地上の遺構へ。
#1
地下の市場にて 1/2
青い空、白い雲。空には我こそ唯一無二であると誇示する太陽が煌々と輝いている………なんてことはなく、人の丈の二倍ほどの高さにある岩盤がそんな空を覆い隠していた。白い雲の代わりに、辺りの岩で造られた露店から漂う湯気や煙が低く漂っている。所々に空いている換気用の穴に向かって、寄り道をしながら登る姿はまるで怠惰な人間のようである。太陽の代わりの電気ランタンの下を、有象無象が闊歩している。その中に一際目立つ…異彩を放つ組が一つ。
(ねぇヘル、ヘル。ほら、あそこの遺物屋のあの遺物。良さそうじゃないですか?あった方が良さそうじゃないですか?)
(ヘル!ヘル!ほら、このゼンマイ仕掛けの機会を見てください!買いましょう!)
「静かにっ!そして無駄遣いしないで下さい!それだってそれだって、あなた前も同じの買ったじゃないですか!」
頭の代わりに天球儀の輪のようなものが乗っかっている、謂わば「異形頭」と呼ばれる如何にも旅をしていそうな人物(又は物。仮に彼とする)。彼は露店で「旧世界の遺物」とされる物を見てははしゃいでいた。何か精巧な機械…のような錆びついた歯車の塊を見ては歓喜し、銅製の金属細工を見てはその美しさに無い目を奪われる。そして収集しようとする。その良くも悪くもなめざとさと収集欲に、又同じく遺物である「ヘルちゃん」は[漢字]辟易[/漢字][ふりがな]へきえき[/ふりがな]としていた。
(なんだって、そんなに言わなくても……)
「私達はこの後また地上で遺物を探すでしょうが!フィー、今日何ロック使ったと思っているんですか?」
(11030)
「即答出来るなら分かるでしょう、ほら。早く宿へと帰りますよ」
球体の上に表示された大きな一つ目のライトが、銅板の瞼によってじとりとしたものに変わる。球体の両側面に浮くフィーの頭のそれと同じリングは如何にも不機嫌そうにくるりくるりと回る。
「ほら、さっさと行きますよ」
賑わう市には夜はない。星も無ければ暗いという概念もないのだから。そんな永続の道を、終わりのある人とは違う彼らはするりするりと抜けてゆく。雑踏の中、目を誘う細工の中。目を遣らないように、これ以上浪費しないよう、ナビとしてヘルはフィーの旅装束、茶色のローブを引っ張る。尻尾のように出たコードで。砂埃のような匂いがする中、彼らは暗転した宿泊街へと真っ直ぐに向かっていった。
「いらっしゃいませ、宿泊のお客様ですね?」
市とはうって変わって、ほのかな灯りが暖かく照らされる静かな郊外。
「はい。どこの部屋が空いてますか。」
あくまでも業務的に交わされる宿泊の申し出は、その街の中であるからこそか無いはずの温かみを醸し出している。これが都市内であったらば冷たく感じられたろうに。
(人の密集していない地帯の会話であるってだけで補正が掛かりませんか?人の温かみ)
「失礼なこと言わないでください、実際その状況の目の前だっていうのに…」
唐突なフィーの「補正」話に思わずヘルは小声で突っ込む。
「どうかされましたか?お客様」
「あ、いえいえ、何も無いですよ…あーそれで…えーっと、空いている部屋ってありますか?」
一瞬、逸れかけた…少し危うくなった話の流れを戻す。
「あぁ、そうでしたね。空いている部屋でしたら…一人部屋がいくつかです。」
「あぁ、ならそれでお願いします」
簡易的な客と店員の会話が終わり、フィーの手元に105と刻印された鍵が手渡される。
(ヘル、いいんです?私達二人な気がしますが)
(片方はヘルパーじゃ無いですか。気にしないでいいですよ)
鍵も手に入れ、宿代も手に入れた二人は宿の廊下を進んでいく。傍には照らされて重たい雰囲気を漂わせる宿泊部屋の戸が並んでいる。それが突き当たり、向こうまで進むその景色は合わせ鏡の内部に入ってしまったように感じるほど変わらない。それこそ、突き当たりに目印になるものでも無ければ。その合わせ鏡のような廊下の突き当たり。そこには繰り返しの空間においてはあり得ない唯一の異物が居た。
「やぁやぁお二方。まさかここで会うとはね」
(ねぇヘル、ヘル。ほら、あそこの遺物屋のあの遺物。良さそうじゃないですか?あった方が良さそうじゃないですか?)
