世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとルミナスとリュミエは音楽都市・ムズィガルドの宿屋の一室に居た。
「さて、ノイトくん...分かってるよね?」
「分からないし分かりたくもない。もう寝る。おやすみ。」
リュミエの悪戯な笑みを浮かべた誘惑は、ノイトに全面的に断られた。ルミナスももう既に眠ってしまっている。一国の王女にここまで信用されているとは、ノイトも自身の盲点にようやく目が向き始めた。
(改めてだけど...ルミナってこんなに僕のことを慕ってくれていたのか...。まぁ、そういう歳なのかもね。)
ノイトが布団を被って寝返りを打とうとしたところで、リュミエが潜り込んできた。
「ばぁっ!何勝手に1人で寝ようとしちゃってるの〜?」
「ん...退いてくれるかな?」
「やだ。だってノイトくん、リーリャとメルク...だったっけ?その2人と同じブランケットの中で寝てたんでしょ!だったら私も良いじゃん!」
「そういう問題じゃないんだけど...。」
ノイトが眠ろうとする素振りを見せると、リュミエはすぐにそれを妨げてくる。
「今夜は寝かせない、とまでは言わないけど...こんなチャンス滅多にないんだよ?何もしてくれないの?」
「しない。」
「えぇ〜、逃げんの?逃げんのぉ〜?」
「夜は寝ろ。いくら魔神だからって、充分な睡眠を取らなかったら疲れも溜まりやすくなるでしょ?」
「ん〜、それはそうだけど...ちょっともったいなくない?」
「おやすみ。」
ノイトの勝ち逃げだった。リュミエは少しもの足りなく感じつつも、やがて超近距離で目を閉じているノイトを見守りながら眠りに落ちる。外から微かに聞こえたのは、ピアノの演奏だった。ノイトはリュミエが眠ったことを確認すると、先程まで考えていた過去の追想の続きをする。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちはその後、ヴェルグランド大陸へと向かった。貿易都市・レミステラから発った飛行船に乗っていたのだが、あの時はワイバーンの群れが飛行船の進路を塞いでいた。そこでノイトとメルクがワイバーンの群れを追い払ったのだが、メルクが魔法の加減をしていなかったせいで飛行船の気嚢が破損し、結局リーリャの[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]で現れた翼のようなもので飛行船の到着を支えたのだった。すぐにその場を離れた3人は、魔導都市・マギノシティでフィルマリーと出会い、ノイトはメルクには魔法の杖、ルミナスには聖剣と聖鎧を買う。ノイトの上級魔術との出会いは、後の魔神戦にも繋がるものとなった。
(フィルさんは普通にスゴいよな...元・魔道士とは言っても上級魔術を扱えるし、魔力量も半端じゃない。)
その後はいにしえの地・オボロノサトでイグと再開し、その近くにあるメルクのこの現世での故郷、霊峰の町・ノービリアで休んだ。久々に温泉に入ったノイトは旅の疲れも取ることが出来て、意図せずとも、翌日の事件に対しても最低限必要な準備が出来ていたと思う。メルクと一度別れて再び2人の旅になった矢先、静寂の森で復活していた“記憶の魔神”ゲデニスと邂逅し、戦闘となった。ノイトとの思想の違いがズレを生み、リーリャのトラウマを蘇らせたことでノイトが攻撃を仕掛け、最終的にはノイトが習得した魔術や魔法に追い込まれた魔神を、リーリャが新たな超級魔法を会得してトドメを刺す形で討伐という功績を残すこととなる。
(あれはホントに僕の魔法との相性が良かっただけ...あれも寝起きだっただろうし、いきなり本気を出されていたら結構厳しかったかな〜...。)
