わたしなんて猫である
冬の冷たさを抱えた春一番が、窓ガラスを小刻みに揺らした。
___私は今日も日向ぼっこに勤しんでいる。
小娘はいつもよりも外出することが増えた。小娘がいない家は静寂に包まれていて、私の鼻から出たり入ったりする空気の音すらも聞こえてくる。
こんな風に憩う時間も良いものだ。
…しかし、それは刹那にすぎない。
ドアの軋む音と共に小娘が帰ってきた。
「ただいま…」
いつになく鬱屈とした様子で部屋に入る姿が確認できる。
どうしたというのだろう。
今までも落ち込む様子を見ることはあったが、どれも私には関係のないことだった。
故に、今日も時が経てばいつも通りになるだろう。そう思っていた。
__小娘が帰宅してからいかばかり経ったかわからない。
天井のしみを見つめながら仰向けに寝ていると、母親が家に帰ってきた。
「ただいまー!いきなりですが重大発表がありまーす!」
鼓膜にべたりと張り付くような声で叫ぶ。思わず立ち上がってしまった。
「ヒッコシが決まりましたー!」
…ヒッコシ?生まれて初めて聞く言葉だった。助けを求めるように小娘を見ると、口をあんぐり開けたあと、やっぱり…と呟いていた。
「タマ、ヒッコシだって、ヒッコシ。違うお家に行くんだよ。」
領会した。ヒッコシとは引っ越し、つまり現在住んでいる場所などを別の場所へ移動することを指す。
「まあタマにはわかんないか。」
嘲るな。私は猫であるが人間の言語を理解している。
母親曰く、父親の仕事の事情で引っ越すのだと言う。それも理解した。
父親という者は仕事ばかりで滅多に私の前に姿を現さない。所謂社畜である。小娘には「お父さんがいないとタマはご飯食べていけないからね〜ありがとうだよ〜?」と言われたことがあるが、私の食事を毎日用意しているのは小娘だ。父親に憂慮することはないだろう。
___私は今日も日向ぼっこに勤しんでいる。
小娘はいつもよりも外出することが増えた。小娘がいない家は静寂に包まれていて、私の鼻から出たり入ったりする空気の音すらも聞こえてくる。
こんな風に憩う時間も良いものだ。
…しかし、それは刹那にすぎない。
ドアの軋む音と共に小娘が帰ってきた。
「ただいま…」
いつになく鬱屈とした様子で部屋に入る姿が確認できる。
どうしたというのだろう。
今までも落ち込む様子を見ることはあったが、どれも私には関係のないことだった。
故に、今日も時が経てばいつも通りになるだろう。そう思っていた。
__小娘が帰宅してからいかばかり経ったかわからない。
天井のしみを見つめながら仰向けに寝ていると、母親が家に帰ってきた。
「ただいまー!いきなりですが重大発表がありまーす!」
鼓膜にべたりと張り付くような声で叫ぶ。思わず立ち上がってしまった。
「ヒッコシが決まりましたー!」
…ヒッコシ?生まれて初めて聞く言葉だった。助けを求めるように小娘を見ると、口をあんぐり開けたあと、やっぱり…と呟いていた。
「タマ、ヒッコシだって、ヒッコシ。違うお家に行くんだよ。」
領会した。ヒッコシとは引っ越し、つまり現在住んでいる場所などを別の場所へ移動することを指す。
「まあタマにはわかんないか。」
嘲るな。私は猫であるが人間の言語を理解している。
母親曰く、父親の仕事の事情で引っ越すのだと言う。それも理解した。
父親という者は仕事ばかりで滅多に私の前に姿を現さない。所謂社畜である。小娘には「お父さんがいないとタマはご飯食べていけないからね〜ありがとうだよ〜?」と言われたことがあるが、私の食事を毎日用意しているのは小娘だ。父親に憂慮することはないだろう。