名も知らぬ父と会う前日。

僕は施設の裏庭にあるブランコベンチでもう見ることのないこの輝く夜の景色を目に焼き付けていた。


「白羽おにーちゃん.ᐟ.ᐟ」

後ろから聞こえてきたその元気な声は次第に近くなる。無邪気な足音も段々と近づいてき、僕の隣でぴたりと止まった。

ちら、と横を見るとそこにはと女の子の姿。

こんな僕によく着いてきてくれ、まるで妹のような存在だった子だ。僕と同じ孤児であるが、僕よりも幼い。



涼しく清々しい風がその子の髪を靡かせる。

月の光によってその子の真っ黒な髪、さらには頬を流れる水滴をきらりと光らせた。


「白羽おにーちゃんが外に出るのはいいことなんだっていうのは私もわかるの、、でもね、私もっと白羽おにーちゃんと一緒にいたいよぉ、、いつもかっこよくてツンってしてるけど本当は優しい白羽おにーちゃんが私は大好きなんだもんっ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ」


そう述べる彼女の声は段々と震えてくる。

はっと彼女を見つめるとぽろぽろと涙を流す彼女。


[小文字]「また、、会いにくるからさ。」[/小文字]

僕の口からはその一言しか出てこなかった。

頭をぐるぐると回転させるものの何も出てこなかったのだ。


それを聞いた彼女は「本当に？」と念には念をというようにたくさん聞いてきた。

「本当に。」

そう答え続けるものの、後半になるにつれて息が詰まった。


正直行きたくないのだ。

ずっとここにいたい。

ずっとここで彼女と話していたい。

ずっと、ずっと、ずーっと。

こういうのを叶わぬ夢って呼ぶなんて、この時初めて知ったよ。





息が詰まるほど苦しいお別れをしてから早１ヶ月。

今僕は父親の白雪[漢字]悟[/漢字][ふりがな]さとる[/ふりがな]と同じ家に住んでいる。

逃げ出したいが、精神が安定したらしい父親はかなり僕に優しく接してくれた。

それに対して、甘え方も普通ということでさえも知らぬ僕は礼しか言えなかった。



この人はいい人だと思いつつ過ごす。


が、それは偽りだったのか、はたまた精神がまた壊れたのか。

母親が亡くなった日、そう。僕の誕生日に父親は眠い目を擦る僕に突然蹴りを入れてきた。


思考は一時的に停止する。何が起きた。何があった。

僕の中で精一杯思考するものの次に飛んでくる蹴りのせいで何もかも考えられなかった。

痛い痛いと叫ぶだけ。

なぜ僕は蹴られてる？
そう自分自身に問うも何もわからず、答えなんかでず苦しんだ。






生活や父親の性格が一変して数年が経った。

一回もの外に出なかった僕は今が何月何日なのか、何年なのか。わからなくなっていった。

家にいる時はとある部屋にずっと閉じ込められ、父親のストレス発散の時とご飯であるおにぎりを投げつける時だけドアは開く。

まあそこから出ようなんてすると想像通り酷い目に遭う。


こんな人生なんて終わってる。どうしろと言うのだ。詰みゲーなのだよ。


なんてずっと呟く日々。




そんな地獄にも光は差し込まれるらしい。

こんな地獄生活に希望の手は差し伸べられた。

偶然僕の家の中が窓から見えてしまった時、僕の部屋が赤に染まっていることに気がついたとある女子小学生が通報を入れてくれたらしい。

その後すぐに警察はやってきて、僕を再び児童養護施設へと移動させてくれた。

父親もまた精神病棟送りだ。


あぁ。こんな結果であろうと、やっぱり児童養護施設の方がよほどマシだ。