ノイトとリーリャがゲデニスと戦闘を繰り広げていた時、ノルティーク大陸では“絶望の魔神”カヴローチェが復活していたようだ。後から聞いた話では、ルベリアの隊の捜索任務先で魔神が復活し、エスミルト騎士団の2番隊と5番隊、レイク、フィルマリー、そしてラルカがそれを討伐したらしい。それも知らなかったノイトはそのまま待賢都市・グレイベアルドに向かい、そこで師であるリオールと再開した。待賢制度が色濃く反映された街で、リーリャに惚れた騎士賢者・ユプシーバと決闘をする羽目になり、ノイトは賢者に対して許可なく魔術を使用した罪で処刑対象にとなってしまう。リーリャとリオールがの声掛けによって駆けつけてきてくれたメルク、フィルマリーがノイトを救出したことによってリオール以外の七賢と戦うことになったが、ノイトとリーリャがそれぞれ2人ずつ、フィルマリーとリオールがそれぞれ1人ずつ倒したことで七賢を打ち破り、待賢制度を廃止させたのだ。
(そういえば...僕が斬り飛ばしたあの七賢、まだ生きているのかな...?七賢程の手練れなら生き残っていてもおかしくないんだけど...。)
その後はユーガレア王国に寄り、そのまま機械都市・カタパリアへと向かった。リーリャの武器を買う予定だったのだが、メルクが所属している、魔神の復活を目論む組織の人間に襲われて半強制的にノルティーク大陸へと戻る羽目になった。ノルティーク大陸へと帰る途中でノルティーク帝国の近くから煙が上がっているのを見つけたノイトはすぐに飛行船から降りて真っ先にその場所へと向かう。もう既にユーガレア王がノルティーク帝国に戦争を仕掛けていたことに気が付き、ノイトはノルティーク王城へと飛んでいった。しかし、途中で何者かの攻撃を躱したことでそれは阻まれた。その時、ノイトとラルカは出会ったのだ。ラルカはノイトとは違う線で深い思想を持っており、一理ある発言ばかりだったが、ノイトの方が一枚上手だった。
(あ〜、あの時はホントにびっくりしたよ。その後にイズベラ様の実の娘だって聞いて人間関係の闇みたいなのに踏み入りかけたしな...。)
ラルカとの戦闘中にレイクが飛んできて、ラルカがノルティーク帝国の女王・イズベラの実の娘だと聞いてノイトは驚いた。ルミナスやカメリアの異父姉妹であるラルカとノイトは一騎打ちを行い、ノイトが勝利した。その後は明確な敵対はしてこないものの、ノイトのことはまだ味方だとは思っていないようで、同行を拒否する。ノルティーク王城の大広間に居た、王族たちと避難していた貴族たちの元にメルクが所属する組織の人間が飛び込んできてルミナスに向かって剣を振りかざした。しかし、そこでノイトがそれを弾き飛ばし、ルミナスを助ける。その後ユーガレア王が連れ込んだ大量のドラゴンと巨大なキメラを討伐してユーガレア王に報復を受け渡し、ラルカと少し話した。それとなく互いに転生者であることに気が付き、さらには前世での面識の有無まで確認することが出来る。そして、最後が迫っていたイズベラの部屋へ向かい、その最後を見届けた。
(あのキメラはホントにバケモノだったよ...今の僕でも1人で倒すのはまぁ無理だろうね...。)
終戦後はミストルの町に戻り、町のカフェでフレンチトーストとホットココアを喫し、ディアスムングロール大陸へ向かうための準備をする。一度ヴェルグランド大陸へと向かい、フィルマリーと合流した後に再びカタパリアへと向かった。そこで一時的にハイヴを仲間に加え、ノルティーク大陸へ戻ってきてから汽車でディアスムングロール大陸へと向かったのだ。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
翌朝目を覚ますと、目の前にはリュミエの顔。
(既視感...リーリャも同じようなことしてたよな...。)
「おはよう、リュミエ。」
「おはよっ、ノイトくん!」
ノイトはあくびをしながらベッドから起き上がり、寝癖を撫でる。ルミナスも目を覚まし、挨拶をしてきた。
[明朝体][太字]「お兄ちゃん、おはようございます!」[/太字][/明朝体]
「おはよう、ルミナ。」
ピアノの演奏が聞こえて外を見る。またシシリエンヌだ。きっとあの女性のお気に入りなのだろう。
[太字][明朝体]「こんなに朝早くから演奏されているんですね...。リーリャ様はもう起きていらっしゃるでしょうか?」[/明朝体][/太字]
「どうだろう?まだ寝てたら連絡取れないし...取り敢えず朝食でも食べに行こうか。」
宿の近くの店に入り、パンとミルクを貰う。
「なんだかシンプルだね。ノイトくんの朝食はいつもこんな感じなの?」
「うん、僕が時計塔に居た時はいつもこんなんだったよ。」
