二次創作
東方願い井戸 〜 少女と少年の繋いだ未来
「……また、あの博麗の巫女が勝ったんだってさ」
人間の里の賑やかな通りは、お祭り騒ぎのような活気に包まれていた。つい最近起きた『東方錦上京(とうほうきんじょうきょう)』の異変が、無事に博麗の巫女によって解決されたのだ。里の大人たちは口々に「これでまた安心して暮らせる」「やっぱり巫女様は私たちのヒーローだ」と、嬉しそうに噂を交わしている。
しかし、そんな人混みの中を、黒葛野 翔我(つづらの しょうが)はうんざりしたように肩をすくめて歩いていた。
「何が安心だよ。結局、俺たちは守られるだけの子供だって言いたいんだろ」
一匹狼気取りの、思春期真っ盛りの少年。それが翔我だった。子供扱いされるのが、何よりも、死ぬほど嫌いだった。彼は里の大人たちの浮かれた声を背に、逃げるように自宅へと帰っていった。
机の上には、外の世界から流れ着いたという風変わりな遺物、紫色の筐体の「ゲームキューブ」が置かれている。コントローラーの線はちぎれ、中身も壊れているのかピクリとも動かない。だけど翔我は、毎日この機械を眺めては、どうやったら直せるのか、そしてこれを動かしていた「外の世界」とはどんな場所なのか、そればかりを考えていた。
「しょうが、ご飯できたよ!」
背後から不意に脇腹をくすぐられ、翔我は「うわっ!?」と声を上げて跳び上がった。
「雛鶴姉(ひなづるねえ)! 驚かせるなっていつも言ってるだろ! 俺はもう子供じゃない!」
「ふふ、ごめんね。でもそうやって怒る顔も、まだまだ可愛い弟に見えちゃうな」
振り返ると、隣の家に住む従姉の茶屋道 雛鶴姫(ちゃやみち ひなづるひめ)が、悪戯っぽく微笑みながら立っていた。裏表がなく、里の誰からも頼りにされるお姉さん。だけど、翔我を呼ぶときだけはいつもこうして背後からくすぐってくる。
「ほら、黒葛野家も茶屋道家も、今日はみんなで一緒にご飯でしょ? 早く来ないと、冷めちゃうよ」
雛鶴姫は優しく笑ったが、その視線がふと、翔我の机の上のゲームキューブに留まった。その瞳には、翔我と同じ――この高い壁に囲まれた里の生活に対する、言葉にできない窮屈さと、まだ見ぬ世界への淡い憧れが映っているように見えた。
翌日、里の広場の隅に、翔我の呼びかけで仲間たちが集まっていた。
親友の押領司 皇子(おうりょうじ おうじ)、長老の孫娘である苅萱 茉莉花(かるかや まつりか)、そして鯨呑亭の常連客である大人の下水流 楓鈴(しもづる ふうりん)と、一番最年長の草牟田 呼子(そうむた よびこ)。
「みんな、集まってくれてありがとな。……俺たちで、新しい異変を起こさないか?」
翔我の突飛な提案に、茉莉花が溜息をつきながら、抱えていた『文々丸新聞』の束を広げた。
「新しい異変を起こして外の世界へ行く……。気持ちはわかるけれど、現実を見なさいよ、翔我。私たちは能力もない、ただの普通の人間の子供よ? 異変を起こそうとしたって、ちょっとした騒動になって、また慧音先生や博麗の巫女に子供の悪戯だって片付けられて終わりだわ」
「茉莉花の言う通りだぜ」
里一番の力持ちである皇子が、腕を組んで静かに頷いた。
「俺だって結界の中で一生を終えるのは嫌だし、自立を証明したい。だけど、何の力もない俺たちが騒いだところで、ただの無茶で終わっちまう」
楓鈴もレンコンの素揚げをサクサクと食べながら、「さすがに大妖怪や巫女を相手にするには、僕たちじゃ弾幕一つ撃てないからねぇ」と、のんびりとした口調で言った。
やはり、能力のない自分たちでは何もできないのか。
重苦しい沈黙が流れ、翔我が悔しそうに拳を握りしめた、その時だった。
「――ねえ、それなら、私の家に伝わる『井戸』を使ってみない?」
ド派手な衣装を身にまとった呼子が、きらびやかな笑顔でみんなの顔を覗き込んだ。
「井戸?」
翔我が聞き返す。
「ええ。ごく一部の人、それこそ私の家系くらいしか本当の理由を知らない古い石造りの井戸があるの。一度だけ、代償を払えば何でも願いを叶えて、特別な力を授けてくれるっていう伝承があるのよ。……ただの子供の騒動で終わらせたくないなら、その井戸で『本物の力』を手に入れてみる?」
呼子のその言葉が、燻っていた少年少女たちの心に、一筋の強烈な光を灯した。
守られるだけの存在から抜け出し、自分たちの未来を掴み取るための、本当の異変。その計画が、静かに動き始めようとしていた。
