二次創作
東方願い井戸 〜 少女と少年の繋いだ未来
里の喧騒が遠のいた、真夜中の裏山。鬱蒼と茂る木々の隙間に、古びた石造りの井戸がひっそりと佇んでいた。
草牟田呼子の案内で辿り着いた少年少女たちの前に、月明かりを反射する水面が妖しく光る。
「……本当に、これで願いが叶うんだな?」
翔我が緊張で強張った声で確認すると、呼子がド派手な袖を揺らして頷いた。
「ええ。うちの家系に伝わる禁忌の伝承通りならね。一度きり、代償を払えば望む力を授けてくれる」
翔我、皇子、茉莉花、そして楓鈴。それぞれが井戸の縁に立ち、水面を見つめる。
外の世界へ行きたい。守られるだけの自分を壊したい。
その願いが一つに重なり、井戸へと注ぎ込まれた。
次の瞬間、井戸の底から眩いばかりの濁流のような魔力が噴き出した。
「くっ……あ、あああああッ!?」
翔我の身体に、人間には耐え難いほどの「概念」が流れ込んでくる。弾幕を無効化し、世界の法則を書き換えるほどの強大な力が、少年の細い血管を焼き切らんばかりに暴れ狂う。
「翔我! みんな!」
そこへ、帰ってこない一同を心配して追いかけてきた常温 雛鶴姫が駆け込んだ。光の渦の中心で、苦痛に顔を歪める翔我を見て、彼女は迷わず飛び込んだ。
「やめて、翔我! こんな力、危なすぎるわ!」
「来るな、雛鶴姉! 体が……壊れる……!」
翔我の皮膚から紫色の火花が散り、周囲の空間がひび割れ始める。
茉莉花の周囲では光弾が異常な熱量を持ち始め、皇子の足元からは制御不能の竜巻が巻き起こった。大人である楓鈴でさえ、空間の歪みに呑み込まれそうになり、冷や汗を流している。
「止まれ……止まってよ!」
雛鶴姫は叫びながら、暴走する光の中に手を伸ばし、翔我の右手を強く握りしめた。
その瞬間、静寂が訪れた。
荒れ狂っていた翔我の魔力が、雛鶴姫の身体を媒介にして急速に安定していく。それと同時に、雛鶴姫自身の内側にも「あらゆる怪我を癒やす」という奇跡の力が宿り、翔我の苦痛を吸い取っていった。
「……おさまった?」
翔我が恐る恐る目を開ける。
傍らでは、同じように崩れ落ちそうになっていた茉莉花の手を、皇子がとっさに掴んでいた。
「茉莉花、大丈夫か!」
「……っ、離してよ皇子! ……でも、離したら、また力が溢れそう……」
プライドの高い茉莉花が、顔を真っ赤にしながらも皇子の手を離せずにいる。
後方では、楓鈴が呼子の手をひょいと握り、いつもの掴みどころのない笑顔に戻っていた。
「やれやれ。番人の呼子ちゃんでも、この重さは一人じゃ抱えきれなかったみたいだね」
「……不本意だけど、楓鈴さんがいて助かったわ。服がボロボロになるところだったもの」
全員が二人一組で手を繋いでいる。
不思議なことに、手を繋いでいる間だけは、その身に余る強大な力が嘘のように大人しく従っている。しかし、一度でも指を離そうとすれば、再び世界を壊しかねない暴走が始まることを、彼らは本能で理解した。
「……代償って、これのことか」
翔我は雛鶴姫の手を握り返し、立ち上がった。
「一人じゃ制御できない。ずっと手を繋いでなきゃいけない……不自由な力だな」
「でも」と、翔我は結界の向こう側、外の世界を指差した。
「これがあれば、あの大結界にだって手が届く。雛鶴姉、みんな。……もう後戻りはできないぞ」
繋がれた手から伝わる、熱い体温。
それは不自由な鎖であると同時に、彼らが決して独りではないという証明でもあった。