3人が朝食を食べ終わる頃、街に聞こえる曲が変わる。「慰め」※だ。ノイトにはその演奏の主が誰かすぐに分かった。
「...リーリャ?」
静かなメロディーが響き、リーリャの繊細さを表しているようだった。
「もう起きてたんだね。朝からピアノの練習って真面目だね〜。」
「そうだね。リーリャはそういうところ、あるから。さて、僕はこの街でちょっとやりたいこと見つけたんだけど...2人はどうする?この先の街にも気になるものがあるんだけど...。」
[太字][明朝体]「気になるものですか?」[/明朝体][/太字]
「ノイトくんが気になるもの、私も気になる!偵察、ってことで良いのかな?」
「まぁ...そんな感じだね。心持ち的には散策で良いけど。それじゃあ2人に頼もうかな。」
[太字][明朝体]「分かりました!」[/明朝体][/太字]「了解っ!」
ルミナスとリュミエの2人は荷物を持って街の外へと歩き出した。
2人が街の西から少し先に進むと、小規模な路上市場が広がっていた。
[太字][明朝体]「市場でしょうか...?売られているものはどれも珍しいですね!」[/明朝体][/太字]
「楽器と食べ物ばかり...ノイトくんは何か演奏出来るのかな?」
リュミエは懐にしまっていた“記憶の魔神”の火に尋ねてみる。火が一瞬揺らいでリュミエの目の前に浮かぶと、驚くことにその火からは“記憶の魔神”ゲデニスの声が聞こえる。
[明朝体][大文字]〈私は貴様の下僕ではないのだぞ。こうして復活していることは良いものの、それとこれは別だ。〉[/大文字][/明朝体]
「まぁまぁ、取り敢えず私の質問に答えてよ〜。ね?」
リュミエの軽々しい言葉にゲデニスはため息を吐くが、正直に答えた。
[明朝体][大文字]〈...ハァ.........私が彼から読み取った記憶の中では、特に何かを得意として演奏している様子は見受けられなかった。〉[/大文字][/明朝体]
「ふ〜ん、“得意として”ではなければあるんだ?」
[明朝体][大文字]〈まぁ...そういうことだ。放課後にピアノに軽く触れるくらいならしていたぞ。〉[/大文字][/明朝体]
口角を上げて満足げな表情を浮かべたリュミエはどこか不満そうなゲデニスを煽る。
「へぇ〜、人のプライバシーをそんなに軽々しく言っちゃうんだ〜?」
[明朝体][大文字]〈聞いてきたのは貴様の方だ。それに、真実は真実。正直も何も、正確に伝えなければ後々語弊が生まれるだろう?〉[/大文字][/明朝体]
リュミエは悪戯な笑みを浮かべてゲデニスに言う。
「でもさ、嘘も方便って言うでしょ?たとえ真実じゃなくても、その人を救うことは出来るんだよ。ノイトくんも言ってたでしょ?真実と事実は同じである必要はない、みたいなこと。」
[明朝体][大文字]〈記憶は過ちを繰り返さぬための戒めだ。都合よく改変していては二度も三度も過ちを犯す。それで後悔してしまえば元も子もない。〉[/大文字][/明朝体]
「じゃあ、後悔しなければ良いんじゃない?見方を変えて、逆に次のどうすれば良いかを考えればプラスじゃない?」
[大文字][明朝体]〈しかし...事実は別でも真実は変わらないぞ...。〉[/明朝体][/大文字]
「そんなに重要かな、真実って?本当はどうかとかじゃなくて、自分がどうかを考えるだけで手一杯だと思うよ。あのね、ゲデニス──。」
ゲデニスには、リュミエの笑みに彼が見たことないはずのノイトの面影が重なったように見える。
「純粋なまま生きていてもつまらないでしょ?せっかくなら裏の裏と欺瞞で面白く狡猾に...人生、楽しんだもん勝ちでしょ!」
[大文字][明朝体]〈.........ハァ...。飼い主に似るとはこのことか...。〉[/明朝体][/大文字]
「ちょっと、誰が犬だって?確かにノイトくんにお世話されたいけど、主従関係とかじゃないからね!もう。」
リュミエはゲデニスを懐へとしまって少し前を歩いていたルミナスに話しかける。
「ねぇ、ルミナス?ノイトくん、少しだけらしいけどピアノが弾けるんだって。何かそれっぽいプレゼントしてあげよ!」
[太字][明朝体]「本当ですか?! 是非そうしましょう!」[/明朝体][/太字]
