食堂の若女将、宮廷出仕する
[小文字]「ねぇねぇあの子が侍女?しかも[漢字]舞花[/漢字][ふりがな]マイファ[/ふりがな]様のお食事を作るの?」
「そうよねぇ姉さん。舞花様が言ったなら従うけどさ…毒を盛られたらどうするのかしら…」
「ちょっと!お二人とも落ち着いてください」
『………』[/小文字]
どうやら、[漢字]藍夏[/漢字][ふりがな]ランシァ[/ふりがな]と[漢字]双夏[/漢字][ふりがな]ソウシァ[/ふりがな]は姉妹のようで、私が気に入らないので、2人でしょっちゅうぐちぐち言っている。一方[漢字]麻豊[/漢字][ふりがな]マーフォン[/ふりがな]は、侍女頭の子供だそうで、母に似たのか大人しく、よく2人を窘めていた。
(そういえば、今日の夕餉からは私が作るんだったな。)
私は今日の大仕事に集中しなくてはならず、あまり気にしていなかった。
今日は、初めて帝が[漢字]舞音宮[/漢字][ふりがな]マイオンきゅう[/ふりがな]に訪れる日だ。そんな日の夕餉作りを頼まれてしまったのだ。いつも通りやればいつもだったら上手くいったはずだったが、正直今回は、帝に気に入ってもらえるかわからない。
なぜなら…
(今まで庶民向けに作って来たからどうなのかなぁ…)
1人の人が料理を美味いと言っても全員が気にいるかどうかなんてわからないのだ。しかも舌が肥えているお方なら尚のこと。
そう不安を感じつつも、調理室へ入っていくのだった。
中へ入った後、渡された書き付けを読んだ。
(1番重要な料理は[漢字]北京鴨[/漢字][ふりがな]ペキンダック[/ふりがな]かな)
北京鴨とは、鴨肉1匹分を丸ごと焼き上げ、[漢字]薄餅[/漢字][ふりがな]バオピン[/ふりがな]で包んで食べるものだ。
一度は確か作ったことはあると思うが、正直上手くいく確証はないのである。
まずは、鴨に空気を入れて膨らませる。これをすることで、皮がパリッと焼き上がる。北京鴨はいかにしてパリッと焼き上げるかが重要になってくるので、ちゃんと膨らませなければならない。
鴨が可哀想って言ったって、主上に出すので、ちゃんとした一品でなければ、最悪莉星の首と胴がさようならしてしまう。
まだまだパリッとさせるための工程はまだまだ続く。
鴨に熱湯をかけて、水飴を薄く塗る。そして、しばらく乾燥させる。これが時間がかかるので、野菜の準備をする。
[漢字]胡瓜[/漢字][ふりがな]キュウリ[/ふりがな]や[漢字]葱[/漢字][ふりがな]ネギ[/ふりがな]を切っておく。
(乾燥し終わったかな)
水が垂れてこなくなったら、肛門に栓をする。こうすることで、旨味が外へ出ていかなくなる。
そして、釜だ。中が空洞になっていて、その中に鴨を入れる。
250度に熱して、鴨を焼いていく。重要なのは、時間を正確に測って、全体的にムラなく焼き上げることだ。
鴨を焼いている間に薄餅作りだ。
中力粉に水を加え、耳たぶぐらいの硬さまでこねる。そうしたら、手の平で薄くなるよう潰す。均等な厚さになるようにしなければいけない。
そうしたら、薄餅に油を塗り、油を塗っていない薄餅と重ね、綿棒で厚さ2ミリになるまで伸ばす。次に、[漢字]揚焼鍋[/漢字][ふりがな]ようしょうなべ[/ふりがな]に油を敷かずに薄餅を焼く。焦げ目がつかないよう気をつけながら焼く。斑点が付いたら、揚焼鍋から出し、2枚から1枚に剥がす。
薄餅を作り終えたら、次に鴨だ。
