二次創作
静電気みたいな恋:研磨
#1
秘めていた思い
春の高校バレー全国大会 3回戦
宮城県代表烏野高校 対 東京都開催地代表音駒高校
結果
セットカウント 2-1
勝者 烏野高校
敗者 音駒高校
私達の学校は3回戦敗退、全国ベスト16の結果で春の全国大会が終わった。
「……すご、かった」
試合終了の笛が鳴り、選手や監督達が握手を交わす中、音駒の応援席では制服を着た生徒達が唖然とし、ただ凄い…やばい…と同じ言葉を繰り返し立ち尽くすだけ。
「「「ありがとうございましたっ!!!」」」
そして、監督含めバレー部から挨拶をされても尚、ただ拍手を送ることしか出来ず、ここにいる全員の脳裏には先程まで行われていた試合が流れている。
「…凄かった」
さっきよりもちゃんと言葉として出てきた感想は周り声にかき消された。
凄かった。何が凄いのか。それが言えないからただ一言、凄いとしか言えないのだ。けれど、一つだけ言えるのは、どんなに凄いプレーより、どんなに凄く長く続いたラリーよりも、私はただいつも教室の隅に身を潜めている彼にあんな表情をさせる相手が、仲間が、バレーボールというスポーツが、ただ単純に凄いと思った。
次、試合をする学校の応援団が来る前にぞろぞろと大人数でこの場から移動する。周りに流されながら自身の足を動かし、未だ彼のプレーが、表情が、脳裏に焼き付き離れない。
凄い、その思いとは違うもう一つの感情。中2のあの日から認めてもそれを口に出してはいけないと思った。口に出したら苦しくなるだけだから、と。でも今は、この想いを言葉として外に出さなければ内側から弾け飛んで体が爆発してしまう。本気でそう思った。
「……好き」
彼のことが好きだ。3年間、ずっと秘めていた想い。苦しくなるだけだからとずっと言葉にしなかった想い。たった二つの文字なのに声にした途端、爆発してしまいそうな苦しさは緩むどころか強くなり、心臓を握りつぶされているような痛みへと変わった。
恋は病。よく聞く言葉だけど、多くの人はそれを信じない。私もそのひとり。けれど、これは本当に自身の体がどこか悪いのではないかと勘違いする程に胸が痛い。
たった一つの言葉を発しただけで、これまで深く考えないようにしていた彼のことを思い出し、その一つ一つに苦しくなる。好きなところが止まることなく頭に流れ込んできて、そうなってから声に出さなければ良かったと後悔するも遅く、制服の上からグシャリと胸を押さえつけては俯きながらさっきよりも遅いスピードで足を動かした。
彼を好きになってはいけない。そう考えてしまう時点で、私はとっくに孤爪研磨くんに惚れているのだ。
あの試合を観てからの数日間の休みは孤爪くんのことで頭がいっぱいだった。冬休みが明け、今日から2年生としての残り3ヶ月間を過ごす。始業式に出るため教室から体育館へ向かう途中、彼のクラス…2年3組の横を通り、チラリと横目で孤爪くんが座っている席へと視線を動かした。
ここを通る時、いつもしてしまうこと。空いている扉や窓から彼の姿を見つけては胸が高鳴る。話せなくてもいい。ただ孤爪くんが見れれば今日という日を頑張れるのだ。
彼の姿を見ることが出来ないと思っていた冬休み。春高応援で出来ないと思っていたそれが叶った。そして、今日からまた通常通り大好きな人を目に映せるという期待は簡単に破れることとなる。
「孤爪くん、この間の大会凄かった!!」
「レギュラーだったんだね!!」
「まさかセッターやってるとは思わなかったわー」
「俺、孤爪が走ってんの初めてみた!」
男女数人が孤爪くんの席を囲っていて、ここからではその人達の体の影に隠れて見ることが出来ない。ただ教室から数人の高揚した声が届くだけ。
久しぶりに運動していない普段の顔が見れると思ったんだけどな。でも仕方がないか。あの時の孤爪くん本当に凄かったし。勇気があれば私も声を掛けに行っちゃうもん。
いつもは一度教室内へ目を向けるだけで彼を見ることが出来るからもう一回孤爪くんの方を見ようとはしない。けれど、今日は見れなかったし、違う角度からならもしかしたらそれが出来るかもしれない。そんな期待を胸に数歩進んでから首を動かし、視線を移した。
「!」
そして。ばちり、と。人と人との間から彼の猫目がこちらを捉え、目が合った。いつも交じり合うことのない視線。それが今日しっかりと合わさり、目を見開いて固まる。すると、向こうも軽く見開き、数秒固まった後、先にバッと顔を背けられてしまった。
ドクドクと込み上げてくる何か。体中が熱くなり、最後は顔にも熱が渡る。前を向き下を俯きながら歩く足を速めた。
……目、合っちゃった。合ったよね…?今。
孤爪くんのクラスを通り過ぎた時。最後に聞こえてきたのは「孤爪くん、かっこよかった〜!」という言葉。それに眉間に皺が寄る。かっこいいのなんて、そんなの…
「ずっと前からだもん」
孤爪くんは最初からかっこいい。あの試合を見なくてもかっこいいの知ってるもん。そんな嫉妬を抱いてしまう自分が醜く思えて更に顔を歪めると、隣にいた友達が「どした?…うんこ?」などと聞いてくることにまた眉を顰めた。
