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本作は一部を除きフィクションです。
一部を除き、実在する人物、出来事、組織とは関係ありません。

また、一部微細な暴力表現や戦争などに関連する内容が含まれている場合があります。
これらを苦手とする方は閲覧をお控えいただくことをお勧めします。

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世界に溢れる夢

#87

87.雨湖の怪物

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]

目が覚めてもその街の天気は雨のままだった。ほぼ一年中雨が降り続け、街の中心には雨水が溜まって出来た湖があるらしい。
「ハァ...まだ魔力は回復しきってないな...。ハイヴさん、もしもの時は2人を頼みます。」
「承知いたしました。」
2人は宿屋を出て先に外に出ていたリーリャとフィルマリーと合流する。
「あ、ノイト!おはよう!!」
「おはようございます、ノイトさん!」
(ハイヴさんにも言ってあげないのか...?まぁいいや。)
「おはよう。それじゃあ早速だけど、街の真ん中に行ってみよう。何か大きな魔力の反応があるんだけど...それが何かを確認しに行こうと思う。」
「分かった!」「分かりました!」
ノイトを先頭に、4人は雨の中を歩いていく。フィルマリーの魔法で創られた傘が4人の動きに合わせて移動してくれているため、雨に濡れる心配はなさそうだった。
「それにしても、すごく静かな街ですね...。昨日は夜だったから静かなのかと思いましたけど...朝も昼も静かな気がします。」
「多分、雨が好きな人や落ち着いた雰囲気が好きな人が暮らしているんでしょうね...。あまり騒がないようにしましょう。」
ノイトは街の様子を観察しながら街の中心へと歩いていく。ひょっとしたら雲の中まで続いているのではないかと言う程に石造りの高い建物が雨の中に並んでいて、あまりにも高いせいで上の方は雨に霞んで見える。
「ねぇ、ノイト...あそこ、なんか足元が水浸しになってるよ...?」
リーリャが指を差した先を見ると、雨水が溜まって浸水していた。
(街の中心に向かって地面が低くなっているのか...。地面が見えることを考えると、この街はかなり綺麗なんだろうな...普通は浸水したら濁った水が溜まるはずだし...。)
視界の端の方に階段が映っていることに気がついたノイトはそちらを向いた。すると、そこには高架橋のように高くなっている道へと続く階段がある。4人はその階段を上ってさらに街の中心へと進むことになった。
「うわー、高い......落ちちゃわないかな...?」
「風も吹いてないし、足を滑らせなければ大丈夫だよ。」
雨が降っているせいか、街の全体が涼しい。それどころか、長居していると風邪を引きそうだった。
(雨が降っているから湿度も高い...[漢字]灯火[/漢字][ふりがな]トーチ[/ふりがな]も使えないし、フィルさんのぬいぐるみも呼び出せないな...。)
しばらく歩いていると、大きな穴が空いたようになっている場所に出た。
「これは...丸くて大きな貯水槽ですかね...?」
「いえ...これは人口の湖だと思います。この街は降水量が多いですので、恐らくかなり深く作ったのかと。」
ノイトは底の方から何かを感じる。
「ハイヴさん、底に何があるか見れたりします?」
「お任せください。」
ハイヴは腰に付けていた小さなマジックバッグからスチームパンクな装飾がされているゴーグルを取り出した。どうやら、遠くにあるものを観察することが出来る魔具らしい。ゴーグルを付けたハイヴが湖の底を覗くと、蛇のようなものが見えた。
「これは蛇...サーペントでしょうか...?かなり巨大な個体の魔獣です。」
「なるほど...道理で魔力反応があるわけだ...。」
ノイトが左腕の袖をまくると、小さな[漢字]羅針盤[/漢字][ふりがな]コンパス[/ふりがな]のようなものがついた魔具を付けているのが見える。その針は湖の底の方を指していた。
「ノイトさん、どうしますか...?」
「取り敢えず、街のど真ん中に魔獣が居るのも良くないんじゃないですかね...?向こうから何もしてこない限りは、僕たちから何か仕掛ける必要はないですし...」
そこで湖の底からそれが高速で浮上してきた。それにいち早く気がついたノイトは咄嗟にリーリャを覆いかぶさるようにして守る。その直後に鰭を持つ巨大な蛇が湖から出てきて大量の雨水がノイトたちを襲った。しかし、幸いにもフィルマリーが防御魔術が展開してノイトたちがびしょ濡れになることはない。
(何だ...?!縄張りに入ったから追い払おうとしているとか、そういうやつか...?)
ノイトが振り返ってその怪物の方を向くと、巨大な口を開いて何かをしようとしているレイクサーペントが居た。
[斜体](なっ...[漢字]息吹[/漢字][ふりがな]ブレス[/ふりがな]か...!!)[/斜体]
レイクサーペントの口の先に魔力で創られた水と風が圧縮されて集まり、それがノイトとリーリャに放たれようとしていた。
[斜体](間に合うか...?!)[/斜体]
ノイトが手をかざして魔法を発動しようとした。しかし、そこでハイヴが下からレイクサーペントの顎を両足で蹴り上げる。[漢字]息吹[/漢字][ふりがな]ブレス[/ふりがな]の構えが解けてレイクサーペントが怯んでいる隙にフィルマリーが攻撃を加えた。無詠唱で創られた無数の金属の槍がレイクサーペントへと絶え間なく浴びせられる。言わずもがな、レイクサーペントはなすすべなく湖の底へと沈められたのだった。
「私のノイトさんに攻撃しようだなんて、100年早いです!!」
(あれ...僕、必要なくない...?)
「ノイト、ありがとう...!大丈夫だった?」
「うん、フィルさんとハイヴさんのお陰で何とか、ね。」
フィルマリーは元魔道士であり、その力は未だに衰えていない。魔獣を1体倒すことなど大したことではないのだろう。ノイトも本気を出せば先程のレイクサーペントを瞬殺するのは容易いことであったが、今は魔力が足りていない。魔力が完全に回復するまでは他人に頼る必要があることに不満を抱くノイトだった。
(ハァ...情けないなぁ...。早く回復すれば良いんだけど...そもそも魔族相手に魔力を消費するのが無茶だったんだけどね...自業自得か...?)
レイクサーペントを倒した4人は、次の街へと向かうことになった。

