世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
トロッコ列車は海底トンネルを通っている。しばらくの間はこのまま平和であるため、ノイトたちは各々好きなことをして暇を潰していた。ノイトは魔導書を読み、リーリャはノイトが読んでいる魔導書を隣から覗き込む。ハイヴはスチームパンクなゴーグルを磨いており、フィルマリーはぬいぐるみを呼び出して遊んでいた。
「え...そのぬいぐるみって自立式なんですか...?僕はてっきり全部フィルさんが操っているのかと...。」
「えへへ〜すごいでしょう!私の大事なコレクションたちです!! ムルーム2世さん、この人がノイトさんですよ〜。いつかあなたの後輩になるので、仲良くしてあげてくださいねっ!」
「いや、なりませんよ...勝手にぬいぐるみにしないでください!」
フィルマリーは未だにノイトを自分のものにすることを諦めていない。何故かノイトはぬいぐるみが自立して動いている理由を、フィルマリーの性格から何となく察してしまうのだった。
(まさか...いや、それは流石に...でも、この人ならやりかねない...あのぬいぐるみ、元人間...?やば。)
フィルマリーにムルーム2世と名付けられたぬいぐるみはノイトの前まで歩いてきた。ノイトは魔導書を閉じてムルーム2世をじっと見つめる。
「ノイトさん、ムルーム2世さんはすごいんですよ!すごく気が利く優しい人で、他のぬいぐるみさんたちのリーダー的存在なんです!!」
(ぬいぐるみのリーダーってなんだ...?おもちゃたちが動くやつ...?......メルが居たらすぐに分かってくれるんだけど...。)
フィルマリーは他にもたくさんのぬいぐるみが居ることをノイトにどこか楽しそうに伝えた。
「他にも、看守長さんやアルメさんやMr.ドールさんが居ますよ!!」
「...そんなに個性豊かな仲間たちが居るんですね...。名前が厳つい個体が居ますけど...?」
ノイトはもうフィルマリーの話に着いて行けなかったため、窓の外を見つめていた。とは言っても海底トンネルの途中であるため、岩盤の壁が見えるだけなのだが。
「ハイヴさん、あとどのくらいで着きますかね...?」
「そうですね...あと5時間程かと。」
(長いな...。暇だし仮眠でも取っておこう...。)
ノイトは魔力を大量に消費していたため、今のままでは役に立てない。
「それじゃあ僕は仮眠取るんで...何かあったときはハイヴさんにお願いします...。」
「承知致しました。」
ノイトは腕を組んで目を閉じ、眠りに落ちていった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
しばらくして、ノイトは何か温かいものを感じて目を覚ました。
(ん...?)
ノイトが目を開けると、隣で寄りかかりながら眠っているリーリャの腕がノイトに絡みついていた。
「...あの、ハイヴさん?何で僕はリーリャに抱きつかれているんですか...?」
「ノイト様がお眠りになりました後に、リーリャ様も眠気を催されたようでして...。」
道理でリーリャの寝息が顔にかかってくるわけだ。ノイトは無理にリーリャを起こす必要もないと思い、そのままじっとしていた。思えば、リーリャに抱きつかれるような形になるのも慣れたものである。リーリャが飛びついてくることは度々あったし、腕を掴んできたり腕を組んできたりすることも多かった。以前カタパリアでメルクが所属している組織の人間に襲われた時もリーリャを抱えて走っていたことがある。挙句の果てにはリーリャとメルクに挟まれて同衾共枕をする羽目になったこともあった。
(ハーレムは御免だ、なんて思ってたけど...リーリャにメルにルミナにフィルさん、カメリア様やラルカからの好感度も上がっているんだよな...。多分オボロノサトで会ったツバメにも嫌われては居ないだろうし...もちろんロズウェルさんとかルベリアさんがいるエスミルト騎士団の人たちやイグさんにも気に入ってもらえてるかもしれないけど、異性は一応ちゃんと意識するからね...。)
ノイトがトロッコ列車の前方を見ると、そろそろトンネルを抜ける所のようだ。
[中央寄せ][太字][斜体]⚠危ないので、窓から頭や手などを出さないように。[/斜体][/太字][/中央寄せ]
「リーリャ、そろそろ着くよ〜。」
「んん〜...?」