結局、2人は市場の隅から隅まで巡り、決して安くはない値段の魔具を2つ買ったのだった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[漢字]人気[/漢字][ふりがな]ひとけ[/ふりがな]のない部屋に、1台のピアノが置いてあった。それに1人の人物が近づき、鍵盤に触れる。
[中央寄せ][斜体][明朝体][大文字]〈 ────── 〉[/大文字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
澄んだ音が室内に響き、その人物は僅かに口角をあげた。外の喧騒など忘れるように見入った瞳は懐かしいものを見ているようで、鍵へと伸ばされた指が優しくそれを押す。
[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][漢字]追想奏楽[/漢字][ふりがな]インタープリテーション[/ふりがな][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
繊細な音が「別れの曲」を途中まで奏でて。やがて、キリが良いところで演奏が終わり、その人物はピアノの椅子から腰を上げた。部屋から出ると、部屋の中には時間が止まったような静寂が訪れ、再びその演者が来るのをひっそりと待っているようだった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
昼頃、ノイトは帰ってきたルミナスとリュミエと合流することが出来た。
「あ、おかえり〜!どうだった?」
[太字][明朝体]「えっと...道に沿って市場が開かれていて、主に楽器や食べ物を売っているようで...その中でも特に気になった魔具を2つ程購入してきました!」[/明朝体][/太字]
「そうそう!ノイトくんへのプレゼントだよ〜!絶対受け取ってね!」
「プレゼント?僕に...?」
ノイトは誰かからプレゼントを貰うという経験があまりなかった。前世では他人との関わりがやや軽薄だった上に、現世では他人にプレゼントをする側に回っていたからだ。
ルミナスがマジックバッグから取り出したのは、ルミナスの手のひらに乗っても手が余る程に小さなガラスの箱のようなものだった。中はレジンのようなもので満たされているのか小さな泡が入っていて、箱の中には小さなピアノがあり、緑色の夜空が広がっている。
「わぁ......綺麗...!! すごいね、こんなに綺麗なもの見つけて。ありがとう。大切にするよっ!」
普段の冷静な時のノイトからは思い至らない程に目を輝かせたノイトが頬を赤くして喜んでいる。そんなノイトの様子を見てルミナスも自然と嬉しくなってきた。
[太字][明朝体]「ふふっ......そんなに褒められたら、お兄ちゃんのことをもっと好きになってしまいそうです!気に入ってもらえたようで私も嬉しいですよ!!」[/明朝体][/太字]
ノイトはそれを“■■の硝子箱”と名付けて、マジックバッグの中から取り出した別の素材のポーチにしまった。今度はリュミエがマジックバッグからプレゼントを取り出してノイトに手渡した。それはブレスレットのような魔具で、ノイトは一瞬それが何のためのものなのか理解できない。
「えっと...これは、どうやって使うやつかな?」
「あ〜、えっとね?多分、これに手首を通すとこのブレスレットの先の部分に手袋みたいなものが現れて、指を動かすとピアノの音がなる...みたいなやつ。」
「あぁ...レミステラでリーリャがルベリアさんに買ってもらった魔具に似た感じか。」
見た目は金色のリング。万が一、一定時間脱着が出来ない仕組みだったものだと困るため、今は“■■の硝子箱”と同じポーチにしまっておくことにした。
「ありがとう、リュミエ。いざと言う時が来たら使わせてもらうよ。」
「どういたしまして、ノイトくん。...ふふっ。」
3人は昼食を食べに行くことにする。並んで歩いた後ろ姿をどこかから見ている者が居るとも知らずに、無邪気に談笑しながら街を歩いていた。
(...で、リュミエは僕の記憶をどこまで読み取っているのかな?僕はピアノが弾けるだなんて一言も言ってないけど...。)