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚崇拝都市・プロセティア近隣/大陸間鉄道 ノルティーク大陸駅〛[/中央寄せ]

ノイトたちから1日遅れてこの駅に辿り着いた者たちが居た。
「さてと...この列車に乗ってディアスムングロール大陸に向かいますよ、ルミナス様。」
[明朝体][太字]「はい、分かりました。」[/太字][/明朝体]
ルミナスはノイトにプレゼントして貰った聖剣や聖鎧を腕の立つ鍛冶職人に強化して貰い、それらを装備してノイトの後を追っている。
[明朝体][太字](お兄ちゃん...私もいよいよ冒険に出ることが出来ました...!必ず、会いに行きますからね!!)[/太字][/明朝体]
決意と希望が宿った翡翠色の瞳が見据えるのはディアスムングロール大陸がある方角の水平線。付添人としてルミナスに付き添っていたイルムはルミナスが内心浮足立っている様子を見てノイトと言う人間がどんな人物なのかを考えていた。
(それにしても...王女様が想いを寄せていると言うノイト=ソルフォトスとは、一体どんな人間なのでしょうか...?魔神を倒したと言う戦績もありますし、やっぱり少し生意気だったりして...。)
そこでイルムは、ふとノルティーク王から言い使わった言葉を思い出す。

 ――[明朝体][太字][大文字]もしもルミナスが1人で行きたいと言い出したり、ノイト=ソルフォトスと合流することが出来たのなら、付添人の役目は終わりで良いぞ。[/大文字][/太字][/明朝体]

イルムも研究者の端くれであるため、自信の研究にも時間を宛てたいと思っていた。取り敢えずルミナスさえ無事にノイトの元へと送り届ければ期限間近の書類をまとめられる。
(出来るだけ早く合流出来ますように...。)

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚?〛[/中央寄せ]

