世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚機械都市・カタパリア〛[/中央寄せ]
ノイト、リーリャ、フィルマリーの3人は機械都市・カタパリアへと到着した。フィルマリーはこの街の景色を見た途端に、笑みを浮かべて辺りを見回す。
「わぁ〜カタパリアなんて久しぶりに来ましたよ〜!ずっと変わらなくて良いですね〜!!」
ノイトは通りに並ぶ店の外壁に蔓延る、蒸気が吹き出すパイプを眺めていた。
(今はフィルさんも居るし、多分メルが所属している組織の人間がまだうろついていても大丈夫だよね...?やっぱり連れてきて正解だったかな...。)
フィルマリーがノイトの視線に気がついてノイトの方へ振り返り、微笑んで訪ねてくる。
「...ところで、ノイトさんたちはカタパリアに何の用があったんですか?」
「以前はリーリャの武器を買おうとしたんですけど...今回は普通に使えそうな魔具を探しに来たんですよ。あっちのサイバーパンク街も気になるものはありましたけど、今日はこっちのスチームパンク街で用事を済ませちゃいましょう。」
「了解ですっ!!」
街の中を歩いていると、外にまでよく分からない歯車が付いている店があった。ノイトはその店の中から何かを感じて、歩みを止める。
(魔力で出来た見えないバリアに覆われている...?何となく落ち着いた雰囲気で、看板には..."喫茶"って書いてあるのかな?...文字が掠れていて上手く読めないけど...)
「リーリャ、フィルさん、あの店にしましょう。」
3人が店に入ると、ビクトリア朝の紳士のような服装をした店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。3名様でございますね、こちらへどうぞ。お鞄をお持ちいたします。」
奥にはカフェのような空間が広がっていて、その中でも全体がよく見えるメザニンフロアへと通された。
(まるで執事喫茶だな...佇まいがいかにも紳士と言う感じだ...。)
「私は本日お客様のお相手をさせていただきます、ハイヴ=クロークスと言う者です。本日はどうぞごゆっくりお過ごしください。」
ノイトはその人物の佇まいから隙の無さを感じ、只者ではないことは察する。取り敢えずノイトはハイヴに旅に使えそうな魔具がないかを聞いてみた。
「えっと、それじゃあハイヴさん...僕たちは明日くらいにディアスムングロール大陸に行く予定なんですけど、旅の途中で使えそうな魔具ってありますかね...?」
「もちろんでございます。当店は様々な魔具を取り扱っておりますので、きっとお客様がお望みのものも見つかることでしょう。只今持ってまいりますので、少々お待ち下さい。...それと、私のことは是非"ハイヴ"と呼び捨てでお呼びください。お気遣いありがとうございました。」
(おぉ...なんか、すごい!)
少ししてからハイヴがたくさん魔具を乗せたサービスワゴンを運んでくる。
「お待たせしました。こちらが、私が厳選させていただきました旅に役立つ魔具でございます。」
ワゴンの上には懐中時計やゴーグル、手袋の魔具などが並べられていて、どれもスチームパンクな意匠を施されていた。
「ぬいぐるみはないんですね...。」
フィルマリーは少し残念そうだったが、ノイトは別に必要ないだろうと心の中でツッコんでいた。
(恐らくこの店でぬいぐるみを頼んでもスチームパンクな歯車が付けられた、抱き心地の悪いものが運ばれてくるんだろうな...。)
ノイトは並べられた魔具の中からあるものを手に取った。
「おや、ノイト様。その魔具がお気に召しましたでしょうか。それは懐中時計の魔具で、限定的な空間の、簡易な時間操作が出来るものでございます。」
(効果は【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】で使える魔法と被ってるけど......わざわざ取り出す手間は省けるかもな...。ん...?僕はまだこの人に名前言ってなかったよね...?)
