世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとラルカはノルティーク帝国の西の荒れ地で暴れていた。この場所で濛々と上がる土煙はほとんどがノイトの斬撃によって発生したものだった。ラルカがノルティーク帝国の王城へと近づこうとするとノイトの斬撃がその先を塞ぐ。ラルカはノイトの斬撃を身を捻らせて回避していたため土煙によって視界を奪われ、なかなかノルティーク帝国の王城へと近づくことが出来ていない。
「なかなかやるな。これほどの実力であれば魔神を討伐したと言うのも納得出来るな!」
「僕の大切な人たちを傷つけるつもりなら、僕はあなたを許しませんよ...?」
その時、ノイトは何かがラルカに向かって飛んでくることに気がついてラルカを突き飛ばした。
[斜体]「...?!」[/斜体]
咄嗟に【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】でそれを防ぐと、それはレイクの技だった。
「レイクさん...。」
[大文字]「ノイトくんか...ん?」[/大文字]
レイクはノイトが突き飛ばした人物のことを見た。金髪碧眼の少女。そこでレイクはあることに気がついてため息をついた。
[大文字]「なるほど...そういうことだったか...。相手を見間違っていたようだ。」[/大文字]
次の瞬間、レイクの攻撃がノイトを襲う。
[中央寄せ][大文字][太字][斜体]〔[明朝体][漢字]暴風神[/漢字][ふりがな]ルドラ[/ふりがな][/明朝体]〕[/斜体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
ノイトはそれをギリギリで防いだが、重さに耐えきれず吹き飛ばされてしまった。
([斜体]......ッ!![/斜体])
ラルカは自分を庇った末に吹き飛ばされていくノイトを見つめることしか出来ていなかった。しかし、すぐにレイクの方を向いて銃を構える。
「どういうつもりだ?」
[大文字]「以前もお会いしましたね。私はレイク。ノルティーク帝国 帝国騎士団総指揮官を務めている者です。」[/大文字]
「総指揮官が何の用だ?」
レイクはラルカを見つめてあることを告げた。
[大文字]「あなたは...私の主人の御一人であるイズベラ様の、ご息女でございます。」[/大文字]
[斜体]「!!」[/斜体]
ノイトはそれを聞いて驚いたと同時に色々と納得することが出来た。
(ラルカさんが、イズベラ様の...!でも王女は2人しか...、なるほど...そういうことか。ルミナやカメリア様の異父姉妹...イズベラ様の病気も...)
ノイトは以前イズベラと話した時に感じた違和感の正体に気がつく。そのせいで一瞬めまいがしたが、ため息をついて再び武器を構えた。レイクがさらに追撃してくる可能性は充分にありえる。
(恐らく、レイクさんはイズベラ様の頼みで"娘を守って"とでも言われたんだろうな...つまり、今この人を攻撃していた僕がレイクさんの攻撃対象...。)
レイクは剣を構え直した。しかし、それ以上ノイトを攻撃することは無かった。その代わりにノイトに話すことがあるらしい。
[大文字]「ノイトくん。先日イズベラ様とお会いになった後に、君への伝言を頼まれている。」[/大文字]
ノイトは武器の構えを解いてイズベラからの伝言を聞くことにした。
[大文字]「イズベラ様は、[太字][斜体]“もし戦争が起きても、ルミナスのことをお願いします。”[/斜体][/太字]と仰せになった。」[/大文字]
ノイトは真剣な眼差しでそれに答える。
「分かりました。命に変えてもお守りします、と伝えて下さい。」
レイクは頷いて王城へと戻っていこうとした。しかし、ノイトが呼び止める。
「あの、もう一つ...!」
ノイトはマジックバッグから一回り小さなマジックバッグを取り出してレイクに手渡した。
「これを、ルミナ...ルミナス様に渡して貰えますか?」
「うむ、了解した。必ず届けよう。」
「ありがとうございます!」
ノイトは王城へと跳び戻っていったレイクを見送ってからラルカの方を見る。