ノイトは何かを感じつつも、それは恐らく隣で笑っているリュミエも同じだと思って敢えて気が付かないふりをして街の中央へと歩いていった。
ノイトとルミナスとリュミエは音楽都市・ムズィガルドの宿屋の一室に居た。
「さて、ノイトくん...分かってるよね?」
「分からないし分かりたくもない。もう寝る。おやすみ。」
リュミエの悪戯な笑みを浮かべた誘惑は、ノイトに全面的に断られた。ルミナスももう既に眠ってしまっている。一国の王女にここまで信用されているとは、ノイトも自身の盲点にようやく目が向き始めた。
(改めてだけど...ルミナってこんなに僕のことを慕ってくれていたのか...。まぁ、そういう歳なのかもね。)
ノイトが布団を被って寝返りを打とうとしたところで、リュミエが潜り込んできた。
「ばぁっ!何勝手に1人で寝ようとしちゃってるの〜?」
「ん...退いてくれるかな?」
「やだ。だってノイトくん、リーリャとメルク...だったっけ?その2人と同じブランケットの中で寝てたんでしょ!だったら私も良いじゃん!」
「そういう問題じゃないんだけど...。」
ノイトが眠ろうとする素振りを見せると、リュミエはすぐにそれを妨げてくる。
「今夜は寝かせない、とまでは言わないけど...こんなチャンス滅多にないんだよ?何もしてくれないの?」
「しない。」
「えぇ〜、逃げんの?逃げんのぉ〜?」
「夜は寝ろ。いくら魔神だからって、充分な睡眠を取らなかったら疲れも溜まりやすくなるでしょ?」
「ん〜、それはそうだけど...ちょっともったいなくない?」
「おやすみ。」
ノイトの勝ち逃げだった。リュミエは少しもの足りなく感じつつも、やがて超近距離で目を閉じているノイトを見守りながら眠りに落ちる。外から微かに聞こえたのは、ピアノの演奏だった。ノイトはリュミエが眠ったことを確認すると、先程まで考えていた過去の追想の続きをする。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちはその後、ヴェルグランド大陸へと向かった。貿易都市・レミステラから発った飛行船に乗っていたのだが、あの時はワイバーンの群れが飛行船の進路を塞いでいた。そこでノイトとメルクがワイバーンの群れを追い払ったのだが、メルクが魔法の加減をしていなかったせいで飛行船の気嚢が破損し、結局リーリャの[漢字]演奏[/漢字][ふりがな]まほう[/ふりがな]で現れた翼のようなもので飛行船の到着を支えたのだった。すぐにその場を離れた3人は、魔導都市・マギノシティでフィルマリーと出会い、ノイトはメルクには魔法の杖、ルミナスには聖剣と聖鎧を買う。ノイトの上級魔術との出会いは、後の魔神戦にも繋がるものとなった。
(フィルさんは普通にスゴいよな...元・魔道士とは言っても上級魔術を扱えるし、魔力量も半端じゃない。)
その後はいにしえの地・オボロノサトでイグと再開し、その近くにあるメルクのこの現世での故郷、霊峰の町・ノービリアで休んだ。久々に温泉に入ったノイトは旅の疲れも取ることが出来て、意図せずとも、翌日の事件に対しても最低限必要な準備が出来ていたと思う。メルクと一度別れて再び2人の旅になった矢先、静寂の森で復活していた“記憶の魔神”ゲデニスと邂逅し、戦闘となった。ノイトとの思想の違いがズレを生み、リーリャのトラウマを蘇らせたことでノイトが攻撃を仕掛け、最終的にはノイトが習得した魔術や魔法に追い込まれた魔神を、リーリャが新たな超級魔法を会得してトドメを刺す形で討伐という功績を残すこととなる。
(あれはホントに僕の魔法との相性が良かっただけ...あれも寝起きだっただろうし、いきなり本気を出されていたら結構厳しかったかな〜...。)
ノイトとリーリャがゲデニスと戦闘を繰り広げていた時、ノルティーク大陸では“絶望の魔神”カヴローチェが復活していたようだ。後から聞いた話では、ルベリアの隊の捜索任務先で魔神が復活し、エスミルト騎士団の2番隊と5番隊、レイク、フィルマリー、そしてラルカがそれを討伐したらしい。それも知らなかったノイトはそのまま待賢都市・グレイベアルドに向かい、そこで師であるリオールと再開した。待賢制度が色濃く反映された街で、リーリャに惚れた騎士賢者・ユプシーバと決闘をする羽目になり、ノイトは賢者に対して許可なく魔術を使用した罪で処刑対象にとなってしまう。リーリャとリオールがの声掛けによって駆けつけてきてくれたメルク、フィルマリーがノイトを救出したことによってリオール以外の七賢と戦うことになったが、ノイトとリーリャがそれぞれ2人ずつ、フィルマリーとリオールがそれぞれ1人ずつ倒したことで七賢を打ち破り、待賢制度を廃止させたのだ。
