【参加型】巡る酒場にて、冒険者達はかく語りき
がやがや。がやがや。昼間から酒場は賑わっている。あっちではクエストが終わったのか昼飲みしている豪快な輩が居て、かと思ったら何か絶望したような顔をして突っ伏しているテーブルもあった。
その中で一つ、話に花が咲いているテーブルがある。今回の主な客層は中堅と呼ばれるような、そこそこの腕の人々。その輪の中心には、まだうら若い冒険者の姿があった。ふわふわとした栗色の髪の毛は、赤子の髪のようだ。
「これは僕が体験した話なんですけどね………」
この机は、今から彼のステージである。
僕は最近ダンジョンに潜り始めました。ろくにまだ稼げても居ないので、自分で地図を書く毎日です。その時も、そんな地図の測量の為にそこら中を歩いていました。
第一階層。冒険者さん達に踏み固められて、ある程度は安全が保障されている場所です。突然危ないところに潜るのも良くないと思って、まずはそこの地図から始めようと思ったんです。そうして灰色の岩室を探索すること…数時間。灰色ばかりのこの階層で、見慣れない緑の地面を見つけたんです。「こんなところ、あったっけな?」と思いますが、自らの地図ではまだ未記入の場所です。きっと、まだ僕が踏み入っていない場所なんだろうなと思ってそこへと足を乗せました。すると、まるでその判断を嘲笑うかのように足が吸い込まれていきます。いえ、魔法とかではありません。そう、落とし穴だったのです。
それからどれくらい落ちたでしょうか?何階層まで落ちたのでしょうか?冷たい液体に触れた感覚で視界が開けました。見れば見渡す限り緑緑緑……。川の水までも緑色。思わず周りを見渡しました。川のそばの河原には青々とした植物が茂って、そのさらに川から離れたところでは鬱蒼とした木々が視界を遮っています。聞いたこともないような光景だったので、しばらく呆然としていました。特に、その頃は本当に駆け出したてだったので……。その間に、川幅にしてはやけに早めの流れな川があります。その時丁度僕はそこに落ちてきたようです。そのまま僕は無抵抗に流されていきました。
ゆったりと開けていくような景色は相変わらず目を刺すような緑。もう緑色は嫌いになってしまいそうでした。つんとした、機械燃料特有の嫌な匂いが鼻をつきます。しかもそれはかなり強い、頭が少しクラクラするほどでした。本当に、嫌で、辛くて、そして怖くて、ひたすらに流されるがままになっていました。陸の上では見たこともない緑色の鳥が緑色の火を吹いています。一体何で、どうしてそんなことをしているのか、理解の範疇の外でした。その炎を見た時は、流石に「僕の目が状態異常に掛かっているのかな…?」と思いました。全てが緑色の世界で自らの体の装備、肌の色だけが目の保養でした。
そうして無気力に流される時間がどれほど過ぎたでしょうか?気がつくと、段々大きな構造物が近づいてきているのが見えました。自慢じゃないんですが、僕は目だけ、目だけはいいんです。そこに見えたのは、確かに階段でした。他の階層から上がるのと同じような階段。もともと石造だったのかもしれませんが、例に漏れず原色の緑に染まっていました。頼みの綱です。上から落ちてきたのですから、階段を登って探して………を繰り返せばいずれ戻れるはずです。緑色で潰されていた僕の目に一縷の希望が映りました。そこからはただ無気力に流される時間ではありません。必死に泳ぎました。この緑色の気が触れそうな地獄から抜け出すために。本当に狂ってしまいそうでした。水よりもはるかに重い燃料の匂いのする液体を手でかいていきます。ばしゃり、ばしゃりと。ネトネトするその感触など気にしている場合ではありませんでした。
そうして辛々辿り着いた階段前。丁度そこに横たわる緑の丸太があったのでうまい具合に捕まって楽に上陸出来ました——自らの装甲の隙間から重たい緑色の液体がドロドロと滴っていきます。あの感触、気持ちいものではありませんでしたね……目の前には苔むした階段。ついに辿り着いたのだと、僕の胸がどれほど躍ったことでしょう!