「それで...、どうしますか?まだ続けます?」
「...あぁ、私は貴様との戦闘を諦めるつもりはない。だが...ノルティーク帝国の王城に母上と義姉妹が居るのであれば、それを傷つけるわけにはいかない。」
目を閉じて息を吐いてから、ノイトはラルカに手を差し伸べた。ラルカはノイトをただぽかんと見つめている。ノイトはラルカの目を見てこう続けた。
「僕は、たとえ僕のことを消してしまおうと思っている相手であっても、ちゃんと理由があるならその人の意志を最大限尊重します。あなたが僕の大切な人たちを傷つけないのであれば、僕もあなたを傷つけるつもりはありません。」
一切ブレることのない意志が宿ったノイトの目を見ていたラルカは、数秒間ノイトの目を見つめていた。しかし、ラルカはノイトの手を振り払う。
「馬鹿を言え。私が殺意を持っていても貴様がそのまま大人しくやられるわけがないだろう。」
「えぇ、もちろん。大人しくやられてあげられる程、僕は甘くはないですよ?多分。」
「何故そこではっきりしない。先程私を突き飛ばしたところを見る限り、瞬時の判断力と行動力は高いはずだ。」
ラルカが再び鋭い視線を向けてきたが、ノイトは笑って答えた。
「いや、だって...常に肩肘張って生きていくのは疲れちゃうじゃないですか。」
「その油断で命を落としてしまうこともあるだろう。」
「油断しているのは事実です。だけど、切り替えというかけじめというか...そういうのが出来れば、別にそこまで意識しすぎなくて楽なんですよ。」
「楽、だと......?」
ラルカの視線がさらに鋭くなる。しかしノイトは気圧されたりしない。
「それは逃げだぞ...恥を知れ。」
「恥は恥ですけど"逃げるは恥だが役に立つ"って言うじゃないですか。それに、生き延びることは全然恥じゃないですよ。」
ラルカはノイトの言葉に固まった。もう殺意は感じないが、僅かに警戒心は残っている。
「あなたもさっき言ってたじゃないですか。"栄誉は生存の証だ"って。それと同じで、生存...つまりは生き延びることもまた栄誉なんですよ。」
ラルカは再び[漢字]拳銃[/漢字][ふりがな]ハンドガン[/ふりがな]を構え、[漢字]標準[/漢字][ふりがな]エイム[/ふりがな]をノイトへと向けた。
「私にとっては、逃げは恥なのだ。それ以外の何でもない。生きて帰れば恥とされていた歴史もある。」
対するノイトは武器を構えることもせずに続ける。
「随分古いですね...。それはあくまでも"歴史"でしょう。僕たちが生きているのは"今"であって、"歴史"じゃない。」
「今もいつかは歴史になる。栄光も、思い出も、全て過去のものだ。」
「過去は過去ですよ。別に現在進行形じゃなくとも、それは経験や継続であれば良いと思いますけどね?過去でも今でも、確かにそこに在るんですから。」
ラルカは引き金に指をかけてはいるが、その指は力を込められておらず止まっている。そこで、ノイトは少しずつラルカへと歩み寄っていった。
「あなたが過去を重視していることはよく分かりました。だけど、過去に縛られてばかりでは今を満足に生きられないですよ。」
「...今など、どうでも良い。貴様に私の過去の何が分かるのだ...?」
「少なくとも、今のあなたの性格を形作っているものであることは分かります。それ以外は、分かりませんけど。でも、そこまでの考えを持っているのであれば...あなたの過去も知りたいと思えます。」
ラルカはなかなか引き金を引けずにいる。下手に撃ってしまえば、ノイトの言葉に反論出来なくなってしまって早まった気がして後味が悪い。
「私の過去を貴様に話して、何のメリットがあるのだ。」
「少しでも、あなたが抱え込んでいるものを共有出来ます。何かツライことがあるのであれば、それを乗り越える方法を一緒に考えられますし、それを告げられる相手がいるだけでも心が楽になると思いますよ?」
「そんなことに興味はない。他人の同情など不要だ。」
[中央寄せ][斜体][明朝体][大文字]―― ヒュンッ ――[/大文字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