(そういえば...僕が斬り飛ばしたあの七賢、まだ生きているのかな...?七賢程の手練れなら生き残っていてもおかしくないんだけど...。)
その後はユーガレア王国に寄り、そのまま機械都市・カタパリアへと向かった。リーリャの武器を買う予定だったのだが、メルクが所属している、魔神の復活を目論む組織の人間に襲われて半強制的にノルティーク大陸へと戻る羽目になった。ノルティーク大陸へと帰る途中でノルティーク帝国の近くから煙が上がっているのを見つけたノイトはすぐに飛行船から降りて真っ先にその場所へと向かう。もう既にユーガレア王がノルティーク帝国に戦争を仕掛けていたことに気が付き、ノイトはノルティーク王城へと飛んでいった。しかし、途中で何者かの攻撃を躱したことでそれは阻まれた。その時、ノイトとラルカは出会ったのだ。ラルカはノイトとは違う線で深い思想を持っており、一理ある発言ばかりだったが、ノイトの方が一枚上手だった。
(あ〜、あの時はホントにびっくりしたよ。その後にイズベラ様の実の娘だって聞いて人間関係の闇みたいなのに踏み入りかけたしな...。)
ラルカとの戦闘中にレイクが飛んできて、ラルカがノルティーク帝国の女王・イズベラの実の娘だと聞いてノイトは驚いた。ルミナスやカメリアの異父姉妹であるラルカとノイトは一騎打ちを行い、ノイトが勝利した。その後は明確な敵対はしてこないものの、ノイトのことはまだ味方だとは思っていないようで、同行を拒否する。ノルティーク王城の大広間に居た、王族たちと避難していた貴族たちの元にメルクが所属する組織の人間が飛び込んできてルミナスに向かって剣を振りかざした。しかし、そこでノイトがそれを弾き飛ばし、ルミナスを助ける。その後ユーガレア王が連れ込んだ大量のドラゴンと巨大なキメラを討伐してユーガレア王に報復を受け渡し、ラルカと少し話した。それとなく互いに転生者であることに気が付き、さらには前世での面識の有無まで確認することが出来る。そして、最後が迫っていたイズベラの部屋へ向かい、その最後を見届けた。
(あのキメラはホントにバケモノだったよ...今の僕でも1人で倒すのはまぁ無理だろうね...。)
終戦後はミストルの町に戻り、町のカフェでフレンチトーストとホットココアを喫し、ディアスムングロール大陸へ向かうための準備をする。一度ヴェルグランド大陸へと向かい、フィルマリーと合流した後に再びカタパリアへと向かった。そこで一時的にハイヴを仲間に加え、ノルティーク大陸へ戻ってきてから汽車でディアスムングロール大陸へと向かったのだ。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
翌朝目を覚ますと、目の前にはリュミエの顔。
(既視感...リーリャも同じようなことしてたよな...。)
「おはよう、リュミエ。」
「おはよっ、ノイトくん!」
ノイトはあくびをしながらベッドから起き上がり、寝癖を撫でる。ルミナスも目を覚まし、挨拶をしてきた。
[明朝体][太字]「お兄ちゃん、おはようございます!」[/太字][/明朝体]
「おはよう、ルミナ。」
ピアノの演奏が聞こえて外を見る。またシシリエンヌだ。きっとあの女性のお気に入りなのだろう。
[太字][明朝体]「こんなに朝早くから演奏されているんですね...。リーリャ様はもう起きていらっしゃるでしょうか?」[/明朝体][/太字]
「どうだろう?まだ寝てたら連絡取れないし...取り敢えず朝食でも食べに行こうか。」
宿の近くの店に入り、パンとミルクを貰う。
「なんだかシンプルだね。ノイトくんの朝食はいつもこんな感じなの?」
「うん、僕が時計塔に居た時はいつもこんなんだったよ。」
3人が朝食を食べ終わる頃、街に聞こえる曲が変わる。「慰め」※だ。ノイトにはその演奏の主が誰かすぐに分かった。
