食堂の若女将、宮廷出仕する
主上が、[漢字]北京鴨[/漢字][ふりがな]ペキンダック[/ふりがな]を口に運んだ。
物凄く緊張しているが、部屋の隅っこで、[漢字]莉星[/漢字][ふりがな]リーシン[/ふりがな]はただただその様子を見るしかない。
(本当に、本当に、どうなるんだ…)
ゴクリと喉で唾をのむ。
だが、次の瞬間、主上の表情が緩んだ。
だが、安心したのも束の間、主上が口を開けて言った。
「今回の夕餉作りを担当したのは誰だ?」
(これどっちの反応かわからないんですけれど…)
だが、主上が言った言葉を無視できない。ということで、[漢字]舞花[/漢字][ふりがな]マイファ[/ふりがな]妃が言葉を発した。
「あちらにいる侍女の[漢字]王莉星[/漢字][ふりがな]ワンリーシン[/ふりがな]です。」
「ほうほうそなたか。」
主上が少し楽しそうな声で舞花妃の言葉に答えた。
その後、舞花妃と主上は楽しそうに談笑して、私の料理も気に入ってくださったので、どうにか今回は上手くいったそうだ。
(ふー。良かったぁ。舞花様も料理も気に入ってくれたみたいだし。)
今日はもう遅く、これ以上起きていてもやることがないので、とりあえず寝ることにした。
朝、戸をドンドン叩く音と、「ちょっと、莉星さん!」と、[漢字]藍夏[/漢字][ふりがな]ランシァ[/ふりがな]か[漢字]双夏[/漢字][ふりがな]ソウシァ[/ふりがな]かどちらかの声が聞こえた。
(まだどっちがどっちか判別ついてなくてごめんなさい。)
そう思いつつ、戸を開けると、むすっとした双夏が居た。さすがに姿を見れば莉星も区別が付く。
「双夏様、こんな朝早くにどうされました?」
「私は藍夏よ。双夏とは全然違うわ。」
「あ、失礼しました。」
「まぁいいわ。あまり日が経ってないし、ちょっとずつちゃんと覚えてね。」
(あれ、優しい。)
そう意外に思っていると、またまた意外に思う発言をした。
「あなた、料理が得意なのね。」
「えぇ、まぁここに来る前は食堂を営んでいましたし。」
「あら、それなら尚のことね。て、ことだから…」
「だから?」
ちょっと藍夏が恥ずかしげな表情を浮かべている。
「私たち侍女の今日の昼餉を作りなさい!」
「?」
頭がまだ理解できていない。
「だ・か・ら!私と双夏と[漢字]麻豊[/漢字][ふりがな]マーフォン[/ふりがな]の分の昼餉を作りなさいってことよ!」
なるほど、でもなぜ急に?
「あなた、決して私たちがあなたの料理を食べたいから言ってるわけじゃないからね!舞花様に「仕事に一生懸命なのはいいけれど、体調を崩さないようにね」と言われたからよ!」
「あぁ、はい。承知しました。」
なるほど、彼女はとってもツンとしていてデレってしている性格だった。
午前の仕事を終え、侍女たちの昼餉を作る時間になった。
(さ〜て。何を作ろうかな)
せっかくだし、莉星の得意料理、[漢字]麻婆豆腐[/漢字][ふりがな]マーボードーフ[/ふりがな]を作ることにした。
まずは、[漢字]揚焼鍋[/漢字][ふりがな]ようしょうなべ[/ふりがな]に油、[漢字]人肉[/漢字][ふりがな]ニンニク[/ふりがな]、生姜、[漢字]葱[/漢字][ふりがな]ネギ[/ふりがな]、赤唐辛子を入れ弱火で油に香りを移す。焦げないように要注意だ。この時点で、香り高い人肉などの匂いがしてきて、どんどん腹が減ってくる。
さらに香りが立ってきたら、挽肉を加え、少し火力を上げる。
[斜体]ジュージュー[/斜体]
こんな音がしてきたら、キラキラ輝く肉汁が出てきて、つい莉星の腹から「ぎゅ〜」と音が鳴ってしまった。
肉がしっかり炒まってきたので、[漢字]豆豉醤[/漢字][ふりがな]トウチジャン[/ふりがな]、[漢字]豆板醤[/漢字][ふりがな]トウバンジャン[/ふりがな]、[漢字]醤[/漢字][ふりがな]ジャン[/ふりがな]、[漢字]紹興酒[/漢字][ふりがな]しょうこうしゅ[/ふりがな]、鶏の出汁を入れ、主役の豆腐も入れる。
煮立ってくると、出汁が効いたようで、いい匂いが漂ってきた。
後ろを見てみると、侍女たちがチラリとこちらを覗いていた。
だんだん煮立ってきた頃、さらに調味料を入れる。
特に、砂糖が重要だ。高価なものだが、ほんの少しだけだし、宮廷なんだから大丈夫だよね、という考えのもと砂糖を掬って入れる。砂糖を入れることでコクが生まれるのだ。
次に、水溶き片栗粉を混ぜながら入れる。
そして、器に盛り、葱、[漢字]花椒[/漢字][ふりがな]ホワジャオ[/ふりがな]をふって完成だ。
