サマータイム・ブルーシグナル
【#prologue】
がちゃり。
子気味良い音を立てて鍵が締まる。
じっとりと首筋ににじみ出てきた汗とうるさいほどに鳴き喚くセミが、中学二年生の夏休みが来たことを告げる。
夏休みと言えば、思い出すのはあの年の夏。
あの時も、同じようにじっとりとした汗が出てきて、セミがうるさくて。
あの木の下、穴を掘った私の額は体から出た水分と塩分でびしょぬれだった。
ざくざくと軽い音を立てる割には土が重くて、時間がかかって、焦ってさらに汗が出てきたのを今でも覚えている。
私の脇には木の陰に横たわって涼む友人と、彼女の帽子とランドセルが放ってあった。
「ちょっとはてつだってよ」
舌足らずな自分の声がまるで今聞いているかのように頭の中に響く。
ああ、そんなことも言ったっけ。
ぐちょぬれになりながら穴を掘る私の傍ら、目を閉じている友人は何一つ言葉を発さなかった。
「もう…」
1人でそう呟いて、私はまた穴を掘り始める。
さくさく、ざくざく。
ざくざく、ガンガン。
足元が多少濡れたけれど、そんなことには構っていられなかった。
必死に掘って、少し経った頃お腹がすいてきた。
集中していたから気付かなかったけれど、そろそろお昼の時間だ。
私は、私のバッグから、この後埋める予定だったクッキーの缶箱の手紙やら何やらをかき分け、入っていた彼女の好物を取り出した。
そして、乾パンの缶を開けて、乾いた口に1つ放り込む。
やっぱりそれは私の口の中の水分を奪って、口の渇きを悪化させた。
本当はもっと後に食べる予定だったんだけど、仕方がない。忘れてしまって腐ってももったいないし、今お腹がすいたのだ。
しかしそれだけでは口が乾いてしまうので、何か水分の含んだものをとあたりを見渡して、見つけた。友人のランドセル。
彼女の赤いランドセルからは赤いぐちゃぐちゃの紙が飛び出ていた。
雑に扱わないでねと言ったのに。
これもここに埋める予定だったけれど、いま口の渇きが満たされるならとそのおたよりを破って破って小さくして、彼女のペンケースに入っていたはさみとカッターで小さく小さく切り刻んで、口に入れた。
その紙を赤く染めた液体は思っていたよりも美味しくて、全部食べてしまった。水を飲んだ時ほどではなかったけれど、口の渇きは多少ましになった。
そしてまた、赤く濡れた手と額をぬぐいながら穴を掘る。
時折ガンガンという音を響かせ、そのスコップは土を掘っていった。
ちょうど人が入れるくらいの深さになった時に、また口が乾いてきたので今度は彼女の頭の赤い液体を飲んだ。
今度は沢山飲めたので、ごくん、という音がした。
やっぱりそれは少し甘くてすっぱくて、とてもおいしい気がした。
目を開かない彼女の腕を引っ張って引きずり、穴の中に落とす。
そのあとに彼女のランドセルと帽子、それから私のカバンの中に入っていたクッキーの缶箱を放り込んだ。
クッキーの缶箱が彼女の頭の固いところに合ったって「ゴンっ」と鈍い音を立てた。
がちゃり。
子気味良い音を立てて鍵が締まる。
じっとりと首筋ににじみ出てきた汗とうるさいほどに鳴き喚くセミが、中学二年生の夏休みが来たことを告げる。
夏休みと言えば、思い出すのはあの年の夏。
あの時も、同じようにじっとりとした汗が出てきて、セミがうるさくて。
あの木の下、穴を掘った私の額は体から出た水分と塩分でびしょぬれだった。
ざくざくと軽い音を立てる割には土が重くて、時間がかかって、焦ってさらに汗が出てきたのを今でも覚えている。
私の脇には木の陰に横たわって涼む友人と、彼女の帽子とランドセルが放ってあった。
「ちょっとはてつだってよ」
舌足らずな自分の声がまるで今聞いているかのように頭の中に響く。
ああ、そんなことも言ったっけ。
ぐちょぬれになりながら穴を掘る私の傍ら、目を閉じている友人は何一つ言葉を発さなかった。
「もう…」
1人でそう呟いて、私はまた穴を掘り始める。
さくさく、ざくざく。
ざくざく、ガンガン。
足元が多少濡れたけれど、そんなことには構っていられなかった。
必死に掘って、少し経った頃お腹がすいてきた。
集中していたから気付かなかったけれど、そろそろお昼の時間だ。
私は、私のバッグから、この後埋める予定だったクッキーの缶箱の手紙やら何やらをかき分け、入っていた彼女の好物を取り出した。
そして、乾パンの缶を開けて、乾いた口に1つ放り込む。
やっぱりそれは私の口の中の水分を奪って、口の渇きを悪化させた。
本当はもっと後に食べる予定だったんだけど、仕方がない。忘れてしまって腐ってももったいないし、今お腹がすいたのだ。
しかしそれだけでは口が乾いてしまうので、何か水分の含んだものをとあたりを見渡して、見つけた。友人のランドセル。
彼女の赤いランドセルからは赤いぐちゃぐちゃの紙が飛び出ていた。
雑に扱わないでねと言ったのに。
これもここに埋める予定だったけれど、いま口の渇きが満たされるならとそのおたよりを破って破って小さくして、彼女のペンケースに入っていたはさみとカッターで小さく小さく切り刻んで、口に入れた。
その紙を赤く染めた液体は思っていたよりも美味しくて、全部食べてしまった。水を飲んだ時ほどではなかったけれど、口の渇きは多少ましになった。
そしてまた、赤く濡れた手と額をぬぐいながら穴を掘る。
時折ガンガンという音を響かせ、そのスコップは土を掘っていった。
ちょうど人が入れるくらいの深さになった時に、また口が乾いてきたので今度は彼女の頭の赤い液体を飲んだ。
今度は沢山飲めたので、ごくん、という音がした。
やっぱりそれは少し甘くてすっぱくて、とてもおいしい気がした。
目を開かない彼女の腕を引っ張って引きずり、穴の中に落とす。
そのあとに彼女のランドセルと帽子、それから私のカバンの中に入っていたクッキーの缶箱を放り込んだ。
クッキーの缶箱が彼女の頭の固いところに合ったって「ゴンっ」と鈍い音を立てた。
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