「これっていくらですか...?」
「9万4000ケルスでございます。」
ノイトはマジックバッグの中から同じくマジックバッグの財布を取り出し、9万4000ケルスを出した。
「これ、買います!」
「ご購入、誠にありがとうございます。」
ハイヴは9万4000ケルスを受け取って頭を下げた。そこでリーリャがハイヴに声をかける。
「あの、この店にピアノってありますか...?」
「えぇ、あちらに見えますカウンターの横にございます。もしよろしければ、演奏されていきますか?」
「はい!」
リーリャは階段を降りてピアノの方へと歩いていった。フィルマリーはハイヴに淹れてもらっていたお茶を飲む。
「ん〜、美味しいです!何の茶葉を使っているんですか?」
「サグロールス草とネルセシアン草を使用しております。どちらも寒さが厳しいヴェルグランド大陸最北の...」
(この世界の薬草の知識は辛うじてあるけど、茶葉とかはもう分からないな...。ん〜、せっかくだしオススメのゲームでも聞いてみるかな。)
ノイトは、ハイヴがフィルマリーに茶葉の説明をし終えたことを確認してから声をかけた。
「ハイヴ、さん...オススメのゲームとかってありますか?」
「はい、チェスやドミノなどはいかがでしょうか?」
「......ルール分かります...?」
「えぇ、お相手致しましょうか...?」
「是非お願いします!」
ノイトはハイヴと対戦することになった。どちらも久しぶりだったためルールはうろ覚えだが、かと言って手加減されても面白くないため黙っておく。
リーリャが演奏する曲を聞きながらハイヴがチェスとドミノを持ってきた。まずはチェスで勝負することになった。
「チェスですか〜、私も後でやらせてくださいねっ!」
「あ、あれ...?」
結果は、ノイトの5戦5敗。ハイヴが強すぎたのだ。途中でフィルマリーがノイトと変わってハイヴと良い勝負をしていたのだが、結局負けてしまったようだった。
「あ〜!負けちゃいました!!」
「お二方とも、最初の数手分がある程度パターン化してしまっていますね...そろそろドミノに変更しましょうか?」
「「あ...はい。」」
ノイトとフィルマリーとハイヴは3人でドミノをすることになる。
(麻雀とか囲碁のルールは分からないけど、ドミノなら勝機はある...!)
ドミノは同じ数の目が書かれた牌をターンごとに並べて、ラウンドごとに手札が最初になくなった人が他の人がその時持っている牌の目の数の合計を得点として稼ぎ、ある特定の得点を獲得した者が勝ち、というゲームである。
([漢字]W[/漢字][ふりがな]ダブル[/ふりがな]6のドミノだから合計28枚...そこから3人に6枚ずつ配る...。)
ノイトは自分の牌をみると、5と5が書かれた牌があった。
(フィルさんかハイヴさんのどっちかが6と6の牌を持っていなければ僕からスタートか...。)
ゲームは、6と6が書かれた牌を持っていたハイヴから始まった。ノイトは6と2が書かれた牌を出し、フィルマリーも続いて2と2の牌を出す。
(ドミノなんて何年ぶりだ...?前世でもルールを軽く覚えただけだったんだけど...以外と行けるかも...!)
それから数分、リーリャが演奏を終えてメザニンフロアへと戻ってきた時。フィルマリーは7枚も牌を抱えていたが、ノイトとハイヴはそれぞれ3枚だった。
「えっと...ドミノ倒し、ではないよね?」
テーブルの上に十字に並べられたドミノ牌を見てノイトに尋ねる。
「あぁ...本来のドミノの遊び方はこれだよ。今がラウンド4で僕が75点、ハイヴさんが78点、フィルさんが31点だね。」
「難しいの...?」
ノイトは2と0の牌を出してから答える。
「どうだろうね...オールファイブじゃなければ案外シンプルだよ。100点先取で4人とかだと流石に頭も使っていかないとだけど。」
リーリャはドミノのルールを知らなかったため、あまり戦局を理解出来ていなかったが、ノイトとハイヴが良い戦いをしていてフィルマリーが負けてしまうことだけはすぐに分かった。
そして、ノイトの最後の牌が場に出る。
「よしっ! 103点で勝った!!」
「わぁ〜!流石、私のノイトさん!!」
「違いますって。」
「ノイトって本当にスゴいよ!!」
ノイトの勝利を称えてハイヴも拍手を送った。
「おめでとうございます。大変楽しい時間でした。」
「ハイヴさんもすごく強かったです!! 多分オールファイブだと僕が負けてましたね。」
リーリャとフィルマリーはしばらくその場ではしゃいでいたが、やがてハイヴがチェスとドミノを片付けて戻ってくる。
「お客様、他にも何か御用がございましたらどうぞお気軽にお声がけください。」
そこでリーリャがハイヴに質問をした。
「ハイヴさんって普段からここに居るんですか?」
「はい。この店が私の居場所でございます。」
「ハイヴさんはいつからこの店で働き始めたんですか?」
フィルマリーの質問を聞き、フィルマリーを見て微笑みながら答える。そして何故かフィルマリーはノイトを見ていた。
(......何でフィルさんは僕のこと見てるんだ...?)
