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本作は一部を除きフィクションです。
一部を除き、実在する人物、出来事、組織とは関係ありません。

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世界に溢れる夢

#70

70.正しい世界

[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]

ノイトはヴォーグと対峙していた。ヴォーグは静かに怒っているようだ。恐らくノイトがこの街の制度を壊そうとしているからだろう。
「この街の制度は住人たちを縛り付けています。今すぐに撤廃して新しい街へと変えていくべきです。」
「革命は困るのだよ...。面倒事は御免だ...。」
「原因はあなたたちの方にありますけどね。」
ヴォーグは静かに反論する。
「それは違うな。お前たちがこの街に来なければ...いや、もっと前だ。リオールがお前と関わりさえしなければ、こうなることは無かったのだ。」
「本当にそうですかね?僕以外にも、この街の制度を疑うことが出来る人はこの街の外にもたくさん居ますよ。」
ヴォーグはため息をついてノイトの話を聞こうともしない。
「外界のことなど、興味すら持てん。わしらの考えがそのまま適用されるこの場所こそが、わしにとっての正しい世界だ。」
ノイトは眉間に皺を寄せてヴォーグを見据える。
「ハァ...[漢字]また[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]台無しになってしまったか...。こうなれば、今一度やり直せねばいかんな...。」
「過去は、変えられませんよ。」
「いいや、変えられる。わしに係ればな。」
([斜体]...!! 個性魔術か!![/斜体])
ノイトは目の色を変えて武器を構えた。まだヴォーグが何か言おうとしていたが、それを聞く余裕もないと察したノイトは魔法を放つ。

[中央寄せ][大文字][太字][斜体][明朝体]〔[漢字]歴史の補完[/漢字][ふりがな]ヒストリー・コンプレメント[/ふりがな]〕[/明朝体][/斜体][/太字][/大文字][/中央寄せ]

ヴォーグの個性魔術は"歴史修正"だった。修正というよりは改変なのだが、ヴォーグは今までそうやって歴史をやり直そうとしてきた。都合よく改変している事実がバレないのは、ヴォーグがこの街から出ようとしないからである。しかし、バレなきゃ犯罪じゃないと言うわけではない。
「何故邪魔をする...やり直した方がより良い結果になるだろう...?」
「"良い結果"=正しい、ではないですよ。そもそも、その"良い結果"の基準は何なんですか?」
「わしが満足すれば正しく、それと同時に良い結果になるのだ。逆に、不満があればそれは排除する。それがこの世界だ。」
ノイトは【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】の剣先をヴォーグへと向ける。
「あなたは神ではありません。世界の基準を勝手に決めつけて他人に押し付けないでください。」
「いいや、わしが神だ。外界から来たお前のような者には理解出来まいがな。」
「理解したくもない。そんな自己中心的な思想...いや、妄想だな。あなたの妄想にわざわざ付き合う義理もなければそれに従うつもりもない。」
ヴォーグの手に魔法陣が浮かぶ。すると、中央広場の上空に無数の巨大な魔法陣が浮かび、その全ての標準がノイトへと合わせられた。
「神に逆らう者には粛清たる天罰を...。」
ノイトはため息を吐いて武器を構える。
「ハァ...百歩、いや...百億歩譲ってあなたが神だとします。それなら、邪神殺しの時間ですね...。」
「無理やりこじつけたな。」
「否定はしません。」

[水平線]

[中央寄せ][太字][斜体][大文字][明朝体]個性魔術:"偉人の怒り"[/明朝体][/大文字][/斜体][/太字][/中央寄せ]

[中央寄せ]﹏﹏﹏﹏﹏[/中央寄せ]

[中央寄せ][大文字][太字][明朝体][斜体]〔[漢字]記憶の再現[/漢字][ふりがな]メモリーフラッシュ[/ふりがな]〕[/斜体][/明朝体][/太字][/大文字][/中央寄せ]

[水平線]

街の上空が青い光で満たされる。辛うじてその後の様子を見ることが出来たのは丁度住人の避難を援助していたフィルマリーと中央広場で対峙していたリオール、そしてノイトとヴォーグだけだった。