リーリャが目を覚ますと、すぐ目の前にノイトの顔があった。
「[斜体][大文字]ひゃあっ!![/大文字][/斜体]」
ノイトは叫ばれてとても悲しくなった。
トンネルを抜け、ディアスムングロール大陸の駅へと到着したトロッコ列車から4人が降りる。先程までフィルマリーが呼び出していたムルーム2世はフィルマリーのぬいぐるみ格納庫と言う所へと帰ったらしい。要するに、他次元的なマジックバッグにしまったのである。
「さてと...早速何か居る...?」
4人の前に立ちはだかっているのは黒いローブを着た人物たちだ。
「フィルさん、ハイヴさん、あいつらが魔神の復活を目論んでいる例の組織です。」
「「なるほど...それ[漢字][小文字]では[/小文字][/漢字][ふりがな][大文字]じゃあ[/大文字][/ふりがな]、なってしまいましょうか...。」」
フィルマリーはぬいぐるみを呼び出した。
「看守長さん!やっちゃってください!!」
看守長と呼ばれたぬいぐるみは制帽を被っていて、次の瞬間には黒いローブに身を包んだ人物らが一瞬で魔力の檻に捉えられた。
(え...?普通に速くない?)
さらに次の瞬間には看守長が持つ鞭で檻ごと破壊される。看守長の攻撃を食らった者たちは咄嗟に回復魔法を自分たちにかけていた。
(僕も何かしたほうが良いかな...?っていうか、フィルさんめちゃくちゃ強いじゃん...。)
[中央寄せ][[漢字][太字]獄炎[/太字][/漢字][ふりがな]インフェルノ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトが放った獄炎がローブの人物を包む。そこでフィルマリーがノイトに向かって怒鳴った。
「ノイトさん!看守長さんが居るんですから、火はやめてください!!」
([斜体]あっ...!![/斜体])
看守長に火が燃え移った。看守長は手を必死に振って燃え移った火を消そうとしていたが、ノイトの魔法の方が強い。看守長が燃えてしまい、フィルマリーは涙目でノイトへと飛びかかった。飛びかかられたノイトは呆気なくフィルマリーにうつ伏せの状態で押さえつけられ、頭をポカポカと叩かれる。
「ノイトさんの馬鹿!! 看守長さんが燃えちゃったじゃないですか!! 本当に、どうしてくれるんですか!! もう!!」
ノイトは何の申し開きも思いつかず、ただ黙っていることしか出来なかった。本当は脳裏に、フィルマリーがすぐに消火すれば良いのではと言う考えが浮かんだのだが、フィルマリーのお仕置きが地味に効いていて口を開けない。
そこでハイヴが看守長に向かって魔法を放った。
[中央寄せ][[漢字][太字]水滴[/太字][/漢字][ふりがな]ドロップ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ハイヴの魔法のお陰で看守長に燃え移った火が消えた。しかし、腕が焦げている。
「...もう、ノイトさん!ごめんなさいは?」
「......ごめんなさい...。」
「もうその魔法は使っちゃ駄目ですよ...?!」
今ノイトは、何かの魔術をフィルマリーにかけられた。恐らく同じ魔法はもう使えなくなってしまったのだろう。
(...いや、悪いの僕だしな...。)
「むぅ〜...ぎゅーしてくれたら、許してあげる!」
(うへぇ...またそれか...。)
「ん〜!」
赤くなった顔に涙を浮かべ、両手を広げて待っている。ノイトは一瞬躊躇ったが、逃げ場がないことを察して渋々フィルマリーに両腕に締め付けられに行った。
「[斜体][大文字][太字]ウグッ、ゲホッ、ガハッ!![/太字][/大文字][/斜体]」
フィルマリーの頭がノイトにめり込み、さらには両腕に締め付けられている。拷問ほどではないのだろうが、それでもノイトにとっては辛い時間だった。
「...本当に、気をつけてくださいね...?」
「...はい、気をつけます...。」
何とか許してもらえたようだが、罪悪感は残り続けていた。
(ハァ......魔力もほとんど残ってないのに魔法なんて使うんじゃなかった...体力も今のでかなり消費したし...。)
ノイトはよろよろと立ち上がりながら回復魔法をかけ終えたローブの人物たちと対峙する。マジックバッグから【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出して構えた。魔力はほとんど残っていなかったが、取り敢えず相手に向かって武器を振るう。
