景♂晴 魔力過剰ネタ(夜這いネタ後日談)
『な、何が起こったのでしょうか……』
「…………」
通信から聞こえる心底不思議そうなマシュの言葉に、マスターである立香はなんと返すべきか分からなかった。
「……とりあえず……戻ろっか」
永倉さん、お願いしていい? 何かを悟ってしまったかのような表情で絶句している永倉新八に声をかけながら、立香は少し離れたところでうつ伏せに倒れている武田晴信と傍らで棒立ちになって晴信を見下ろしている長尾景虎に目を向けた。
**
事の発端はレイシフト先で想定外のエネミーの大規模な群れに遭遇したことだった。元々の目的である巨大エネミーを撃破した後だったこともあり、多少消耗があったものの戦力としては何も問題は無かった。
……はずなのだが、召喚されてからまだ日が浅く強化が十分でない晴信が運悪く相性の悪いエネミーに横から突き飛ばされてしまった。
「大将!!」
「俺のことは気にすんな! 新八は目の前の敵を倒すことと、マスターを守ることだけ考えてろ!!」
視界の端でその様子を捉えた永倉が思わず晴信が飛ばされた方に振り返って吠えるが、晴信はそう怒鳴ると体勢を立てなおして服の汚れを払った。
「くそっ! 量が多くてまどろっこしい!! おい! 新八と景虎はマスター連れて離れたところに退避しろ!」
「……宝具か! 了解だ!!」
「え~、私が宝具解放すればよくないですか? 晴信と違ってピンピンしてますし」
「ちょうど俺の近くに敵が固まってるからその方が都合がいいんだよ! お前は先駆けだ!!」
「……はーい」
行くぞマスター、と永倉に声をかけられた立香はエネミーが大立ち回りをしている晴信に気を取られている隙をついて、景虎と永倉と共に『風林火山』の射程範囲外まで逃れるために走り出した。
「……よし」
3人の後ろ姿を横目で確認した晴信は宝具解放の為、魔力の放出量を上げた。しかしその瞬間、晴信のエーテルで編まれた心の臓がドクリ……と嫌な跳ね方をした。
「う゛ぐ……!?」
晴信は思わず息をつめて胸の辺りのスーツをぐしゃりと握り、背中を丸めながら片膝をついた。晴信が引き付けていたエネミーたちは絶好のチャンスを逃すまいと、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「……晴信!?」
「嘘……!? も、戻らないと晴信さんが!!」
先頭を走っていた景虎が晴信の魔力の乱れを感じて振り返ったのと同時に立香も異変に気付き、思わず晴信の方に戻ろうとした。
「駄目だマスター!! どう考えても間に合わねぇ!!」
「けど……!!」
永倉の制止に思わず立香が足を止めた瞬間、晴信を取り囲んだエネミーがほぼ同時に光線を放った。
「「「……!!!!」」」
3人が同時に言葉を無くして立ち尽くした。終わった、と三人が絶望したのもつかの間、その光線はすぐに消え、周囲にいたエネミーが瞬きの間に真っ二つに切り裂かれていた。
「晴信さん!! 無事だったん……えっ?」
「な、何が起きてやがる……」
3人が見つめる先にはいつものようにまっすぐに敵を見据える晴信の姿があった。しかし、その姿には多くの違和感があった。
いつもなら日月の軍配を携えているはずの右手には洋装の時は使用しない大太刀が握られており、首筋が隠れるほどの長さしかないはずの白銀の襟足が肩甲骨を覆う程にまで伸びて毛先から中間にかけて漆黒に変化していた。
**
――ザシュッ、ズバ……!! ドス!! ガッ!!
