二次創作
歪みきったモノガタリ
#1
救われない恋
【鬱視点】
「もー、ぞむつよ〜!」
僕の大好きな声が聞こえる。
でも、その声がかけられているのも声の主が向けている意識も僕ではない。
「シャオローン! ちょっと雑魚すぎひん?」
雨の日の昼休み。
外に出るのが大好きなシャオロンが教室の中にいるのは、あいにくの雨だからだ。
ババ抜きでもしていたのだろう。
ゾムとシャオロンの使う机にはトランプのカードが投げられてある。
シャオロンの宝石以上に美しい琥珀の目が細められる。
栗色のやわらかく、肩ほどまである長い髪がそれにあわせて揺れる。
容姿端麗、文武両道、才色兼備…。
この世のすべての褒め言葉は彼のためだけに生まれてきたのかとさえ思う。
シャオロンは本当に完璧すぎる人なのに、意図してつくったポンコツという抜け目。
そのカリスマ性に、誰もが気づけばシャオロンのそばにいたがるのだ。
仲良く話す二人の声に心のなかで密かに嫉妬する。
ゾムとシャオロンは「相棒」と呼び合ってるくらい仲がよくて、クラス…いや学校の中でもすごく有名な人気者コンビだった。
なぜ、シャオロンの隣りにいるのは僕じゃない?
まだ僕らがちっちゃいころ、あんなに遊んでたのに。
幼馴染として、小学校のころから親友だったのに。
僕の幸せが崩れ落ちたのは、忘れもしない、中学生の時だった。
あの憎き思い出が鮮明すぎるほどに蘇ってくる。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋
「ね、大先生。転校生くるんやって!」
中2の二学期の二日目。
シャオちゃんがそう耳打ちしてきた。
どこからか聞きつけてきたのだろう、噂。
「へぇ、そうなん? 女の子ならええなぁ、可愛い子」
「うっわ、安定のクズや」
シャオちゃんが呆れたように笑う。
違う。そうじゃない。
本当に好きなのは、君なんだよ、シャオちゃん。
女の子なら、僕の手の範疇。
シャオちゃんがその子を好きになっても僕がとればいいし、その子がシャオちゃんを好きになったら僕がその子をおとせばいい。
全部全部、シャオちゃんのそばにいるため。
男なら、どうしてやろうか。
シャオちゃんにすり寄ろうものなら、消したげるよ。
「? どうしたん、大先生。ぼーっとして」
「ん、ごめん。考え事してたわ」
シャオちゃんの視界に入れてることが嬉しくてたまらない。
意識を奪えてること、それだけで幸せ。
だいぶ狂ってるなあ。
なんて他人事のように思う。
「そ? あ、やべ。じゃ」
予鈴が響いて、シャオちゃんは慌てたように戻っていく。
席が近くじゃないのが悔しい。
「おはよう、全員来てるな。よかった、今日は転校生がくるんだ」
「うわ、やっぱそうやったんや!」
「お? どこからその情報は手に入れたんだ? まさか盗み聞きか?ww」
「いや、これはちゃうんすよ!! その、事故っていうか!」
シャオちゃんと先生のやりとりにみんなが笑う。
シャオちゃんは中学校でも人気者で、他学年にも名が知られていて、顔が広すぎる子だった。
「んじゃ、さっそく紹介するぞ」
先生が教室のドアを開ける。
そこから入ってきたのは、ゲームのキャラクターパーカーを制服に重ねてきているのが印象的な男子だった。
翡翠色の澄んだ双眼に、低めの位置でゆるく結ばれたカフェオレのような髪色。
シャオロンをもう一人見ているような気がした。
完璧な容姿。隠された聡明さ。抜け目をわざとつくる、どうしようもないあざとさ。
シャオロンの近くにいたからこそ、見抜けること。
鳥肌が立つ。
