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この作品は前作「能力者たちの詩編歌」の続編です。前作を見てない人はまずそちらを見てきてくれると話が理解しやすいと思います。
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希望に満てる知識欲

#5


その夜

アルト「おい、ソプラノ」
ソプラノ「何だよ」
アルト「お前の過去。そろそろ聞かせてくれてもいいだろ」

ソプラノ「…君もなかなかしつこいね」
アルト「こうして同棲までしてんだからそりゃあな。」
ソプラノ「幼いアルトにはまだ分からないよ」
アルト「すぐそう言う…今日こそは聞くからな?」
ソプラノ「はぁ…どうしてそこまでするんだ。君が聞いても得はないんだよ、わかるね?」

アルト「どうしてって…」

アルト「…心配してるから、とか言ったら「似合わない」って笑うんだろ?」

そう言うアルトは、薄く悪戯っぽく笑う。

ソプラノ「…お酒を一缶だけ持ってきてくれ。
こんな話、ちょっとでも酔って楽しくなきゃぁ、話してらんないからね」


『海風の血が流れてんだよお前には。』

「そうなの?」

『誇らしいことなんだぞ。兄弟もいないお前は特に血も濃い。選ばれし人間だ、奏』

海風ソプラノ。私は港町で生まれた。
私の一族は、代々灯台守をしていてね。

この世界の灯台守は、許可なく海里に侵入してくる不届き者を探し、始末する役割。
些細な能力の使用痕跡にもすぐ気づける洞察眼、そして不届き者を始末できる実力。
これらを兼ね備えていないと、到底その役職には就けないんだ。

当然、当時の灯台守だった父のたった一人の子である私には、
その職に就いてくれるであろうという期待がされていた。
自分しか就けない。ましてや男の子なのだから、
かっこいいヒーローのようなこの仕事には憧れるのが普通だろう。

でも、私は父に憧れなんてなかった。

それより、母に憧れていた。

母は有名な吟遊詩人だった。
それも神に対する詩編歌を歌う、昔ながらの。

私は母の歌声がすごく好きだったんだ。
母は父と仲が悪かったから、別居しててめったに会えなかったんだけれどね。

私が詩人を目指したのも、母がきっかけだった。

でも。

父はそれを許さなかった。
第一、父と母が仲たがいして別居した理由も、
父が考えた私が灯台守だけを目指すように、灯台守だけに憧れるように育てるための策略だったからね。

私を灯台守にする上で邪魔だった母の意見なんて、いつも通ってなかった。
母がどうしてもと言って付けたソプラノという名前だって、
父は嫌がった。だから、父にはいつも「奏」って呼ばれてたな。

それでも、どうにも私は母にばかり懐いていた。

ある満月の日。
灯台と港町の明かりが輝いていた。
海に写る光は揺らめいて。

父が私を母に会わせることを許さなくなった日だったんだけど、
その日はどうしても母に会いたくて、夜中の間に家を抜け出したんだ。
母の家から鈍い音が聞こえた気がして、窓を覗いたら。

[太字]父が母を殺していたんだ。[/太字]

あの日からもう、その夢しか見なくなった。
歌いながら歩いていても、ふと窓ガラスに映る自分は泣いている。

母を殺した父の元には居たくなかったから、
貯まっていたお金で電車に乗ってかなり遠くまで家出した。

養ってくれる保護者はいないけど、
誰も助けてくれないけど、
笑っていれば本心が隠せてしまうけど。
いつか平気になって、いつか幸せになるって信じてた。

家出した8年後、
のうのうと生きてたら大きくなった。
今日の食い扶持を探して公園を歩いてた。
虫でもいい、あの蝶は美味しかった。なにか生き物はいないかなって。

そしたら新聞が風に乗って飛んできて。暇だったから読んでみた。

やっと私の父が逮捕されたようだった。
そして、今更あの故郷の街の者が総出で私を探していると知った。

本当は助けてほしかったけど。怖くて故郷には行けなかった。
だってまた、故郷で灯台守としての生活を強いられると思うと怖かったから。

本当に必要な時に、誰も助けてくれなかったくせに。
少年の危険に気づけないほど幸せだった奴に、私の苦労が分かるかって。
私はずっと、何かを失い続けてここまで来たんだから。

同じく誰にも助けてもらえなかった友人…そう、アルト。君のこと。
良い出会いもして、二人で夢だった詩人やって…
言うと格好良すぎるけど、アルトに会ってから私は幸せなんだよ。

ソプラノ「…こうして、しつこく心配までしてくれるしね」
アルト「…当たり前。」

アルト「オレたちは周りが助けてくれなかった者同士だろ。なんとなく辛くなる時とか判るんだよ」

ソプラノ「…そうか。ありがとう」

もう一度言うけど、アルト、私は君に会えて、ようやくまだ生きてたいと思えたよ。


ありがとう。

このボタンは廃止予定です

作者メッセージ

前話に比べたこのボリューム量。
総文字数なんと1764文字。
まぁ過去回だから((
長いけどこの話重要なんで読んでほしい…お願いします((

2024/11/03 23:50

おとうふ ID:≫rpvJPv02lqkiQ
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