鴨は、全体が焼き上がり、黄金色になった頃がちょうど良い。
肉がテカテカ輝いていて、特に味付けをまだしていないが、すでに食欲をそそる見た目をしていた。
(両親が役人さんたちに出す料理として作ってたやつ、ちょっと鴨肉をつまみ食いしちゃったことがあったんだよなぁ…)
まぁ別に害もなかったので、大丈夫でしょ、と今も思っている。
釜から肉を出したら、肛門の栓を抜く。
栓が抜けたら、皮と肉の部分を手際よく薄く切っていく。
(余った本体の部分は、[漢字]羹[/漢字][ふりがな]スープ[/ふりがな]に使おうっと)
無駄な部分をなるべく出さないようにするのが莉星[漢字]様式[/漢字][ふりがな]スタイル[/ふりがな]だ。それは宮中でも変えたくはない。
タレは、蜂蜜、[漢字]甜麺醤[/漢字][ふりがな]テンメンジャン[/ふりがな]、[漢字]五香粉[/漢字][ふりがな]ウーシャンフェン[/ふりがな]、[漢字]醤[/漢字][ふりがな]ジャン[/ふりがな]を混ぜ合わせたものだ。香辛料が入っているので、甘い香りなど、特徴的な匂いも感じる。
甜麺醤が入っているので、香ばしい匂いもするので、ますます食欲が増して来た。
最後に盛り付けだ。
薄餅にタレ、鴨肉、葱、胡瓜を見栄え良く載せる。流石に量が多いので、尚食の下女たちに頼み、羹や副菜などに取り掛かった。
3時間ほど経った頃、料理も完成し、主人がやって来た。
私含め、侍女たちは緊張している。まだ周りを見れている分、莉星は大人しい方なのかもしれない。
しばらく妃と主人が談笑した後、食事が運ばれて来た。
(来た)
莉星はごくりと唾をのむ。
周りの侍女は毒を入れたんじゃないかと、鋭い目線を送っている。
そんなことより、
(お味はどうでしょう…)
主人が、北京鴨をひとつ、口に運んだ。
「そうよねぇ姉さん。舞花様が言ったなら従うけどさ…毒を盛られたらどうするのかしら…」
「ちょっと!お二人とも落ち着いてください」
『………』[/小文字]
どうやら、[漢字]藍夏[/漢字][ふりがな]ランシァ[/ふりがな]と[漢字]双夏[/漢字][ふりがな]ソウシァ[/ふりがな]は姉妹のようで、私が気に入らないので、2人でしょっちゅうぐちぐち言っている。一方[漢字]麻豊[/漢字][ふりがな]マーフォン[/ふりがな]は、侍女頭の子供だそうで、母に似たのか大人しく、よく2人を窘めていた。
(そういえば、今日の夕餉からは私が作るんだったな。)
私は今日の大仕事に集中しなくてはならず、あまり気にしていなかった。
今日は、初めて帝が[漢字]舞音宮[/漢字][ふりがな]マイオンきゅう[/ふりがな]に訪れる日だ。そんな日の夕餉作りを頼まれてしまったのだ。いつも通りやればいつもだったら上手くいったはずだったが、正直今回は、帝に気に入ってもらえるかわからない。
なぜなら…
(今まで庶民向けに作って来たからどうなのかなぁ…)
1人の人が料理を美味いと言っても全員が気にいるかどうかなんてわからないのだ。しかも舌が肥えているお方なら尚のこと。
そう不安を感じつつも、調理室へ入っていくのだった。
中へ入った後、渡された書き付けを読んだ。
(1番重要な料理は[漢字]北京鴨[/漢字][ふりがな]ペキンダック[/ふりがな]かな)
北京鴨とは、鴨肉1匹分を丸ごと焼き上げ、[漢字]薄餅[/漢字][ふりがな]バオピン[/ふりがな]で包んで食べるものだ。