「お、おお……」
「すげぇ、けど、ありゃ」
「まだ早い。まだそうだと決まった訳じゃない」
「けどよぉ……」
先程までの緊迫感はどこへやら、立香と永倉は眼前で繰り広げられている戦闘……いや、最早一方的な蹂躙と言っても過言では無い光景をただ傍観していた。
晴信に現れた変化や髪型や使用する武器だけでは無かった。第一再臨の洋装では主に重さのある拳を繰り出す肉弾戦か、車に変化した黒雲を駆ってフィールドを駆け回る戦闘スタイルを取っている晴信が、大太刀を片手に風のごとく軽やかに次から次へとエネミーを一刀両断しながら縦横無尽に飛び回っていた。立香と永倉にはこの戦闘スタイルに見覚えがあった。……今まさに行動を共にしているもう一騎のサーヴァント、長尾景虎である。
「……マスター、気付いちまったんだが」
「な、何に」
「……あれ、『不知火』じゃねぇか……?」
「あっ。……いや! まだ早い! あれ元々武田家の家宝だから晴信さんが持ってても何もおかしくない!!」
一見、無関係な会話をしているように思える二人だが本人たちは至って真剣である。というのも、立香と永倉の間で明言していないだけである一つの、できればそうであって欲しくない仮説が立ってしまったのだ。
” 武田晴信の今の姿は長尾景虎から『魔力供給』された結果ではないか ”、と……。
「いや、仮にそうだとしてもあの格好にはどう説明つけるつもりなんだ」
「それは……」
立香が言葉に詰まった瞬間、ドドド……と地面の振動が段々大きくなってきていることに気付いた。二人が思わず顔を上げると、何とか晴信の猛攻から逃れた数体のエネミーがこちらに向かって突進してこようとしているではないか。それでもまだ十分に距離が空いていたので、永倉は鯉口を切ってすぐにでも抜刀できる体勢を取り、立香もガンドを打てるように身構えた。
――ガガガガガガガガ!!
しかし、エネミーたちはすぐに上から降ってきた8本の太刀や槍に四方を囲まれ、その進路を阻まれた。足止めを食らって立ち往生したエネミーをひらり、と飛び越えて晴信が姿を現したかと思えば、目にもとまらぬ速さで武具を持ち換えてはエネミーを切り刻んでいった。
晴信が最後に残った槍から放たれる白い閃光によってエネミーにとどめをさした瞬間、立香と永倉の仮説が正しかったことが証明されてしまった。
「……マスター、あれはどう考えたってあれだろ」
「……『八華繚乱』だね……ってことは……」
「いやまぁ、あの時代は衆道は当たり前だったし……そういうことも……」
「……それでも逆だと思うじゃん!?」
「嘘だろ大将……」
立香と永倉は同時に頭を抱えて溜息をついた。
**
「安心しろ。神性魔力による自我の浸食は一時的なもので、霊基そのものは無事だ。体内に残っている ”余計” な魔力が全て消費されれば元に戻る。念のため元の姿に戻るまでシュミレーターでも模擬含めたすべての戦闘行為と魔術行為は禁止とする」
自我が戻っったらこの男に睦事も程々に、と忠告しろ。とアスクレピオスは表情を一切変えずに診断内容をレイシフトから帰還した立香一行に告げた。
「……よかったね。晴信さん、ちゃんと元に戻るって」
「……そうか」
白鼠と萌黄が斑に混じり合う瞳で虚空を見つめて医務室の丸椅子に座っている無表情の晴信に目を向けながら、立香と永倉は短く言葉を交わした。
「そういえば景虎さんは?」
「あれ、そういえばどこ行ったんだ? ……てか、あっちも大丈夫か? 大将がああなってからすっかり黙り込んでにこりともしなくなっちまったじゃねぇか」
「うーん……あとで声かけてみる。一先ず晴信さんを部屋に連れて行かなきゃ」
「なら俺が……。ほら大将、行くぞ。立てるか?」
永倉が晴信の腕を取り、そのまま彼の自室へと向かった姿を見送ってから立香も医務室から退出した。
**
「……うおっ」
自室に戻ってしばらくしてから自我が戻り、シャワールームで汗を流した晴信が電子端末に立香が残したメッセージ通りに鏡で姿を確認すると、そのあまりの変わりように驚愕の声を上げてフリーズした。いつもハーフアップにして上に結い上げている部分に変化は無いが下ろしている下半分がやたらと長くなっているし、途中から夜のような漆黒に染まっていた。
立香からの伝言が無くても、晴信がこの状態になった原因をよく知っていた。