ヴォーグの魔法陣から出てきたのはかつてのヴォーグの怒りの記憶が偉人を型取り、それを魔力で再現したもの。対してノイトは魔法の光によってその怒りを上回る数の記憶を相手方に押し付けた。ヴォーグは自身の怒りの記憶だけだが、ノイトは怒りだけでなく喜びや悲しみ、驚きや嬉しさの記憶でそれを押し返す。その中でも、何より強かった感情はノイトが刹那の内に思い出したリーリャの笑顔。
「怒りも悲しみも全部、...幸せで塗り替えちゃえば良いんですよ。」
ノイトの光を両手で防ごうとしているヴォーグがノイトの言葉に言い返す。
「だが、そこにあったものはいつまでもそこにあり続けるぞ...!!たとえ見えなくなっても、確かにそこにあったものはただ"そこにあった"だけだ!!」
「でも、...あなたは見えているものにばかり気を取られて過去を変えようとしましたよね?」
ヴォーグが固まった。目が眩むような強い光の中で、ノイトの声だけが異様に静かに響いてきたのだ。ノイトは構わず続けた。
「見えていない全てのものに目を向けることは出来ませんよ。僕たちの目は顔の前にしか付いてないんですから。それなら首を回せば良い、身体を動かせば良い、そう思ってるんでしょう。だけど、あなたは今までそれをやろうとしてきましたか?」
「[斜体]なっ...!![/斜体]」
ノイトが少しずつ近づいてきたため、ヴォーグを消し飛ばそうとする激しい光はさらに強まる。
「そこにあっても、見えてなければどうでも良い。心の何処かでそう考えているあなたには、そのことに気がついていないあなたにだけは...言われたくないですよ。」
「神に説教をするつもりか....!何たる不敬だ、この場で歴史から消し飛ばし」
「なんかちょっと疲れてきましたね...頭がそこまで働かない。さっさと終わらせちゃいましょうか。」
ノイトがさらに近づいて【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を振りかざす。
「待て!か弱き老人をいじめるつもりか!!」
「いじめる...?違いますね、あなたは革命の中の犠牲者の1人になるだけですよ。あなたの言う"正しい世界"にだって、犠牲者はいるでしょう。」
ヴォーグは声を張り上げる。
「犠牲など、生まれてはいけないのだ!!」
「あなたが今までに変えた歴史の中に、どれだけの犠牲者がいると思っているんですか?」
ノイトは容赦なく絶句したヴォーグへと武器を打ち付ける。瞬時に[漢字]自動発動[/漢字][ふりがな]オート[/ふりがな]の防御魔術が展開されたが、ノイトの武器は何ら問題なくそれを砕いてヴォーグに攻撃をした。

[中央寄せ][太字][明朝体][斜体][大文字]〔[漢字]魔力打撃[/漢字][ふりがな]マギノ・スパンク[/ふりがな]〕[/大文字][/斜体][/明朝体][/太字][/中央寄せ]

ヴォーグは街の外へと吹き飛ばされた。七賢であるため万が一どこかに衝突しても命を落とすことはないだろう。
ノイトはゆっくりと中央広場へと降りていく。リオールとメルクはまだそれぞれ残りの七賢の1人と戦っていた。メルクは攻撃の速度で圧倒的に有利だが、七賢の防御魔術は破れていないようだ。リオールはかなり魔力を消耗していたようだが、それでもかなり優位に立っている。
(若さが違うからか...?でも、それで言ったら僕とリーリャの方が強いみたいになっちゃうから違うな...。)
ノイトはこのまま放っておいてもなかなか決着が付かなさそうなメルクの方を先に援護することにした。
(どうせ拘束されてもまたフィルさんか、リオールさんに解いてもらえば良い。)
[水平線]

[中央寄せ][太字]上級魔術:[大文字]『ᛞᛁᚡᛁᛞᛖ ᛁᛏ』[/大文字][/太字][/中央寄せ]

[水平線]
ノイトが上級魔術をその七賢に使った瞬間、ノイトが拘束されると同時に七賢の防御魔術が砕けた。
[斜体]「――なっ!!」[/斜体]
その隙を見逃さなかったメルクが即座に攻撃を食らわせた。

[中央寄せ][大文字][太字][斜体][明朝体]『[漢字]灼愛射閼召[/漢字][ふりがな]ヤマナイアメ[/ふりがな]』[/明朝体][/斜体][/太字][/大文字][/中央寄せ]