「...リーリャ?」
静かなメロディーが響き、リーリャの繊細さを表しているようだった。
「もう起きてたんだね。朝からピアノの練習って真面目だね〜。」
「そうだね。リーリャはそういうところ、あるから。さて、僕はこの街でちょっとやりたいこと見つけたんだけど...2人はどうする?この先の街にも気になるものがあるんだけど...。」
[太字][明朝体]「気になるものですか?」[/明朝体][/太字]
「ノイトくんが気になるもの、私も気になる!偵察、ってことで良いのかな?」
「まぁ...そんな感じだね。心持ち的には散策で良いけど。それじゃあ2人に頼もうかな。」
[太字][明朝体]「分かりました!」[/明朝体][/太字]「了解っ!」
ルミナスとリュミエの2人は荷物を持って街の外へと歩き出した。
2人が街の西から少し先に進むと、小規模な路上市場が広がっていた。
[太字][明朝体]「市場でしょうか...?売られているものはどれも珍しいですね!」[/明朝体][/太字]
「楽器と食べ物ばかり...ノイトくんは何か演奏出来るのかな?」
リュミエは懐にしまっていた“記憶の魔神”の火に尋ねてみる。火が一瞬揺らいでリュミエの目の前に浮かぶと、驚くことにその火からは“記憶の魔神”ゲデニスの声が聞こえる。
[明朝体][大文字]〈私は貴様の下僕ではないのだぞ。こうして復活していることは良いものの、それとこれは別だ。〉[/大文字][/明朝体]
「まぁまぁ、取り敢えず私の質問に答えてよ〜。ね?」
リュミエの軽々しい言葉にゲデニスはため息を吐くが、正直に答えた。
[明朝体][大文字]〈...ハァ.........私が彼から読み取った記憶の中では、特に何かを得意として演奏している様子は見受けられなかった。〉[/大文字][/明朝体]
「ふ〜ん、“得意として”ではなければあるんだ?」
[明朝体][大文字]〈まぁ...そういうことだ。放課後にピアノに軽く触れるくらいならしていたぞ。〉[/大文字][/明朝体]
口角を上げて満足げな表情を浮かべたリュミエはどこか不満そうなゲデニスを煽る。
「へぇ〜、人のプライバシーをそんなに軽々しく言っちゃうんだ〜?」
[明朝体][大文字]〈聞いてきたのは貴様の方だ。それに、真実は真実。正直も何も、正確に伝えなければ後々語弊が生まれるだろう?〉[/大文字][/明朝体]
リュミエは悪戯な笑みを浮かべてゲデニスに言う。
「でもさ、嘘も方便って言うでしょ?たとえ真実じゃなくても、その人を救うことは出来るんだよ。ノイトくんも言ってたでしょ?真実と事実は同じである必要はない、みたいなこと。」
[明朝体][大文字]〈記憶は過ちを繰り返さぬための戒めだ。都合よく改変していては二度も三度も過ちを犯す。それで後悔してしまえば元も子もない。〉[/大文字][/明朝体]
「じゃあ、後悔しなければ良いんじゃない?見方を変えて、逆に次のどうすれば良いかを考えればプラスじゃない?」
[大文字][明朝体]〈しかし...事実は別でも真実は変わらないぞ...。〉[/明朝体][/大文字]
「そんなに重要かな、真実って?本当はどうかとかじゃなくて、自分がどうかを考えるだけで手一杯だと思うよ。あのね、ゲデニス──。」
ゲデニスには、リュミエの笑みに彼が見たことないはずのノイトの面影が重なったように見える。
「純粋なまま生きていてもつまらないでしょ?せっかくなら裏の裏と欺瞞で面白く狡猾に...人生、楽しんだもん勝ちでしょ!」
[大文字][明朝体]〈.........ハァ...。飼い主に似るとはこのことか...。〉[/明朝体][/大文字]
「ちょっと、誰が犬だって?確かにノイトくんにお世話されたいけど、主従関係とかじゃないからね!もう。」
リュミエはゲデニスを懐へとしまって少し前を歩いていたルミナスに話しかける。
「ねぇ、ルミナス?ノイトくん、少しだけらしいけどピアノが弾けるんだって。何かそれっぽいプレゼントしてあげよ!」
[太字][明朝体]「本当ですか?! 是非そうしましょう!」[/明朝体][/太字]
結局、2人は市場の隅から隅まで巡り、決して安くはない値段の魔具を2つ買ったのだった。