「5年程前からです。それまではノルティーク大陸の学術都市・ノルストラに身を置いていました。」
ノイトとリーリャはそれを聞いて驚く。そしてノイトはハイヴが自分の名前を知っていた理由を何となく察した。
(あぁ、なるほど...一方的に僕のことを知っていたか、あるいはリオールさん経由で僕のことを知ったんだな...。)
「さて、話は変わりますが、お飲み物はいかがでしょうか?」
「それじゃあ、せっかくなので...僕はバニラオレをホットでお願いします。」
「それじゃあ、私もノイトと同じもの!」
フィルマリーは少し考えている様子だったが、ハイヴがフィルマリーにオススメの飲み物を提案してきた。
「当店はアルコール飲料も取り扱っていますよ。」
「あっ、本当ですか!? それじゃあ...オススメのやつがあれば、それでお願いします!!」
「はい、かしこまりました。ホットのバニラオレ2つとオススメのアルコール飲料1つですね。只今お持ちいたしますので、今しばらくお待ち下さい。」
ノイトとリーリャはフィルマリーの方を見ている。
「えっ...な、何ですか?」
「いや...フィルマリーさんもお酒飲むんだな〜って思って...。」
「酔っ払ってさっきみたいにならないでくださいよ〜?」
「もう、大丈夫ですよ〜!私だってそこまでお酒に弱くないですもん!!」
――数分後、ノイトはフィルマリーにダル絡みされていた。
「だ〜か〜ら〜!ノイトさんは、私のものなの!!」
「違いますって...。ハァ...。」
ハイヴは水を持ってきてフィルマリーへと差し出した。
「申し訳ありません、よもやここまで酔ってしまわれるとは思わず...私の注意不足でした。」
ノイトは申し訳なさそうに話すハイヴをなだめながらしがみついてくるフィルマリーを無理やり引き剥がそうとしている。
「いえいえ、お気になさらず...![漢字]蜂蜜酒[/漢字][ふりがな]ハニーミード[/ふりがな]の中でもアルコール度数が低いものを持ってきてもらったのにこのザマじゃ...。全部フィルさんのせいなので、ハイヴさんは気にしなくて大丈夫ですよ〜」
「や〜! 今日はノイトしゃんと寝るの〜!!」
至近距離に居るのに大声で訴えられてノイトも流石にいたたまれない気持ちになってきた。
「まだ夕方ですよ...!しっかりしてください!!」
(...酔いから覚ます魔法は...ないな。っていうか、すぐに魔法に頼るのも正直どうなのか...。)
[中央寄せ][[漢字][太字]真実[/太字][/漢字][ふりがな]トゥルース[/ふりがな]][/中央寄せ]
幻覚から目を覚ますことが出来る魔法は...どうやら効果はなかったらしい。
「ハァ...駄目だこれ...。ハイヴさん、すみません...長居してしまって...。」
「いえ、どうぞお気になさらず...どうでしょう、今晩は当店でお休みになられては...?」
ノイトは仕方なくハイヴの提案に乗ることにした。宿泊料金に関しては懸念は一切ないものの、少なからずハイヴに迷惑をかけてしまっているであろう事実は変わらない。
「ノイトしゃんも飲む〜?甘くておいしいよ〜。」
「駄目ですって!僕はまだ飲めません!!」
