虐げられる日々を送っていたら、異世界で戦争を食い止める事になり帝王に鍾愛されました。
3日後
20分休みの裏庭。
それはわたしにとって、今まで生きてきたどんな時間よりも、待ちわびていたものだった。
今日もいつも通り、芝生に座り込みじっと"2人"を待つ。
すると、頭上からふわりとした風と共に、大好きな声が聞こえた。
「○○!」
顔を上げると、翔さんとグレー髪の男の子....わたしの"恩人"さんが空の上をぷかぷかと浮いていた。
「なろ屋さんっ....!こんにちは...!」
このグレー髪の男の子の名前は_____なろ屋さん。
初めて会った時....確かなろ屋さんの名前を聞くのを忘れていて、後からなろ屋さんが「名乗り忘れた!」って言って戻ってきてくれたんだっけ.....
____
『あ待って●●..!僕の名前は、なろ屋っていうよ...!』
『.......え!?.....あ..なっ、なろ屋さん....良い名前ですね...!』
『はあ.....もう..そんなとこもかわいい.......』
『ちょっとなろっちいつまでいちゃついてんの!!帰るで!!』
『うぁあちょっと翔ちゃん!!』
____
「今日も会えて嬉しい......ほんとかわいい連れ去りたい......」
地上に降りるや否やなろ屋さんの放ったその言葉は、わたしの心臓をぎゅっと締め付ける。
こんなわたしなんかを『連れ去りたい』なんて言ってくれて、すごく嬉しい。嬉しい、けど.....
_______わたしには、忘れてはいけない萌音とお母さんが居る。
萌音にはわたしに彼氏なんて作っていけないと言われていて、お母さんには交際のことについては特に何も言われていないけど、家の家事をほぼすべてわたしが一任している事によって、わたしが家を出ればお母さんは家の家事をまともにできない可能性が高い。
それに.....こんなに素敵な..なろ屋さんみたいな人は、もっとかわいくて優しくて綺麗な人と、幸せになるべきだと思う。
わたしは、可愛くなくて優しくなくて綺麗でもない。何も持っていない。
「.........ありがとうございます。」
色々考えた結果の返事は、最終的に大抵ありがとうございますになってしまう。
なろ屋さんに期待に応えられなくて申し訳ないと思うけれど....
素直に喜べないわたしなんかと一緒になるよりは、断然ましだと思ってしまう自分が居る。
「あのね、○○。」
なろ屋さんは、いつも通りのかわいらしい笑みを浮かべてわたしにそう言った。
翔さんも、わたしの隣に腰掛けてふわりと微笑む。
「○○は、僕の隣に居たいって少しでも思ってくれたりしないかな....」
.............えっ..?
会ってから今まで、最初以外は婚約やそれに関連する話は一切されなかった。
それというよりかは...ずっと雑談ばかりしていた気がする。
「僕ね。....住んでるところのルールで、原則婚約を申し込んだら申し込んだ側からじゃないと婚約を破棄できない.....って大事な事が僕は頭からすっかり抜けてて...」
そ、そんな複雑なルールがあったんだ.....
本人は本気で忘れていたようだし、翔さんも小さく「忘れてた...」という声を上げた。
「もし、○○が嫌なら今すぐにでも婚約破棄するし、少しでも僕に気があるなら...できれば、僕はこのままがいい..って、思ってる。」
なろ屋さんはそう言い切ってから、少しだけ顔を赤らめた。
『自分の妹に気さえも使えないなんて!!!』
『あんたがわたしよりも早く男をつくるなんて...わたしが許すとでも思った?』
『また●●ちゃんが萌音ちゃんの事虐げてるんだって』
フラッシュバックしてくる、萌音やお母さん、クラスメイト達に吐かれた数々の言葉。
どれもこれも、慣れっこだと思って耐えてきたけど.....その痛みに耐えるたびにどんどん心に深い傷を負っているような気がしていた。
でもそれさえもわたしは背負おうとして、また胸に槍が突き刺さったような感覚に陥る。
小さい頃からそれを繰り返して繰り返して.....
「決めるのは、○○だからね。」
ぽんっと、なろ屋さんはわたしの頭を軽く撫でてくれる。
言葉を選ぶ余裕がなく、わたしは力なく言葉を発した。
「いいんですか....?」
初めてかもしれない。
「........何が..?」
[大文字]「わたしが決めて.....いいんですか....?」[/大文字]
自分で何かを決めることも、人前で泣くのも....
全部全部....貴方が初めて........
気づいた頃には、大粒の涙が頬を伝っていた。
「...........うん、いいよ。○○の人生なんだから、○○が決めるんだよ。他人が、決めるものじゃない。」
何かがわたしの体中を覆う。
びっくりして顔を上げると、それはなろ屋さんだとわかった。
これは......萌音がよくお母さんにしてもらっていた、ハグ....っていうものなのかなっ.....
