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二次創作
転生したら愛された件について【sha】

#7

怒りたかったこと

◤sha視点◢

 真っ黒な意識の中で、誰かの声が、水を通したように濁って聞こえた。

誰の声だろう…?

 気になるし、誰なのか分かりたいけど、そんなことすら考えられないくらい頭が痛かった。だんだんと、それに重ねてジジッとノイズがかかって来ている。

 あえなくさらに深く、意識を落とした。

・ ──────── ✾ ──────── ・

「マジありえない」

「最低」

「シャオロンくんてそんなことするんだね」

「シャオちゃん嘘よな…?」

「シャオさん、さすがにかばえないっすよ」

「ごめん、もう話しかけんといて、シャオロン」

「そんなやつやったんやな。シャオさん」


 幾重にも重なって、聞こえた声。懐かしい声たちに乗せて告げられたのは拒絶。聞き覚えがあった。ありすぎた、セリフ。

 いつの間にか頭痛は全く消えていて、真っ白な空間に立っていた。遠く向こうに、何人もの人影。

 ああ。高校の時の───

 そう理解した瞬間、景色が変わった。並べられた机と椅子、黒板。

「学校…」

「最低!」

 女子の高い声。誰かのすすり泣く声。

そして、親友たちからの、拒絶。

 俺にトラウマを植え付けて、何もかも奪っていった、忌々しい記憶。


[大文字]本当のこと、知らないくせに。
[/大文字]

 簡単に騙された親友たちに怒りさえ湧いていた。何秒たりとも長く、ここに居たくない。

 ノイズがひどくなってきた。それとともに頭痛も蘇ってきて、吐き気を催した。

・ ──────── ✾ ──────── ・
 
 次に見えたのは、愛想笑いを浮かべた俺と、その周りにいたトモダチだった。

 大学生くらいの俺の、作り笑い。意外と上手くできてたんだ。

 安心すると同時に、虚しかった。下唇を噛む。

ジジッ

 視界をノイズが埋め尽くし、引いていくと、そこはオフィスだった。

「いやー、そうなんよね」

「シャオロンさんヤバ〜!」

「前から思ってましたけど、シャオロンさんってすごいですよね」

「それな! なんでもできますし」

「めっちゃ明るくて優しいじゃないですかぁ!」

「褒めてもなんにも出ないで〜?」

 社員たちに囲まれて、さらに上手になった笑みを浮かべて。ただただ苦しいだけの日々。

薄くかかったノイズが突如ぶわりと広がって、また意識が遠のいていった。

・ ──────── ✾ ──────── ・

 雨の音。

 強く光る車のライト。

 びっくりするくらい、冷静で、虚しい顔をした俺。その横顔は最期まで、感情が欠落していた。

[太字] 最後にちゃんと笑えたのは、いつだっけ。
[/太字]
また、暗転。

・ ──────── ✾ ──────── ・

「ほんま、最低よな、こいつら」

「えっ」

 膜を通して聞こえていた声が、クリアな声によって遮られる。

 反射的に横を見ても、そこには誰もいなかった。

「怒らへんの?」

 どこか聞き覚えがある三人の声が、合成されて聞こえているかのような。そんな声たちに、聞かれた。少し怯えているように震えている、声。

 怒らない?

 なんで、俺は…。

 そっか。

 俺はずっと───



「怒りたかったよ」

怒りたかったんだ。

ずっと前から。愛想笑いを貼り付けた日から、ずうっと。

 潤んだ視界を見てやっと理解した。泣いてる。感情が欠落していた自分から、久しぶりに溢れ出した確かな感情。

 怒れないよ、お前らには。俺はどうしようもないくらい、臆病で、お人好しだから。

でも、一つ願いが叶うなら。


「俺のこと、忘れんといてや」


 〝声〟に願う。

今は、まだ

「それで十分だから」

 揺らいだ空気に、彼らは消えたのだと分かった。

「ねえ、怒りたかったなら、助けてよ」

 がっと襟を掴まれて後ろに引っ張られる。自分の声で、でも絶対に自分じゃない声の主に。

意識が、闇に堕ちる。

・ ──────── ✾ ──────── ・

「近づかないでよ、奴隷のくせに」

 努めて冷たい声。でも、俺には分かってしまった、偽りの冷たさ。

 俺が数ヶ月過ごした王宮の部屋。その隅にじりっと下がったアメシスト。

 怯えと怒りが入り混じった瞳には、俺が今まで見た輝きも喜びも、なかった。

「はあ…」

〝俺〟から紡ぎ出された、疲れたようなため息と同時に、真っ白に視界が塗りつぶされる。

・ ──────── ✾ ──────── ・

「初めてまして、わたくし、アリア・グリフィンと申します」

「はじめまして。私はシャオロン・アンバーです。よろしく」

 美男美女の集い。そう称するのが正しいと思う。

 金髪に碧眼と、コルク色にシトリンの子どもふたり。

 いずれも幼いが、俺には分かった。漫画の世界の、アリアとシャオロンだ。でも、ふたりはこんな幼い頃に会ったことはないはず。

 いや、違う。原作に描かれていないだけで、確かに会っていたのだ。貴族の娘と王子として。ここが、物語の始まりだった。

・ ──────── ✾ ──────── ・

「はじめまして〜、君がロボロさんとゾムさん?」

「えっ、そうですけど…」

「!? 王子様…?」

「やだなぁ。年変わんないじゃん、敬語やめてよ」

「え、あ、はい…じゃなくて。うん」

「王子様呼び禁止、俺はシャオロン」

「よろしく」

 楽しげに笑い合う、三人。まだ幼い頃、原作では描かれていないところで、ロボロとゾムにも面識があったのか…。

 じゃあ、なんで…。

なんで、俺は、俺は…シャオロンは


[大文字][太字][明朝体]殺されたんだ…?
[/明朝体][/太字][/大文字]

 ここまで温厚なシャオロンが、なぜショッピくんやアリアをいじめる必要があった?

 おかしい、どこかが、おかしい…。

「俺も、そっちの俺も、彼女に怒ることができたら、よかったのにね」

 クリアな声とともに、この意識の世界の終わりが告げられる。

「上手くいくといいね。ばいばい」

・ ──────── ✾ ──────── ・

◤zm視点◢

「っっは」

ガバっと、眠っていたシャオロンが飛び起きる。心做した青い顔色に、なにか悪夢でも見たのかと心配になる。

「シャオさん!」

 ショッピくんが真っ先に彼に近づく。

[斜体][太字]ぱんっ
[/太字][/斜体]
 伸ばした手が、拒絶される。ほかでもない、シャオロンに。

「シャオ、ロン…?」

 ロボロのかすれた声に、やっとシャオロンは顔を上げた。ぐるぐると、闇と困惑が渦巻く琥珀。

「なんで、」

 確かに、紡がれた音。

 部屋には、静寂が張り詰めていた。

作者メッセージ

 お久しぶりです…期間延長した上に2日遅刻したばけねこです。

クズの極みですね。

その分クオリティは最大限でやっていきます。

大体2日開けて1話ずつ投稿していきます。約2000文字くらいの分量ですかね。

今のところ残りは全部で10話…20日かけて投稿か、やっべえな。

 以上です。シリアス続きですが、あと2話くらいでやっと愛され要素バンバン出てくる(はずです)。

2025/01/09 10:38

ばけねこ ID:≫ppBd7rNLoAd1k
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