[中央寄せ][大文字][斜体][太字]ズイィィィン[/太字][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
ノイトの斬撃は重たい音を鳴らしてローブの人物らを一掃した。ノイトは対して魔力を込めていなかったが、ふらついていたノイトを見て油断しているような連中にとって[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製の武器は致命傷を与えるのには充分である。
「ノイト、大丈夫...?ふらふらしてて心配だよ...私に捕まってて!」
リーリャが貸した肩にノイトが半強制的に捕まって歩き始める。
「ありがとう...。」
フィルマリーが何故かじっとこちらを見ているのを感じる。怒りではなく嫉妬なのだろうが、どちらにしても今のノイトにはそれを受け止められる程の気力は残っていなかった。
(せっかく仮眠取ったのに魔力は全然回復していないし...どうしよう...。頭も上手く働かないし道案内は他の人に任せるしか...)
そこでフィルマリーが動いた。フィルマリーは小さなぬいぐるみをたくさん呼び出し、辺りを散策させる。
「...ノイトさん、今晩もし野宿をするのであれば私が見張りを立てます。もちろん、今この子たちを呼び出したのはこの先に何があるのかの偵察をさせるためです。」
「フィルさん...。......それなら。」
[中央寄せ][[漢字][太字]地図[/太字][/漢字][ふりがな]マップ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトの魔力が辺り一面へと広がり、ノイトの手のひらの上に魔力で出来た周囲の地図が浮かび上がった。ノイトの魔力はもうほとんど残っていなかったが、それだけが理由で他人に任せきりにするのはノイトの気が済まない。
「ノイト!そんな...頑張りすぎだって...。」
「いや、これで良い...誰かに頼ってばかりで申し訳ないよ。いくらフィルさんだからってぬいぐるみをこんなにたくさん呼び出したら魔力を消耗するのは当たり前だし...いざと言う時に[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]や[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]が使える人を疲れさせるわけにはいかない。」
ノイトの言葉を聞いたフィルマリーは少し頬を赤らめて目を逸らす。
「...別に、大丈夫ですよ!私はただノイトさんのためにやっただけなので、気にしないでください!!」
(いや、だから気にしているんだけど...まぁいいや。)
フィルマリーはぬいぐるみを多量に呼び出してノイトが創った魔力の地図を頼りに近くの街までの道を作る。列を成したぬいぐるみに囲まれて歩いているのがあまりにもシュールであるせいで、ノイトはいたたまれない気持ちになった。
「あの...フィルさん?ぬいぐるみってこういう用途で使うのはどうなんでしょうか...?」
「ん〜?大丈夫ですよっ!私たちの利便のために協力してくれる優しいぬいぐるみさんたちですから!!」
「いや...邪道と言うか転用と言うか..."利便"の一言でそれを肯定するのはちょっと...。」
途中で雨が降ってきたため、ぬいぐるみたちは強制的に回収される。代わりに、フィルマリーの魔法で魔力の傘を創った。4人がその傘の下でしばらく歩いていると街の入口へと辿り着く。
[中央寄せ]エリア〚降水都市・レインフォリア〛[/中央寄せ]
その街には、雨が降っている。夜の街の灯りに照らされた雨が静かに街を包んでおり、そこは冷たくもどこか落ち着いた雰囲気の街だった。
「わぁ...静かで落ち着く街ですね...!!」
「ノイト、今夜はこの街で休んでいくんだよね?もう少しだから、あとちょっとだけ頑張って歩いてね!」
「うん...ありがとう。」
雨の匂いが満ちている街へ入ると、すぐに宿屋が見つかった。中に入ると静かなエントランスが広がっている。そこでハイヴが前に出て宿泊の手続きをしてくれた。
「夜分遅くにすみません、泊まる当てがございませんのですが...一晩だけこちらに泊めていただくことは出来ますでしょうか?」
(いや、それがこの店の仕事でしょ...?)