米と麻婆豆腐を[漢字]卓[/漢字][ふりがな]テーブル[/ふりがな]に人数分並べ、侍女達を呼ぶ。
みんなが席に着き、手を合わせた後、箸を取る。
やはり、みんな真っ先に麻婆豆腐に箸を伸ばした。
『⁉︎』
3人全員が驚いた表情を浮かべて麻婆豆腐と白飯を交互に黙々と食べる。
莉星も麻婆豆腐を口に運ぶ。やはり出来立てなので、辛味と旨味の匂いが漂う。口の中ではピリッとした辛味があって美味い。
全体的に一体感が出ていて上手く味がまとまっている。
(麻婆豆腐はやっぱり美味い)
莉星も黙々と食べていると、藍夏が声を出した。
「やっぱり美味いわね。あなた、宮廷料理人にでもなれるんじゃない?」
その意外な言葉にびっくりする。すると、双夏が、
「えぇそうね。そりゃぁ舞花様が気にいるわけだわ。」
「舞花様も莉星さんも凄いです!」
皆口々に料理を褒めてくれた。
「そうねぇせっかくだし、莉星と私たち、呼び捨てで話しましょ。」
「いいわね藍夏姉さん。」
「いいんですか?」
正直いきなりの展開にびっくりしている。
「私も賛成です!」
最後に麻豊も賛成した。
「じゃあ、決まりね。莉星!」
「うん、藍夏。」
[水平線]
[宦官視点]
自分は皇帝付きの宦官、[漢字]孔達[/漢字][ふりがな]コウダ[/ふりがな]だ。
先ほど帝は、舞音宮から内廷に戻ってこられたそうだ。
「おかえりなさいませ。主上、舞花妃はどうでしたか?」
1番重要なことなので、孔達は率直に聞く。
「初めましてな感じの妃で、話しやすかったな。」
「お気に召したようで何よりでございます。」
良かった、ようやく気に入った妃が見つかったようだ。
帝は数え28歳。で即位8年。そろそろ10年を迎えるので、なんとか妃たちに男児を産んで欲しいと思うがなかなか上手くいかない。
だが、悩む孔達を横目に、帝は楽しそうな表情をしていた。
「……どうなされました?」
「あぁ、舞花の侍女に美味い料理を作るものがいてな。」
なるほど。それにしても帝が美味いと言う料理なんてどういうものだろう。
さぁて、寵妃に料理の腕がいい侍女、これから舞音宮をどのように支援しよう。
物凄く緊張しているが、部屋の隅っこで、[漢字]莉星[/漢字][ふりがな]リーシン[/ふりがな]はただただその様子を見るしかない。
(本当に、本当に、どうなるんだ…)
ゴクリと喉で唾をのむ。
だが、次の瞬間、主上の表情が緩んだ。
だが、安心したのも束の間、主上が口を開けて言った。
「今回の夕餉作りを担当したのは誰だ?」
(これどっちの反応かわからないんですけれど…)
だが、主上が言った言葉を無視できない。ということで、[漢字]舞花[/漢字][ふりがな]マイファ[/ふりがな]妃が言葉を発した。
「あちらにいる侍女の[漢字]王莉星[/漢字][ふりがな]ワンリーシン[/ふりがな]です。」
「ほうほうそなたか。」
主上が少し楽しそうな声で舞花妃の言葉に答えた。
その後、舞花妃と主上は楽しそうに談笑して、私の料理も気に入ってくださったので、どうにか今回は上手くいったそうだ。
(ふー。良かったぁ。舞花様も料理も気に入ってくれたみたいだし。)
今日はもう遅く、これ以上起きていてもやることがないので、とりあえず寝ることにした。
朝、戸をドンドン叩く音と、「ちょっと、莉星さん!」と、[漢字]藍夏[/漢字][ふりがな]ランシァ[/ふりがな]か[漢字]双夏[/漢字][ふりがな]ソウシァ[/ふりがな]かどちらかの声が聞こえた。
(まだどっちがどっちか判別ついてなくてごめんなさい。)
そう思いつつ、戸を開けると、むすっとした双夏が居た。さすがに姿を見れば莉星も区別が付く。
「双夏様、こんな朝早くにどうされました?」
「私は藍夏よ。双夏とは全然違うわ。」
「あ、失礼しました。」
「まぁいいわ。あまり日が経ってないし、ちょっとずつちゃんと覚えてね。」
(あれ、優しい。)
そう意外に思っていると、またまた意外に思う発言をした。
「あなた、料理が得意なのね。」
「えぇ、まぁここに来る前は食堂を営んでいましたし。」
「あら、それなら尚のことね。て、ことだから…」
「だから?」
ちょっと藍夏が恥ずかしげな表情を浮かべている。
「私たち侍女の今日の昼餉を作りなさい!」
「?」
頭がまだ理解できていない。
「だ・か・ら!私と双夏と[漢字]麻豊[/漢字][ふりがな]マーフォン[/ふりがな]の分の昼餉を作りなさいってことよ!」
なるほど、でもなぜ急に?
