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柚夏の読切小説集

#1

出会いと別れ

[太字]去年[/太字]
私は市のボランティアで、イベントの司会を務めた。
その時、指導をしてくれた人がいた。
「原稿ばっか見ていないで、まっすぐ、前を見る。人が沢山いて緊張したらほら、あそこ。黒い所を見るといいよ。」
「大丈夫。上手いから自信持って!」
など言ってくれた。
私は、その優しさで涙が溢れ出してきた。[小文字](すごく涙もろいです。)[/小文字]
泣いているのに気づいたその人は、「ごめんね。強く言っちゃって。」と何回も謝ってきた。
あの人が悪いわけじゃないし。
私が悪いんだ。
しかも強く言ってないし。
私は謝りたかった。
だけど言葉が出なかった。

来年もまた、このボランティアに参加しようと思った。
──あの人にお礼を言うために。


[太字]今年[/太字]
あの人いるかな。
そうワクワクしながら集合場所に言った。
だが、その人の姿はなかった。
今回、指導してくれる人は優しそうな人だった。
「上手い!」
「最初の練習よりも上手くなった!」
そう、拍手をしながら言う。
私は少し嬉しかった。

今回の司会は本気を出す。
そう決めたのだ。
──あの人はこの場所にはいないけれど、あの人がいる場所まで届くように。

[明朝体]本番[/明朝体]
私はものすごく緊張した。
照明の光を浴びてきらきらと光る制服のスカート。
そのスカートの上に両手を添える。
指導してくれた人から、「いいよ。」という指示が来た。

明るく。「ようこそ」は語尾を上げる。
ディズニーの人みたいに言う。
思っている以上ゆっくり。
あの人(去年指導してくれた人)に教えてもらった所を見る。
色々思い出す。
「○○へようこそ!」
「司会を務める○○と、〇〇と、[漢字]貴志[/漢字][ふりがな]きし[/ふりがな]です。よろしくお願いします!」
私の番が終わる。
後ろに移動する。
指導してくれた人は「上手かったよ。」と、褒めてくれた。
「ありがとうございます。」


来年は、もう出来ない。
だけどそのイベントには行こうと思う。
──あの人に会いに行くため。


[明朝体]帰り[/明朝体]
太陽に照らされ、制服のスカートはより一層きらきらと光っていた。

出会いがあれば必ず別れがある。
だけど、もう会えないと落ち込んではいけないんだ。
いつか、再会するかもしれないから。

──きっと。いつか。

このボタンは廃止予定です

作者メッセージ

出会いがあれば必ず別れがある。
だけどその悲しみを引きずったままではいけない。
その悲しみをしまっておき、ダイヤル式の鍵をかけとく。

貴志柚夏の貴志は名字です。(本当の名字は違うけどね?)
読み方は「きし」だよ

2024/12/01 08:18

貴志柚夏 ID:≫99Fmr9WYuqwdc
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