世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚ラクスドルム大陸/???〛[/中央寄せ]
黒いローブに身を包んだ人物が集まっている。その中にはメルクの姿もあった。その広間の壇上に1人の老人が上がり、ざわついていた空間が一瞬で静まった。
[明朝体]「諸君、またここで集まることが出来て嬉しく思う。それでは早速、調査隊から近況の報告を。」
[/明朝体]「はい。」
返事をした人物は声からして女性のようだ。壇上に上がると、魔力で出来た報告書のようなものを目の前に出現させ、それに書かれている内容を坦々と読み上げていく。
「数週間前から、我が組織の戒律第一項に挙げられる“魔神を世界の創造主とし、崇拝すること”に基づいて魔神の復活措置を施す活動を本格的に始動しました。」
広間が拍手で満たされる。メルクは不満そうな顔をしていたが、誰もそんな様子に気づく気配はない。
(全く...相変わらず変な組織になったもんだね...。全員燃やし尽くしたいけど、私1人じゃ流石に無理がある。ここにノイトくんが居ればなぁ...。)
報告書の内容はまだ続く。
「そしてつい先日、“終焉の魔神”マズロインの復活を確認、同日に当魔神の討伐を確認しました。」
広間が静まる。壇上でそれを聞いていたリーダーらしき人物が女性に質問をする。
[明朝体]「...それは、復活した直後に何者かに倒されたということだな?」[/明朝体]
「はい。そのように報告を受けております。」
[明朝体]「マズロインは封印されていた7体の魔神のうち、3番目の強さを誇る魔神のはずだ。今一度聞くが、それが倒されたと...?」[/明朝体]
「はい、相違ありません。」
広間の空気が凍りつく。マズロインはその二つ名の通り、終焉を司る魔神だった。そのため即座に世界を創り変えようと動くはずで、それが討伐されたとなると、マズロインの禁忌魔法を無効化した者が居るという可能性が浮かび上がる。
[明朝体]「何者だ、マズロインの世界創造を未然に防いだ輩は?」[/明朝体]
「ノイトくんですよ。」
そこでメルクが声を張り上げた。メルクはこの組織の中でかなり浮いている。先代の組織のリーダーによってこの組織に入れられた後、その知力と実力を評価されて独立的な立場を保証されているため、このような発言も黙認されているのだ。
[明朝体]「ノイト...?メルク、お前はそいつの知り合いのようだな。どんな人物か、話してみろ。」[/明朝体]
「お断りします。私はノイトくんの仲間です。仲間を売るような真似は絶対にしません。」
空気が重たくなる。しかし、メルクの眼差しに狂いはなく、それはリーダーとその場の圧に押し負けない程に強いものだった。
[明朝体]「......分かった。報告を続けろ。」[/明朝体]
「はい。続いて、“絶望の魔神”カヴローチェと“記憶の魔神”ゲデニスの自然復活を確認しました。」
広間が喝采に包まれる。中には拳を握りしめて喜んでいる者も居た。
「...続けて、こちらの2体の討伐も確認されています。」
広間は静まる。一喜一憂が激しいのは純粋に魔神を崇拝しているからであり、メルクはそこも嫌っている。重たい口を開いたリーダーは報告書の静かに睨みながら尋ねた。
[明朝体]「討伐者は...?」[/明朝体]
「カヴローチェの討伐には、レイク=ファザール、やカメリア=ノルティークなどの上級実力者に加えてエスミルト騎士団が携わっていたようです。また、それ以外にもエスミルト騎士団2番隊に仮所属となっていたラルカ=シフィアートと元・魔道士が討伐に参加したようです。」
[明朝体]「ラルカが...?おい、フェヴロ...どういうことだ?」[/明朝体]
名を呼ばれた男の名はフェヴロ=シフィアート。ラルカの父親にして、ノルティーク帝国の女王であるイズベラの愛人だ。
「娘は...私の言う事を聞かない。まるで何か得体のしれない者が私の遺伝子を受け継いだようだ...。私にはもう、どうすることも出来ません...。」
その場は引きつりながらも、報告は続く。
