「僕は君の死神。君の魂を喰うのが僕の仕事。
　でも僕は今の君の魂を喰らいたくないのだよ。
　今死なれたら美味しく無いから。
　だからさ。精一杯生きてみろよ。僕のために。」

初めは何を言っているか理解できなかった。
だが彼が話すたびに何故か納得してしまう私がいた。

根拠があるわけでも無い。ただの感情だ。
それでも私は何故か納得していた。


そんな話を聞いていると時間はアイスのように溶けていった。もう夜になってしまう。

そう感じた私は慌ててその場に立ち上がり、「帰らなきゃ、」と声をこぼした。

そんな私をみた死神は

「帰るんだ。あんな家に。」

と笑って答えた。

帰らなくてはいけないのだ。私には、帰るところがあそこしか無いから。

そう彼に伝えると、彼は「ならば僕もついていこう。」と呟いた。

「なんで？！そんなことしたらバレちゃうじゃない？！」

私が慌てていうと、彼はにやっと笑ってこう言う。

「大丈夫だよ」

なにが大丈夫か訳が分からなかったが、私はそんな彼の言葉を信じ、夜になりかけの道を走った。

そして。悪魔が住む家に着いた。



「ただいま、、」

そう震え震え呟くと、嬉しいことに父親は寝ていた。

ほっとして階段をあがると、私の部屋に入る。

そしてへなへなと座り込むと、部屋の違和感に気がついた。
この前に味わった何かを失った違和感では無い。何かを得た違和感。

あたりを見渡すと勉強机が二つあることに気がついた。子供は私一人なため、一つなはずだ。だが今は二つある。

そう疑問に思って死神を見つめると、死神はこう言った。

「僕が君の双子の弟だということをこの世界に叩き込んだ。前から僕はいたということを。」

そんなことができるとは、と驚いていたら、死神は私にこう言った。

[中央寄せ]「よーし早速だけど、、、[太字]ご飯食べよ[/太字]！」[/中央寄せ]


おそらく私がお腹をすかしていることを知っているからだろう。そう言ってくれた。

その一言が私の心に刺さった。涙を流していた。

痛いわけでも無い。辛いわけでも無い。それなのに涙は止まらない。ずっと流れている。

そうか。私は親にそう言われたかったのだ。また笑ってご飯を食べたかったのだ。

ずっと、ずーーっと。幸せな時間がほしい。

言って欲しかった。母親に。父親に。そう願っていたのに。

そんな事を思い出すと、益々涙が溢れてくる。

そんな私を死神はなぜか温かい目でみていた。泣き止まない私を温かい手でぎゅっと握って。

温かい目で見ていてくれた。まるでの私の唯一の光だった“ゆき”のように。



その後のことはあまり覚えていない。そのまま寝たのか、ご飯を食べたかも忘れた。

でも死神に抱きついて泣いていたことは覚えている。
今思い出せば恥ずかしい。
赤く染まった顔を下に向け、目だけを隣にいる死神に向けた。

いつみても死神は真っ白だ。肌も髪も。初め見た時は驚いたが、今はそうでもない。
こんな綺麗な男の人の腕の中で泣いていたと想像すると益々顔は赤くなる。

私がじっと見ていた所為だろうか、死神が「んぁ、」とだらしない声をこぼして目を擦った。

「あっ、お、おはようっ」

私がこう挨拶をすると死神は優しい笑顔で「おはよう」と返してくれた。

兄弟もいず、あんな父親がいる私の家族ではこんなこと滅多に無いためか、少しカタコトになってしまった。

そんな私をみて死神はふはっと軽く笑う。

「ぎこちない挨拶ーっ」

揶揄ってきた。普通はそこに文句を言うのだろうけれど、私からするとすごく嬉しく、笑ってしまった。

そう。嬉しいのだ。こうやって仲良く話せることが。