ノイトたちは降水都市・レインフォリアを出てから迷子になった。ハイヴがゴーグルの魔具を付けて周囲を見回してくれているが、霧が濃すぎて何も見えない。
「ノイト...どうするの...?」
リーリャはノイトとはぐれないようにノイトの右腕にしっかりとしがみついていた。フィルマリーはリーリャの反対側で同様に。
(何で急に霧が...?これじゃあルミナと合流するのも難しいな...どうしよう...。)
「ハイヴさん、何か目印になりそうなものは見つかりました...?」
「いえ、まだ視界は真っ白です...。先程からゴーグルは何度も吹いているので曇っているわけではないのですが...。」
魔法で強引に照らそうとして何かに当たってしまったらいけないということで魔法を使っていないため、文字通りの五里霧中である。
(フィルさんも何もしていないな...。僕が昨日使った[漢字]地図[/漢字][ふりがな]マップ[/ふりがな]は魔力を一度放出してからまた自分の元へと戻す操作が必要だけど...多分苦手なんだろうな、そういうの。)
光を放っても霧に覆われていては先が見えないどころか、その光が霧に反射されて目が眩まされる上に魔力を浪費する羽目になる。風を起こして霧を払おうにも、妙に嫌な予感がしていた。
しばらくそのまま進んでいると、ハイヴが何かを見つけた。
「ノイト様、何か見つけました。...廃屋のようです。」
「廃屋...?近くに何かあるかもしれませんし、一度寄ってみましょう。」
4人ははぐれないようにゆっくりと廃屋へと向かっていった。やがて霧の中から目視出来る建物の影が出てきて、それがハイヴが先程見つけた廃屋だと分かる。
「ここか...。取り敢えず中に誰か...居ないよね...?」
「特に人が居る気配は感じません。僅かな魔力反応はあるものの、人間のものとは違う気がします!」
フィルマリー報告を聞いてノイトは中に入ってみることにした。ドアを開けると室内から冷たい空気が漏れ出した。
「[斜体][大文字]ひゃあっ...![/大文字][/斜体]...何ここ、冷蔵庫みたいに寒いよ...?」
リーリャに壁にされたノイトはそのまま中へと入っていき、辺りに何があるのかを確認する。
(壁に地図...この廃屋周辺のものだと良いんだけど...。古びた机の上にはこぼれたインクの跡...。確かに人は居なさそうだね。)
住居にしては小さいため、何かの倉庫か営業小屋なのだろう。フィルマリーが魔法で辺りを照らすと、ノイトは小屋の奥の方から微細な魔力反応があることに気がついた。
「これは...何だ...?」
ノイトが見つけたのはハイブツールだった。ノイトは養蜂の知識が無かったため、L字型のハイブツールを見てもそれが何かは分からない。同じく転生者のリーリャもそれを知らなかった。そこで、ハイヴがそれが何かをノイトたちに説明する。
「それは恐らく、ハイブツールと言う道具ですね。養蜂で使うもののようです。」
(おぉ...表記ゆれで同名...。)
そのハイブツールは魔具では無かったが、柄の部分に魔力が僅かに残っていた。恐らく昔これを使っていた人物はかなり膨大な魔力を持っていたのだろう。
「ノイト、この地図に載ってるこれがこの小屋だよね...?ってことは、次はこっちに行けば良いんじゃない?」
ハイブツールをマジックバッグにしまいながらリーリャの方を振り返ると、地図の右の方にこの廃屋らしき小屋が書かれていて、そこから西へ進んだ方に都市が書かれている。レインフォリアではなかったため、そこが次の目的地である。
「都市名は...掠れててよく読めないな...。」
「行ってみればどんな場所か分かりますよ!早速向かいますか?」
そこでノイトは何かを感じて止まった。ノイトたちが先程来た方向を向き、外をじっと見つめる。
「......いや、今日はここで休むことにしましょう。」
「ノイト...どうしたの...?」
懐かしい魔力が近づいてくるのが分かった。[漢字]それ[/漢字][ふりがな][大文字][太字]・・[/太字][/大文字][/ふりがな]を持っているのはこの世界でたった1人しか居ない。笑みを浮かべたノイトがフィルマリーに頼み事をする。
「フィルさん、念の為この小屋の上に何か遠くからでも見えるような目印を付けて貰えますか?」
「目印ですか...?分かり、ました...!」
フィルマリーが廃屋の外で杖をかざして小屋の上に炎を浮かせた。
(あれって...昨日僕が使えなくなった[漢字]獄炎[/漢字][ふりがな]インフェルノ[/ふりがな]じゃない...?封じた魔法、そういう使い方するんだ...。)
「ノイトさん!これで大丈夫です!! ...ところで、何故目印を...?」
「いや...大事な[漢字][斜体]お姫様[/斜体][/漢字][ふりがな][太字][大文字]ひと[/大文字][/太字][/ふりがな]の気配がしたんです。この大陸で合流する、って約束しましたから。」
ノイトは近くにあった古い椅子に座って伸びをする。
「さてと...それじゃあ、お昼ご飯食べましょうか。霧が晴れるかは分かりませんけど、別に急ぎの旅でもない。僕の魔力も出来るだけ回復させておきたいです。」
4人はノイトのマジックバッグから出てきたパンと牛乳を取り、フィルマリーのぬいぐるみによる人形劇を見ながら休むのだった。ちなみに、人形劇はかなりクオリティが高かったため気分転換も兼ねて4人はくつろぐことが出来た。


作者メッセージ

 作者の御鏡 梟(みかがみ きょう)です。
今回は降水都市・レインフォリアの雨湖の怪物との戦いとルミナスのディアスムングロール大陸への出発を描きました。次回もお楽しみに!!
本作を読んでの感想の他、キャラクターや世界観についての質問も受付けています。
本作品を読んでいただき、ありがとうございました!!

2025/12/16 23:56

御鏡 梟 ID:≫ m9kR/WFBrng.A
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