山根は時計を睨んだ。三限目の授業、物理は既に始まっている。しかし、教室には誰もいなかった。不可解な出来事だった。いつも賑やかな教室が、静まり返っている。机の上には、教科書やノートが散乱し、まるで誰かが慌てて逃げ出したかのようだった。

「変だな…」と呟いた山根に、歩高が近づいてきた。「どうした、山根？」歩高は山根の友人で、いつも冷静な観察眼を持つ少年だった。山根は教室の様子を説明すると、歩高は眉をひそめた。「誰かがいたのは間違いない。でも、逃げた形跡は無い…」

二人の視線は、黒板に貼られた一枚の紙に集まった。それは、今日の授業の予定表だった。しかし、通常であれば物理の授業内容が書かれている場所に、奇妙な記号が書き込まれていた。「これ、何だ？」山根は首を傾げた。その記号は、見たこともないものであった。

そこに、幻由が駆け込んできた。「もしかして…あの記号、ゑ橋さんが…」幻由は、いつも独特な雰囲気を纏っている少女だった。彼女は、この学校で唯一、謎めいた存在であるゑ橋について知っているらしい。

ゑ橋とは、伝説の生徒。彼の存在は噂だけで、誰も見たことがない。しかし、彼の存在を示唆する不可解な事件が、過去にも何度か起きていたという。幻由は、その記号がゑ橋が残したメッセージだと主張した。そして、重要な言葉を残した。「証拠は残る。探せば、きっと…」

山根と歩高は、教室を隅々まで調べ始めた。黒板のチョークの跡、机の傷、床の埃…一つ一つの痕跡を丁寧に調べていくと、机の脚に付着した微量の白い粉を発見した。それは、特殊な化学薬品だった。その薬品は、ゑ橋が過去に使っていたものと一致するらしい。物理の教科書の間に挟まれた、一枚の小さな紙切れも発見した。そこには、ゑ橋が書き残したと思われる、次の授業の場所が記されていた。

三限目の謎は、新たな謎へと繋がっていった。