二次創作
転生したら愛された件について【sha】
◤sha視点◢
真っ黒な意識の中で、誰かの声が、水を通したように濁って聞こえた。
誰の声だろう…?
気になるし、誰なのか分かりたいけど、そんなことすら考えられないくらい頭が痛かった。だんだんと、それに重ねてジジッとノイズがかかって来ている。
あえなくさらに深く、意識を落とした。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「マジありえない」
「最低」
「シャオロンくんてそんなことするんだね」
「シャオちゃん嘘よな…?」
「シャオさん、さすがにかばえないっすよ」
「ごめん、もう話しかけんといて、シャオロン」
「そんなやつやったんやな。シャオさん」
幾重にも重なって、聞こえた声。懐かしい声たちに乗せて告げられたのは拒絶。聞き覚えがあった。ありすぎた、セリフ。
いつの間にか頭痛は全く消えていて、真っ白な空間に立っていた。遠く向こうに、何人もの人影。
ああ。高校の時の───
そう理解した瞬間、景色が変わった。並べられた机と椅子、黒板。
「学校…」
「最低!」
女子の高い声。誰かのすすり泣く声。
そして、親友たちからの、拒絶。
俺にトラウマを植え付けて、何もかも奪っていった、忌々しい記憶。
[大文字]本当のこと、知らないくせに。
[/大文字]
簡単に騙された親友たちに怒りさえ湧いていた。何秒たりとも長く、ここに居たくない。
ノイズがひどくなってきた。それとともに頭痛も蘇ってきて、吐き気を催した。
・ ──────── ✾ ──────── ・
次に見えたのは、愛想笑いを浮かべた俺と、その周りにいたトモダチだった。
大学生くらいの俺の、作り笑い。意外と上手くできてたんだ。
安心すると同時に、虚しかった。下唇を噛む。
ジジッ
視界をノイズが埋め尽くし、引いていくと、そこはオフィスだった。
「いやー、そうなんよね」
「シャオロンさんヤバ〜!」
「前から思ってましたけど、シャオロンさんってすごいですよね」
「それな! なんでもできますし」
「めっちゃ明るくて優しいじゃないですかぁ!」
「褒めてもなんにも出ないで〜?」
社員たちに囲まれて、さらに上手になった笑みを浮かべて。ただただ苦しいだけの日々。
薄くかかったノイズが突如ぶわりと広がって、また意識が遠のいていった。
・ ──────── ✾ ──────── ・
雨の音。
強く光る車のライト。
びっくりするくらい、冷静で、虚しい顔をした俺。その横顔は最期まで、感情が欠落していた。
[太字] 最後にちゃんと笑えたのは、いつだっけ。
[/太字]
また、暗転。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「ほんま、最低よな、こいつら」
「えっ」
膜を通して聞こえていた声が、クリアな声によって遮られる。
反射的に横を見ても、そこには誰もいなかった。
「怒らへんの?」
どこか聞き覚えがある三人の声が、合成されて聞こえているかのような。そんな声たちに、聞かれた。少し怯えているように震えている、声。
怒らない?
なんで、俺は…。
そっか。
俺はずっと───
「怒りたかったよ」
怒りたかったんだ。
ずっと前から。愛想笑いを貼り付けた日から、ずうっと。
潤んだ視界を見てやっと理解した。泣いてる。感情が欠落していた自分から、久しぶりに溢れ出した確かな感情。
怒れないよ、お前らには。俺はどうしようもないくらい、臆病で、お人好しだから。
でも、一つ願いが叶うなら。
「俺のこと、忘れんといてや」
〝声〟に願う。
今は、まだ
「それで十分だから」
揺らいだ空気に、彼らは消えたのだと分かった。
「ねえ、怒りたかったなら、助けてよ」
がっと襟を掴まれて後ろに引っ張られる。自分の声で、でも絶対に自分じゃない声の主に。
意識が、闇に堕ちる。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「近づかないでよ、奴隷のくせに」
努めて冷たい声。でも、俺には分かってしまった、偽りの冷たさ。
俺が数ヶ月過ごした王宮の部屋。その隅にじりっと下がったアメシスト。
怯えと怒りが入り混じった瞳には、俺が今まで見た輝きも喜びも、なかった。
「はあ…」
〝俺〟から紡ぎ出された、疲れたようなため息と同時に、真っ白に視界が塗りつぶされる。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「初めてまして、わたくし、アリア・グリフィンと申します」
「はじめまして。私はシャオロン・アンバーです。よろしく」
美男美女の集い。そう称するのが正しいと思う。
金髪に碧眼と、コルク色にシトリンの子どもふたり。
いずれも幼いが、俺には分かった。漫画の世界の、アリアとシャオロンだ。でも、ふたりはこんな幼い頃に会ったことはないはず。
いや、違う。原作に描かれていないだけで、確かに会っていたのだ。貴族の娘と王子として。ここが、物語の始まりだった。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「はじめまして〜、君がロボロさんとゾムさん?」
「えっ、そうですけど…」
「!? 王子様…?」
「やだなぁ。年変わんないじゃん、敬語やめてよ」
「え、あ、はい…じゃなくて。うん」
「王子様呼び禁止、俺はシャオロン」
「よろしく」
楽しげに笑い合う、三人。まだ幼い頃、原作では描かれていないところで、ロボロとゾムにも面識があったのか…。
じゃあ、なんで…。
なんで、俺は、俺は…シャオロンは
[大文字][太字][明朝体]殺されたんだ…?