メルクの斬撃をもろに喰らって七賢は中央広場を囲う壁まで斬り飛ばされる。流石にユプシーバの二の舞いになることはなかった。
「メル、お疲れ!」
「ノイトくん!!」
ノイトとメルクはハイタッチをする。ノイトはリオールの様子を見るが、かなり相手を追い詰めているため問題はないだろうと考えた。
(あの様子なら問題ないな...それに、まだリーリャがいる。)
ノイトの視線の先には超級魔法を構えて最後の七賢を狙っているリーリャの姿。ノイトが魔法を使ってその七賢の気を引いた。
[中央寄せ][[漢字][太字]煌光[/太字][/漢字][ふりがな]ブライト[/ふりがな]][/中央寄せ]
視界の端に強い光が映り込んできて流石の七賢でも振り向かざるを得なかったようで、その七賢の男はリオールから目を離してしまった。次の瞬間、リーリャの超級魔法が後ろから飛んできてその七賢は焦げた。
[大文字][斜体]「ぐわあぁ!!」[/斜体][/大文字]
そしてすかさずリオールが魔術を唱える。
[水平線]

[中央寄せ][太字]上級魔術:[大文字]『ᚠᚱᛖᛖᛣᛖ』[/大文字][/太字][/中央寄せ]

[水平線]
リーリャの魔法の獄炎から一転して、今度はリオールの魔法で一瞬で凍りついた。これでリオールを除く全ての七賢を倒すことに成功したのだ。
「リオールさん、お疲れ様です。リーリャも、こっちおいで〜!」
リオールはノイトに感謝した。
「ノイトが最後に気を引いてくれたお陰で、思っていたよりも早く決着が着いたよ。ありがとう。ノイトは僕の自慢の教え子だ!」
そこでリーリャがトボトボと歩いてきてノイトの腕にしがみつく。
「ん?リーリャ、どうした?」
ノイトの質問を聞いて、リーリャは申し訳なさそうに口を開いた。
「えっと...その...、ルベリアさんに買ってもらった魔具、壊れちゃったの。」
「...そっか。次に会ったら一緒に謝ろうか。」
「うん...。」
そこでフィルマリーが戻ってきて、リオールは声を張り上げる。
[大文字]「住人たち、よく聞いてほしい!この街の待賢制度は撤廃だ!!これからの街作りに関しては後ほど僕、リオールから指示をする。それまでは自由に過ごすように!」[/大文字]
フィルマリーがリオールにツッコんだ。
「相変わらず適当すぎませんか〜?」
「いや、ゆとりがあった方が肩肘張らずに済んで良いだろう?」
「リオールさん、それ今考えましたよね?」
リーリャが口を挟んだ。リーリャが誰かの会話に自分から入っていくことはほぼなかったので、ノイトも嬉しそうに驚く。
「おぉ〜、リーリャも言うようになったね〜!ちゃんと自分の言いたいことは言った方が良いからね。」
古い制度は崩壊した。新しい制度に関してはノイトたちが携わるべきではないと思ってノイトは身を引く。ノイトたちは中央広場で少し談笑した後、また旅に出ることにするのだった。
「それじゃあ、リオールさん。頑張って下さいね。」
「メルクとフィルマリーさんはどうするんですか?私たちと一緒に来ます?」
リーリャの質問に2人は首を横に振った。
「私はノイトくんと旅をするのは、もっと強くなってからにするよ。」
「私は先程消費してしまったぬいぐるみの仕入れがありますから、残念ながらご一緒出来ません...。お別れのぎゅーします?」
両手を広げたフィルマリーをスルーしつつ、ノイトは手を降って街を出ることにした。街から出る途中で住人たちはノイトを見つけて感謝の言葉を告げてくる。
(うわ...また目立っちゃった...。でもまぁ、良いや。)
「リーリャ、走れる?」
「え?うん、一応走れるけど?[斜体]わっ[/斜体]」
ノイトはリーリャの手を引いて街の外へと走り出した。
(面倒事からは逃げるが勝ちだ。さっさと次の街まで行こう!!)
住人たちが感謝を告げるために追いかけてきたが、ノイトとリーリャは構わず街を出て次の街の方へと進む。
「ノイト、これで良かったの?」
「いいよいいよ、これでリオールさんが僕達の関係をからかってきたことへの仕返しも出来たでしょ!」
2人は笑いながら青空の下に広がる道を駆け抜けていくのだった。


作者メッセージ

 作者の御鏡 梟(みかがみ きょう)です。
今回でヴェルグランド大陸後篇も終了です。次回からはまぁやや不穏なテーマになりますけども、その先を考えるとあるキャラクターのための通過点に過ぎないので、どうか我慢していただきますように...。次回もお楽しみに!!
本作を読んでの感想の他、キャラクターや世界観についての質問も受付けています。
本作品を読んでいただき、ありがとうございました!!

2025/11/24 12:37

御鏡 梟 ID:≫ m9kR/WFBrng.A
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