ノイトが内心でツッコんだ通り、それが仕事であったため宿泊するのは容易かった。
「お客様、お部屋はおいくつ必要でしょうか?」
「男女2人ずつで2部屋でお願いします。」
「え〜!? 私、ノイトさんと一緒が良いです!」
「4人は狭いですし、3人と1人にするわけにもいかないでしょう...。」
ノイトたちは4階にある2部屋を貸してもらうことになる。ノイトは窓際の丸机にマジックバッグを置き、すぐに寝る準備を整えた。
「ノイト様、やはりお疲れでしょう...治癒魔術を、ご所望でしょうか?」
「いや、大丈夫ですよ。ハイヴさんも今日はすぐに寝ちゃって明日に備えたほうが良いですよ!」
ノイトは掛け布団を被って寝返りを打ち、雨の音を聞きながら目を閉じてすぐに眠りについた。
一方、リーリャとフィルマリーが使っている部屋では、フィルマリーがリーリャにドミノのルールを教えていた。
「...そこで4と4の牌を置けば効率良く自分の牌を減らせますよ!」
「あ、本当だ!そしたら...次は0と2を置いて、上がり!!」
「これでリーリャさんの得点が76点になったので、100点になるまではさっきと同じようにまた新しいラウンドを始めてください!」
フィルマリーが呼び出したムルーム2世はリーリャの対戦相手として付き合っていた。リーリャはいつかノイトやハイヴと一緒にドミノで遊べるようにルールを教えてもらっていたのだ。しかしリーリャは、フィルマリーがドミノがあまり強くはないことを忘れていたのだった。
トロッコ列車は海底トンネルを通っている。しばらくの間はこのまま平和であるため、ノイトたちは各々好きなことをして暇を潰していた。ノイトは魔導書を読み、リーリャはノイトが読んでいる魔導書を隣から覗き込む。ハイヴはスチームパンクなゴーグルを磨いており、フィルマリーはぬいぐるみを呼び出して遊んでいた。
「え...そのぬいぐるみって自立式なんですか...?僕はてっきり全部フィルさんが操っているのかと...。」
「えへへ〜すごいでしょう!私の大事なコレクションたちです!! ムルーム2世さん、この人がノイトさんですよ〜。いつかあなたの後輩になるので、仲良くしてあげてくださいねっ!」
「いや、なりませんよ...勝手にぬいぐるみにしないでください!」
フィルマリーは未だにノイトを自分のものにすることを諦めていない。何故かノイトはぬいぐるみが自立して動いている理由を、フィルマリーの性格から何となく察してしまうのだった。
(まさか...いや、それは流石に...でも、この人ならやりかねない...あのぬいぐるみ、元人間...?やば。)
フィルマリーにムルーム2世と名付けられたぬいぐるみはノイトの前まで歩いてきた。ノイトは魔導書を閉じてムルーム2世をじっと見つめる。
「ノイトさん、ムルーム2世さんはすごいんですよ!すごく気が利く優しい人で、他のぬいぐるみさんたちのリーダー的存在なんです!!」
(ぬいぐるみのリーダーってなんだ...?おもちゃたちが動くやつ...?......メルが居たらすぐに分かってくれるんだけど...。)
フィルマリーは他にもたくさんのぬいぐるみが居ることをノイトにどこか楽しそうに伝えた。
「他にも、看守長さんやアルメさんやMr.ドールさんが居ますよ!!」
「...そんなに個性豊かな仲間たちが居るんですね...。名前が厳つい個体が居ますけど...?」
ノイトはもうフィルマリーの話に着いて行けなかったため、窓の外を見つめていた。とは言っても海底トンネルの途中であるため、岩盤の壁が見えるだけなのだが。
「ハイヴさん、あとどのくらいで着きますかね...?」
「そうですね...あと5時間程かと。」
(長いな...。暇だし仮眠でも取っておこう...。)
ノイトは魔力を大量に消費していたため、今のままでは役に立てない。
「それじゃあ僕は仮眠取るんで...何かあったときはハイヴさんにお願いします...。」
「承知致しました。」
ノイトは腕を組んで目を閉じ、眠りに落ちていった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
しばらくして、ノイトは何か温かいものを感じて目を覚ました。
(ん...?)