「一方で、“記憶の魔神”ゲデニスの討伐は...先程メルクが述べたノイトという少年と、彼と同行しているリーリャと名乗る少女によってなされたようです。」
[明朝体]「......。」[/明朝体]
広間に居る全員が言葉を失った。魔神がたった2人の子供に討伐されたなど、到底考えられない。
[小文字]「ふ...ふざけるなァ!! そんなことがあってたまるか!調べ直せ!!」[/小文字]
[右寄せ]「きっと何かの間違いに決まっている!子供が魔神を討伐なんて、そんなわけ!」[/右寄せ]
当然、黒いローブの人物らは口々に不満をぶつける。しかし、壇上で柱に寄りかかっていたメルクが再び声を張り上げた。
「間違いなんかじゃない!...ノイトくんは強い。だから、魔神だって倒せちゃう。私は信じるよ、ノイトくんのこと。」
「っハァ〜...相変わらずやね...痛々しいこと言わんといて。聞いてるこっちがうざったいで...。黙っとってくれん?」
メルクの発言に口を挟んだのはモドー。メルクのわざとらしい倒置法が癪に障ったのか、悪口を吐いてくる。
「モドーこそ、その方言みたいな喋り方わざとやってるでしょ?そういうキャラ求めてないから。」
「ほっときぃや。」
[明朝体]「報告の続きを頼む。」[/明朝体]
一々報告が途切れることに苛立ちを覚えながら、リーダーは報告書を見据えている。
「はい。続いて...つい先程入った情報なのですが、“幻惑の魔神”ミルシィアと“眩惑の魔神”ムルシィアがいつの間にか復活していたとのことで...。」
[明朝体]「最近、封印がザラになっていないか...?まぁ、別に構わんが...で、それも討伐されたと?」[/明朝体]
「“眩惑の魔神”の方は討伐が確認されていますが、“幻惑の魔神”の方はまだ魔力反応が残っているようです。」
[明朝体]「...どっちがどっちだ?」[/明朝体]
「[小文字]あ、[/小文字]ミルシィアの方です。遺跡内にはもう反応がなく、恐らく自分の意思で移動したのではないかと...。」
魔神が既に4体も倒されている。この事実は、かの大戦時代と比べて魔導技術が発展したことと、世界に満ちる魔力自体が希薄となっていることの2つが理由で起こったのだろう。メルクはノイトの功績を聞いて満足気に広間から立ち去ろうとしたが、そこで報告の続きが読み上げられた。
「なお、残る“孤独の魔神”と“虚無の魔神”の復活も既に確認されています。」
喝采が起こると同時にメルクは振り返った。
[斜体](魔神がもう...!? 私もノイトくんの助太刀に!!)[/斜体]
駆け出したメルクを追う者は居なかったが、黒いローブのフードから覗く視線はどれも嘲笑や侮蔑に近いものだ。メルクの足音が聞こえなくなった後、リーダーが声をあげる。
[明朝体]「諸君、研究班に所属するものと幹部はこの後研究館に集まるように。それ以外はすぐに魔神の護衛だ。行け。」[/明朝体]
一斉に広間が騒がしくなる。その中には[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]を使い真っ先に魔神の元へと向かう者や、武器を取りに行く者も居た。リーダーは幹部たちと共に研究館へと向かうためにローブを翻して光の当たらない舞台裏へと歩いて消えていった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとルミナスとリーリャの3人は、ムズィガルドの中央にある建物へと来ていた。
「やっほ〜、リーリャ!進捗どんな感じ〜?」
「ノイト、ルミナス、リュミエ!ん〜、まぁそんなすぐには上手くはならないよ。」
[太字][明朝体]「リーリャさんなら、きっと大丈夫です!! 私、応援してますから!」[/明朝体][/太字]
「ありがとう、ルミナス。ノイトたちは何してたの?」
リーリャの問いにリュミエが答えた。
「私とルミナスはこの先にある市場で買い物。ノイトくんは...何だったっけ?」
「魔導書探しだよ。僕の魔法は便利っちゃ便利だけど、いざという時に相手に効果的なものはほぼないから。以前の戦争でのキメラみたいなやつは無理だよ。」
「そう...?ノイトなら勝てると思うけどな...。」