「それじゃあ、口移しでこっそり...」
「それでも駄目です!!」
「ん〜じゃあ、その代わりにぎゅーして!!」
ノイトはフィルマリーが自分よりも10歳以上歳上のはずなのに甘えられている自分が何なのか分からなくなってきた。
(幼児退行...?理性がちゃんと残ってたらそれはそれで面倒だし、逆に残っていなくても面倒なんだよね...。)
リーリャはフィルマリーに抱きつかれているノイトをじっと見てノイトに話しかける。
「ねぇ、ノイト。...私も、ノイトに甘えても良い...?」
「ん...ちょっと、今は遠慮して貰いたいかな......。」
取り敢えず、その日はハイヴに見守られながらノイトは酔ったフィルマリーと甘えたがっているリーリャをあやしていた。やがてフィルマリーが眠ってしまってからは3人で雑談をする。
「ハイヴさんは魔神とか魔族についてどう思いますか?」
「そうですね...人間に加害を加えるようであれば容赦なく相手をしますけど、無害なのであればこちらから特別何かする必要はないと思います。」
「おぉ〜、それじゃあノイトと同じ...?」
「そういうことになるね。」
リーリャはそれを聞いてあることを思いついた。
「ねぇ、ノイト!ハイヴさんもすごく強そうだし、一緒に冒険したら駄目...?」
「...僕は別に良いけど、ハイヴさんはどうしたいですか?」
ハイヴは少し考える素振りをしてから口を開く。
「もしあなた方のお役に立てるのであれば、それは光栄なことにございます。ただ...正直に申し上げますと、食費や被服代、宿泊費などが増えてしまってご迷惑をお掛けしないか、それだけ懸念しております。」
ノイトはリーリャと顔を見合わせて微笑んだ。
「それなら心配いりませんよ!今はたくさんお金持ってるので!!」
「リーリャ、あんまり外ではそういうこと言わないでよね?」
「左様でございますか...。私の心の準備に...もう少しお時間いただけますでしょうか...?」
ノイトは椅子から立ち上がって決意を固めた。
「いいえ、冒険の中では一瞬の判断が命取りになることも多いです。だから、今決めてください。」
「ノイト!?」
驚いているリーリャを他所に、ノイトはハイヴに向かって手を差し伸べる。
「ほら、今この手を取る勇気がないのであれば、その考える時間も無駄になっちゃいますよ?...つべこべ考えている暇があれば、行動してしまった方が良いです。」
笑みを浮かべたノイトを見て、ハイヴは意を決した。ハイヴはノイトの手を取り、真剣な眼差しでノイトの目を見る。
「このハイヴ、半端な覚悟でお客様のご要望にお答えして来たわけではございません。そのお誘い、快くお受けいたしましょう。」
リーリャは、ノイトが稀に見せるやや強引で人を惹きつける姿を思い出して思わず笑ってしまった。
「アハハッ...そう言えば、そうだったね...ノイトは、そういう人でもあるんだったね!」
「何?そういう人、って...?」
リーリャがノイトとハイヴの手の上に自分の手を重ねた。
(えっと...これはフィルさんが仲間外れになってるから、ちゃんと仲間に交ぜないと後で怒られるよね...?)
