晴れ渡り白く
#1
育った横髪に
[中央寄せ]駄目だよね、――くんは。[/中央寄せ]
[中央寄せ]ナイフなんて持っちゃ駄目だよ。[/中央寄せ]
[中央寄せ]ねぇ言われなかったの?[/中央寄せ]
[中央寄せ]あぁ、折角”男の子に生まれたのに。”[/中央寄せ]
「俺は好きで生まれてねーんだ」
[中央寄せ][太字]男の子なんだから、男の子に生まれたんだから。[/太字][/中央寄せ]
「俺はッ…」
[中央寄せ]駄目だよ、罪なき子を殺しちゃ。[/中央寄せ]
「ちが…お前らが可怪しいんだ…!!」
[中央寄せ]出来損ないにはもう髪なんて切ってあげないよ[/中央寄せ]
[中央寄せ]男の子のくせに長い髪、実は女の子?w[/中央寄せ]
「違う…俺は…だって…」
[中央寄せ]毎回だってだって。学ばないのかな、この子は。[/中央寄せ]
[中央寄せ][小文字]――くんって怖くない?[/小文字][/中央寄せ]
[中央寄せ][小文字]えー分かる分かる。無口なくせにさ[/小文字][/中央寄せ]
[中央寄せ][小文字]そーそー。それにさ、罪ない老若男女の人々殺してんだって。あと能力もまじやばいよ[/小文字][/中央寄せ]
[中央寄せ][小文字]やっばあいつ、殺されるの怖いし避けよ[/小文字][/中央寄せ]
[中央寄せ][小文字]んねー、そうしよ[/小文字][/中央寄せ]
全部聞こえてる。
もう俺は終わりだって確信した。
あれもこれも全部、あの無様な親のせいだ。
……もう、終わりにしたい。
グシャッッッ
[中央寄せ]―――!!!!!![/中央寄せ]
みっともない叫び声が聞こえる。
俺はとっさに耳を塞いだ。
聞きたくもなかった。
―――ああ、やっちゃった。
ついに、やっちゃった。
楽に、なれるかな。
楽に、死ねるかな。
………こんな世の中から逃げ出す俺のほうが、みっともないな。
このまま一人で、[漢字]その時[/漢字][ふりがな]死ぬ時[/ふりがな]が訪れるまで――。
「……えーと、”ラヴ”ってあんた?」
「…何、え…。」
「ラヴでしょ?結構騒がれてるよ、あんた」
「……俺はやることをやったまで。もう早く死にたい」
「…………ねー、友達なろう。」
「…え?なんで…[小文字]殺人鬼の前で…[/小文字]」
「なんか私好きなの!あんたの髪型」
「[小文字]髪型………[/小文字]ぅあ、へ、へぇ…」
「じゃあ、あんたが死ぬまで一緒にいる!」
「……いや、何だよそれ…。俺は一人で死にたいんだけど」
「えーでも、生きる理由くらい見つけたくない?」
…………生きる理由…ね、欲しかったなぁ…
「…………どーせ俺に生きる理由なんて神様はくれねぇよ。」
「…神様が本当にいると思ってるの?」
「…………」
「そんなのただの空想だよ。自分の中の神様が決めてくれるから。」
「……………自分の中…」
「ねぇ、仲良くしよ!私[太字][漢字]芽詩[/漢字][ふりがな]めし[/ふりがな][/太字]!」
――芽詩、そう名乗る少女は明るく活発な笑みを浮かべた。
「……知ってるだろうが、[太字]ラヴ[/太字]な。」
「よろしくね、ラヴ!」
「……ま、少ない関係になるだろうが。」
自殺を控えた俺の心の内なんか、もう開かないだろう。そう思った。
「見て!!!!見て見てラヴ!!!!!」
「るっせーな!!!寝起きだこちとら!!!」
……気づいたら隣にいる、そんな存在だった。
同い年なんかじゃねーのに、心は直ぐ側に有る気がして。
「クッキー焼いたの、一緒に食べよう」
「…………料理なんか作れるのかよ、お前」
「盗んできた」
「盗人かよお前!!!返してこい!!!」
「うぇ、私の目の前には殺人鬼がいるんだけどなぁ…??」