[/明朝体][/太字][/大文字]
ここまで温厚なシャオロンが、なぜショッピくんやアリアをいじめる必要があった?
おかしい、どこかが、おかしい…。
「俺も、そっちの俺も、彼女に怒ることができたら、よかったのにね」
クリアな声とともに、この意識の世界の終わりが告げられる。
「上手くいくといいね。ばいばい」
・ ──────── ✾ ──────── ・
◤zm視点◢
「っっは」
ガバっと、眠っていたシャオロンが飛び起きる。心做した青い顔色に、なにか悪夢でも見たのかと心配になる。
「シャオさん!」
ショッピくんが真っ先に彼に近づく。
[斜体][太字]ぱんっ
[/太字][/斜体]
伸ばした手が、拒絶される。ほかでもない、シャオロンに。
「シャオ、ロン…?」
ロボロのかすれた声に、やっとシャオロンは顔を上げた。ぐるぐると、闇と困惑が渦巻く琥珀。
「なんで、」
確かに、紡がれた音。
部屋には、静寂が張り詰めていた。
真っ黒な意識の中で、誰かの声が、水を通したように濁って聞こえた。
誰の声だろう…?
気になるし、誰なのか分かりたいけど、そんなことすら考えられないくらい頭が痛かった。だんだんと、それに重ねてジジッとノイズがかかって来ている。
あえなくさらに深く、意識を落とした。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「マジありえない」
「最低」
「シャオロンくんてそんなことするんだね」
「シャオちゃん嘘よな…?」
「シャオさん、さすがにかばえないっすよ」
「ごめん、もう話しかけんといて、シャオロン」
「そんなやつやったんやな。シャオさん」
幾重にも重なって、聞こえた声。懐かしい声たちに乗せて告げられたのは拒絶。聞き覚えがあった。ありすぎた、セリフ。
いつの間にか頭痛は全く消えていて、真っ白な空間に立っていた。遠く向こうに、何人もの人影。
ああ。高校の時の───
そう理解した瞬間、景色が変わった。並べられた机と椅子、黒板。
「学校…」
「最低!」
女子の高い声。誰かのすすり泣く声。
そして、親友たちからの、拒絶。
俺にトラウマを植え付けて、何もかも奪っていった、忌々しい記憶。
[大文字]本当のこと、知らないくせに。
[/大文字]
簡単に騙された親友たちに怒りさえ湧いていた。何秒たりとも長く、ここに居たくない。
ノイズがひどくなってきた。それとともに頭痛も蘇ってきて、吐き気を催した。
・ ──────── ✾ ──────── ・
次に見えたのは、愛想笑いを浮かべた俺と、その周りにいたトモダチだった。
大学生くらいの俺の、作り笑い。意外と上手くできてたんだ。
安心すると同時に、虚しかった。下唇を噛む。
ジジッ
視界をノイズが埋め尽くし、引いていくと、そこはオフィスだった。
「いやー、そうなんよね」
「シャオロンさんヤバ〜!」
「前から思ってましたけど、シャオロンさんってすごいですよね」
「それな! なんでもできますし」
「めっちゃ明るくて優しいじゃないですかぁ!」
「褒めてもなんにも出ないで〜?」
社員たちに囲まれて、さらに上手になった笑みを浮かべて。ただただ苦しいだけの日々。
薄くかかったノイズが突如ぶわりと広がって、また意識が遠のいていった。
・ ──────── ✾ ──────── ・
雨の音。
強く光る車のライト。
びっくりするくらい、冷静で、虚しい顔をした俺。その横顔は最期まで、感情が欠落していた。
[太字] 最後にちゃんと笑えたのは、いつだっけ。
[/太字]
また、暗転。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「ほんま、最低よな、こいつら」
「えっ」
膜を通して聞こえていた声が、クリアな声によって遮られる。
反射的に横を見ても、そこには誰もいなかった。
「怒らへんの?」
どこか聞き覚えがある三人の声が、合成されて聞こえているかのような。そんな声たちに、聞かれた。少し怯えているように震えている、声。
怒らない?