そこになってやっと精神の余裕が出てきました。辺りの森を見回します……ろくに観察してこなかったものですから。森の奥は深緑色で陰っており、明らかに奥の空間があります。しかし、僕は全然そこを探索しようと思えませんでした。なんなら、階段を登る足の速度を上げるものでした……冒険者として頑張ると言っている僕がどうしてそんな行動を取ったか。簡単です。1m程もある爪痕が木々を薙ぎ倒していたのです。切り口からは木の体液、白色の樹液がダラダラとグロテスクに流れています。凶暴なその跡に立ち向かう装備も技能も勇気もありません……なのでその時は転がるような勢いで階段を登っていきました。登ってみれば、先ほどまでが嘘のような普通の色彩の第一階層。まるで狐に摘まれたかのようです。しかも、不思議に思い階段を見直してみても、絡まり合った古木達に固められた使用できない扉があるのみ。それ以来、僕はその階層の噂を聞きません。この体験を裏付けるのは、あの時の狂気と幾分か袋の中に残っている緑色の液体のみです。
その中で一つ、話に花が咲いているテーブルがある。今回の主な客層は中堅と呼ばれるような、そこそこの腕の人々。その輪の中心には、まだうら若い冒険者の姿があった。ふわふわとした栗色の髪の毛は、赤子の髪のようだ。
「これは僕が体験した話なんですけどね………」
この机は、今から彼のステージである。
僕は最近ダンジョンに潜り始めました。ろくにまだ稼げても居ないので、自分で地図を書く毎日です。その時も、そんな地図の測量の為にそこら中を歩いていました。
第一階層。冒険者さん達に踏み固められて、ある程度は安全が保障されている場所です。突然危ないところに潜るのも良くないと思って、まずはそこの地図から始めようと思ったんです。そうして灰色の岩室を探索すること…数時間。灰色ばかりのこの階層で、見慣れない緑の地面を見つけたんです。「こんなところ、あったっけな?」と思いますが、自らの地図ではまだ未記入の場所です。きっと、まだ僕が踏み入っていない場所なんだろうなと思ってそこへと足を乗せました。すると、まるでその判断を嘲笑うかのように足が吸い込まれていきます。いえ、魔法とかではありません。そう、落とし穴だったのです。
それからどれくらい落ちたでしょうか?何階層まで落ちたのでしょうか?冷たい液体に触れた感覚で視界が開けました。見れば見渡す限り緑緑緑……。川の水までも緑色。思わず周りを見渡しました。川のそばの河原には青々とした植物が茂って、そのさらに川から離れたところでは鬱蒼とした木々が視界を遮っています。聞いたこともないような光景だったので、しばらく呆然としていました。特に、その頃は本当に駆け出したてだったので……。その間に、川幅にしてはやけに早めの流れな川があります。その時丁度僕はそこに落ちてきたようです。そのまま僕は無抵抗に流されていきました。
ゆったりと開けていくような景色は相変わらず目を刺すような緑。もう緑色は嫌いになってしまいそうでした。つんとした、機械燃料特有の嫌な匂いが鼻をつきます。しかもそれはかなり強い、頭が少しクラクラするほどでした。本当に、嫌で、辛くて、そして怖くて、ひたすらに流されるがままになっていました。陸の上では見たこともない緑色の鳥が緑色の火を吹いています。一体何で、どうしてそんなことをしているのか、理解の範疇の外でした。その炎を見た時は、流石に「僕の目が状態異常に掛かっているのかな…?」と思いました。全てが緑色の世界で自らの体の装備、肌の色だけが目の保養でした。
そうして無気力に流される時間がどれほど過ぎたでしょうか?気がつくと、段々大きな構造物が近づいてきているのが見えました。自慢じゃないんですが、僕は目だけ、目だけはいいんです。そこに見えたのは、確かに階段でした。他の階層から上がるのと同じような階段。もともと石造だったのかもしれませんが、例に漏れず原色の緑に染まっていました。頼みの綱です。上から落ちてきたのですから、階段を登って探して………を繰り返せばいずれ戻れるはずです。緑色で潰されていた僕の目に一縷の希望が映りました。そこからはただ無気力に流される時間ではありません。必死に泳ぎました。この緑色の気が触れそうな地獄から抜け出すために。本当に狂ってしまいそうでした。水よりもはるかに重い燃料の匂いのする液体を手でかいていきます。ばしゃり、ばしゃりと。ネトネトするその感触など気にしている場合ではありませんでした。
そうして辛々辿り着いた階段前。丁度そこに横たわる緑の丸太があったのでうまい具合に捕まって楽に上陸出来ました——自らの装甲の隙間から重たい緑色の液体がドロドロと滴っていきます。あの感触、気持ちいものではありませんでしたね……目の前には苔むした階段。ついに辿り着いたのだと、僕の胸がどれほど躍ったことでしょう!
そこになってやっと精神の余裕が出てきました。辺りの森を見回します……ろくに観察してこなかったものですから。森の奥は深緑色で陰っており、明らかに奥の空間があります。しかし、僕は全然そこを探索しようと思えませんでした。なんなら、階段を登る足の速度を上げるものでした……冒険者として頑張ると言っている僕がどうしてそんな行動を取ったか。簡単です。1m程もある爪痕が木々を薙ぎ倒していたのです。切り口からは木の体液、白色の樹液がダラダラとグロテスクに流れています。凶暴なその跡に立ち向かう装備も技能も勇気もありません……なのでその時は転がるような勢いで階段を登っていきました。登ってみれば、先ほどまでが嘘のような普通の色彩の第一階層。まるで狐に摘まれたかのようです。しかも、不思議に思い階段を見直してみても、絡まり合った古木達に固められた使用できない扉があるのみ。それ以来、僕はその階層の噂を聞きません。この体験を裏付けるのは、あの時の狂気と幾分か袋の中に残っている緑色の液体のみです。