「セルフハンディキャッピングは大事だよ。大口叩いて負けたらダサいじゃん。」
「ノイトくんは前もって言い訳を準備しておくの得意だもんね〜?」
「一応、解釈次第だね。僕の発言を聞いて他の人が勝手に勘違いしてくれるだけ。」
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは話術に長けていてスゴいです!私もお兄ちゃんみたいになれるでしょうか?」[/明朝体][/太字]
「ルミナにはまだちょっと早いかもしれないけど...いつか、ね。」
4人は勝手に会話を弾ませていたが、この場にはもう1人居る。
「あ、そうだった...!すみません、エルゼリーデさん。勝手に話しちゃって...。」
「良いの良いの、大切な仲間なんでしょ?練習の気分転換にもなったと思うし。」
その女性はエルゼリーデと言った。ノイトやリーリャと同じ転生者で、ピアノの演奏の技術に関しては、リーリャ曰く“ヒヨコとニワトリ”くらいの差があるそうだ。確かに言われてみれば、リーリャが今までに演奏したことがある楽曲と比べて演奏の難易度が高い「シシリエンヌ」を普通に弾いていた。リーリャの上位互換と言ってしまっても、リーリャをよく知らない人からしてみれば差し支えないだろう。しかし、ノイトたちに取ってはかけがえのない大事な仲間であり、ピアノの実力以前に1人の人間として好きである。
「リーリャちゃんも普通にピアノ上手いよ〜?『パッサカリア』とかの指の動きも滑らかだし、音も優しくて私は好き。」
「虹色の魔力を帯びた黒い五線譜が出てくるのも綺麗だしね〜。」
[太字][明朝体]「そこから流れてくる音符も綺麗です!」[/明朝体][/太字]
口々に褒められてリーリャは照れている。
「そんな...えへへ.../// ありがとっ。」
その時、ノイトは何かを感じてふと振り返る。街の外で魔力反応があるようだ。
(この気配...魔神か....?...つい昨日戦ったばかりなのに......しょうがない、倒しに行くか。)
「リーリャ。リーリャはエルゼリーデさんをここで守ってて。ルミナとリュミエは自分が危ないと思ったらすぐにここまで戻っていいよ。」
そう言いながら[漢字]波状刃[/漢字][ふりがな]フランベルジュ[/ふりがな]を取り出すノイトを見て、一瞬何があったのかを理解出来ずにルミナスは固まった。しかし、隣に立っていたリュミエが一足早く踏み出した瞬間に理解した。
「ノイト...!私も、後から行くね。」
「...分かった。」
ノイトが頷くと、3人はリーリャとエルゼリーデを残して街の外へと駆け出す。ノイトは建物の屋上から飛び降りてから建物の壁を蹴って跳んでいった。リュミエはルミナスを抱えてワイヤーを前方へと飛ばし、それをターザンのように使って街の外へと向かっていく。
ほぼ最速で街の外に出たノイトは、街の南東の方角へと跳び、そこに魔神の姿を見つけた。
(...ん〜、違う。僕が感じた気配はこいつじゃない。)
つまり、同時に魔神が2体復活したということだ。ノイトが知る限り、ノルティーク大陸に2体、ヴェルグランド大陸に1体、ディアスムングロール大陸に4体魔神が封印されていて、この世界には合計7体の魔神が封印されていた。ノルティーク大陸に封印されていた“終焉の魔神”と“絶望の魔神”は既に討伐済み。ヴェルグランド大陸に封印されていた“記憶の魔神”も一度ノイトとリーリャが討伐した。そして、このディアスムングロール大陸に封印されていた“眩惑の魔神”とリュミエは確認している。さらに残る2体も復活したため、封印されていた7体の魔神は全て復活したということで間違いないだろう。
(魔神1体ならまだ何とかなるけど...2体を4人で相手するのは無理がある。どうしたものか...。)
「...とにかく。今は目の前の相手に集中しないと。」
武器を構えたノイトと、少し遅れて辿り着いたルミナスとリュミエ。それを見て魔神は口を開いた。
[明朝体][大文字]「人の子よ......孤独とは、いかに寂しきものか......。」[/大文字][/明朝体]