ノイトが目を開けると、隣で寄りかかりながら眠っているリーリャの腕がノイトに絡みついていた。
「...あの、ハイヴさん?何で僕はリーリャに抱きつかれているんですか...?」
「ノイト様がお眠りになりました後に、リーリャ様も眠気を催されたようでして...。」
道理でリーリャの寝息が顔にかかってくるわけだ。ノイトは無理にリーリャを起こす必要もないと思い、そのままじっとしていた。思えば、リーリャに抱きつかれるような形になるのも慣れたものである。リーリャが飛びついてくることは度々あったし、腕を掴んできたり腕を組んできたりすることも多かった。以前カタパリアでメルクが所属している組織の人間に襲われた時もリーリャを抱えて走っていたことがある。挙句の果てにはリーリャとメルクに挟まれて同衾共枕をする羽目になったこともあった。
(ハーレムは御免だ、なんて思ってたけど...リーリャにメルにルミナにフィルさん、カメリア様やラルカからの好感度も上がっているんだよな...。多分オボロノサトで会ったツバメにも嫌われては居ないだろうし...もちろんロズウェルさんとかルベリアさんがいるエスミルト騎士団の人たちやイグさんにも気に入ってもらえてるかもしれないけど、異性は一応ちゃんと意識するからね...。)
ノイトがトロッコ列車の前方を見ると、そろそろトンネルを抜ける所のようだ。
[中央寄せ][太字][斜体]⚠危ないので、窓から頭や手などを出さないように。[/斜体][/太字][/中央寄せ]
「リーリャ、そろそろ着くよ〜。」
「んん〜...?」
リーリャが目を覚ますと、すぐ目の前にノイトの顔があった。
「[斜体][大文字]ひゃあっ!![/大文字][/斜体]」
ノイトは叫ばれてとても悲しくなった。
トンネルを抜け、ディアスムングロール大陸の駅へと到着したトロッコ列車から4人が降りる。先程までフィルマリーが呼び出していたムルーム2世はフィルマリーのぬいぐるみ格納庫と言う所へと帰ったらしい。要するに、他次元的なマジックバッグにしまったのである。
「さてと...早速何か居る...?」
4人の前に立ちはだかっているのは黒いローブを着た人物たちだ。
「フィルさん、ハイヴさん、あいつらが魔神の復活を目論んでいる例の組織です。」
「「なるほど...それ[漢字][小文字]では[/小文字][/漢字][ふりがな][大文字]じゃあ[/大文字][/ふりがな]、なってしまいましょうか...。」」
フィルマリーはぬいぐるみを呼び出した。
「看守長さん!やっちゃってください!!」
看守長と呼ばれたぬいぐるみは制帽を被っていて、次の瞬間には黒いローブに身を包んだ人物らが一瞬で魔力の檻に捉えられた。
(え...?普通に速くない?)
