世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトが唱えた上級魔術で【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】の剣の部分が光を帯び、リオールの防御魔術を破壊した。
[斜体]「!?」[/斜体]
リオールは咄嗟に身を反らせてノイトの攻撃をかわす。すぐさま無詠唱で炎の渦を放つが、ノイトがリオールの足元を魔法で軟化させていたのでリオールが体勢を崩し、それはノイトから大きく逸れた軌道に。
(へぇ...!ノイトもついに上級魔術を!!)
リオールが動きを止めるとノイトの攻撃は止んだ。リオールが満面の笑みでノイトに話しかける。
「いや〜、本当に強くなったねぇ。これなら心配なさそうだ。どうかな、ここは引き分けってことにしない?」
「ハァ...あなたは元からその気だったんでしょう?」
「アハハ...バレたか。」
リーリャがノイトに駆け寄る。しかしそこで、ノイトの魔法でまだ足元が僅かに[漢字]泥濘[/漢字][ふりがな]ぬかる[/ふりがな]んでいたせいでリーリャがバランスを崩してノイトに飛びつくような形になってしまった。
「[斜体]うわっ!![/斜体]...リーリャ、大丈夫?」
「うん...大丈夫、だよ...。」
リオールは笑顔を崩さないまま2人をからかった。
「やっぱり本当は付き合ってるんじゃないの〜?もし違ったとしても付き合っちゃえばお似合いだと思うよ。」
リーリャは顔を真っ赤にしてリオールのからかいに反応する。
「違っ、それはそれで楽しそうだけど...、...!!えっと、いや、ノイト?今のはそうじゃなくて、え、ふえぇ」
「リーリャ、取り敢えず一旦落ち着こうか。」
ノイトの冷静な言葉で頭が冷えたリーリャはノイトから目を逸らしてノイトの袖を握っている。ノイトもリオールも、特に何も言わなかった。
「さてと、引き分けってことだから、互いに勝ったときの要望を叶えるって事で良いんだよね?」
「そうですね。僕が魔神の情報を提供して、リオールさんが上級魔術と腕の良い杖職人を紹介してくれるんですよね?」
「あぁ、別に情報要らないよ?さっき七賢会で見たし。それに、上級魔術だってもう使えてたじゃん?だから僕から教えることはもうほぼないよ。後は自分に合った形で自然と慣れていけば良い。」
「うわ、雑...」
ノイトはリオールの奔放さに呆れながらも腕の良い杖職人を紹介してもらった。リーリャはまだ口を聞いてくれないが、リオールと別れるときはリオールがくれたお菓子を無言で受け取った。そこだけは率先的に。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとリーリャは日が落ち始めてきた頃、グレイベアルドのとある店に着いた。
「ここだね。リーリャ、初対面のときくらいは愛想よくしてよね?」
「...うん。」
ノイトがその店のドアを開ける。ドアベルの音が鳴り、店のカウンターに居た人物がこちらを振り返った。
「すみません、杖職人のナールゲイルさんを訪ねて来たんですけど...。」
ノイトとリーリャの方を振り返った人物は名前を呼ばれて頷いた。
「俺がそのナールゲイルだ。一体何の用かな?」
「実は、魔法の杖を作って欲しくて...。」
ナールゲイルは少し首を傾げてノイトを見たが、すぐに地下へと案内してくれる。
「こっちだ。着いてこい。」
言われるままにノイトとリーリャはナーゲイルの後に着いていく。暗い階段を踏み外さないように慎重に降りた先には、小さな鍛冶場があった。
「それで、どんな杖が良い?」
「[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製で、上級魔術や禁忌魔術にも耐えられそうなものって作れます...?」
ナールゲイルは少し不審そうにノイトを見つめて答える。
「[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]がどれだけ高価か分かっているのか...?サンプルもなければ原料もない。それなら作るのは無理だな。それに、禁忌魔術なんてものを使うのは魔神だけだろう。君は魔神と戦うつもりか?」
(それで一応、勝てたんですけどね...。偶然エンカだったけど。)
ノイトは取り敢えずマジックバッグから【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出してナールゲイルに見せる。