ノイトたちが対峙しているのは“孤独の魔神”リトゥス。感傷的な目をして明後日の方向を向いている魔神は、ノイトたちに尋ねる。
[明朝体][大文字]「[漢字]主[/漢字][ふりがな]ぬし[/ふりがな]らで...全てか...?」[/大文字][/明朝体]
「...どういう意味ですか?」
[明朝体][大文字]「[漢字]主[/漢字][ふりがな]ぬし[/ふりがな]らで...全てか...?」[/大文字][/明朝体]
魔神は同じ発言を繰り返すばかりだった。恐らく、こちらの数を確認しているか、相手となる人数によって何かが変わるイベントのようなものがあるかのどちらかなのだろう。
(流石にこの人数だけだと心許ない...誰か来てくれないかな...。)
少しの間沈黙を保つ。そしてその沈黙を破ったのは、フィルマリーの声だった。
「ノイトさん!大丈夫ですか!!」
ノイトを驚いて振り返る。いくらノイトでもフィルマリーというつい昨日別れた人物と再会するとは予想も出来ない。
[太字][明朝体]「フィルマリー様、どうしてここに?」[/明朝体][/太字]
「なんか、魔神の反応があったからもしかしたらな〜、と思いまして。多分リオールくんも気づいていると思うので、もう片方の魔神の方へ向かっていると思います!」
「了解。それじゃあフィルさん、手を貸してくれますか?」
覚悟を決めたフィルマリーの目に揺らぎはなかった。間髪入れずにフィルマリーの答えが帰って来る。
「はい!」
ノイトはようやく魔神の問いに答えを返すことが出来た。
「これで...全員です。」
[明朝体][大文字]「そうか......。」[/大文字][/明朝体]
魔神は視線を僅かに落としてため息をつく。
すると、周囲のものが消えて白い空間が広がった。つい先程まで一緒に居た仲間たちの姿もない。
(なるほど...“孤独の魔神”だからか...。...討伐は必須になっちゃったな。)
ノイトはリトゥスの戦闘スタイルを1つ仮定する。この魔神は二つ名の通り孤独を司っていて、それに伴い戦闘時は相手と1対1の戦いになる。魔神本体の力は分散されるため、こちら側の人数が多ければ多いほど有利に働く。
(5人...は、行けるのか...?正直微妙...。自分の相手を倒したら他の人のところの個体と戦えるなら良いんだけどね。)
ノイトは武器を構えて踏み込み、一瞬で魔神へと跳んでいく。
[中央寄せ][明朝体][斜体][大文字][太字][[漢字]切裂[/漢字][ふりがな]エヴァントレ[/ふりがな]][/太字][/大文字][/斜体][/明朝体][/中央寄せ]
その攻撃は確かに魔神に当たった。しかし、魔神は怯むことも慄くこともない。かと言って、喜んだり嬉しがったりする様子もない。完全に無関心のようにさえ見える。
「...あなたの孤独は、痛覚からも見放されてしまったんですか...。」
[明朝体][大文字]「そうだ...。うぬは1人だ。いつ、どこに、誰と居てもうぬは独り。決して始まることのない世界なのだ...。」[/大文字][/明朝体]
ノイトは[漢字]波状刃[/漢字][ふりがな]フランベルジュ[/ふりがな]をマジックバッグにしまい、代わりに【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出した。そして、魔神に尋ねる。
「あなた、名前は?」
[明朝体][大文字]「......リトゥスだ。...“孤独の魔神”だから......独りなのだ...。」[/大文字][/明朝体]
「リトゥス。あなたは独りじゃないですよ。居場所はあります。今は無くても、過去にあったはずです!」
ノイトが武器を振るって魔法を発動する。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]記憶の回想[/漢字][ふりがな]メモリー・レミニセンス[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
ノイトはこの魔法でリトゥスの居場所を思い出させようと試みた。どんな者にだって過去に居場所があったはずである。しかしそれは、ノイトの勝手な思い込みの1つだった。
(......!!)