宮城県代表烏野高校 対 東京都開催地代表音駒高校
結果
セットカウント 2-1
勝者 烏野高校
敗者 音駒高校
私達の学校は3回戦敗退、全国ベスト16の結果で春の全国大会が終わった。
「……すご、かった」
試合終了の笛が鳴り、選手や監督達が握手を交わす中、音駒の応援席では制服を着た生徒達が唖然とし、ただ凄い…やばい…と同じ言葉を繰り返し立ち尽くすだけ。
「「「ありがとうございましたっ!!!」」」
そして、監督含めバレー部から挨拶をされても尚、ただ拍手を送ることしか出来ず、ここにいる全員の脳裏には先程まで行われていた試合が流れている。
「…凄かった」
さっきよりもちゃんと言葉として出てきた感想は周り声にかき消された。
凄かった。何が凄いのか。それが言えないからただ一言、凄いとしか言えないのだ。けれど、一つだけ言えるのは、どんなに凄いプレーより、どんなに凄く長く続いたラリーよりも、私はただいつも教室の隅に身を潜めている彼にあんな表情をさせる相手が、仲間が、バレーボールというスポーツが、ただ単純に凄いと思った。
次、試合をする学校の応援団が来る前にぞろぞろと大人数でこの場から移動する。周りに流されながら自身の足を動かし、未だ彼のプレーが、表情が、脳裏に焼き付き離れない。
凄い、その思いとは違うもう一つの感情。中2のあの日から認めてもそれを口に出してはいけないと思った。口に出したら苦しくなるだけだから、と。でも今は、この想いを言葉として外に出さなければ内側から弾け飛んで体が爆発してしまう。本気でそう思った。
「……好き」
彼のことが好きだ。3年間、ずっと秘めていた想い。苦しくなるだけだからとずっと言葉にしなかった想い。たった二つの文字なのに声にした途端、爆発してしまいそうな苦しさは緩むどころか強くなり、心臓を握りつぶされているような痛みへと変わった。
恋は病。よく聞く言葉だけど、多くの人はそれを信じない。私もそのひとり。けれど、これは本当に自身の体がどこか悪いのではないかと勘違いする程に胸が痛い。
たった一つの言葉を発しただけで、これまで深く考えないようにしていた彼のことを思い出し、その一つ一つに苦しくなる。好きなところが止まることなく頭に流れ込んできて、そうなってから声に出さなければ良かったと後悔するも遅く、制服の上からグシャリと胸を押さえつけては俯きながらさっきよりも遅いスピードで足を動かした。
彼を好きになってはいけない。そう考えてしまう時点で、私はとっくに孤爪研磨くんに惚れているのだ。
あの試合を観てからの数日間の休みは孤爪くんのことで頭がいっぱいだった。冬休みが明け、今日から2年生としての残り3ヶ月間を過ごす。始業式に出るため教室から体育館へ向かう途中、彼のクラス…2年3組の横を通り、チラリと横目で孤爪くんが座っている席へと視線を動かした。
ここを通る時、いつもしてしまうこと。空いている扉や窓から彼の姿を見つけては胸が高鳴る。話せなくてもいい。ただ孤爪くんが見れれば今日という日を頑張れるのだ。
彼の姿を見ることが出来ないと思っていた冬休み。春高応援で出来ないと思っていたそれが叶った。そして、今日からまた通常通り大好きな人を目に映せるという期待は簡単に破れることとなる。
「孤爪くん、この間の大会凄かった!!」
「レギュラーだったんだね!!」
「まさかセッターやってるとは思わなかったわー」
「俺、孤爪が走ってんの初めてみた!」
男女数人が孤爪くんの席を囲っていて、ここからではその人達の体の影に隠れて見ることが出来ない。ただ教室から数人の高揚した声が届くだけ。
久しぶりに運動していない普段の顔が見れると思ったんだけどな。でも仕方がないか。あの時の孤爪くん本当に凄かったし。勇気があれば私も声を掛けに行っちゃうもん。
いつもは一度教室内へ目を向けるだけで彼を見ることが出来るからもう一回孤爪くんの方を見ようとはしない。けれど、今日は見れなかったし、違う角度からならもしかしたらそれが出来るかもしれない。そんな期待を胸に数歩進んでから首を動かし、視線を移した。
「!」
そして。ばちり、と。人と人との間から彼の猫目がこちらを捉え、目が合った。いつも交じり合うことのない視線。それが今日しっかりと合わさり、目を見開いて固まる。すると、向こうも軽く見開き、数秒固まった後、先にバッと顔を背けられてしまった。
ドクドクと込み上げてくる何か。体中が熱くなり、最後は顔にも熱が渡る。前を向き下を俯きながら歩く足を速めた。
……目、合っちゃった。合ったよね…?今。
孤爪くんのクラスを通り過ぎた時。最後に聞こえてきたのは「孤爪くん、かっこよかった〜!」という言葉。それに眉間に皺が寄る。かっこいいのなんて、そんなの…
「ずっと前からだもん」
孤爪くんは最初からかっこいい。あの試合を見なくてもかっこいいの知ってるもん。そんな嫉妬を抱いてしまう自分が醜く思えて更に顔を歪めると、隣にいた友達が「どした?…うんこ?」などと聞いてくることにまた眉を顰めた。
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