「こんちはー! 鳥居 希っていいます〜。ゾムって呼んでくれや! これからよろしくな」
「ということで、今日から仲良くしてやってくれ。席は、一番うしろの端っこだ。シャオロンが隣だから、いろいろ教えてやってくれ」
「りょーかいです! ゾム、よろしくな!」
シャオロンのコミュ力に、いつまで経っても勝てる気がせん。
初対面で呼び捨ては無理や…。
「おう、よろしく」
「じゃあ、これで朝のホームルームは終わりだ。授業に遅れないように」
先生が退出し、一気に教室が騒がしくなった。
みんなゾムの周りに集まっている。
「ゾムくん! はじめまして、あの、私──」
「ゾム、そのパーカー、マイ◯ラのやつだよな? 今度──」
次々とかけられる質問に、ゾムは笑顔のまま答えたり話したり…。
やっぱりそうだ。こいつもコミュ力強強マンや…。
「シャオロンっていうねんな?」
ゾムが初めて自分から話しかけた相手はシャオロン。
「ん、そう! 成績優秀で有名な人気者で〜す!」
「ちゃうやろ、お前は不人気や」
シッマことコネシマが意地悪く言う。
「は!?!?! ちゃうし!!」
ああ、あっという間に陽キャの空間ができた。
シャオロン、シッマ、そしてゾムの陽キャたちの輪には本当の意味では一生入れやしないだろう。
もう仲良さそうなゾムとシャオロンに吐き気がする。
だって、ゾムに僕は勝てない。
敵う気がしない。だって、自分とゾムを比べたら…やめよう、こんな考え方。
僕は無能という名の陽キャを演じ続けるのだ。
すべては、彼のため。
ああ、でも。
もう、彼の隣に立てる気がしない。
ゾムがいる限り。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋
そのあと、シャオロンとゾムは当然のように仲良くなった。
そのまま付属の高校に僕らは進んだけど、成績優秀な彼らは有名高校からずっと勧誘を受けているらしい。
中学生の頃は僕に「進路としては最強なんやけど…。ひとりはさすがにさびしいよな」とらしくない笑い方をしていた。
なのに、最近は「どうする? 一緒に行く?」とふたりで笑い合ってるのを聞いた。
すべての血がなくなったようにさえ感じる。一気に体温が下がっていく感覚。
中学生のあの日を境に、前みたいにシャオロン一緒にいるのは僕じゃない。
ああ、羨ましい。
ああ、憎たらしい。
これほどまでに僕を狂わせたのは、シャオロンなのになあ……っ。
笑っちゃうほど満たされない、君からの愛への飢え。
ああ、どうしようもなく。
愛してる
「もー、ぞむつよ〜!」
僕の大好きな声が聞こえる。
でも、その声がかけられているのも声の主が向けている意識も僕ではない。
「シャオローン! ちょっと雑魚すぎひん?」
雨の日の昼休み。
外に出るのが大好きなシャオロンが教室の中にいるのは、あいにくの雨だからだ。
ババ抜きでもしていたのだろう。
ゾムとシャオロンの使う机にはトランプのカードが投げられてある。
シャオロンの宝石以上に美しい琥珀の目が細められる。
栗色のやわらかく、肩ほどまである長い髪がそれにあわせて揺れる。
容姿端麗、文武両道、才色兼備…。
この世のすべての褒め言葉は彼のためだけに生まれてきたのかとさえ思う。
シャオロンは本当に完璧すぎる人なのに、意図してつくったポンコツという抜け目。
そのカリスマ性に、誰もが気づけばシャオロンのそばにいたがるのだ。
仲良く話す二人の声に心のなかで密かに嫉妬する。
ゾムとシャオロンは「相棒」と呼び合ってるくらい仲がよくて、クラス…いや学校の中でもすごく有名な人気者コンビだった。
なぜ、シャオロンの隣りにいるのは僕じゃない?