リトゥスは無反応。過去をいくら回想しても同じだった、ということだろうか。ノイトの思惑は外れ、この魔神は生まれた時からずっと孤独だったことに気づく。
(ん...こういうのはリュミエの得意分野だよな...。僕がどうやってこの個体を倒すか...考え直さないといけないね。)
ノイトに真っすぐと見据えられたリトゥスは何も反応しない。無関心。それは人の孤独そのものだった。今、ノイトは目の前の孤独と向き合いながらこの魔神を討伐する必要があるのだ。
[中央寄せ]エリア〚ラクスドルム大陸/???〛[/中央寄せ]
黒いローブに身を包んだ人物が集まっている。その中にはメルクの姿もあった。その広間の壇上に1人の老人が上がり、ざわついていた空間が一瞬で静まった。
[明朝体]「諸君、またここで集まることが出来て嬉しく思う。それでは早速、調査隊から近況の報告を。」
[/明朝体]「はい。」
返事をした人物は声からして女性のようだ。壇上に上がると、魔力で出来た報告書のようなものを目の前に出現させ、それに書かれている内容を坦々と読み上げていく。
「数週間前から、我が組織の戒律第一項に挙げられる“魔神を世界の創造主とし、崇拝すること”に基づいて魔神の復活措置を施す活動を本格的に始動しました。」
広間が拍手で満たされる。メルクは不満そうな顔をしていたが、誰もそんな様子に気づく気配はない。
(全く...相変わらず変な組織になったもんだね...。全員燃やし尽くしたいけど、私1人じゃ流石に無理がある。ここにノイトくんが居ればなぁ...。)
報告書の内容はまだ続く。
「そしてつい先日、“終焉の魔神”マズロインの復活を確認、同日に当魔神の討伐を確認しました。」
広間が静まる。壇上でそれを聞いていたリーダーらしき人物が女性に質問をする。
[明朝体]「...それは、復活した直後に何者かに倒されたということだな?」[/明朝体]
「はい。そのように報告を受けております。」
[明朝体]「マズロインは封印されていた7体の魔神のうち、3番目の強さを誇る魔神のはずだ。今一度聞くが、それが倒されたと...?」[/明朝体]
「はい、相違ありません。」
広間の空気が凍りつく。マズロインはその二つ名の通り、終焉を司る魔神だった。そのため即座に世界を創り変えようと動くはずで、それが討伐されたとなると、マズロインの禁忌魔法を無効化した者が居るという可能性が浮かび上がる。
[明朝体]「何者だ、マズロインの世界創造を未然に防いだ輩は?」[/明朝体]
「ノイトくんですよ。」
そこでメルクが声を張り上げた。メルクはこの組織の中でかなり浮いている。先代の組織のリーダーによってこの組織に入れられた後、その知力と実力を評価されて独立的な立場を保証されているため、このような発言も黙認されているのだ。
[明朝体]「ノイト...?メルク、お前はそいつの知り合いのようだな。どんな人物か、話してみろ。」[/明朝体]
「お断りします。私はノイトくんの仲間です。仲間を売るような真似は絶対にしません。」
空気が重たくなる。しかし、メルクの眼差しに狂いはなく、それはリーダーとその場の圧に押し負けない程に強いものだった。
[明朝体]「......分かった。報告を続けろ。」[/明朝体]
「はい。続いて、“絶望の魔神”カヴローチェと“記憶の魔神”ゲデニスの自然復活を確認しました。」
広間が喝采に包まれる。中には拳を握りしめて喜んでいる者も居た。
「...続けて、こちらの2体の討伐も確認されています。」
広間は静まる。一喜一憂が激しいのは純粋に魔神を崇拝しているからであり、メルクはそこも嫌っている。重たい口を開いたリーダーは報告書の静かに睨みながら尋ねた。
[明朝体]「討伐者は...?」[/明朝体]
「カヴローチェの討伐には、レイク=ファザール、やカメリア=ノルティークなどの上級実力者に加えてエスミルト騎士団が携わっていたようです。また、それ以外にもエスミルト騎士団2番隊に仮所属となっていたラルカ=シフィアートと元・魔道士が討伐に参加したようです。」
[明朝体]「ラルカが...?おい、フェヴロ...どういうことだ?」[/明朝体]
名を呼ばれた男の名はフェヴロ=シフィアート。ラルカの父親にして、ノルティーク帝国の女王であるイズベラの愛人だ。
「娘は...私の言う事を聞かない。まるで何か得体のしれない者が私の遺伝子を受け継いだようだ...。私にはもう、どうすることも出来ません...。」
