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二次創作
東方願い井戸 〜 少女と少年の繋いだ未来

#9

第九話:恩師の背中と、境界の支配者

「……そこまでよ。みんな、よく頑張りましたね」
激しい弾幕の嵐が止み、静寂が戻った竹林の中で、慧音は静かに本を閉じた。彼女の衣服のあちこちには、茉莉花たちの強化弾幕によって削られた跡が残り、息を荒くしている。しかし、その表情には怒りや悲しみではなく、どこか晴れやかで、教え子たちの成長を心から喜ぶような優しい笑みが浮かんでいた。
妹紅もまた、身体にまとっていた紅蓮の炎をふっと消し、煤けたポケットに両手を突っ込んだ。
「はは、まいったね。あの日、机をひっくり返して泣きじゃくっていたガキどもが、まさか私をここまで本気にさせるとは思わなかったぜ。……翔我、雛鶴姫、お前たちの覚悟、確かに受け取った」
「先生……妹紅姉ちゃん……」
翔我は雛鶴姫の手を握りしめたまま、胸を詰まらせた。勝てたのは、自分たちの能力の調和が奇跡的に噛み合ったからだ。そして何より、二人が「本気」で自分たちの意志を受け止めてくれたからだと分かっていた。
「行きなさい、翔我。あなたたちの選んだ道の先を、決して見失わないように」
慧音はそっと進路をあけるように一歩退き、一同の背中を押すように微笑んだ。
「私たちはここで、あなたたちの行く末を見守っています。でも、忘れないで。どんなに遠くへ行こうとも、あなたたちは私たちの誇るべき生徒です」
「ありがとな、みんな。……怪我だけはするんじゃねえぞ」
妹紅のぶっきらぼうだが温かい言葉に見送られ、翔我たちは深く一礼すると、再び大結界の最深部を目指して走り出した。
しかし、かつての恩師たちとの感動的な別れを経て、結界まであと一歩のところまで迫った彼らを待ち受けていたのは、想像を絶する絶望だった。
「あら、慧音と妹紅を突破してくるなんて。人間の子供にしては、上出来な合格点かしら?」
大結界の最深部。空間そのものが歪み、世界の境界が目に見えるほど張り詰めたその場所に、彼女たちは優雅に佇んでいた。
日傘を差し、妖しい笑みを浮かべるスキマの妖怪――八雲 紫。そしてその傍らには、九本の尾を美しく揺らし、鋭い眼光を放つ式神、八雲 藍。幻想郷を創り、管理する張本人である大妖怪の登場を、翔我たちは夢にすら見ていなかった。
「な……んだよ、あの化け物みたいな妖気は……っ!」
皇子が茉莉花の手を握りしめたまま、その圧倒的なプレッシャーに息を呑んだ。
初めて目の当たりにする「本物の大妖怪」の存在感。紫がそこに立っているだけで、周囲の空間が悲鳴を上げているかのように歪んで見える。そのあまりの恐怖と威圧感に、翔我たちの身体は凍りついたように動かなくなり、指先からガタガタと震えが止まらなくなった。
「紫様、この者たちが里の秩序を乱す異変の主犯ですね」
藍が一歩前に出ると、その冷徹な声が響き渡った。藍の視線が翔我たちを射抜く。
「あなたたちの浅はかな企みなど、最初からすべて見えています。私がその気になれば、あなたたち全員の自由を奪い、今この瞬間にでも、何事もなかったかのように人間の里の自宅へ送り帰すことなど造作もないのですよ」
いつでも一瞬で元の檻(里)へ引き戻せる――その事実が、翔我たちに絶望を突きつける。
「さあ、どうするのかしら?」
紫が扇で口元を隠し、愉しげに瞳を細めた。
「その震える手で、まだ私に挑むつもり? それとも、大人しくお家に帰って、また『博麗の巫女』に守られる可愛い子供に戻る?」
境界の主を前に、少年少女たちはかつてない試練に直面していた。

2026/06/28 12:09

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