「あなた、決して私たちがあなたの料理を食べたいから言ってるわけじゃないからね!舞花様に「仕事に一生懸命なのはいいけれど、体調を崩さないようにね」と言われたからよ!」
「あぁ、はい。承知しました。」
なるほど、彼女はとってもツンとしていてデレってしている性格だった。
午前の仕事を終え、侍女たちの昼餉を作る時間になった。
(さ〜て。何を作ろうかな)
せっかくだし、莉星の得意料理、[漢字]麻婆豆腐[/漢字][ふりがな]マーボードーフ[/ふりがな]を作ることにした。
まずは、[漢字]揚焼鍋[/漢字][ふりがな]ようしょうなべ[/ふりがな]に油、[漢字]人肉[/漢字][ふりがな]ニンニク[/ふりがな]、生姜、[漢字]葱[/漢字][ふりがな]ネギ[/ふりがな]、赤唐辛子を入れ弱火で油に香りを移す。焦げないように要注意だ。この時点で、香り高い人肉などの匂いがしてきて、どんどん腹が減ってくる。
さらに香りが立ってきたら、挽肉を加え、少し火力を上げる。
[斜体]ジュージュー[/斜体]
こんな音がしてきたら、キラキラ輝く肉汁が出てきて、つい莉星の腹から「ぎゅ〜」と音が鳴ってしまった。
肉がしっかり炒まってきたので、[漢字]豆豉醤[/漢字][ふりがな]トウチジャン[/ふりがな]、[漢字]豆板醤[/漢字][ふりがな]トウバンジャン[/ふりがな]、[漢字]醤[/漢字][ふりがな]ジャン[/ふりがな]、[漢字]紹興酒[/漢字][ふりがな]しょうこうしゅ[/ふりがな]、鶏の出汁を入れ、主役の豆腐も入れる。
煮立ってくると、出汁が効いたようで、いい匂いが漂ってきた。
後ろを見てみると、侍女たちがチラリとこちらを覗いていた。
だんだん煮立ってきた頃、さらに調味料を入れる。
特に、砂糖が重要だ。高価なものだが、ほんの少しだけだし、宮廷なんだから大丈夫だよね、という考えのもと砂糖を掬って入れる。砂糖を入れることでコクが生まれるのだ。
次に、水溶き片栗粉を混ぜながら入れる。
そして、器に盛り、葱、[漢字]花椒[/漢字][ふりがな]ホワジャオ[/ふりがな]をふって完成だ。
米と麻婆豆腐を[漢字]卓[/漢字][ふりがな]テーブル[/ふりがな]に人数分並べ、侍女達を呼ぶ。
みんなが席に着き、手を合わせた後、箸を取る。
やはり、みんな真っ先に麻婆豆腐に箸を伸ばした。
『⁉︎』
3人全員が驚いた表情を浮かべて麻婆豆腐と白飯を交互に黙々と食べる。
莉星も麻婆豆腐を口に運ぶ。やはり出来立てなので、辛味と旨味の匂いが漂う。口の中ではピリッとした辛味があって美味い。
全体的に一体感が出ていて上手く味がまとまっている。
(麻婆豆腐はやっぱり美味い)
莉星も黙々と食べていると、藍夏が声を出した。
「やっぱり美味いわね。あなた、宮廷料理人にでもなれるんじゃない?」
その意外な言葉にびっくりする。すると、双夏が、
「えぇそうね。そりゃぁ舞花様が気にいるわけだわ。」
「舞花様も莉星さんも凄いです!」
皆口々に料理を褒めてくれた。
「そうねぇせっかくだし、莉星と私たち、呼び捨てで話しましょ。」
「いいわね藍夏姉さん。」
「いいんですか?」
正直いきなりの展開にびっくりしている。
「私も賛成です!」
最後に麻豊も賛成した。
「じゃあ、決まりね。莉星!」
「うん、藍夏。」
[水平線]
[宦官視点]
自分は皇帝付きの宦官、[漢字]孔達[/漢字][ふりがな]コウダ[/ふりがな]だ。
先ほど帝は、舞音宮から内廷に戻ってこられたそうだ。
「おかえりなさいませ。主上、舞花妃はどうでしたか?」
1番重要なことなので、孔達は率直に聞く。
「初めましてな感じの妃で、話しやすかったな。」
「お気に召したようで何よりでございます。」
良かった、ようやく気に入った妃が見つかったようだ。
帝は数え28歳。で即位8年。そろそろ10年を迎えるので、なんとか妃たちに男児を産んで欲しいと思うがなかなか上手くいかない。
だが、悩む孔達を横目に、帝は楽しそうな表情をしていた。
「……どうなされました?」
「あぁ、舞花の侍女に美味い料理を作るものがいてな。」
なるほど。それにしても帝が美味いと言う料理なんてどういうものだろう。
さぁて、寵妃に料理の腕がいい侍女、これから舞音宮をどのように支援しよう。