クレープも食べて、カフェオレも飲んだ。軽く遊具で遊んで、軽く歩いた。
それだけなのに時は刻々と過ぎ、日は落ちかけていた。


「そろそろ帰ろうか。」

なんて彼女に声をかける。
彼女は少し悲しそうな顔をするけれど、「わかった」と微笑んでくれた。


正直言って僕も帰りたくない。
このまま逃げてもいいんじゃないか、なんて思う。

けれどそれ相当のお金はないし、行くあてもない。それならば彼女を辛くするだけだ。

結局そんな結論に至っては僕は何度も逃げることを諦めていた。





施設も見えてきた交差点。
赤信号に突っかかった僕たちは冷えた手を繋ぎながら今日のことを話していた。


「連れてきてくれてありがとう.ᐟ.ᐟお兄ちゃん.ᐟ」

「いいんだよ。また行こう。」

「そうだね.ᐟ.ᐟ行きたいなぁ〜.ᐟ明日行くっ？」

「早、、まあいいよ？お金まだ残ってるし」

「本当〜？やったぁ.ᐟ.ᐟ」

「どこに行きたい？どこへでも連れて行くよ」

「私ね、“お花畑”に行きたい.ᐟ.ᐟ」

「花畑かい？確か施設の近くに大きな花畑があったね」

「うん.ᐟ確か〜、、バスで行けるよ.ᐟ.ᐟ」

「いいね。その距離は行ける。」

「やったぁ〜.ᐟ後はね、他の公園も行きたいしピクニックもしたい.ᐟ花火もいいね〜.ᐟ.ᐟ」

「どれもこれもいいね。夏にもいっぱい行こう？冬は１日終わるのが早すぎる」

「うん.ᐟ.ᐟきっとだよ.ᐟ」

「ああきっとさ。」


そんな会話をしていたら信号が青へと変わった。
彼女と手を繋いだまま、僕たちは一歩を踏み出した。

明日、また行けるや。なんて浮かれながら。

彼女の方を見ると僕たちは目が合った。えへへ、と笑いかけてくれる彼女。僕は嬉しく思った。




[中央寄せ]これが最後の笑顔なんて知りもせず。[/中央寄せ]




キィィーー、、と嫌な音を立てて何かが急接近する。
少し暗くなった街に灯りをつけて走る何か。

車だ。

僕たちに向かって勢いよく向かってくる。
僕は咄嗟に彼女の前に立とうとした。しかし僕が行動するよりも早くに車は走ってくる。

間に合わない。怖さのあまり片目を瞑った。
逃げることなんかできずに、

[太字]彼女と僕は車に轢かれた。[/太字]



身体が遠くへ向かって飛び跳ねる。
僕の体は運が良かったのか、近くにあった草むらへぶつかる。
しかし、痛いのは痛い。身体がいうことを聞かない。
痺れているような、熱い感覚だ。

彼女、彼女はどこに行った。
探しに行きたいのに身体が動かない。
頑張って首だけを起こす。閉じかけている瞳で辺りを見渡す。

見つけた。
彼女は、道路の真ん中で横たわっていた。

さっきまで動かなかった身体はいつの間にか動いていた。
おぼつかない足取りで。今すぐにでも転びそうなぐらいだ。それでも彼女が心配だ。

そんな身体にも限界はあり、僕は彼女から2メートル離れた先で倒れ込んだ。
後２歩歩けば届く距離。
僕は倒れた身体でも必死に這いつくばった。

近いはずなのに遠い2メートル。
足に力は入らない。手も熱く赤い。何せ、瞼が落ちそうだ。
そんな中でも僕は必死に這いつくばる。彼女に届きそうで届かないこの距離がうざったらしい。


やっとの思いで彼女へたどり着いた。が、彼女は僕よりも多くの赤いものを流し、僕よりも瞼が閉じそうだった。


「ごめんっ、、ごめんっ！守って、あげられな、くて、、、逆に僕ばっかり、、たすけてもらっ、て、、」


瞳から溢れるこの沢山の水滴を涙と呼ぶらしい。


これまで表情が変わりにくかった僕を変えてくれた。
これまで幸せを感じなかった僕を変えてくれた。
僕の人生に意味と希望を与えてくれた。
そんな彼女は今目の前でこの世を去ろうとしている。

もう無理なのか。諦めと同時に更に溢れ出す涙。

そんな時、彼女が口をゆっくり開けた。


「お兄ちゃん、、泣かないで、？私はね、とっても楽しかったよ、。
　ボロボロだった私を助けてくれたのは、、お兄ちゃんだよ、、？私のヒーローだよっ、、。

　お兄ちゃんが、いてくれたから私は笑えた、、お兄ちゃんが、いてくれたから私は、楽しめた、、。本当に、、ありがとう。」


彼女の瞼はどんどん落ちていき、「ありがとう」という言葉と同時に完全に閉じてしまった。


「僕を、置いていかないで、、お願いだ、、目を開けておくれよ、、[太字]あられ[/太字]。」

涙と共に溢れるこの言葉はあられにとどいているのだろうか。もう届いていないのだろうか。

もしも君が生まれ変わったならば、また僕に会いにきてくれるだろうか。


あぁ、、僕はこれからどう生きれば良いのだろうか。



僕の身体も終点なのか、それとも気絶か。

僕はあられの手を取りながら眠りについた。