「知りませんよ。僕に言わないでください。」

「でも君はそこにいたんだろう？教えてくれたっていいだろ、」

「教えたらあなた、絶対殴りにいくでしょうに。」

「、、、、、」


どこからか聞こえる話し声に私は、はっと目を覚ました。

勢いよく起き上がるも、脳を打ったためかぐわんぐわんと頭が揺らぎ、吐きかける。

すかさず隣にいた誰かが私に黒い袋をくれた。

我慢しようと思っていたものの、私はご察しの通り吐いてしまった。

　
優しく私の背を摩る誰か。
確認をしてお礼をしたいのに言えない。

私は誰かどうか確認するため、と軽く頭を上げて横に目を向ける。


白い白衣に暗いエメラルドグリーン色の髪をしているとある先生のような生徒。

、、、、一桜？！

私はまた頭を勢いよく上げてしまった。

そしてまた吐く。


「何やってるんです、、安静にしてくださいよ。」


はぁ、と軽くため息をつく一桜は私を看病してくれているようだった。


「起きた？やっとか、、、おっそいよ。ほんと」


一桜の横からまた声がする。
今度は頭をなるべく振らないように気をつけながら横に向ける。

そこには心配顔の黒羽の姿。
私のことを心配してくれていたのだということは表情を見てわかる。

私が頭を包帯で巻いて、こんなに嘔吐しているのだ。
それはあんな顔にもなるだろう。

私はそんな黒羽から私がこうなるまでの話を聞いた。


私は誰かに押されて階段から落ちたらしい。

そこだけでもびっくりだ。
いじめを受けているのは知っているものの、まさかそこまでやられるなんて思っていなかったから。

不運なことに一段も降りていなかった私は見事上から下まで落下したらしい。

何で私が生きているのか、、そう呟くと黒羽は少し目を逸らしてこう呟く。


「あー、、、、一桜が、受け止めてくれたんだって。」


私は嫌な予感がしてはっと一桜を見る。嫌な予感は見事に当たってしまう。

一桜が左手を三角巾で腕をつり上げていたのだ。


「ぁっ、、ごめんなさいっ、、！私が落ちたからっ、、一桜さんの腕がっ、、」


私が慌てて、泣きそうな瞳でそう謝ると彼はすんなりと許してくれた。


「別にいいですよ。痛くないと言えば嘘になりますが、まあ痛みには慣れていますから。慣れてる僕が怪我をするか、あなたが頭をもっと強打するかだと、僕の方が効率的にもいいので。」


何か難しい話をされるもあまり理解できない。

だって、痛いのはみんな嫌だ。それなのになぜ私を助けてくれたのか、私も彼を避けてしまっていたのに。


「ごっ、、ごめんなさい、」


私はまた謝った。そんな私に彼はまた述べる。


「大丈夫ですって。回復薬飲んだのですぐ治ります。」


しかし今回の謝罪は腕の件じゃない。腕も心配だが、謝らなければならないのだ。

私は、彼に。


「違うのっ！あの、、、私、一桜さんのこと、ずっと噂のことを信じて悪い人だって、思って、、避け、てた、、自分自身が避けられたらっ、嫌なのに、、私だけに精一杯になって、周りっ、みてなかった、、」


本当にごめんなさい。

そう続けようと口を開こうとした。しかし一桜に軽く口を塞がれて私は謝れなくなった。

私が言うのをやめると彼は手を離し、そして私に向かってこう言った。


「それも別にいいですよ。噂を撤廃させるような行動もしてませんし、僕自身も周りと関わりを持たぬようにと動いていましたから。気に病むことはないですよ。あなたが気分をかなり落ち込ませて歩いている時を見たことがあるのに僕も声をかけてませんでした。ほら、おあいこですよ。」


そんな声はあたたかくて私を優しく包んでくれた。

まるで母のように。




[中央寄せ]「ありがとう」[/中央寄せ]




私はこの一言を強く、強く、彼に伝えた。