すごく、温かい。
「なろ屋さんっ.......」
「.......?なあに、○○。」
「...誰かに優しく話しかけてもらったのも、助けてもらったのも、自分で決めていいって言ってくれたのも、今こうして抱きしめてくれるのも...全部全部....なろ屋さんが、初めてですっ....」
「.....そっか、嬉しい........あったかいでしょ。」
「はいっ.....!」
そして、さっきよりもぎゅっと力強くわたしはなろ屋さんを抱きしめた。
なろ屋さんの体温を感じると、自分の存在意義を見いだせるような気がする。
「なろ屋さんっ.....もうひとつだけ..いいですか..?」
一番伝えたかった想いを、わたしは言葉に表す。
「うん、いいよ....」
「.........なろ屋さんが、大好きですっ.....我儘かもしれませんが..これからは....なろ屋さんの『婚約者』として、ずっとお側で見守っていきたいですっ.......」
なろ屋さんは、にっと歯を見せて笑った後、愛らしく返事をした。
「もちろん.......だいすきだよ、○○。」
わたしはさっき以上に、瞳から雫が溢れた。
[水平線]
side 無呂
「...誰かに優しく話しかけてもらったのも、助けてもらったのも、自分で決めていいって言ってくれたのも、今こうして抱きしめてくれるのも...全部全部....なろ屋さんが、初めてですっ....」
ぎゅっと○○を抱きしめていると、腕の中から聞こえてた可愛らしい声。
僕の○○はいつでもかわいい.....って、そんな呑気な事を思える余裕は僕に残っているわけがなかった。
優しく話しかけてもらったのが、初めて........?
助けてもらったのも、自分で物事を決める事に口出しされないのも、抱きしめられるのも、初めて.......?
一体、どういう事......?
とりあえず、不審に思われないように「.....そっか、嬉しい........あったかいでしょ。」と言って大好きな○○の頭を軽く撫でる。
それについて、翔ちゃんも疑惑を抱いたのか僕と目が合う。
ついさっきまで大泣きしていた○○をまた泣かせるような発言は絶対にしたくない。
色々聞いて○○にこんな想いさせたやつを今すぐ抹消したやりたい気分だけど....今は、こうして抱きしめておくのが一番効果的だろう。
「.........なろ屋さんが、大好きですっ.....我儘かもしれませんが..これからは....なろ屋さんの『婚約者』として、ずっとお側で見守っていきたいですっ.......」
.........今の発言の中に、どこに我儘があっただろうか。
簡潔に内容をまとめても、○○が僕の婚約者になってくれるという事。
僕から婚約を申し込んで、それをただ○○がOKするというだけ...それを我儘だと、○○は発言している。
今僕が言えるのはこれだけ......何かがとち狂っているんだ、○○の周りは。
これはただごとではないと、翔ちゃんも頭を巡らせているのがわかる。
「もちろん.......だいすきだよ、○○。」
僕がそう言うと、また綺麗な瞳から涙が溢れると同時に、まるで花が咲いたかのような、○○の世界一かわいい笑顔が僕を覆った。
[水平線]
side ???
ざーっ、と勢いよく降り続く雨。
屋敷を飛び出してから早一週間、私は路地裏にうずくまっていた。
正直言って、私が国をまとめる役目なんてできるわけがなかったし、兄が病にさえ倒れなければ、私は家を出て兵士となり領主に成り上がるという人生を歩みたかった。
でも、兄の病により私の夢は終わった。
........そういえば、もうそろそろ戦争が始まるのではないか。
ロベルト国の6つの州が3州ずつ手を組み、敵対しているこの状況を把握していない者はいないはず。
そう思い、貴族たちが今なにをしているか探るため路地裏からひょこりと顔を出す。
...........特に変わった気配はないな。
いつも通り、自分たちの欲のため金を使い傲慢に振る舞っている。
私が屋敷を飛び出したのも、こんな毛汚れた貴族たちと同じカーストにくくりつけられたくなかったからという理由であった。
国王に憧れがある兄と、兵士に憧れのある弟。
正直言って兄と私の出来だけで評価すると、私のほうが出来は良い。
だが、通常は兄側が王の座を継ぐ。私も国王だなんて荷が重いし、なんといっても国王なんかよりも"兵士"に憧れがあった。
昔見たかっこいい兵士の人みたいになりたくて....
寝る間も惜しんで兵士になる努力をしたのに......