ノイトは空いている方の手でフィルマリーの手を取ってそっと自分たちの手の上に重ねる。その場の雰囲気で何となく手を重ねただけだったが、取り敢えずそういうこともあるものだと思ってノイトは気にしなかった。
「改めてまして...ハイヴ=クロークスと申します。以後、何卒宜しくお願い致します。」
「別にもうタメ口でも良いんですけどね...?慣れていないならそのうち慣れていけば良いですし、そのままが良いなら別に強制はしませんよ。」
「...ありがとうございます。」
こうしてハイヴが冒険の仲間に加わった。その後、ハイヴが運んできてくれた夕食を食べて4人はその店で一晩休んだのだった。ちなみに、フィルマリーはぬいぐるみが行進する夢を見ていた。
[中央寄せ]エリア〚機械都市・カタパリア〛[/中央寄せ]
ノイト、リーリャ、フィルマリーの3人は機械都市・カタパリアへと到着した。フィルマリーはこの街の景色を見た途端に、笑みを浮かべて辺りを見回す。
「わぁ〜カタパリアなんて久しぶりに来ましたよ〜!ずっと変わらなくて良いですね〜!!」
ノイトは通りに並ぶ店の外壁に蔓延る、蒸気が吹き出すパイプを眺めていた。
(今はフィルさんも居るし、多分メルが所属している組織の人間がまだうろついていても大丈夫だよね...?やっぱり連れてきて正解だったかな...。)
フィルマリーがノイトの視線に気がついてノイトの方へ振り返り、微笑んで訪ねてくる。
「...ところで、ノイトさんたちはカタパリアに何の用があったんですか?」
「以前はリーリャの武器を買おうとしたんですけど...今回は普通に使えそうな魔具を探しに来たんですよ。あっちのサイバーパンク街も気になるものはありましたけど、今日はこっちのスチームパンク街で用事を済ませちゃいましょう。」
「了解ですっ!!」
街の中を歩いていると、外にまでよく分からない歯車が付いている店があった。ノイトはその店の中から何かを感じて、歩みを止める。
(魔力で出来た見えないバリアに覆われている...?何となく落ち着いた雰囲気で、看板には..."喫茶"って書いてあるのかな?...文字が掠れていて上手く読めないけど...)
「リーリャ、フィルさん、あの店にしましょう。」
3人が店に入ると、ビクトリア朝の紳士のような服装をした店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。3名様でございますね、こちらへどうぞ。お鞄をお持ちいたします。」
奥にはカフェのような空間が広がっていて、その中でも全体がよく見えるメザニンフロアへと通された。
(まるで執事喫茶だな...佇まいがいかにも紳士と言う感じだ...。)
「私は本日お客様のお相手をさせていただきます、ハイヴ=クロークスと言う者です。本日はどうぞごゆっくりお過ごしください。」
ノイトはその人物の佇まいから隙の無さを感じ、只者ではないことは察する。取り敢えずノイトはハイヴに旅に使えそうな魔具がないかを聞いてみた。
「えっと、それじゃあハイヴさん...僕たちは明日くらいにディアスムングロール大陸に行く予定なんですけど、旅の途中で使えそうな魔具ってありますかね...?」
「もちろんでございます。当店は様々な魔具を取り扱っておりますので、きっとお客様がお望みのものも見つかることでしょう。只今持ってまいりますので、少々お待ち下さい。...それと、私のことは是非"ハイヴ"と呼び捨てでお呼びください。お気遣いありがとうございました。」
(おぉ...なんか、すごい!)
少ししてからハイヴがたくさん魔具を乗せたサービスワゴンを運んでくる。
「お待たせしました。こちらが、私が厳選させていただきました旅に役立つ魔具でございます。」
ワゴンの上には懐中時計やゴーグル、手袋の魔具などが並べられていて、どれもスチームパンクな意匠を施されていた。
「ぬいぐるみはないんですね...。」
フィルマリーは少し残念そうだったが、ノイトは別に必要ないだろうと心の中でツッコんでいた。
(恐らくこの店でぬいぐるみを頼んでもスチームパンクな歯車が付けられた、抱き心地の悪いものが運ばれてくるんだろうな...。)
ノイトは並べられた魔具の中からあるものを手に取った。
「おや、ノイト様。その魔具がお気に召しましたでしょうか。それは懐中時計の魔具で、限定的な空間の、簡易な時間操作が出来るものでございます。」
(効果は【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】で使える魔法と被ってるけど......わざわざ取り出す手間は省けるかもな...。ん...?僕はまだこの人に名前言ってなかったよね...?)