なんで、俺は…。
そっか。
俺はずっと───
「怒りたかったよ」
怒りたかったんだ。
ずっと前から。愛想笑いを貼り付けた日から、ずうっと。
潤んだ視界を見てやっと理解した。泣いてる。感情が欠落していた自分から、久しぶりに溢れ出した確かな感情。
怒れないよ、お前らには。俺はどうしようもないくらい、臆病で、お人好しだから。
でも、一つ願いが叶うなら。
「俺のこと、忘れんといてや」
〝声〟に願う。
今は、まだ
「それで十分だから」
揺らいだ空気に、彼らは消えたのだと分かった。
「ねえ、怒りたかったなら、助けてよ」
がっと襟を掴まれて後ろに引っ張られる。自分の声で、でも絶対に自分じゃない声の主に。
意識が、闇に堕ちる。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「近づかないでよ、奴隷のくせに」
努めて冷たい声。でも、俺には分かってしまった、偽りの冷たさ。
俺が数ヶ月過ごした王宮の部屋。その隅にじりっと下がったアメシスト。
怯えと怒りが入り混じった瞳には、俺が今まで見た輝きも喜びも、なかった。
「はあ…」
〝俺〟から紡ぎ出された、疲れたようなため息と同時に、真っ白に視界が塗りつぶされる。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「初めてまして、わたくし、アリア・グリフィンと申します」
「はじめまして。私はシャオロン・アンバーです。よろしく」
美男美女の集い。そう称するのが正しいと思う。
金髪に碧眼と、コルク色にシトリンの子どもふたり。
いずれも幼いが、俺には分かった。漫画の世界の、アリアとシャオロンだ。でも、ふたりはこんな幼い頃に会ったことはないはず。
いや、違う。原作に描かれていないだけで、確かに会っていたのだ。貴族の娘と王子として。ここが、物語の始まりだった。
・ ──────── ✾ ──────── ・
「はじめまして〜、君がロボロさんとゾムさん?」
「えっ、そうですけど…」
「!? 王子様…?」
「やだなぁ。年変わんないじゃん、敬語やめてよ」
「え、あ、はい…じゃなくて。うん」
「王子様呼び禁止、俺はシャオロン」
「よろしく」
楽しげに笑い合う、三人。まだ幼い頃、原作では描かれていないところで、ロボロとゾムにも面識があったのか…。
じゃあ、なんで…。
なんで、俺は、俺は…シャオロンは
[大文字][太字][明朝体]殺されたんだ…?
[/明朝体][/太字][/大文字]
ここまで温厚なシャオロンが、なぜショッピくんやアリアをいじめる必要があった?
おかしい、どこかが、おかしい…。
「俺も、そっちの俺も、彼女に怒ることができたら、よかったのにね」
クリアな声とともに、この意識の世界の終わりが告げられる。
「上手くいくといいね。ばいばい」
・ ──────── ✾ ──────── ・
◤zm視点◢
「っっは」
ガバっと、眠っていたシャオロンが飛び起きる。心做した青い顔色に、なにか悪夢でも見たのかと心配になる。
「シャオさん!」
ショッピくんが真っ先に彼に近づく。
[斜体][太字]ぱんっ
[/太字][/斜体]
伸ばした手が、拒絶される。ほかでもない、シャオロンに。
「シャオ、ロン…?」
ロボロのかすれた声に、やっとシャオロンは顔を上げた。ぐるぐると、闇と困惑が渦巻く琥珀。
「なんで、」
確かに、紡がれた音。
部屋には、静寂が張り詰めていた。