノエルさんも、納得したようにうなづいている。
いや、全くもって見えないんすけど俺には。
「よし、今!」
ノエルさんが叫ぶ。
ヴィオレット先輩はまだ、花の檻の中だ。
ノエルさんはそのまま、ヴィオレット先輩を花ごと上に思いっきり持ち上げる。
「って、うわぁ!?!?」
柚月さんに引っ張られるような具合で飛び退ったその直後、天から木の槍が降って来た。
超上空から降り注ぐ、土砂降りのような絨毯爆撃。
蔦が大量に絡みついているので、おそらく炉山先輩の攻撃だろう。
コレを捌き切るのは難しい。いや、ソレどころか…かなり、不可能に近いっす。
「ヴィオレットか。縛られとる所悪いけど、君も含めて意識落とさしてもらうで。」
しかし、ヴィオレット先輩は。
「全部消し飛ばせば済む話だろ?」
薄笑いの、ままだ。
手を真上に突き出すようにして、先輩は高らかに唱える。
「さっさと済ませるぞ。焼き尽くせ、【[漢字]流星[/漢字][ふりがな]メテオール[/ふりがな]】!」
地上から天へ、突き上げるような一撃。
炎を纏った巨大な石は、雨を一直線に貫いた。
『おっと、さすが三年同士の戦いだ。華があるね、あと一組脱落すれば終了だよ。』
『そうだなァ!ま、余波で会場もかなりブッ壊れてるけどよ!!』
そんな解説に合わせて、灰さんが「う〜ん、共倒れしてくれたら一番ありがたかったけどな〜。」と呟いてるっす。マジっすか。
「……いやコレ、マズくねぇっすか!?絶対に余波とかヤベェっすよ!?」
「それでも、結局は余波だからね。あの槍よりはいくらかマシ…って事なんじゃないかな?」
柚月さんの言う通り、まぁ確かに多少はマシなのかもしれねぇっす。
そう、つまり。
一切の手加減なく放たれたソレはそのまま、ヴィオレット先輩だけでなく、俺達にとっての傘ともなりうるモノで。
「しっかしヴィオレット先輩…宣言通り全部、消し飛ばしたっすね……」
「うん。おかげで、ひとまず目下の脅威はなんとかなった!私、頑張ったんじゃない!?」
「そうだな〜、ナイスタイミングだったぞ〜!」
ハイタッチの軽い音が響く。なんつーか、これは……
きっとこれ以上は無いってぐらいに、最高最悪の一手だったっす。
「あ、けど…良いように使われてるようなモンっすよね?ヴィオレット先輩、怒ってねぇと良いんすけど……」
「出力を小さくするより、まとめて焼いた方が早かったからそうしただけだ。」
「うぎゃぁあ!?!?」
いつの間にか隣立ってるんすけどこの方……
え、なんだ、いつの間に?
「終わりだ。寝てろ。」
腹を何かで貫かれる感覚。今までとは比べ物にならない切迫感。けど、俺の腹からは何も突き出ちゃいねぇっす。となると多分、魔法か魔術だ。
俺は二人に比べて遥かに魔力が低いから、その分魔力は関係する攻撃への防御力も低いっす。
あの人達にとってのちょっとした攻撃が、俺には大ダメージになるってコトっすね。
それを分かっていながらも、つい前に前にと出ちまった。
「「留歌!!」」
真っ黒になる視界の中、灰さんの羽と柚月さんのギターの破片らしき物だけが目に入ったっす。あぁ、やっぱ無力っすね俺は。何も変わっちゃいねぇっす。
なんだか、昔どこかで見たような……既視感のある光景だった。
いや違う、この二人じゃなくて……もっとこう、小さかったような……そんな気が、するんすけど……
血と同じようにあっちこっちに飛び散る思考を抑えきれず、俺は地面に倒れ込んだ。