少年少女たちは固く握り合った手を掲げ、退屈な里の夜を切り裂くように、最初の一歩を踏み出した。
草牟田呼子の案内で辿り着いた少年少女たちの前に、月明かりを反射する水面が妖しく光る。
「……本当に、これで願いが叶うんだな?」
翔我が緊張で強張った声で確認すると、呼子がド派手な袖を揺らして頷いた。
「ええ。うちの家系に伝わる禁忌の伝承通りならね。一度きり、代償を払えば望む力を授けてくれる」
翔我、皇子、茉莉花、そして楓鈴。それぞれが井戸の縁に立ち、水面を見つめる。
外の世界へ行きたい。守られるだけの自分を壊したい。
その願いが一つに重なり、井戸へと注ぎ込まれた。
次の瞬間、井戸の底から眩いばかりの濁流のような魔力が噴き出した。
「くっ……あ、あああああッ!?」
翔我の身体に、人間には耐え難いほどの「概念」が流れ込んでくる。弾幕を無効化し、世界の法則を書き換えるほどの強大な力が、少年の細い血管を焼き切らんばかりに暴れ狂う。
「翔我! みんな!」
そこへ、帰ってこない一同を心配して追いかけてきた常温 雛鶴姫が駆け込んだ。光の渦の中心で、苦痛に顔を歪める翔我を見て、彼女は迷わず飛び込んだ。
「やめて、翔我! こんな力、危なすぎるわ!」
「来るな、雛鶴姉! 体が……壊れる……!」
翔我の皮膚から紫色の火花が散り、周囲の空間がひび割れ始める。
茉莉花の周囲では光弾が異常な熱量を持ち始め、皇子の足元からは制御不能の竜巻が巻き起こった。大人である楓鈴でさえ、空間の歪みに呑み込まれそうになり、冷や汗を流している。
「止まれ……止まってよ!」
雛鶴姫は叫びながら、暴走する光の中に手を伸ばし、翔我の右手を強く握りしめた。
その瞬間、静寂が訪れた。
荒れ狂っていた翔我の魔力が、雛鶴姫の身体を媒介にして急速に安定していく。それと同時に、雛鶴姫自身の内側にも「あらゆる怪我を癒やす」という奇跡の力が宿り、翔我の苦痛を吸い取っていった。
「……おさまった?」
翔我が恐る恐る目を開ける。
傍らでは、同じように崩れ落ちそうになっていた茉莉花の手を、皇子がとっさに掴んでいた。
「茉莉花、大丈夫か!」
「……っ、離してよ皇子! ……でも、離したら、また力が溢れそう……」
プライドの高い茉莉花が、顔を真っ赤にしながらも皇子の手を離せずにいる。
後方では、楓鈴が呼子の手をひょいと握り、いつもの掴みどころのない笑顔に戻っていた。
「やれやれ。番人の呼子ちゃんでも、この重さは一人じゃ抱えきれなかったみたいだね」
「……不本意だけど、楓鈴さんがいて助かったわ。服がボロボロになるところだったもの」
全員が二人一組で手を繋いでいる。
不思議なことに、手を繋いでいる間だけは、その身に余る強大な力が嘘のように大人しく従っている。しかし、一度でも指を離そうとすれば、再び世界を壊しかねない暴走が始まることを、彼らは本能で理解した。
「……代償って、これのことか」
翔我は雛鶴姫の手を握り返し、立ち上がった。
「一人じゃ制御できない。ずっと手を繋いでなきゃいけない……不自由な力だな」
「でも」と、翔我は結界の向こう側、外の世界を指差した。
「これがあれば、あの大結界にだって手が届く。雛鶴姉、みんな。……もう後戻りはできないぞ」
繋がれた手から伝わる、熱い体温。
それは不自由な鎖であると同時に、彼らが決して独りではないという証明でもあった。
少年少女たちは固く握り合った手を掲げ、退屈な里の夜を切り裂くように、最初の一歩を踏み出した。