「これっていくらですか...?」
「9万4000ケルスでございます。」
ノイトはマジックバッグの中から同じくマジックバッグの財布を取り出し、9万4000ケルスを出した。
「これ、買います!」
「ご購入、誠にありがとうございます。」
ハイヴは9万4000ケルスを受け取って頭を下げた。そこでリーリャがハイヴに声をかける。
「あの、この店にピアノってありますか...?」
「えぇ、あちらに見えますカウンターの横にございます。もしよろしければ、演奏されていきますか?」
「はい!」
リーリャは階段を降りてピアノの方へと歩いていった。フィルマリーはハイヴに淹れてもらっていたお茶を飲む。
「ん〜、美味しいです!何の茶葉を使っているんですか?」
「サグロールス草とネルセシアン草を使用しております。どちらも寒さが厳しいヴェルグランド大陸最北の...」
(この世界の薬草の知識は辛うじてあるけど、茶葉とかはもう分からないな...。ん〜、せっかくだしオススメのゲームでも聞いてみるかな。)
ノイトは、ハイヴがフィルマリーに茶葉の説明をし終えたことを確認してから声をかけた。
「ハイヴ、さん...オススメのゲームとかってありますか?」
「はい、チェスやドミノなどはいかがでしょうか?」
「......ルール分かります...?」
「えぇ、お相手致しましょうか...?」
「是非お願いします!」
ノイトはハイヴと対戦することになった。どちらも久しぶりだったためルールはうろ覚えだが、かと言って手加減されても面白くないため黙っておく。
リーリャが演奏する曲を聞きながらハイヴがチェスとドミノを持ってきた。まずはチェスで勝負することになった。
「チェスですか〜、私も後でやらせてくださいねっ!」
「あ、あれ...?」
結果は、ノイトの5戦5敗。ハイヴが強すぎたのだ。途中でフィルマリーがノイトと変わってハイヴと良い勝負をしていたのだが、結局負けてしまったようだった。
「あ〜!負けちゃいました!!」
「お二方とも、最初の数手分がある程度パターン化してしまっていますね...そろそろドミノに変更しましょうか?」
「「あ...はい。」」
ノイトとフィルマリーとハイヴは3人でドミノをすることになる。
(麻雀とか囲碁のルールは分からないけど、ドミノなら勝機はある...!)
ドミノは同じ数の目が書かれた牌をターンごとに並べて、ラウンドごとに手札が最初になくなった人が他の人がその時持っている牌の目の数の合計を得点として稼ぎ、ある特定の得点を獲得した者が勝ち、というゲームである。
([漢字]W[/漢字][ふりがな]ダブル[/ふりがな]6のドミノだから合計28枚...そこから3人に6枚ずつ配る...。)
ノイトは自分の牌をみると、5と5が書かれた牌があった。
(フィルさんかハイヴさんのどっちかが6と6の牌を持っていなければ僕からスタートか...。)
ゲームは、6と6が書かれた牌を持っていたハイヴから始まった。ノイトは6と2が書かれた牌を出し、フィルマリーも続いて2と2の牌を出す。
(ドミノなんて何年ぶりだ...?前世でもルールを軽く覚えただけだったんだけど...以外と行けるかも...!)
それから数分、リーリャが演奏を終えてメザニンフロアへと戻ってきた時。フィルマリーは7枚も牌を抱えていたが、ノイトとハイヴはそれぞれ3枚だった。
「えっと...ドミノ倒し、ではないよね?」
テーブルの上に十字に並べられたドミノ牌を見てノイトに尋ねる。
「あぁ...本来のドミノの遊び方はこれだよ。今がラウンド4で僕が75点、ハイヴさんが78点、フィルさんが31点だね。」
「難しいの...?」
ノイトは2と0の牌を出してから答える。
「どうだろうね...オールファイブじゃなければ案外シンプルだよ。100点先取で4人とかだと流石に頭も使っていかないとだけど。」
リーリャはドミノのルールを知らなかったため、あまり戦局を理解出来ていなかったが、ノイトとハイヴが良い戦いをしていてフィルマリーが負けてしまうことだけはすぐに分かった。
そして、ノイトの最後の牌が場に出る。
「よしっ! 103点で勝った!!」
「わぁ〜!流石、私のノイトさん!!」
「違いますって。」
「ノイトって本当にスゴいよ!!」
ノイトの勝利を称えてハイヴも拍手を送った。
「おめでとうございます。大変楽しい時間でした。」
「ハイヴさんもすごく強かったです!! 多分オールファイブだと僕が負けてましたね。」
リーリャとフィルマリーはしばらくその場ではしゃいでいたが、やがてハイヴがチェスとドミノを片付けて戻ってくる。
「お客様、他にも何か御用がございましたらどうぞお気軽にお声がけください。」
そこでリーリャがハイヴに質問をした。
「ハイヴさんって普段からここに居るんですか?」
「はい。この店が私の居場所でございます。」
「ハイヴさんはいつからこの店で働き始めたんですか?」
フィルマリーの質問を聞き、フィルマリーを見て微笑みながら答える。そして何故かフィルマリーはノイトを見ていた。
(......何でフィルさんは僕のこと見てるんだ...?)