その場は引きつりながらも、報告は続く。
「一方で、“記憶の魔神”ゲデニスの討伐は...先程メルクが述べたノイトという少年と、彼と同行しているリーリャと名乗る少女によってなされたようです。」
[明朝体]「......。」[/明朝体]
広間に居る全員が言葉を失った。魔神がたった2人の子供に討伐されたなど、到底考えられない。
[小文字]「ふ...ふざけるなァ!! そんなことがあってたまるか!調べ直せ!!」[/小文字]
[右寄せ]「きっと何かの間違いに決まっている!子供が魔神を討伐なんて、そんなわけ!」[/右寄せ]
当然、黒いローブの人物らは口々に不満をぶつける。しかし、壇上で柱に寄りかかっていたメルクが再び声を張り上げた。
「間違いなんかじゃない!...ノイトくんは強い。だから、魔神だって倒せちゃう。私は信じるよ、ノイトくんのこと。」
「っハァ〜...相変わらずやね...痛々しいこと言わんといて。聞いてるこっちがうざったいで...。黙っとってくれん?」
メルクの発言に口を挟んだのはモドー。メルクのわざとらしい倒置法が癪に障ったのか、悪口を吐いてくる。
「モドーこそ、その方言みたいな喋り方わざとやってるでしょ?そういうキャラ求めてないから。」
「ほっときぃや。」
[明朝体]「報告の続きを頼む。」[/明朝体]
一々報告が途切れることに苛立ちを覚えながら、リーダーは報告書を見据えている。
「はい。続いて...つい先程入った情報なのですが、“幻惑の魔神”ミルシィアと“眩惑の魔神”ムルシィアがいつの間にか復活していたとのことで...。」
[明朝体]「最近、封印がザラになっていないか...?まぁ、別に構わんが...で、それも討伐されたと?」[/明朝体]
「“眩惑の魔神”の方は討伐が確認されていますが、“幻惑の魔神”の方はまだ魔力反応が残っているようです。」
[明朝体]「...どっちがどっちだ?」[/明朝体]
「[小文字]あ、[/小文字]ミルシィアの方です。遺跡内にはもう反応がなく、恐らく自分の意思で移動したのではないかと...。」
魔神が既に4体も倒されている。この事実は、かの大戦時代と比べて魔導技術が発展したことと、世界に満ちる魔力自体が希薄となっていることの2つが理由で起こったのだろう。メルクはノイトの功績を聞いて満足気に広間から立ち去ろうとしたが、そこで報告の続きが読み上げられた。
「なお、残る“孤独の魔神”と“虚無の魔神”の復活も既に確認されています。」
喝采が起こると同時にメルクは振り返った。
[斜体](魔神がもう...!? 私もノイトくんの助太刀に!!)[/斜体]
駆け出したメルクを追う者は居なかったが、黒いローブのフードから覗く視線はどれも嘲笑や侮蔑に近いものだ。メルクの足音が聞こえなくなった後、リーダーが声をあげる。
[明朝体]「諸君、研究班に所属するものと幹部はこの後研究館に集まるように。それ以外はすぐに魔神の護衛だ。行け。」[/明朝体]
一斉に広間が騒がしくなる。その中には[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]を使い真っ先に魔神の元へと向かう者や、武器を取りに行く者も居た。リーダーは幹部たちと共に研究館へと向かうためにローブを翻して光の当たらない舞台裏へと歩いて消えていった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとルミナスとリーリャの3人は、ムズィガルドの中央にある建物へと来ていた。
「やっほ〜、リーリャ!進捗どんな感じ〜?」
「ノイト、ルミナス、リュミエ!ん〜、まぁそんなすぐには上手くはならないよ。」
[太字][明朝体]「リーリャさんなら、きっと大丈夫です!! 私、応援してますから!」[/明朝体][/太字]
「ありがとう、ルミナス。ノイトたちは何してたの?」
リーリャの問いにリュミエが答えた。
「私とルミナスはこの先にある市場で買い物。ノイトくんは...何だったっけ?」
「魔導書探しだよ。僕の魔法は便利っちゃ便利だけど、いざという時に相手に効果的なものはほぼないから。以前の戦争でのキメラみたいなやつは無理だよ。」
「そう...?ノイトなら勝てると思うけどな...。」
「セルフハンディキャッピングは大事だよ。大口叩いて負けたらダサいじゃん。」