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[漢字]人気[/漢字][ふりがな]ひとけ[/ふりがな]のない部屋に、1台のピアノが置いてあった。それに1人の人物が近づき、鍵盤に触れる。
[中央寄せ][斜体][明朝体][大文字]〈 ────── 〉[/大文字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
澄んだ音が室内に響き、その人物は僅かに口角をあげた。外の喧騒など忘れるように見入った瞳は懐かしいものを見ているようで、鍵へと伸ばされた指が優しくそれを押す。
[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][漢字]追想奏楽[/漢字][ふりがな]インタープリテーション[/ふりがな][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
繊細な音が「別れの曲」を途中まで奏でて。やがて、キリが良いところで演奏が終わり、その人物はピアノの椅子から腰を上げた。部屋から出ると、部屋の中には時間が止まったような静寂が訪れ、再びその演者が来るのをひっそりと待っているようだった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
昼頃、ノイトは帰ってきたルミナスとリュミエと合流することが出来た。
「あ、おかえり〜!どうだった?」
[太字][明朝体]「えっと...道に沿って市場が開かれていて、主に楽器や食べ物を売っているようで...その中でも特に気になった魔具を2つ程購入してきました!」[/明朝体][/太字]
「そうそう!ノイトくんへのプレゼントだよ〜!絶対受け取ってね!」
「プレゼント?僕に...?」
ノイトは誰かからプレゼントを貰うという経験があまりなかった。前世では他人との関わりがやや軽薄だった上に、現世では他人にプレゼントをする側に回っていたからだ。
ルミナスがマジックバッグから取り出したのは、ルミナスの手のひらに乗っても手が余る程に小さなガラスの箱のようなものだった。中はレジンのようなもので満たされているのか小さな泡が入っていて、箱の中には小さなピアノがあり、緑色の夜空が広がっている。
「わぁ......綺麗...!! すごいね、こんなに綺麗なもの見つけて。ありがとう。大切にするよっ!」
普段の冷静な時のノイトからは思い至らない程に目を輝かせたノイトが頬を赤くして喜んでいる。そんなノイトの様子を見てルミナスも自然と嬉しくなってきた。
[太字][明朝体]「ふふっ......そんなに褒められたら、お兄ちゃんのことをもっと好きになってしまいそうです!気に入ってもらえたようで私も嬉しいですよ!!」[/明朝体][/太字]
ノイトはそれを“■■の硝子箱”と名付けて、マジックバッグの中から取り出した別の素材のポーチにしまった。今度はリュミエがマジックバッグからプレゼントを取り出してノイトに手渡した。それはブレスレットのような魔具で、ノイトは一瞬それが何のためのものなのか理解できない。
「えっと...これは、どうやって使うやつかな?」
「あ〜、えっとね?多分、これに手首を通すとこのブレスレットの先の部分に手袋みたいなものが現れて、指を動かすとピアノの音がなる...みたいなやつ。」
「あぁ...レミステラでリーリャがルベリアさんに買ってもらった魔具に似た感じか。」
見た目は金色のリング。万が一、一定時間脱着が出来ない仕組みだったものだと困るため、今は“■■の硝子箱”と同じポーチにしまっておくことにした。
「ありがとう、リュミエ。いざと言う時が来たら使わせてもらうよ。」
「どういたしまして、ノイトくん。...ふふっ。」
3人は昼食を食べに行くことにする。並んで歩いた後ろ姿をどこかから見ている者が居るとも知らずに、無邪気に談笑しながら街を歩いていた。
(...で、リュミエは僕の記憶をどこまで読み取っているのかな?僕はピアノが弾けるだなんて一言も言ってないけど...。)
ノイトは何かを感じつつも、それは恐らく隣で笑っているリュミエも同じだと思って敢えて気が付かないふりをして街の中央へと歩いていった。