この世にはかつて吸血鬼が存在した。初めは気の合う人間と誓いを結び、恋人になった者の血を飲むというような平和な関係を築けていた。しかしとある年から吸血鬼は暴走をし始めた。皆は恐れた。そんな吸血鬼を。



ここは[漢字]天乃[/漢字][ふりがな]あまの[/ふりがな]地区。そして僕の名は[漢字]天乃　白希[/漢字][ふりがな]あまの　しらき[/ふりがな]。名前が同じだ。偶々なんかじゃない。これは僕が生まれた年、20年前のことに関係する。


「もうすぐそこまで来てるぞ！！！」
「嫌だ、、嫌だ！！！！」
後に天乃地区へと名を変えるここ、翠楽地区の夜中。吸血鬼の大群がここを襲った。町中叫び声と泣き声が飛び交った。

[大文字]「もうおしまいだぁっ！！！！」[/大文字]
誰かがそう叫んだ時。とある家から可愛らしい泣き声が聞こえた。

「ふぇっ、、ふぇっ」
赤子が産まれたらしい。住民は思う。
なんて可哀想なときに産まれてしまったのだ。もうこの街はお終いだというのに。

しかしその赤子は神様の加護を受けていた。
所謂天使だったのだ。

「、、、、うーぁー？あひゃっ」
赤子が笑った。その時、吸血鬼は血相を変えて逃げていった。
住民はその赤子を讃えた。この子のおかげで助かった。天使様だ、と。

天使様も全てを持ち合わせているわけではなかった。数年後、天使様の両親が亡くなったのだ。
住民は次々にこう呟いた。

「我々を助けてくださった代償で。」

天使の名は白希。白い希望を持つ子になってほしいと、両親が産まれる前から決めていたらしい。
白希はその後、天乃[漢字]礼華[/漢字][ふりがな]れいか[/ふりがな]、天乃[漢字]魁星[/漢字][ふりがな]かいせい[/ふりがな]の夫婦に引き取られた。
そんな彼に敬意を込めてここの名を天乃地区へと変えた。
今も天乃地区へ居てくださる天使様、白希様のおかげでここは平和だ。


おとぎ話の様だ。僕は天使なんかじゃない。そう思うのだが住民の所為でどうしてもそう思えなくなった。自分は天使だと思わざるおえなかった。外に出るたびに「白希様」「天使様」と言われる。

そんな住民に嫌気がさした僕はとうとう家から出なくなった。

両親の礼華と魁星は何も言わない。僕に寄り添ってくれる。天使とも、すごい子だとも扱わず、本当の子供として接してくれる。まあ魁星が元ヤグザらしいからそうと言われても納得できる。

あぁ。今日も平和な朝を迎えれた。