人間の里の賑やかな通りは、お祭り騒ぎのような活気に包まれていた。つい最近起きた『東方錦上京(とうほうきんじょうきょう)』の異変が、無事に博麗の巫女によって解決されたのだ。里の大人たちは口々に「これでまた安心して暮らせる」「やっぱり巫女様は私たちのヒーローだ」と、嬉しそうに噂を交わしている。
しかし、そんな人混みの中を、黒葛野 翔我(つづらの しょうが)はうんざりしたように肩をすくめて歩いていた。
「何が安心だよ。結局、俺たちは守られるだけの子供だって言いたいんだろ」
一匹狼気取りの、思春期真っ盛りの少年。それが翔我だった。子供扱いされるのが、何よりも、死ぬほど嫌いだった。彼は里の大人たちの浮かれた声を背に、逃げるように自宅へと帰っていった。
机の上には、外の世界から流れ着いたという風変わりな遺物、紫色の筐体の「ゲームキューブ」が置かれている。コントローラーの線はちぎれ、中身も壊れているのかピクリとも動かない。だけど翔我は、毎日この機械を眺めては、どうやったら直せるのか、そしてこれを動かしていた「外の世界」とはどんな場所なのか、そればかりを考えていた。
「しょうが、ご飯できたよ!」
背後から不意に脇腹をくすぐられ、翔我は「うわっ!?」と声を上げて跳び上がった。
「雛鶴姉(ひなづるねえ)! 驚かせるなっていつも言ってるだろ! 俺はもう子供じゃない!」
「ふふ、ごめんね。でもそうやって怒る顔も、まだまだ可愛い弟に見えちゃうな」
振り返ると、隣の家に住む従姉の茶屋道 雛鶴姫(ちゃやみち ひなづるひめ)が、悪戯っぽく微笑みながら立っていた。裏表がなく、里の誰からも頼りにされるお姉さん。だけど、翔我を呼ぶときだけはいつもこうして背後からくすぐってくる。
「ほら、黒葛野家も茶屋道家も、今日はみんなで一緒にご飯でしょ? 早く来ないと、冷めちゃうよ」
雛鶴姫は優しく笑ったが、その視線がふと、翔我の机の上のゲームキューブに留まった。その瞳には、翔我と同じ――この高い壁に囲まれた里の生活に対する、言葉にできない窮屈さと、まだ見ぬ世界への淡い憧れが映っているように見えた。
翌日、里の広場の隅に、翔我の呼びかけで仲間たちが集まっていた。
親友の押領司 皇子(おうりょうじ おうじ)、長老の孫娘である苅萱 茉莉花(かるかや まつりか)、そして鯨呑亭の常連客である大人の下水流 楓鈴(しもづる ふうりん)と、一番最年長の草牟田 呼子(そうむた よびこ)。
「みんな、集まってくれてありがとな。……俺たちで、新しい異変を起こさないか?」
翔我の突飛な提案に、茉莉花が溜息をつきながら、抱えていた『文々丸新聞』の束を広げた。
「新しい異変を起こして外の世界へ行く……。気持ちはわかるけれど、現実を見なさいよ、翔我。私たちは能力もない、ただの普通の人間の子供よ? 異変を起こそうとしたって、ちょっとした騒動になって、また慧音先生や博麗の巫女に子供の悪戯だって片付けられて終わりだわ」
「茉莉花の言う通りだぜ」
里一番の力持ちである皇子が、腕を組んで静かに頷いた。
「俺だって結界の中で一生を終えるのは嫌だし、自立を証明したい。だけど、何の力もない俺たちが騒いだところで、ただの無茶で終わっちまう」
楓鈴もレンコンの素揚げをサクサクと食べながら、「さすがに大妖怪や巫女を相手にするには、僕たちじゃ弾幕一つ撃てないからねぇ」と、のんびりとした口調で言った。
やはり、能力のない自分たちでは何もできないのか。
重苦しい沈黙が流れ、翔我が悔しそうに拳を握りしめた、その時だった。
「――ねえ、それなら、私の家に伝わる『井戸』を使ってみない?」
ド派手な衣装を身にまとった呼子が、きらびやかな笑顔でみんなの顔を覗き込んだ。
「井戸?」
翔我が聞き返す。
「ええ。ごく一部の人、それこそ私の家系くらいしか本当の理由を知らない古い石造りの井戸があるの。一度だけ、代償を払えば何でも願いを叶えて、特別な力を授けてくれるっていう伝承があるのよ。……ただの子供の騒動で終わらせたくないなら、その井戸で『本物の力』を手に入れてみる?」
呼子のその言葉が、燻っていた少年少女たちの心に、一筋の強烈な光を灯した。
守られるだけの存在から抜け出し、自分たちの未来を掴み取るための、本当の異変。その計画が、静かに動き始めようとしていた。