「ぁ〜……ははは…」
「しらばっくれるなー!!」
「ラヴ、どこ行くの」
「…どこでもいいだろ、保護者じゃねーんだお前は」
「………殺人?」
「罪人殺し。」
「……そう、ご飯作って待ってるね。」
「親じゃねーんだってお前は。……盗むなよ。」
「ちょっとラヴ!?どうしたの!?」
「………返り血。安心しろ」
「…………また殺人してきたんだ…。」
「いいだろ、別に…。」
「…………」
「お前だって親にろくな思い持ってないくせに。」
「…………[小文字]うん…[/小文字]」
「…………暇…」
「ナイフいっぱいあるね」
「…まぁ。」
ドン
ドン
ドン
ドアが勢い良くノックされる。
「………芽詩ッ」
どうせなら、友達を守ってやりたい。
俺が今、死ぬかも知れないとしても。
「何処だ…?」
「いない……?」
―カチッ
[太字][大文字]「芽詩ッ!!!!!!!」[/大文字][/太字]
…………あれ、俺………
[太字]撃たれた?[/太字]
「ラ、ヴ………?」
「………あ…あは……はぁ…。」
「ちょっと!?……え…?」
「やっ……と…………死ね……る…。」
「嬉しいよ…。」
「……………ふざけないでよ…ッ!!」
「…ありがとう、短い間だったけどな。」
「嫌だ…全然短くないし…!!」
………そう、気づいたら何年も何年も一緒だった。
本当は、数ヶ月で死ぬつもりだった。
体が拒否した。
――雨の日も風の日も、嵐が来たってお前はここに来た。
俺が来なくていいからとそっけなくする度に「あんたが心配だから」とどこから目線なのか…いや、それよりもお前にとって俺は大切だった。
気づかない間に、俺とお前は家族だった。
「…………」
「…死ぬって、どんなに辛いか理解できた?」
「いいや、そんな事もう思えねーよ。」
「………思ってよ…、私はあんたに死んでほしくない」
「………………」
「ぁ…ごめ…ん…芽詩」
「……何、急に…」
「俺はお前の望んだ友達じゃない…」
「こんな……みっともない死に方…。」
「………私を庇ったんだよ?それのどこがみっともないの!?」
「…………人を守って死んだら…人を殺したこと…の罪が消えるか?」
「………」
「俺は…もう許される…こと…なんてない。」
「俺の…人生と…一緒に、終結…するんだ。」
「………じゃあ最後に言わせてよ、ラヴ。」
「……な…に?」
「[太字][打消し] [/打消し]。[/太字]」
その大事なところで俺の意志は途絶えた―。
「あれ?ラヴ?」
「…………え?」
なんで俺…生きて…
「ちょッ透けてる!?」
「おぇ、どした?」
そこにはきょとんとしている…なんだっけ…[太字][漢字]汰異怪[/漢字][ふりがな]たいけ[/ふりがな][/太字]…だっけ。
「……汰異怪?」
「あぁ、覚えてたんだ!意外意外」
「………何ここ地獄?」
「ちょっとやめてよ、ここしっかりとした現実世界。」
「………いや、なわけねーだろ…俺はさっき死んで…」
「さっきっていうか…500年くらい前の話だと思うなぁ…?時間が狂ってたりするのかな」
「………ご、ごひゃく…年前…」
「…てかここ人間世界なんだよね。」
「………は?マジで?」
「初上陸おめでとうラヴ!!!!(((」
「………」
「……まぁ取り敢えず俺んとこ来なよ、匿ってあげる」
「…………お前そんな奴だっけ」
「人は変わるの!!分かる?」
「……そもそも俺は…」
「…いいから!行くよ!?」
「ちょ、えぇ………?」
―――ここからは、亡霊になった君の第二の人生のお話。
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