まだ僕らがちっちゃいころ、あんなに遊んでたのに。
幼馴染として、小学校のころから親友だったのに。
僕の幸せが崩れ落ちたのは、忘れもしない、中学生の時だった。
あの憎き思い出が鮮明すぎるほどに蘇ってくる。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋
「ね、大先生。転校生くるんやって!」
中2の二学期の二日目。
シャオちゃんがそう耳打ちしてきた。
どこからか聞きつけてきたのだろう、噂。
「へぇ、そうなん? 女の子ならええなぁ、可愛い子」
「うっわ、安定のクズや」
シャオちゃんが呆れたように笑う。
違う。そうじゃない。
本当に好きなのは、君なんだよ、シャオちゃん。
女の子なら、僕の手の範疇。
シャオちゃんがその子を好きになっても僕がとればいいし、その子がシャオちゃんを好きになったら僕がその子をおとせばいい。
全部全部、シャオちゃんのそばにいるため。
男なら、どうしてやろうか。
シャオちゃんにすり寄ろうものなら、消したげるよ。
「? どうしたん、大先生。ぼーっとして」
「ん、ごめん。考え事してたわ」
シャオちゃんの視界に入れてることが嬉しくてたまらない。
意識を奪えてること、それだけで幸せ。
だいぶ狂ってるなあ。
なんて他人事のように思う。
「そ? あ、やべ。じゃ」
予鈴が響いて、シャオちゃんは慌てたように戻っていく。
席が近くじゃないのが悔しい。
「おはよう、全員来てるな。よかった、今日は転校生がくるんだ」
「うわ、やっぱそうやったんや!」
「お? どこからその情報は手に入れたんだ? まさか盗み聞きか?ww」
「いや、これはちゃうんすよ!! その、事故っていうか!」
シャオちゃんと先生のやりとりにみんなが笑う。
シャオちゃんは中学校でも人気者で、他学年にも名が知られていて、顔が広すぎる子だった。
「んじゃ、さっそく紹介するぞ」
先生が教室のドアを開ける。
そこから入ってきたのは、ゲームのキャラクターパーカーを制服に重ねてきているのが印象的な男子だった。
翡翠色の澄んだ双眼に、低めの位置でゆるく結ばれたカフェオレのような髪色。
シャオロンをもう一人見ているような気がした。
完璧な容姿。隠された聡明さ。抜け目をわざとつくる、どうしようもないあざとさ。
シャオロンの近くにいたからこそ、見抜けること。
鳥肌が立つ。
「こんちはー! 鳥居 希っていいます〜。ゾムって呼んでくれや! これからよろしくな」
「ということで、今日から仲良くしてやってくれ。席は、一番うしろの端っこだ。シャオロンが隣だから、いろいろ教えてやってくれ」
「りょーかいです! ゾム、よろしくな!」
シャオロンのコミュ力に、いつまで経っても勝てる気がせん。
初対面で呼び捨ては無理や…。
「おう、よろしく」
「じゃあ、これで朝のホームルームは終わりだ。授業に遅れないように」
先生が退出し、一気に教室が騒がしくなった。
みんなゾムの周りに集まっている。
「ゾムくん! はじめまして、あの、私──」
「ゾム、そのパーカー、マイ◯ラのやつだよな? 今度──」
次々とかけられる質問に、ゾムは笑顔のまま答えたり話したり…。
やっぱりそうだ。こいつもコミュ力強強マンや…。
「シャオロンっていうねんな?」
ゾムが初めて自分から話しかけた相手はシャオロン。
「ん、そう! 成績優秀で有名な人気者で〜す!」
「ちゃうやろ、お前は不人気や」
シッマことコネシマが意地悪く言う。
「は!?!?! ちゃうし!!」
ああ、あっという間に陽キャの空間ができた。
シャオロン、シッマ、そしてゾムの陽キャたちの輪には本当の意味では一生入れやしないだろう。
もう仲良さそうなゾムとシャオロンに吐き気がする。
だって、ゾムに僕は勝てない。
敵う気がしない。だって、自分とゾムを比べたら…やめよう、こんな考え方。
僕は無能という名の陽キャを演じ続けるのだ。
すべては、彼のため。
ああ、でも。
もう、彼の隣に立てる気がしない。
ゾムがいる限り。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━╋
そのあと、シャオロンとゾムは当然のように仲良くなった。
そのまま付属の高校に僕らは進んだけど、成績優秀な彼らは有名高校からずっと勧誘を受けているらしい。
中学生の頃は僕に「進路としては最強なんやけど…。ひとりはさすがにさびしいよな」とらしくない笑い方をしていた。
なのに、最近は「どうする? 一緒に行く?」とふたりで笑い合ってるのを聞いた。
すべての血がなくなったようにさえ感じる。一気に体温が下がっていく感覚。
中学生のあの日を境に、前みたいにシャオロン一緒にいるのは僕じゃない。
ああ、羨ましい。
ああ、憎たらしい。
これほどまでに僕を狂わせたのは、シャオロンなのになあ……っ。
笑っちゃうほど満たされない、君からの愛への飢え。
ああ、どうしようもなく。
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