さらに次の瞬間には看守長が持つ鞭で檻ごと破壊される。看守長の攻撃を食らった者たちは咄嗟に回復魔法を自分たちにかけていた。
(僕も何かしたほうが良いかな...?っていうか、フィルさんめちゃくちゃ強いじゃん...。)
[中央寄せ][[漢字][太字]獄炎[/太字][/漢字][ふりがな]インフェルノ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトが放った獄炎がローブの人物を包む。そこでフィルマリーがノイトに向かって怒鳴った。
「ノイトさん!看守長さんが居るんですから、火はやめてください!!」
([斜体]あっ...!![/斜体])
看守長に火が燃え移った。看守長は手を必死に振って燃え移った火を消そうとしていたが、ノイトの魔法の方が強い。看守長が燃えてしまい、フィルマリーは涙目でノイトへと飛びかかった。飛びかかられたノイトは呆気なくフィルマリーにうつ伏せの状態で押さえつけられ、頭をポカポカと叩かれる。
「ノイトさんの馬鹿!! 看守長さんが燃えちゃったじゃないですか!! 本当に、どうしてくれるんですか!! もう!!」
ノイトは何の申し開きも思いつかず、ただ黙っていることしか出来なかった。本当は脳裏に、フィルマリーがすぐに消火すれば良いのではと言う考えが浮かんだのだが、フィルマリーのお仕置きが地味に効いていて口を開けない。
そこでハイヴが看守長に向かって魔法を放った。
[中央寄せ][[漢字][太字]水滴[/太字][/漢字][ふりがな]ドロップ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ハイヴの魔法のお陰で看守長に燃え移った火が消えた。しかし、腕が焦げている。
「...もう、ノイトさん!ごめんなさいは?」
「......ごめんなさい...。」
「もうその魔法は使っちゃ駄目ですよ...?!」
今ノイトは、何かの魔術をフィルマリーにかけられた。恐らく同じ魔法はもう使えなくなってしまったのだろう。
(...いや、悪いの僕だしな...。)
「むぅ〜...ぎゅーしてくれたら、許してあげる!」
(うへぇ...またそれか...。)
「ん〜!」
赤くなった顔に涙を浮かべ、両手を広げて待っている。ノイトは一瞬躊躇ったが、逃げ場がないことを察して渋々フィルマリーに両腕に締め付けられに行った。
「[斜体][大文字][太字]ウグッ、ゲホッ、ガハッ!![/太字][/大文字][/斜体]」
フィルマリーの頭がノイトにめり込み、さらには両腕に締め付けられている。拷問ほどではないのだろうが、それでもノイトにとっては辛い時間だった。
「...本当に、気をつけてくださいね...?」
「...はい、気をつけます...。」
何とか許してもらえたようだが、罪悪感は残り続けていた。
(ハァ......魔力もほとんど残ってないのに魔法なんて使うんじゃなかった...体力も今のでかなり消費したし...。)
ノイトはよろよろと立ち上がりながら回復魔法をかけ終えたローブの人物たちと対峙する。マジックバッグから【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出して構えた。魔力はほとんど残っていなかったが、取り敢えず相手に向かって武器を振るう。
[中央寄せ][大文字][斜体][太字]ズイィィィン[/太字][/斜体][/大文字][/中央寄せ]
ノイトの斬撃は重たい音を鳴らしてローブの人物らを一掃した。ノイトは対して魔力を込めていなかったが、ふらついていたノイトを見て油断しているような連中にとって[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製の武器は致命傷を与えるのには充分である。
「ノイト、大丈夫...?ふらふらしてて心配だよ...私に捕まってて!」
リーリャが貸した肩にノイトが半強制的に捕まって歩き始める。
「ありがとう...。」
フィルマリーが何故かじっとこちらを見ているのを感じる。怒りではなく嫉妬なのだろうが、どちらにしても今のノイトにはそれを受け止められる程の気力は残っていなかった。
(せっかく仮眠取ったのに魔力は全然回復していないし...どうしよう...。頭も上手く働かないし道案内は他の人に任せるしか...)