結局国王。なんだそれ、笑わせるのも大概にしろ。
だが今は、国王という座を失った私を雇う歩兵団や傭兵団はほぼ100%ないと言い切れる。
じゃあ私は一体、何を目標にこれから生きていけばいいのだろう_________
「あのっ........」
瞳に映ったのは、常人離れした美しさを放つ少女だった。
20分休みの裏庭。
それはわたしにとって、今まで生きてきたどんな時間よりも、待ちわびていたものだった。
今日もいつも通り、芝生に座り込みじっと"2人"を待つ。
すると、頭上からふわりとした風と共に、大好きな声が聞こえた。
「○○!」
顔を上げると、翔さんとグレー髪の男の子....わたしの"恩人"さんが空の上をぷかぷかと浮いていた。
「なろ屋さんっ....!こんにちは...!」
このグレー髪の男の子の名前は_____なろ屋さん。
初めて会った時....確かなろ屋さんの名前を聞くのを忘れていて、後からなろ屋さんが「名乗り忘れた!」って言って戻ってきてくれたんだっけ.....
____
『あ待って●●..!僕の名前は、なろ屋っていうよ...!』
『.......え!?.....あ..なっ、なろ屋さん....良い名前ですね...!』
『はあ.....もう..そんなとこもかわいい.......』
『ちょっとなろっちいつまでいちゃついてんの!!帰るで!!』
『うぁあちょっと翔ちゃん!!』
____
「今日も会えて嬉しい......ほんとかわいい連れ去りたい......」
地上に降りるや否やなろ屋さんの放ったその言葉は、わたしの心臓をぎゅっと締め付ける。
こんなわたしなんかを『連れ去りたい』なんて言ってくれて、すごく嬉しい。嬉しい、けど.....
_______わたしには、忘れてはいけない萌音とお母さんが居る。
萌音にはわたしに彼氏なんて作っていけないと言われていて、お母さんには交際のことについては特に何も言われていないけど、家の家事をほぼすべてわたしが一任している事によって、わたしが家を出ればお母さんは家の家事をまともにできない可能性が高い。
それに.....こんなに素敵な..なろ屋さんみたいな人は、もっとかわいくて優しくて綺麗な人と、幸せになるべきだと思う。
わたしは、可愛くなくて優しくなくて綺麗でもない。何も持っていない。
「.........ありがとうございます。」
色々考えた結果の返事は、最終的に大抵ありがとうございますになってしまう。
なろ屋さんに期待に応えられなくて申し訳ないと思うけれど....
素直に喜べないわたしなんかと一緒になるよりは、断然ましだと思ってしまう自分が居る。
「あのね、○○。」
なろ屋さんは、いつも通りのかわいらしい笑みを浮かべてわたしにそう言った。
翔さんも、わたしの隣に腰掛けてふわりと微笑む。
「○○は、僕の隣に居たいって少しでも思ってくれたりしないかな....」
.............えっ..?
会ってから今まで、最初以外は婚約やそれに関連する話は一切されなかった。
それというよりかは...ずっと雑談ばかりしていた気がする。
「僕ね。....住んでるところのルールで、原則婚約を申し込んだら申し込んだ側からじゃないと婚約を破棄できない.....って大事な事が僕は頭からすっかり抜けてて...」
そ、そんな複雑なルールがあったんだ.....
本人は本気で忘れていたようだし、翔さんも小さく「忘れてた...」という声を上げた。
「もし、○○が嫌なら今すぐにでも婚約破棄するし、少しでも僕に気があるなら...できれば、僕はこのままがいい..って、思ってる。」
なろ屋さんはそう言い切ってから、少しだけ顔を赤らめた。
『自分の妹に気さえも使えないなんて!!!』
『あんたがわたしよりも早く男をつくるなんて...わたしが許すとでも思った?』
『また●●ちゃんが萌音ちゃんの事虐げてるんだって』
フラッシュバックしてくる、萌音やお母さん、クラスメイト達に吐かれた数々の言葉。
どれもこれも、慣れっこだと思って耐えてきたけど.....その痛みに耐えるたびにどんどん心に深い傷を負っているような気がしていた。
でもそれさえもわたしは背負おうとして、また胸に槍が突き刺さったような感覚に陥る。
小さい頃からそれを繰り返して繰り返して.....
「決めるのは、○○だからね。」
ぽんっと、なろ屋さんはわたしの頭を軽く撫でてくれる。
言葉を選ぶ余裕がなく、わたしは力なく言葉を発した。
「いいんですか....?」
初めてかもしれない。
「........何が..?」
[大文字]「わたしが決めて.....いいんですか....?」[/大文字]
自分で何かを決めることも、人前で泣くのも....
全部全部....貴方が初めて........
気づいた頃には、大粒の涙が頬を伝っていた。
「...........うん、いいよ。○○の人生なんだから、○○が決めるんだよ。他人が、決めるものじゃない。」
何かがわたしの体中を覆う。
びっくりして顔を上げると、それはなろ屋さんだとわかった。
これは......萌音がよくお母さんにしてもらっていた、ハグ....っていうものなのかなっ.....