一度は確か作ったことはあると思うが、正直上手くいく確証はないのである。
まずは、鴨に空気を入れて膨らませる。これをすることで、皮がパリッと焼き上がる。北京鴨はいかにしてパリッと焼き上げるかが重要になってくるので、ちゃんと膨らませなければならない。
鴨が可哀想って言ったって、主上に出すので、ちゃんとした一品でなければ、最悪莉星の首と胴がさようならしてしまう。
まだまだパリッとさせるための工程はまだまだ続く。
鴨に熱湯をかけて、水飴を薄く塗る。そして、しばらく乾燥させる。これが時間がかかるので、野菜の準備をする。
[漢字]胡瓜[/漢字][ふりがな]キュウリ[/ふりがな]や[漢字]葱[/漢字][ふりがな]ネギ[/ふりがな]を切っておく。
(乾燥し終わったかな)
水が垂れてこなくなったら、肛門に栓をする。こうすることで、旨味が外へ出ていかなくなる。
そして、釜だ。中が空洞になっていて、その中に鴨を入れる。
250度に熱して、鴨を焼いていく。重要なのは、時間を正確に測って、全体的にムラなく焼き上げることだ。
鴨を焼いている間に薄餅作りだ。
中力粉に水を加え、耳たぶぐらいの硬さまでこねる。そうしたら、手の平で薄くなるよう潰す。均等な厚さになるようにしなければいけない。
そうしたら、薄餅に油を塗り、油を塗っていない薄餅と重ね、綿棒で厚さ2ミリになるまで伸ばす。次に、[漢字]揚焼鍋[/漢字][ふりがな]ようしょうなべ[/ふりがな]に油を敷かずに薄餅を焼く。焦げ目がつかないよう気をつけながら焼く。斑点が付いたら、揚焼鍋から出し、2枚から1枚に剥がす。
薄餅を作り終えたら、次に鴨だ。
鴨は、全体が焼き上がり、黄金色になった頃がちょうど良い。
肉がテカテカ輝いていて、特に味付けをまだしていないが、すでに食欲をそそる見た目をしていた。
(両親が役人さんたちに出す料理として作ってたやつ、ちょっと鴨肉をつまみ食いしちゃったことがあったんだよなぁ…)
まぁ別に害もなかったので、大丈夫でしょ、と今も思っている。
釜から肉を出したら、肛門の栓を抜く。
栓が抜けたら、皮と肉の部分を手際よく薄く切っていく。
(余った本体の部分は、[漢字]羹[/漢字][ふりがな]スープ[/ふりがな]に使おうっと)
無駄な部分をなるべく出さないようにするのが莉星[漢字]様式[/漢字][ふりがな]スタイル[/ふりがな]だ。それは宮中でも変えたくはない。
タレは、蜂蜜、[漢字]甜麺醤[/漢字][ふりがな]テンメンジャン[/ふりがな]、[漢字]五香粉[/漢字][ふりがな]ウーシャンフェン[/ふりがな]、[漢字]醤[/漢字][ふりがな]ジャン[/ふりがな]を混ぜ合わせたものだ。香辛料が入っているので、甘い香りなど、特徴的な匂いも感じる。
甜麺醤が入っているので、香ばしい匂いもするので、ますます食欲が増して来た。
最後に盛り付けだ。
薄餅にタレ、鴨肉、葱、胡瓜を見栄え良く載せる。流石に量が多いので、尚食の下女たちに頼み、羹や副菜などに取り掛かった。
3時間ほど経った頃、料理も完成し、主人がやって来た。
私含め、侍女たちは緊張している。まだ周りを見れている分、莉星は大人しい方なのかもしれない。
しばらく妃と主人が談笑した後、食事が運ばれて来た。
(来た)
莉星はごくりと唾をのむ。
周りの侍女は毒を入れたんじゃないかと、鋭い目線を送っている。
そんなことより、
(お味はどうでしょう…)
主人が、北京鴨をひとつ、口に運んだ。