というのも、およそ半月前に景虎の寝込みを襲って、結果的に返り討ちに遭って一晩中抱かれ続けた際に大量に注がれた景虎の魔力をわざと体内に蓄えたままにしていたからだ。軽い出来心で行った行為がまさかここまで自分の霊基に対して影響を及ぼすとは思っていなかった晴信は、少しだけ立香と永倉に申し訳なさを感じていた。
「…………」
手に取った襟足の毛束を見つめていた晴信は景虎との濃厚な夜を思い出し、思わずそれに口づけた。
「……晴信にしては可愛いげのあることをするじゃないですか」
聞こえるはずの無い声がして晴信が勢いよく振り返ると、彼の背後にいつの間にか部屋に入ってきていた景虎が少し真面目な表情をして佇んでいた。
「…………」
通信から聞こえる心底不思議そうなマシュの言葉に、マスターである立香はなんと返すべきか分からなかった。
「……とりあえず……戻ろっか」
永倉さん、お願いしていい? 何かを悟ってしまったかのような表情で絶句している永倉新八に声をかけながら、立香は少し離れたところでうつ伏せに倒れている武田晴信と傍らで棒立ちになって晴信を見下ろしている長尾景虎に目を向けた。
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事の発端はレイシフト先で想定外のエネミーの大規模な群れに遭遇したことだった。元々の目的である巨大エネミーを撃破した後だったこともあり、多少消耗があったものの戦力としては何も問題は無かった。
……はずなのだが、召喚されてからまだ日が浅く強化が十分でない晴信が運悪く相性の悪いエネミーに横から突き飛ばされてしまった。
「大将!!」
「俺のことは気にすんな! 新八は目の前の敵を倒すことと、マスターを守ることだけ考えてろ!!」
視界の端でその様子を捉えた永倉が思わず晴信が飛ばされた方に振り返って吠えるが、晴信はそう怒鳴ると体勢を立てなおして服の汚れを払った。
「くそっ! 量が多くてまどろっこしい!! おい! 新八と景虎はマスター連れて離れたところに退避しろ!」
「……宝具か! 了解だ!!」
「え~、私が宝具解放すればよくないですか? 晴信と違ってピンピンしてますし」
「ちょうど俺の近くに敵が固まってるからその方が都合がいいんだよ! お前は先駆けだ!!」
「……はーい」
行くぞマスター、と永倉に声をかけられた立香はエネミーが大立ち回りをしている晴信に気を取られている隙をついて、景虎と永倉と共に『風林火山』の射程範囲外まで逃れるために走り出した。
「……よし」
3人の後ろ姿を横目で確認した晴信は宝具解放の為、魔力の放出量を上げた。しかしその瞬間、晴信のエーテルで編まれた心の臓がドクリ……と嫌な跳ね方をした。
「う゛ぐ……!?」
晴信は思わず息をつめて胸の辺りのスーツをぐしゃりと握り、背中を丸めながら片膝をついた。晴信が引き付けていたエネミーたちは絶好のチャンスを逃すまいと、一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「……晴信!?」
「嘘……!? も、戻らないと晴信さんが!!」
先頭を走っていた景虎が晴信の魔力の乱れを感じて振り返ったのと同時に立香も異変に気付き、思わず晴信の方に戻ろうとした。
「駄目だマスター!! どう考えても間に合わねぇ!!」
「けど……!!」
永倉の制止に思わず立香が足を止めた瞬間、晴信を取り囲んだエネミーがほぼ同時に光線を放った。
「「「……!!!!」」」
3人が同時に言葉を無くして立ち尽くした。終わった、と三人が絶望したのもつかの間、その光線はすぐに消え、周囲にいたエネミーが瞬きの間に真っ二つに切り裂かれていた。
「晴信さん!! 無事だったん……えっ?」
「な、何が起きてやがる……」
3人が見つめる先にはいつものようにまっすぐに敵を見据える晴信の姿があった。しかし、その姿には多くの違和感があった。
いつもなら日月の軍配を携えているはずの右手には洋装の時は使用しない大太刀が握られており、首筋が隠れるほどの長さしかないはずの白銀の襟足が肩甲骨を覆う程にまで伸びて毛先から中間にかけて漆黒に変化していた。
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――ザシュッ、ズバ……!! ドス!! ガッ!!