「5年程前からです。それまではノルティーク大陸の学術都市・ノルストラに身を置いていました。」
ノイトとリーリャはそれを聞いて驚く。そしてノイトはハイヴが自分の名前を知っていた理由を何となく察した。
(あぁ、なるほど...一方的に僕のことを知っていたか、あるいはリオールさん経由で僕のことを知ったんだな...。)
「さて、話は変わりますが、お飲み物はいかがでしょうか?」
「それじゃあ、せっかくなので...僕はバニラオレをホットでお願いします。」
「それじゃあ、私もノイトと同じもの!」
フィルマリーは少し考えている様子だったが、ハイヴがフィルマリーにオススメの飲み物を提案してきた。
「当店はアルコール飲料も取り扱っていますよ。」
「あっ、本当ですか!? それじゃあ...オススメのやつがあれば、それでお願いします!!」
「はい、かしこまりました。ホットのバニラオレ2つとオススメのアルコール飲料1つですね。只今お持ちいたしますので、今しばらくお待ち下さい。」
ノイトとリーリャはフィルマリーの方を見ている。
「えっ...な、何ですか?」
「いや...フィルマリーさんもお酒飲むんだな〜って思って...。」
「酔っ払ってさっきみたいにならないでくださいよ〜?」
「もう、大丈夫ですよ〜!私だってそこまでお酒に弱くないですもん!!」
――数分後、ノイトはフィルマリーにダル絡みされていた。
「だ〜か〜ら〜!ノイトさんは、私のものなの!!」
「違いますって...。ハァ...。」
ハイヴは水を持ってきてフィルマリーへと差し出した。
「申し訳ありません、よもやここまで酔ってしまわれるとは思わず...私の注意不足でした。」
ノイトは申し訳なさそうに話すハイヴをなだめながらしがみついてくるフィルマリーを無理やり引き剥がそうとしている。
「いえいえ、お気になさらず...![漢字]蜂蜜酒[/漢字][ふりがな]ハニーミード[/ふりがな]の中でもアルコール度数が低いものを持ってきてもらったのにこのザマじゃ...。全部フィルさんのせいなので、ハイヴさんは気にしなくて大丈夫ですよ〜」
「や〜! 今日はノイトしゃんと寝るの〜!!」
至近距離に居るのに大声で訴えられてノイトも流石にいたたまれない気持ちになってきた。
「まだ夕方ですよ...!しっかりしてください!!」
(...酔いから覚ます魔法は...ないな。っていうか、すぐに魔法に頼るのも正直どうなのか...。)
[中央寄せ][[漢字][太字]真実[/太字][/漢字][ふりがな]トゥルース[/ふりがな]][/中央寄せ]
幻覚から目を覚ますことが出来る魔法は...どうやら効果はなかったらしい。
「ハァ...駄目だこれ...。ハイヴさん、すみません...長居してしまって...。」
「いえ、どうぞお気になさらず...どうでしょう、今晩は当店でお休みになられては...?」
ノイトは仕方なくハイヴの提案に乗ることにした。宿泊料金に関しては懸念は一切ないものの、少なからずハイヴに迷惑をかけてしまっているであろう事実は変わらない。
「ノイトしゃんも飲む〜?甘くておいしいよ〜。」
「駄目ですって!僕はまだ飲めません!!」
「それじゃあ、口移しでこっそり...」
「それでも駄目です!!」
「ん〜じゃあ、その代わりにぎゅーして!!」
ノイトはフィルマリーが自分よりも10歳以上歳上のはずなのに甘えられている自分が何なのか分からなくなってきた。
(幼児退行...?理性がちゃんと残ってたらそれはそれで面倒だし、逆に残っていなくても面倒なんだよね...。)