「ノイトくんは前もって言い訳を準備しておくの得意だもんね〜?」
「一応、解釈次第だね。僕の発言を聞いて他の人が勝手に勘違いしてくれるだけ。」
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは話術に長けていてスゴいです!私もお兄ちゃんみたいになれるでしょうか?」[/明朝体][/太字]
「ルミナにはまだちょっと早いかもしれないけど...いつか、ね。」
4人は勝手に会話を弾ませていたが、この場にはもう1人居る。
「あ、そうだった...!すみません、エルゼリーデさん。勝手に話しちゃって...。」
「良いの良いの、大切な仲間なんでしょ?練習の気分転換にもなったと思うし。」
その女性はエルゼリーデと言った。ノイトやリーリャと同じ転生者で、ピアノの演奏の技術に関しては、リーリャ曰く“ヒヨコとニワトリ”くらいの差があるそうだ。確かに言われてみれば、リーリャが今までに演奏したことがある楽曲と比べて演奏の難易度が高い「シシリエンヌ」を普通に弾いていた。リーリャの上位互換と言ってしまっても、リーリャをよく知らない人からしてみれば差し支えないだろう。しかし、ノイトたちに取ってはかけがえのない大事な仲間であり、ピアノの実力以前に1人の人間として好きである。
「リーリャちゃんも普通にピアノ上手いよ〜?『パッサカリア』とかの指の動きも滑らかだし、音も優しくて私は好き。」
「虹色の魔力を帯びた黒い五線譜が出てくるのも綺麗だしね〜。」
[太字][明朝体]「そこから流れてくる音符も綺麗です!」[/明朝体][/太字]
口々に褒められてリーリャは照れている。
「そんな...えへへ.../// ありがとっ。」
その時、ノイトは何かを感じてふと振り返る。街の外で魔力反応があるようだ。
(この気配...魔神か....?...つい昨日戦ったばかりなのに......しょうがない、倒しに行くか。)
「リーリャ。リーリャはエルゼリーデさんをここで守ってて。ルミナとリュミエは自分が危ないと思ったらすぐにここまで戻っていいよ。」
そう言いながら[漢字]波状刃[/漢字][ふりがな]フランベルジュ[/ふりがな]を取り出すノイトを見て、一瞬何があったのかを理解出来ずにルミナスは固まった。しかし、隣に立っていたリュミエが一足早く踏み出した瞬間に理解した。
「ノイト...!私も、後から行くね。」
「...分かった。」
ノイトが頷くと、3人はリーリャとエルゼリーデを残して街の外へと駆け出す。ノイトは建物の屋上から飛び降りてから建物の壁を蹴って跳んでいった。リュミエはルミナスを抱えてワイヤーを前方へと飛ばし、それをターザンのように使って街の外へと向かっていく。
ほぼ最速で街の外に出たノイトは、街の南東の方角へと跳び、そこに魔神の姿を見つけた。
(...ん〜、違う。僕が感じた気配はこいつじゃない。)
つまり、同時に魔神が2体復活したということだ。ノイトが知る限り、ノルティーク大陸に2体、ヴェルグランド大陸に1体、ディアスムングロール大陸に4体魔神が封印されていて、この世界には合計7体の魔神が封印されていた。ノルティーク大陸に封印されていた“終焉の魔神”と“絶望の魔神”は既に討伐済み。ヴェルグランド大陸に封印されていた“記憶の魔神”も一度ノイトとリーリャが討伐した。そして、このディアスムングロール大陸に封印されていた“眩惑の魔神”とリュミエは確認している。さらに残る2体も復活したため、封印されていた7体の魔神は全て復活したということで間違いないだろう。
(魔神1体ならまだ何とかなるけど...2体を4人で相手するのは無理がある。どうしたものか...。)
「...とにかく。今は目の前の相手に集中しないと。」
武器を構えたノイトと、少し遅れて辿り着いたルミナスとリュミエ。それを見て魔神は口を開いた。
[明朝体][大文字]「人の子よ......孤独とは、いかに寂しきものか......。」[/大文字][/明朝体]
ノイトたちが対峙しているのは“孤独の魔神”リトゥス。感傷的な目をして明後日の方向を向いている魔神は、ノイトたちに尋ねる。
[明朝体][大文字]「[漢字]主[/漢字][ふりがな]ぬし[/ふりがな]らで...全てか...?」[/大文字][/明朝体]
「...どういう意味ですか?」