「お、おお……」
「すげぇ、けど、ありゃ」
「まだ早い。まだそうだと決まった訳じゃない」
「けどよぉ……」
先程までの緊迫感はどこへやら、立香と永倉は眼前で繰り広げられている戦闘……いや、最早一方的な蹂躙と言っても過言では無い光景をただ傍観していた。
晴信に現れた変化や髪型や使用する武器だけでは無かった。第一再臨の洋装では主に重さのある拳を繰り出す肉弾戦か、車に変化した黒雲を駆ってフィールドを駆け回る戦闘スタイルを取っている晴信が、大太刀を片手に風のごとく軽やかに次から次へとエネミーを一刀両断しながら縦横無尽に飛び回っていた。立香と永倉にはこの戦闘スタイルに見覚えがあった。……今まさに行動を共にしているもう一騎のサーヴァント、長尾景虎である。
「……マスター、気付いちまったんだが」
「な、何に」
「……あれ、『不知火』じゃねぇか……?」
「あっ。……いや! まだ早い! あれ元々武田家の家宝だから晴信さんが持ってても何もおかしくない!!」
一見、無関係な会話をしているように思える二人だが本人たちは至って真剣である。というのも、立香と永倉の間で明言していないだけである一つの、できればそうであって欲しくない仮説が立ってしまったのだ。
” 武田晴信の今の姿は長尾景虎から『魔力供給』された結果ではないか ”、と……。
「いや、仮にそうだとしてもあの格好にはどう説明つけるつもりなんだ」
「それは……」
立香が言葉に詰まった瞬間、ドドド……と地面の振動が段々大きくなってきていることに気付いた。二人が思わず顔を上げると、何とか晴信の猛攻から逃れた数体のエネミーがこちらに向かって突進してこようとしているではないか。それでもまだ十分に距離が空いていたので、永倉は鯉口を切ってすぐにでも抜刀できる体勢を取り、立香もガンドを打てるように身構えた。
――ガガガガガガガガ!!
しかし、エネミーたちはすぐに上から降ってきた8本の太刀や槍に四方を囲まれ、その進路を阻まれた。足止めを食らって立ち往生したエネミーをひらり、と飛び越えて晴信が姿を現したかと思えば、目にもとまらぬ速さで武具を持ち換えてはエネミーを切り刻んでいった。
晴信が最後に残った槍から放たれる白い閃光によってエネミーにとどめをさした瞬間、立香と永倉の仮説が正しかったことが証明されてしまった。
「……マスター、あれはどう考えたってあれだろ」
「……『八華繚乱』だね……ってことは……」
「いやまぁ、あの時代は衆道は当たり前だったし……そういうことも……」
「……それでも逆だと思うじゃん!?」
「嘘だろ大将……」
立香と永倉は同時に頭を抱えて溜息をついた。
**
「安心しろ。神性魔力による自我の浸食は一時的なもので、霊基そのものは無事だ。体内に残っている ”余計” な魔力が全て消費されれば元に戻る。念のため元の姿に戻るまでシュミレーターでも模擬含めたすべての戦闘行為と魔術行為は禁止とする」
自我が戻っったらこの男に睦事も程々に、と忠告しろ。とアスクレピオスは表情を一切変えずに診断内容をレイシフトから帰還した立香一行に告げた。
「……よかったね。晴信さん、ちゃんと元に戻るって」
「……そうか」
白鼠と萌黄が斑に混じり合う瞳で虚空を見つめて医務室の丸椅子に座っている無表情の晴信に目を向けながら、立香と永倉は短く言葉を交わした。
「そういえば景虎さんは?」
「あれ、そういえばどこ行ったんだ? ……てか、あっちも大丈夫か? 大将がああなってからすっかり黙り込んでにこりともしなくなっちまったじゃねぇか」
「うーん……あとで声かけてみる。一先ず晴信さんを部屋に連れて行かなきゃ」
「なら俺が……。ほら大将、行くぞ。立てるか?」
永倉が晴信の腕を取り、そのまま彼の自室へと向かった姿を見送ってから立香も医務室から退出した。
**
「……うおっ」
自室に戻ってしばらくしてから自我が戻り、シャワールームで汗を流した晴信が電子端末に立香が残したメッセージ通りに鏡で姿を確認すると、そのあまりの変わりように驚愕の声を上げてフリーズした。いつもハーフアップにして上に結い上げている部分に変化は無いが下ろしている下半分がやたらと長くなっているし、途中から夜のような漆黒に染まっていた。
立香からの伝言が無くても、晴信がこの状態になった原因をよく知っていた。
というのも、およそ半月前に景虎の寝込みを襲って、結果的に返り討ちに遭って一晩中抱かれ続けた際に大量に注がれた景虎の魔力をわざと体内に蓄えたままにしていたからだ。軽い出来心で行った行為がまさかここまで自分の霊基に対して影響を及ぼすとは思っていなかった晴信は、少しだけ立香と永倉に申し訳なさを感じていた。
「…………」
手に取った襟足の毛束を見つめていた晴信は景虎との濃厚な夜を思い出し、思わずそれに口づけた。
「……晴信にしては可愛いげのあることをするじゃないですか」
聞こえるはずの無い声がして晴信が勢いよく振り返ると、彼の背後にいつの間にか部屋に入ってきていた景虎が少し真面目な表情をして佇んでいた。
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