リーリャはフィルマリーに抱きつかれているノイトをじっと見てノイトに話しかける。
「ねぇ、ノイト。...私も、ノイトに甘えても良い...?」
「ん...ちょっと、今は遠慮して貰いたいかな......。」
取り敢えず、その日はハイヴに見守られながらノイトは酔ったフィルマリーと甘えたがっているリーリャをあやしていた。やがてフィルマリーが眠ってしまってからは3人で雑談をする。
「ハイヴさんは魔神とか魔族についてどう思いますか?」
「そうですね...人間に加害を加えるようであれば容赦なく相手をしますけど、無害なのであればこちらから特別何かする必要はないと思います。」
「おぉ〜、それじゃあノイトと同じ...?」
「そういうことになるね。」
リーリャはそれを聞いてあることを思いついた。
「ねぇ、ノイト!ハイヴさんもすごく強そうだし、一緒に冒険したら駄目...?」
「...僕は別に良いけど、ハイヴさんはどうしたいですか?」
ハイヴは少し考える素振りをしてから口を開く。
「もしあなた方のお役に立てるのであれば、それは光栄なことにございます。ただ...正直に申し上げますと、食費や被服代、宿泊費などが増えてしまってご迷惑をお掛けしないか、それだけ懸念しております。」
ノイトはリーリャと顔を見合わせて微笑んだ。
「それなら心配いりませんよ!今はたくさんお金持ってるので!!」
「リーリャ、あんまり外ではそういうこと言わないでよね?」
「左様でございますか...。私の心の準備に...もう少しお時間いただけますでしょうか...?」
ノイトは椅子から立ち上がって決意を固めた。
「いいえ、冒険の中では一瞬の判断が命取りになることも多いです。だから、今決めてください。」
「ノイト!?」
驚いているリーリャを他所に、ノイトはハイヴに向かって手を差し伸べる。
「ほら、今この手を取る勇気がないのであれば、その考える時間も無駄になっちゃいますよ?...つべこべ考えている暇があれば、行動してしまった方が良いです。」
笑みを浮かべたノイトを見て、ハイヴは意を決した。ハイヴはノイトの手を取り、真剣な眼差しでノイトの目を見る。
「このハイヴ、半端な覚悟でお客様のご要望にお答えして来たわけではございません。そのお誘い、快くお受けいたしましょう。」
リーリャは、ノイトが稀に見せるやや強引で人を惹きつける姿を思い出して思わず笑ってしまった。
「アハハッ...そう言えば、そうだったね...ノイトは、そういう人でもあるんだったね!」
「何?そういう人、って...?」
リーリャがノイトとハイヴの手の上に自分の手を重ねた。
(えっと...これはフィルさんが仲間外れになってるから、ちゃんと仲間に交ぜないと後で怒られるよね...?)
ノイトは空いている方の手でフィルマリーの手を取ってそっと自分たちの手の上に重ねる。その場の雰囲気で何となく手を重ねただけだったが、取り敢えずそういうこともあるものだと思ってノイトは気にしなかった。
「改めてまして...ハイヴ=クロークスと申します。以後、何卒宜しくお願い致します。」
「別にもうタメ口でも良いんですけどね...?慣れていないならそのうち慣れていけば良いですし、そのままが良いなら別に強制はしませんよ。」
「...ありがとうございます。」
こうしてハイヴが冒険の仲間に加わった。その後、ハイヴが運んできてくれた夕食を食べて4人はその店で一晩休んだのだった。ちなみに、フィルマリーはぬいぐるみが行進する夢を見ていた。