そこでフィルマリーが動いた。フィルマリーは小さなぬいぐるみをたくさん呼び出し、辺りを散策させる。
「...ノイトさん、今晩もし野宿をするのであれば私が見張りを立てます。もちろん、今この子たちを呼び出したのはこの先に何があるのかの偵察をさせるためです。」
「フィルさん...。......それなら。」
[中央寄せ][[漢字][太字]地図[/太字][/漢字][ふりがな]マップ[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトの魔力が辺り一面へと広がり、ノイトの手のひらの上に魔力で出来た周囲の地図が浮かび上がった。ノイトの魔力はもうほとんど残っていなかったが、それだけが理由で他人に任せきりにするのはノイトの気が済まない。
「ノイト!そんな...頑張りすぎだって...。」
「いや、これで良い...誰かに頼ってばかりで申し訳ないよ。いくらフィルさんだからってぬいぐるみをこんなにたくさん呼び出したら魔力を消耗するのは当たり前だし...いざと言う時に[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]や[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]が使える人を疲れさせるわけにはいかない。」
ノイトの言葉を聞いたフィルマリーは少し頬を赤らめて目を逸らす。
「...別に、大丈夫ですよ!私はただノイトさんのためにやっただけなので、気にしないでください!!」
(いや、だから気にしているんだけど...まぁいいや。)
フィルマリーはぬいぐるみを多量に呼び出してノイトが創った魔力の地図を頼りに近くの街までの道を作る。列を成したぬいぐるみに囲まれて歩いているのがあまりにもシュールであるせいで、ノイトはいたたまれない気持ちになった。
「あの...フィルさん?ぬいぐるみってこういう用途で使うのはどうなんでしょうか...?」
「ん〜?大丈夫ですよっ!私たちの利便のために協力してくれる優しいぬいぐるみさんたちですから!!」
「いや...邪道と言うか転用と言うか..."利便"の一言でそれを肯定するのはちょっと...。」
途中で雨が降ってきたため、ぬいぐるみたちは強制的に回収される。代わりに、フィルマリーの魔法で魔力の傘を創った。4人がその傘の下でしばらく歩いていると街の入口へと辿り着く。
[中央寄せ]エリア〚降水都市・レインフォリア〛[/中央寄せ]
その街には、雨が降っている。夜の街の灯りに照らされた雨が静かに街を包んでおり、そこは冷たくもどこか落ち着いた雰囲気の街だった。
「わぁ...静かで落ち着く街ですね...!!」
「ノイト、今夜はこの街で休んでいくんだよね?もう少しだから、あとちょっとだけ頑張って歩いてね!」
「うん...ありがとう。」
雨の匂いが満ちている街へ入ると、すぐに宿屋が見つかった。中に入ると静かなエントランスが広がっている。そこでハイヴが前に出て宿泊の手続きをしてくれた。
「夜分遅くにすみません、泊まる当てがございませんのですが...一晩だけこちらに泊めていただくことは出来ますでしょうか?」
(いや、それがこの店の仕事でしょ...?)
ノイトが内心でツッコんだ通り、それが仕事であったため宿泊するのは容易かった。
「お客様、お部屋はおいくつ必要でしょうか?」
「男女2人ずつで2部屋でお願いします。」
「え〜!? 私、ノイトさんと一緒が良いです!」
「4人は狭いですし、3人と1人にするわけにもいかないでしょう...。」
ノイトたちは4階にある2部屋を貸してもらうことになる。ノイトは窓際の丸机にマジックバッグを置き、すぐに寝る準備を整えた。
「ノイト様、やはりお疲れでしょう...治癒魔術を、ご所望でしょうか?」
「いや、大丈夫ですよ。ハイヴさんも今日はすぐに寝ちゃって明日に備えたほうが良いですよ!」
ノイトは掛け布団を被って寝返りを打ち、雨の音を聞きながら目を閉じてすぐに眠りについた。
一方、リーリャとフィルマリーが使っている部屋では、フィルマリーがリーリャにドミノのルールを教えていた。
「...そこで4と4の牌を置けば効率良く自分の牌を減らせますよ!」
「あ、本当だ!そしたら...次は0と2を置いて、上がり!!」
「これでリーリャさんの得点が76点になったので、100点になるまではさっきと同じようにまた新しいラウンドを始めてください!」
フィルマリーが呼び出したムルーム2世はリーリャの対戦相手として付き合っていた。リーリャはいつかノイトやハイヴと一緒にドミノで遊べるようにルールを教えてもらっていたのだ。しかしリーリャは、フィルマリーがドミノがあまり強くはないことを忘れていたのだった。