ラルカは引き金を引く。しかしノイトはもうそこには居なかった。
ノイトとラルカはノルティーク帝国の西の荒れ地で暴れていた。この場所で濛々と上がる土煙はほとんどがノイトの斬撃によって発生したものだった。ラルカがノルティーク帝国の王城へと近づこうとするとノイトの斬撃がその先を塞ぐ。ラルカはノイトの斬撃を身を捻らせて回避していたため土煙によって視界を奪われ、なかなかノルティーク帝国の王城へと近づくことが出来ていない。
「なかなかやるな。これほどの実力であれば魔神を討伐したと言うのも納得出来るな!」
「僕の大切な人たちを傷つけるつもりなら、僕はあなたを許しませんよ...?」
その時、ノイトは何かがラルカに向かって飛んでくることに気がついてラルカを突き飛ばした。
[斜体]「...?!」[/斜体]
咄嗟に【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】でそれを防ぐと、それはレイクの技だった。
「レイクさん...。」
[大文字]「ノイトくんか...ん?」[/大文字]
レイクはノイトが突き飛ばした人物のことを見た。金髪碧眼の少女。そこでレイクはあることに気がついてため息をついた。
[大文字]「なるほど...そういうことだったか...。相手を見間違っていたようだ。」[/大文字]
次の瞬間、レイクの攻撃がノイトを襲う。
[中央寄せ][大文字][太字][斜体]〔[明朝体][漢字]暴風神[/漢字][ふりがな]ルドラ[/ふりがな][/明朝体]〕[/斜体][/太字][/大文字][/中央寄せ]
ノイトはそれをギリギリで防いだが、重さに耐えきれず吹き飛ばされてしまった。
([斜体]......ッ!![/斜体])
ラルカは自分を庇った末に吹き飛ばされていくノイトを見つめることしか出来ていなかった。しかし、すぐにレイクの方を向いて銃を構える。
「どういうつもりだ?」
[大文字]「以前もお会いしましたね。私はレイク。ノルティーク帝国 帝国騎士団総指揮官を務めている者です。」[/大文字]
「総指揮官が何の用だ?」
レイクはラルカを見つめてあることを告げた。
[大文字]「あなたは...私の主人の御一人であるイズベラ様の、ご息女でございます。」[/大文字]
[斜体]「!!」[/斜体]
ノイトはそれを聞いて驚いたと同時に色々と納得することが出来た。
(ラルカさんが、イズベラ様の...!でも王女は2人しか...、なるほど...そういうことか。ルミナやカメリア様の異父姉妹...イズベラ様の病気も...)
ノイトは以前イズベラと話した時に感じた違和感の正体に気がつく。そのせいで一瞬めまいがしたが、ため息をついて再び武器を構えた。レイクがさらに追撃してくる可能性は充分にありえる。
(恐らく、レイクさんはイズベラ様の頼みで"娘を守って"とでも言われたんだろうな...つまり、今この人を攻撃していた僕がレイクさんの攻撃対象...。)
レイクは剣を構え直した。しかし、それ以上ノイトを攻撃することは無かった。その代わりにノイトに話すことがあるらしい。
[大文字]「ノイトくん。先日イズベラ様とお会いになった後に、君への伝言を頼まれている。」[/大文字]
ノイトは武器の構えを解いてイズベラからの伝言を聞くことにした。
[大文字]「イズベラ様は、[太字][斜体]“もし戦争が起きても、ルミナスのことをお願いします。”[/斜体][/太字]と仰せになった。」[/大文字]
ノイトは真剣な眼差しでそれに答える。
「分かりました。命に変えてもお守りします、と伝えて下さい。」
レイクは頷いて王城へと戻っていこうとした。しかし、ノイトが呼び止める。
「あの、もう一つ...!」
ノイトはマジックバッグから一回り小さなマジックバッグを取り出してレイクに手渡した。
「これを、ルミナ...ルミナス様に渡して貰えますか?」
「うむ、了解した。必ず届けよう。」
「ありがとうございます!」
ノイトは王城へと跳び戻っていったレイクを見送ってからラルカの方を見る。
