地上の遺構へ。
「やぁやぁ」
合わせ鏡のように均衡の取れたどこまでも続くような空間の行き止まり。そこに、ここは無限の路地では無いことを伝えるような一人の者が居た。目深に被った笠。大半が陰で隠された顔の中、見える口元のみがニヤリと上がっている。大きなケースの上に半掛けで座る彼はいかにも「商人」と言う出立ちであった。
「本当に奇遇だな、俺もここで一泊して行こうと思ってたんだが」
「本当ですね…と言うか商人さんは定家無いのですか…?いや、確かにどこにでもいると思っていましたが…」
楽しそうに商人は答える。
「そりゃそうだ。だって、決まった場所に居てばかりだったら廃れてしまう。それに…」
「それに?」
「何かあった時に個人を特定されて危ないだろ?」
職業柄か、悪いこともしてないのに恨まれることもあるもんだ。とあっけらかんとして付け足す。その言いようには、その事実に対して困っているところは見受けられない。
「では我々はこれで…」
そう言いヘルがフィーを連れその場を離れようとした時、言い忘れたことがあったように商人が呼び止める。
「あぁ、そういや今頼み事頼まれてくれるか?」
『なんでしょう?』
「この機械、何に使う物なのか特定して欲しいんだ」
そう言って、赤銅と黄銅で造られた物を取り出す。
「何なのか分からないものを売るわけにはいかないからな、是非とも調べて欲しいん」
『是非!』
やや食い気味に返事するフィー。その口調からは、何それ知りたいと言う欲から受けている事が容易に分かる。それを咎めるような…と言ってもモノアイだからそこまで威圧感はないが……視線で見つめてからヘルが問う。
「あなたがまさかそんな人だと思っているわけではないですが……危険物ということは………」
「何かが負傷するレベルの機構がない所までなら分かっているから安心しろ。流石にそんなことしてたら客も離れるさ」
一本のランタンでゆらりゆらりと照らされる、物語の中であれば抒情的と評価されそうな室内。オレンジ色の灯りに当てられてキラキラと輝く銅造りの細工。
『………』
それを、フィーは穴が開くように見つめて微動だにしなかった。目がないのに、確かに視線があるのだと感じさせるほど。
「本当にあなたは目がないですね……そういう物品に」
しみじみと、静かにヘルが呟く。ゆらりゆらりと揺れる尻尾然としたコードは橙の中で実物以上に大きく映されている。
(だって、ロマンがあるじゃないですか。ほら、これだって地上で誰かが何かのために作ったのです。今は亡き生活が、これを造った。そして遺された。そう考えると感慨深くないですか?)
その言い方の一つ一つに、物に対する愛情が溢れている。その言葉の一つ一つに、ヘルは目を背ける。果たして、フィーの言う「ロマン」「感慨」なるものが本当に人のそれと同じなのか。少し、疑問を感じる。
「そうですか……私には理解が少し難しいですが…」
(なぁに!ヘルちゃんにもきっと分かりますよ、いずれ。では早速…この子を調べていきましょうか!)
合わせ鏡のように均衡の取れたどこまでも続くような空間の行き止まり。そこに、ここは無限の路地では無いことを伝えるような一人の者が居た。目深に被った笠。大半が陰で隠された顔の中、見える口元のみがニヤリと上がっている。大きなケースの上に半掛けで座る彼はいかにも「商人」と言う出立ちであった。
「本当に奇遇だな、俺もここで一泊して行こうと思ってたんだが」
「本当ですね…と言うか商人さんは定家無いのですか…?いや、確かにどこにでもいると思っていましたが…」
楽しそうに商人は答える。
「そりゃそうだ。だって、決まった場所に居てばかりだったら廃れてしまう。それに…」
「それに?」
「何かあった時に個人を特定されて危ないだろ?」
職業柄か、悪いこともしてないのに恨まれることもあるもんだ。とあっけらかんとして付け足す。その言いようには、その事実に対して困っているところは見受けられない。
「では我々はこれで…」
そう言いヘルがフィーを連れその場を離れようとした時、言い忘れたことがあったように商人が呼び止める。
「あぁ、そういや今頼み事頼まれてくれるか?」
『なんでしょう?』
「この機械、何に使う物なのか特定して欲しいんだ」
そう言って、赤銅と黄銅で造られた物を取り出す。
「何なのか分からないものを売るわけにはいかないからな、是非とも調べて欲しいん」
『是非!』
やや食い気味に返事するフィー。その口調からは、何それ知りたいと言う欲から受けている事が容易に分かる。それを咎めるような…と言ってもモノアイだからそこまで威圧感はないが……視線で見つめてからヘルが問う。
「あなたがまさかそんな人だと思っているわけではないですが……危険物ということは………」
「何かが負傷するレベルの機構がない所までなら分かっているから安心しろ。流石にそんなことしてたら客も離れるさ」
一本のランタンでゆらりゆらりと照らされる、物語の中であれば抒情的と評価されそうな室内。オレンジ色の灯りに当てられてキラキラと輝く銅造りの細工。
『………』
それを、フィーは穴が開くように見つめて微動だにしなかった。目がないのに、確かに視線があるのだと感じさせるほど。
「本当にあなたは目がないですね……そういう物品に」
しみじみと、静かにヘルが呟く。ゆらりゆらりと揺れる尻尾然としたコードは橙の中で実物以上に大きく映されている。
(だって、ロマンがあるじゃないですか。ほら、これだって地上で誰かが何かのために作ったのです。今は亡き生活が、これを造った。そして遺された。そう考えると感慨深くないですか?)
その言い方の一つ一つに、物に対する愛情が溢れている。その言葉の一つ一つに、ヘルは目を背ける。果たして、フィーの言う「ロマン」「感慨」なるものが本当に人のそれと同じなのか。少し、疑問を感じる。
「そうですか……私には理解が少し難しいですが…」
(なぁに!ヘルちゃんにもきっと分かりますよ、いずれ。では早速…この子を調べていきましょうか!)