「サンプルなら、ありますよ...?あ、熔かしたりバラしたりしないでくださいね。レミステラでムールさんに[漢字]鍛造[/漢字][ふりがな]つく[/ふりがな]ってもらったものですから。」
ナールゲイルは目を見開いて口を開いた。
「...ムール先生が、これを...!!」
どうやらムールの教え子だったらしい、この人は。ノイトの武器を見てナールゲイルはその代わりにと言って、何かを取り出した。
「この杖で良ければ君にあげよう。俺が昔[漢字]鍛造[/漢字][ふりがな]つく[/ふりがな]ったもの何だがな、使いようによっては役立つだろう。」
ノイトは笑顔で答える。
「不良品ですよね、コレ。」
ナールゲイルの表情が固まった。しばらくの間の沈黙が訪れてから、ナールゲイルが俯いて認めた。
「まぁ...そうだな、否定はしない。」
「腕の良い杖職人だと聞いていましたが...?」
「最近はスランプなんだ。自信作も全部改良しようとして全部パーになっちまったよ。」
ノイトは呆れてフィルマリーの店でメルクに買った杖の方が良いと思う。
「それなら、もう用はないですね。それじゃあ、さようなら〜。」
そう言って出ていくノイトとリーリャを、ナールゲイルは止められなかった。
「ハァ...もう一度学びに行くか...。」
リーリャはまだ口を聞いてくれない。ノイトはリーリャを変に刺激することのないように極力話しかけないようにしていたのだが、そのまま時間が流れていくに連れてリーリャがノイトの袖を掴む力が強くなっている。
「さてと、ナールゲイルさんは[漢字]技能鈍化[/漢字][ふりがな]スランプ[/ふりがな]みたいだし、他のところで武器でも探そうか...。」
「...。」
「リーリャ?」
「...何?」
リーリャは少し機嫌が悪そうだった。ノイトは取り敢えず目を合わせてくれないリーリャの手を優しく引いて近くに泊まれそうな宿がないかを探す。建物の看板には賢者様以外利用禁止と書かれているものが多い。
「ん〜、やっぱり待賢都市っていうだけあって賢者と呼ばれる人たちは優遇されるんだね...。」
ノイトはその看板がない宿屋を見つけてドアを開ける。その宿屋のカウンター担当と思われる女性に声をかける。
「すみません、今って泊まれる部屋は空いてますか?」
「はい、空いてますよ。...1部屋でよろしいですか?」
ノイトはリーリャの方を見た。リーリャは頷いている。その女性は承りましたと言って部屋へと案内してくれた。
「こちらになります。宿泊料は前払いで600ケルスとなっております。」
「分かりました。ご案内いただき、ありがとうございます。」
ノイトから宿泊料を受け取った女性は持ち場へと戻っていった。ノイトは部屋に入り、取り敢えずリーリャと仲直りをしようとする。
「リーリャ?リオールさんがからかったのは、本当にごめんね。だからその、あんまり気にしなくて良いよ。」
「...別に、ノイトが謝らなくても良いじゃん...。指輪も貰ったし、いつかちゃんと責任取ってよね...。」
ノイトはため息を吐きそうになったがぐっと堪えた。今ため息を吐いてしまえば後で面倒なことになると思ったからだ。
「分かったよ。それじゃあ、もう冷たくしないでよね?僕だって傷つくんだから。」
「...分かった。ノイト、冷たくしてごめんね。」
2人はマジックバッグからリオールに貰ったお菓子を取り出してそれを夕食の代わりに食べる。
「ノイト...、私って働いたほうが良い感じ?」
「いや...気にしなくて良いよ。僕が食糧費まで聖剣と聖鎧のセットに使っちゃったのが悪いんだし...。もし次に賞金とかが貰える機会があれば、その時は遠慮せずに戴いちゃおうか。」
ノイトは自省しながらリオールのお菓子を口にする。甘くて美味しいクッキーだったのでリーリャはすぐにいつものリーリャに戻って顔を綻ばせた。その様子を見ていたノイトは、リーリャにつられて自然と口元が緩んだのだった。
ノイトが唱えた上級魔術で【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】の剣の部分が光を帯び、リオールの防御魔術を破壊した。
[斜体]「!?」[/斜体]
リオールは咄嗟に身を反らせてノイトの攻撃をかわす。すぐさま無詠唱で炎の渦を放つが、ノイトがリオールの足元を魔法で軟化させていたのでリオールが体勢を崩し、それはノイトから大きく逸れた軌道に。
(へぇ...!ノイトもついに上級魔術を!!)
