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景♂晴

#1


カチャン、と金属音が耳に届いて、忘我の心地だった晴信は理性の一端を取り戻した。そうだ、自分たちはこの部屋から出るために行為に及んだのだ。手段が目的にすり替わっていたことに内心羞恥を感じながら、晴信は景虎に呼びかける。

「開いた、な。これで――」
「晴信」

穏やかな声に遮られ、つい口を噤む。改めて見下ろした景虎は白い肌を胸元まで薄赤く染めて、短い髪先は散らばってシーツの色味に溶け込むようだ。晴信ほどではないが鍛えられた腹には、筋肉のくぼみに沿うように様々な液体が水溜まりを作っている。自分の乱れようを思い出し、いまだ埋められたままの胎が疼いた。
いや、しかし、終始主導権は握れていたはずだ。流れを明け渡さぬまま双方とも導けたのだから上出来で、きっともう来ないであろう最後の機会をこうして成就することができたのは僥倖だった。

「……なんだよ」

先ほど名前を呼んだきり、景虎はなにも行動を起こさない。彼はいつものとおりに笑みを湛えて己に跨がる晴信を見上げている。その片腕が持ち上がり、手のひらが優しく晴信の腿を撫でた。まるで労るようなそれに、そんな触れ方もできるのかと少し驚く。余韻を宥めて、相手の輪郭を確かめるような手つきで、そう、だから――有り体に言えば、油断していた。

「――ッア!?」

バツン!と思い切り突き上げられて目の前に星が舞う。優しかった手は太腿を押さえつけ、ぐらりと傾いだ背をもう一方の手が支えた。上体を起こした景虎が至近距離で晴信の顔を覗き込んでくる。

「ぇあ、あ、なに……」
「次は、私の番……ですよね?」

黄金色の目が血の色を透かし、色濃くなって晴信を見ている。それは戦の最中に何度も見たことのある目で、それでいて景虎が晴信を殺そうとしていないことに頭が混乱する。

「ま、待て、もう出られ――ぁんっ!」
「晴信」

なんとか逃れようと絞り出した言葉は、奥を小突かれたことで嬌声に変わった。咄嗟に彼の背にしがみつく。中に出されたもので随分と動きやすくなっているようで、景虎はしたり顔で笑みを深めているが、晴信からすれば堪ったものではない。せめてもの抵抗になめらかな肌へ爪を立てると、彼は嫣然と微笑んで晴信の胸へ頬を寄せた。

「勝ち逃げは許しませんよ」


――殺される。そう思った。

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2023/12/09 13:59

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