[明朝体][大文字]「[漢字]主[/漢字][ふりがな]ぬし[/ふりがな]らで...全てか...?」[/大文字][/明朝体]
魔神は同じ発言を繰り返すばかりだった。恐らく、こちらの数を確認しているか、相手となる人数によって何かが変わるイベントのようなものがあるかのどちらかなのだろう。
(流石にこの人数だけだと心許ない...誰か来てくれないかな...。)
少しの間沈黙を保つ。そしてその沈黙を破ったのは、フィルマリーの声だった。
「ノイトさん!大丈夫ですか!!」
ノイトを驚いて振り返る。いくらノイトでもフィルマリーというつい昨日別れた人物と再会するとは予想も出来ない。
[太字][明朝体]「フィルマリー様、どうしてここに?」[/明朝体][/太字]
「なんか、魔神の反応があったからもしかしたらな〜、と思いまして。多分リオールくんも気づいていると思うので、もう片方の魔神の方へ向かっていると思います!」
「了解。それじゃあフィルさん、手を貸してくれますか?」
覚悟を決めたフィルマリーの目に揺らぎはなかった。間髪入れずにフィルマリーの答えが帰って来る。
「はい!」
ノイトはようやく魔神の問いに答えを返すことが出来た。
「これで...全員です。」
[明朝体][大文字]「そうか......。」[/大文字][/明朝体]
魔神は視線を僅かに落としてため息をつく。
すると、周囲のものが消えて白い空間が広がった。つい先程まで一緒に居た仲間たちの姿もない。
(なるほど...“孤独の魔神”だからか...。...討伐は必須になっちゃったな。)
ノイトはリトゥスの戦闘スタイルを1つ仮定する。この魔神は二つ名の通り孤独を司っていて、それに伴い戦闘時は相手と1対1の戦いになる。魔神本体の力は分散されるため、こちら側の人数が多ければ多いほど有利に働く。
(5人...は、行けるのか...?正直微妙...。自分の相手を倒したら他の人のところの個体と戦えるなら良いんだけどね。)
ノイトは武器を構えて踏み込み、一瞬で魔神へと跳んでいく。
[中央寄せ][明朝体][斜体][大文字][太字][[漢字]切裂[/漢字][ふりがな]エヴァントレ[/ふりがな]][/太字][/大文字][/斜体][/明朝体][/中央寄せ]
その攻撃は確かに魔神に当たった。しかし、魔神は怯むことも慄くこともない。かと言って、喜んだり嬉しがったりする様子もない。完全に無関心のようにさえ見える。
「...あなたの孤独は、痛覚からも見放されてしまったんですか...。」
[明朝体][大文字]「そうだ...。うぬは1人だ。いつ、どこに、誰と居てもうぬは独り。決して始まることのない世界なのだ...。」[/大文字][/明朝体]
ノイトは[漢字]波状刃[/漢字][ふりがな]フランベルジュ[/ふりがな]をマジックバッグにしまい、代わりに【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出した。そして、魔神に尋ねる。
「あなた、名前は?」
[明朝体][大文字]「......リトゥスだ。...“孤独の魔神”だから......独りなのだ...。」[/大文字][/明朝体]
「リトゥス。あなたは独りじゃないですよ。居場所はあります。今は無くても、過去にあったはずです!」
ノイトが武器を振るって魔法を発動する。
[中央寄せ][大文字][斜体][明朝体][太字]〔[漢字]記憶の回想[/漢字][ふりがな]メモリー・レミニセンス[/ふりがな]〕[/太字][/明朝体][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
ノイトはこの魔法でリトゥスの居場所を思い出させようと試みた。どんな者にだって過去に居場所があったはずである。しかしそれは、ノイトの勝手な思い込みの1つだった。
(......!!)
リトゥスは無反応。過去をいくら回想しても同じだった、ということだろうか。ノイトの思惑は外れ、この魔神は生まれた時からずっと孤独だったことに気づく。
(ん...こういうのはリュミエの得意分野だよな...。僕がどうやってこの個体を倒すか...考え直さないといけないね。)
ノイトに真っすぐと見据えられたリトゥスは何も反応しない。無関心。それは人の孤独そのものだった。今、ノイトは目の前の孤独と向き合いながらこの魔神を討伐する必要があるのだ。