リオールが動きを止めるとノイトの攻撃は止んだ。リオールが満面の笑みでノイトに話しかける。
「いや〜、本当に強くなったねぇ。これなら心配なさそうだ。どうかな、ここは引き分けってことにしない?」
「ハァ...あなたは元からその気だったんでしょう?」
「アハハ...バレたか。」
リーリャがノイトに駆け寄る。しかしそこで、ノイトの魔法でまだ足元が僅かに[漢字]泥濘[/漢字][ふりがな]ぬかる[/ふりがな]んでいたせいでリーリャがバランスを崩してノイトに飛びつくような形になってしまった。
「[斜体]うわっ!![/斜体]...リーリャ、大丈夫?」
「うん...大丈夫、だよ...。」
リオールは笑顔を崩さないまま2人をからかった。
「やっぱり本当は付き合ってるんじゃないの〜?もし違ったとしても付き合っちゃえばお似合いだと思うよ。」
リーリャは顔を真っ赤にしてリオールのからかいに反応する。
「違っ、それはそれで楽しそうだけど...、...!!えっと、いや、ノイト?今のはそうじゃなくて、え、ふえぇ」
「リーリャ、取り敢えず一旦落ち着こうか。」
ノイトの冷静な言葉で頭が冷えたリーリャはノイトから目を逸らしてノイトの袖を握っている。ノイトもリオールも、特に何も言わなかった。
「さてと、引き分けってことだから、互いに勝ったときの要望を叶えるって事で良いんだよね?」
「そうですね。僕が魔神の情報を提供して、リオールさんが上級魔術と腕の良い杖職人を紹介してくれるんですよね?」
「あぁ、別に情報要らないよ?さっき七賢会で見たし。それに、上級魔術だってもう使えてたじゃん?だから僕から教えることはもうほぼないよ。後は自分に合った形で自然と慣れていけば良い。」
「うわ、雑...」
ノイトはリオールの奔放さに呆れながらも腕の良い杖職人を紹介してもらった。リーリャはまだ口を聞いてくれないが、リオールと別れるときはリオールがくれたお菓子を無言で受け取った。そこだけは率先的に。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトとリーリャは日が落ち始めてきた頃、グレイベアルドのとある店に着いた。
「ここだね。リーリャ、初対面のときくらいは愛想よくしてよね?」
「...うん。」
ノイトがその店のドアを開ける。ドアベルの音が鳴り、店のカウンターに居た人物がこちらを振り返った。
「すみません、杖職人のナールゲイルさんを訪ねて来たんですけど...。」
ノイトとリーリャの方を振り返った人物は名前を呼ばれて頷いた。
「俺がそのナールゲイルだ。一体何の用かな?」
「実は、魔法の杖を作って欲しくて...。」
ナールゲイルは少し首を傾げてノイトを見たが、すぐに地下へと案内してくれる。
「こっちだ。着いてこい。」
言われるままにノイトとリーリャはナーゲイルの後に着いていく。暗い階段を踏み外さないように慎重に降りた先には、小さな鍛冶場があった。
「それで、どんな杖が良い?」
「[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]製で、上級魔術や禁忌魔術にも耐えられそうなものって作れます...?」
ナールゲイルは少し不審そうにノイトを見つめて答える。
「[漢字]青白磁の金属[/漢字][ふりがな]サスロイカ[/ふりがな]がどれだけ高価か分かっているのか...?サンプルもなければ原料もない。それなら作るのは無理だな。それに、禁忌魔術なんてものを使うのは魔神だけだろう。君は魔神と戦うつもりか?」
(それで一応、勝てたんですけどね...。偶然エンカだったけど。)
ノイトは取り敢えずマジックバッグから【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】を取り出してナールゲイルに見せる。