「それで...、どうしますか?まだ続けます?」
「...あぁ、私は貴様との戦闘を諦めるつもりはない。だが...ノルティーク帝国の王城に母上と義姉妹が居るのであれば、それを傷つけるわけにはいかない。」
目を閉じて息を吐いてから、ノイトはラルカに手を差し伸べた。ラルカはノイトをただぽかんと見つめている。ノイトはラルカの目を見てこう続けた。
「僕は、たとえ僕のことを消してしまおうと思っている相手であっても、ちゃんと理由があるならその人の意志を最大限尊重します。あなたが僕の大切な人たちを傷つけないのであれば、僕もあなたを傷つけるつもりはありません。」
一切ブレることのない意志が宿ったノイトの目を見ていたラルカは、数秒間ノイトの目を見つめていた。しかし、ラルカはノイトの手を振り払う。
「馬鹿を言え。私が殺意を持っていても貴様がそのまま大人しくやられるわけがないだろう。」
「えぇ、もちろん。大人しくやられてあげられる程、僕は甘くはないですよ?多分。」
「何故そこではっきりしない。先程私を突き飛ばしたところを見る限り、瞬時の判断力と行動力は高いはずだ。」
ラルカが再び鋭い視線を向けてきたが、ノイトは笑って答えた。
「いや、だって...常に肩肘張って生きていくのは疲れちゃうじゃないですか。」
「その油断で命を落としてしまうこともあるだろう。」
「油断しているのは事実です。だけど、切り替えというかけじめというか...そういうのが出来れば、別にそこまで意識しすぎなくて楽なんですよ。」
「楽、だと......?」
ラルカの視線がさらに鋭くなる。しかしノイトは気圧されたりしない。
「それは逃げだぞ...恥を知れ。」
「恥は恥ですけど"逃げるは恥だが役に立つ"って言うじゃないですか。それに、生き延びることは全然恥じゃないですよ。」
ラルカはノイトの言葉に固まった。もう殺意は感じないが、僅かに警戒心は残っている。
「あなたもさっき言ってたじゃないですか。"栄誉は生存の証だ"って。それと同じで、生存...つまりは生き延びることもまた栄誉なんですよ。」
ラルカは再び[漢字]拳銃[/漢字][ふりがな]ハンドガン[/ふりがな]を構え、[漢字]標準[/漢字][ふりがな]エイム[/ふりがな]をノイトへと向けた。
「私にとっては、逃げは恥なのだ。それ以外の何でもない。生きて帰れば恥とされていた歴史もある。」
対するノイトは武器を構えることもせずに続ける。
「随分古いですね...。それはあくまでも"歴史"でしょう。僕たちが生きているのは"今"であって、"歴史"じゃない。」
「今もいつかは歴史になる。栄光も、思い出も、全て過去のものだ。」
「過去は過去ですよ。別に現在進行形じゃなくとも、それは経験や継続であれば良いと思いますけどね?過去でも今でも、確かにそこに在るんですから。」
ラルカは引き金に指をかけてはいるが、その指は力を込められておらず止まっている。そこで、ノイトは少しずつラルカへと歩み寄っていった。
「あなたが過去を重視していることはよく分かりました。だけど、過去に縛られてばかりでは今を満足に生きられないですよ。」
「...今など、どうでも良い。貴様に私の過去の何が分かるのだ...?」
「少なくとも、今のあなたの性格を形作っているものであることは分かります。それ以外は、分かりませんけど。でも、そこまでの考えを持っているのであれば...あなたの過去も知りたいと思えます。」
ラルカはなかなか引き金を引けずにいる。下手に撃ってしまえば、ノイトの言葉に反論出来なくなってしまって早まった気がして後味が悪い。
「私の過去を貴様に話して、何のメリットがあるのだ。」
「少しでも、あなたが抱え込んでいるものを共有出来ます。何かツライことがあるのであれば、それを乗り越える方法を一緒に考えられますし、それを告げられる相手がいるだけでも心が楽になると思いますよ?」
「そんなことに興味はない。他人の同情など不要だ。」
[中央寄せ][斜体][明朝体][大文字]―― ヒュンッ ――[/大文字][/明朝体][/斜体][/中央寄せ]
ラルカは引き金を引く。しかしノイトはもうそこには居なかった。