すごく、温かい。
「なろ屋さんっ.......」
「.......?なあに、○○。」
「...誰かに優しく話しかけてもらったのも、助けてもらったのも、自分で決めていいって言ってくれたのも、今こうして抱きしめてくれるのも...全部全部....なろ屋さんが、初めてですっ....」
「.....そっか、嬉しい........あったかいでしょ。」
「はいっ.....!」
そして、さっきよりもぎゅっと力強くわたしはなろ屋さんを抱きしめた。
なろ屋さんの体温を感じると、自分の存在意義を見いだせるような気がする。
「なろ屋さんっ.....もうひとつだけ..いいですか..?」
一番伝えたかった想いを、わたしは言葉に表す。
「うん、いいよ....」
「.........なろ屋さんが、大好きですっ.....我儘かもしれませんが..これからは....なろ屋さんの『婚約者』として、ずっとお側で見守っていきたいですっ.......」
なろ屋さんは、にっと歯を見せて笑った後、愛らしく返事をした。
「もちろん.......だいすきだよ、○○。」
わたしはさっき以上に、瞳から雫が溢れた。
[水平線]
side 無呂
「...誰かに優しく話しかけてもらったのも、助けてもらったのも、自分で決めていいって言ってくれたのも、今こうして抱きしめてくれるのも...全部全部....なろ屋さんが、初めてですっ....」
ぎゅっと○○を抱きしめていると、腕の中から聞こえてた可愛らしい声。
僕の○○はいつでもかわいい.....って、そんな呑気な事を思える余裕は僕に残っているわけがなかった。
優しく話しかけてもらったのが、初めて........?
助けてもらったのも、自分で物事を決める事に口出しされないのも、抱きしめられるのも、初めて.......?
一体、どういう事......?
とりあえず、不審に思われないように「.....そっか、嬉しい........あったかいでしょ。」と言って大好きな○○の頭を軽く撫でる。
それについて、翔ちゃんも疑惑を抱いたのか僕と目が合う。
ついさっきまで大泣きしていた○○をまた泣かせるような発言は絶対にしたくない。
色々聞いて○○にこんな想いさせたやつを今すぐ抹消したやりたい気分だけど....今は、こうして抱きしめておくのが一番効果的だろう。
「.........なろ屋さんが、大好きですっ.....我儘かもしれませんが..これからは....なろ屋さんの『婚約者』として、ずっとお側で見守っていきたいですっ.......」
.........今の発言の中に、どこに我儘があっただろうか。
簡潔に内容をまとめても、○○が僕の婚約者になってくれるという事。
僕から婚約を申し込んで、それをただ○○がOKするというだけ...それを我儘だと、○○は発言している。
今僕が言えるのはこれだけ......何かがとち狂っているんだ、○○の周りは。
これはただごとではないと、翔ちゃんも頭を巡らせているのがわかる。
「もちろん.......だいすきだよ、○○。」
僕がそう言うと、また綺麗な瞳から涙が溢れると同時に、まるで花が咲いたかのような、○○の世界一かわいい笑顔が僕を覆った。
[水平線]
side ???
ざーっ、と勢いよく降り続く雨。
屋敷を飛び出してから早一週間、私は路地裏にうずくまっていた。
正直言って、私が国をまとめる役目なんてできるわけがなかったし、兄が病にさえ倒れなければ、私は家を出て兵士となり領主に成り上がるという人生を歩みたかった。
でも、兄の病により私の夢は終わった。
........そういえば、もうそろそろ戦争が始まるのではないか。
ロベルト国の6つの州が3州ずつ手を組み、敵対しているこの状況を把握していない者はいないはず。
そう思い、貴族たちが今なにをしているか探るため路地裏からひょこりと顔を出す。
...........特に変わった気配はないな。
いつも通り、自分たちの欲のため金を使い傲慢に振る舞っている。
私が屋敷を飛び出したのも、こんな毛汚れた貴族たちと同じカーストにくくりつけられたくなかったからという理由であった。
国王に憧れがある兄と、兵士に憧れのある弟。
正直言って兄と私の出来だけで評価すると、私のほうが出来は良い。
だが、通常は兄側が王の座を継ぐ。私も国王だなんて荷が重いし、なんといっても国王なんかよりも"兵士"に憧れがあった。
昔見たかっこいい兵士の人みたいになりたくて....
寝る間も惜しんで兵士になる努力をしたのに......
結局国王。なんだそれ、笑わせるのも大概にしろ。
だが今は、国王という座を失った私を雇う歩兵団や傭兵団はほぼ100%ないと言い切れる。
じゃあ私は一体、何を目標にこれから生きていけばいいのだろう_________
「あのっ........」
瞳に映ったのは、常人離れした美しさを放つ少女だった。
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