(ヘル!ヘル!ほら、このゼンマイ仕掛けの機会を見てください!買いましょう!)
「静かにっ!そして無駄遣いしないで下さい!それだってそれだって、あなた前も同じの買ったじゃないですか!」
頭の代わりに天球儀の輪のようなものが乗っかっている、謂わば「異形頭」と呼ばれる如何にも旅をしていそうな人物(又は物。仮に彼とする)。彼は露店で「旧世界の遺物」とされる物を見てははしゃいでいた。何か精巧な機械…のような錆びついた歯車の塊を見ては歓喜し、銅製の金属細工を見てはその美しさに無い目を奪われる。そして収集しようとする。その良くも悪くもなめざとさと収集欲に、又同じく遺物である「ヘルちゃん」は[漢字]辟易[/漢字][ふりがな]へきえき[/ふりがな]としていた。
(なんだって、そんなに言わなくても……)
「私達はこの後また地上で遺物を探すでしょうが!フィー、今日何ロック使ったと思っているんですか?」
(11030)
「即答出来るなら分かるでしょう、ほら。早く宿へと帰りますよ」
球体の上に表示された大きな一つ目のライトが、銅板の瞼によってじとりとしたものに変わる。球体の両側面に浮くフィーの頭のそれと同じリングは如何にも不機嫌そうにくるりくるりと回る。
「ほら、さっさと行きますよ」
賑わう市には夜はない。星も無ければ暗いという概念もないのだから。そんな永続の道を、終わりのある人とは違う彼らはするりするりと抜けてゆく。雑踏の中、目を誘う細工の中。目を遣らないように、これ以上浪費しないよう、ナビとしてヘルはフィーの旅装束、茶色のローブを引っ張る。尻尾のように出たコードで。砂埃のような匂いがする中、彼らは暗転した宿泊街へと真っ直ぐに向かっていった。
「いらっしゃいませ、宿泊のお客様ですね?」
市とはうって変わって、ほのかな灯りが暖かく照らされる静かな郊外。
「はい。どこの部屋が空いてますか。」
あくまでも業務的に交わされる宿泊の申し出は、その街の中であるからこそか無いはずの温かみを醸し出している。これが都市内であったらば冷たく感じられたろうに。
(人の密集していない地帯の会話であるってだけで補正が掛かりませんか?人の温かみ)
「失礼なこと言わないでください、実際その状況の目の前だっていうのに…」
唐突なフィーの「補正」話に思わずヘルは小声で突っ込む。
「どうかされましたか?お客様」
「あ、いえいえ、何も無いですよ…あーそれで…えーっと、空いている部屋ってありますか?」
一瞬、逸れかけた…少し危うくなった話の流れを戻す。
「あぁ、そうでしたね。空いている部屋でしたら…一人部屋がいくつかです。」
「あぁ、ならそれでお願いします」
簡易的な客と店員の会話が終わり、フィーの手元に105と刻印された鍵が手渡される。
(ヘル、いいんです?私達二人な気がしますが)
(片方はヘルパーじゃ無いですか。気にしないでいいですよ)
鍵も手に入れ、宿代も手に入れた二人は宿の廊下を進んでいく。傍には照らされて重たい雰囲気を漂わせる宿泊部屋の戸が並んでいる。それが突き当たり、向こうまで進むその景色は合わせ鏡の内部に入ってしまったように感じるほど変わらない。それこそ、突き当たりに目印になるものでも無ければ。その合わせ鏡のような廊下の突き当たり。そこには繰り返しの空間においてはあり得ない唯一の異物が居た。
「やぁやぁお二方。まさかここで会うとはね」
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