「サンプルなら、ありますよ...?あ、熔かしたりバラしたりしないでくださいね。レミステラでムールさんに[漢字]鍛造[/漢字][ふりがな]つく[/ふりがな]ってもらったものですから。」
ナールゲイルは目を見開いて口を開いた。
「...ムール先生が、これを...!!」
どうやらムールの教え子だったらしい、この人は。ノイトの武器を見てナールゲイルはその代わりにと言って、何かを取り出した。
「この杖で良ければ君にあげよう。俺が昔[漢字]鍛造[/漢字][ふりがな]つく[/ふりがな]ったもの何だがな、使いようによっては役立つだろう。」
ノイトは笑顔で答える。
「不良品ですよね、コレ。」
ナールゲイルの表情が固まった。しばらくの間の沈黙が訪れてから、ナールゲイルが俯いて認めた。
「まぁ...そうだな、否定はしない。」
「腕の良い杖職人だと聞いていましたが...?」
「最近はスランプなんだ。自信作も全部改良しようとして全部パーになっちまったよ。」
ノイトは呆れてフィルマリーの店でメルクに買った杖の方が良いと思う。
「それなら、もう用はないですね。それじゃあ、さようなら〜。」
そう言って出ていくノイトとリーリャを、ナールゲイルは止められなかった。
「ハァ...もう一度学びに行くか...。」
リーリャはまだ口を聞いてくれない。ノイトはリーリャを変に刺激することのないように極力話しかけないようにしていたのだが、そのまま時間が流れていくに連れてリーリャがノイトの袖を掴む力が強くなっている。
「さてと、ナールゲイルさんは[漢字]技能鈍化[/漢字][ふりがな]スランプ[/ふりがな]みたいだし、他のところで武器でも探そうか...。」
「...。」
「リーリャ?」
「...何?」
リーリャは少し機嫌が悪そうだった。ノイトは取り敢えず目を合わせてくれないリーリャの手を優しく引いて近くに泊まれそうな宿がないかを探す。建物の看板には賢者様以外利用禁止と書かれているものが多い。
「ん〜、やっぱり待賢都市っていうだけあって賢者と呼ばれる人たちは優遇されるんだね...。」
ノイトはその看板がない宿屋を見つけてドアを開ける。その宿屋のカウンター担当と思われる女性に声をかける。
「すみません、今って泊まれる部屋は空いてますか?」
「はい、空いてますよ。...1部屋でよろしいですか?」
ノイトはリーリャの方を見た。リーリャは頷いている。その女性は承りましたと言って部屋へと案内してくれた。
「こちらになります。宿泊料は前払いで600ケルスとなっております。」
「分かりました。ご案内いただき、ありがとうございます。」
ノイトから宿泊料を受け取った女性は持ち場へと戻っていった。ノイトは部屋に入り、取り敢えずリーリャと仲直りをしようとする。
「リーリャ?リオールさんがからかったのは、本当にごめんね。だからその、あんまり気にしなくて良いよ。」
「...別に、ノイトが謝らなくても良いじゃん...。指輪も貰ったし、いつかちゃんと責任取ってよね...。」
ノイトはため息を吐きそうになったがぐっと堪えた。今ため息を吐いてしまえば後で面倒なことになると思ったからだ。
「分かったよ。それじゃあ、もう冷たくしないでよね?僕だって傷つくんだから。」
「...分かった。ノイト、冷たくしてごめんね。」
2人はマジックバッグからリオールに貰ったお菓子を取り出してそれを夕食の代わりに食べる。
「ノイト...、私って働いたほうが良い感じ?」
「いや...気にしなくて良いよ。僕が食糧費まで聖剣と聖鎧のセットに使っちゃったのが悪いんだし...。もし次に賞金とかが貰える機会があれば、その時は遠慮せずに戴いちゃおうか。」
ノイトは自省しながらリオールのお菓子を口にする。甘くて美味しいクッキーだったのでリーリャはすぐにいつものリーリャに戻って顔を綻ばせた。その様子を見ていたノイトは、リーリャにつられて自然と口元が緩んだのだった。