世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトの魔法で魔神の動きが止まった。魔神の身体にはノイトの魔法を帯びた斬撃によって皓く深い傷が刻まれている。魔力を使い果たしたノイトはその場に倒れ込んだ。
[大文字][明朝体][太字]「バカな...。...なるほど、そうであったか。前もってその武器に魔力の一部を...いや、大部分を移動させていたのか...。」[/太字][/明朝体][/大文字]
「ハァ...ッ...随分と声がッ、...弱々しくなっ、てるけど...ちゃんと効いて...るんじゃない?」
そう言うノイト自身の声も弱々しくなっていたのだが。ノイトもリーリャが倒れたノイトに駆け寄る。
「ノイト、大丈夫!?」
ノイトはリーリャが無事であることを確認して安堵のため息をつく。
「僕は大丈夫。...問題は、僕の魔法がアイツにどれだけ効くかだよ。僕はもうしばらく動けそうにないから、ちゃんと効果が出てきてくれないと困るなぁ...。」
リーリャは不安そうに魔神の方を見た。魔神はしばらくの間立ったまま動かなかったが、やがて一歩踏み下がる。
[大文字][明朝体][太字](...なんだ、身体に力が入らん...!!それに...私は、一体何をしようとしていたんだ?...今、私は....!! ........."今"?)[/太字][/明朝体][/大文字]
魔神は自身が"今"に集中していることに気が付いた。今まで他者に対して過去ばかりを押し付け、自身も過去が全てだと思っていたのに。
[大文字][明朝体][太字](私は...何故..."今"を...?)[/太字][/明朝体][/大文字]
魔神の力が抜けて魔神は後ろに倒れた。魔神は相変わらず"今"に集中していて、本来の存在意義を見失っている。その様子を見たノイトは再びニヤリと笑う。
「...どうした?"逃げとは、弱さ"なんでしょ...?」
ノイトの言葉を聞いた魔神は青ざめて慌てて走って逃げようとした。魔神は身体にあまり力が入っていないせいで走るに走れず、実際には地面を這いつくばって移動している。それでも少しずつノイトたちから距離を取ろうとしている。今のノイトは動けないため、このままでは魔神を逃がしてしまう。魔神の乱れた呼吸が、この静寂の森に響く。
そこで覚悟を決めたのはリーリャだった。リーリャは今までピアノの演奏による魔法しか使ったことがない。しかし、リーリャは今まで誰よりも近く、そして長くノイトの魔法を見てきた。
(ノイトは優しいだけじゃなくて才能もあるんだよね...それは分かってるよ。でもね、ノイトは私に色々と教えてくれた!! 私のせいで前世のノイトは死んじゃったんだよ...これで相子になるなんて思わないけど、罪滅ぼしになんてならないけど...!!ここでアイツを逃がしたら余計にノイトに申し訳が立たない!!)
リーリャは今までのノイトの魔法を遡っていく。巨大な魔力の結晶で出来た樹。水で出来た剣。迷宮の地図。ゴーストたちを祓う聖なる光。岩で出来た壁。魔物から逃げるための霧。
そして。リーリャが見た1番最初の魔法は――
[中央寄せ][[漢字][太字]灯火[/太字][/漢字][ふりがな]トーチ[/ふりがな]][/中央寄せ]
リーリャの手のひらから小さな火が生まれる。リーリャはノイトの言葉を思い出す。
[水平線]
――『上級魔法』はその応用、『超級魔法』はさらに自分に合ったカタチの表現ってイメージだと思う。
[水平線]
(魔法が魔神に当たる...イメージ!!)
火が大きくなって炎となり、さらにどんどん大きくなっていく。
(熱い炎がアイツへ飛んでいって、燃え上がる...そのままアイツを焼き尽くして...)
リーリャはノイトが牢獄都市・サラヴァルトでリーリャを守るために使った上級魔法を思い出す。
[中央寄せ][[漢字][太字]獄炎[/太字][/漢字][ふりがな]インフェルノ[/ふりがな]][/中央寄せ]
リーリャの手のひらから生まれた小さな火は今や巨大な火球...もとい炎球となっていて、標準はもちろん“記憶の魔神”ゲデニスだ。
[大文字][斜体](逃さない...!!)[/斜体][/大文字]
リーリャはさらにイメージを深める。思い出すはノイトが凱旋都市・コロフェリスでアクレウスと戦った時に水を圧縮して作った剣。リーリャが思い描いた炎を形は、[漢字]緋[/漢字][ふりがな]あか[/ふりがな]い弓矢。リーリャが弓を引くように右手を引くと、リーリャのイメージと連動して変形する。リーリャの目と左手の人差し指が魔神の背中と一直線上に並んだ時、リーリャは右手を開いた。
[中央寄せ][太字]超級魔法:[大文字]『[明朝体][漢字]獄炎弓箭[/漢字][ふりがな]プロクス・ヴェロス[/ふりがな][/明朝体]』[/大文字][/太字][/中央寄せ]
真っ直ぐと放たれた[漢字]緋[/漢字][ふりがな]あか[/ふりがな]い炎の矢は不思議な程に静かに魔神の背中を貫き、皓い傷を内から塗り替える。
[大文字][明朝体][斜体][太字]「[大文字]ぐわあぁぁぁ[/大文字]ぁぁぁ[小文字]ぁぁぁ[/小文字]」[/太字][/斜体][/明朝体][/大文字]
魔神の断末魔が静寂の森を包み、魔神はリーリャの魔法によって灰と化す。ノイトリーリャの2人は“記憶の魔神”ゲデニスにたった2人で勝ったのだ。ノイトの武器【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】が記憶の魔神との相性が良かったこともあるが、それでも魔神を倒したことは大きな結果となる。
リーリャは大技で魔力を大量に消費してしまってその場に座り込んでしまったが、丁度そこには頑張って立ち上がろうとしていたノイトが居たため、ノイトに受け止めてもらえた。
「ねぇ、ノイト...。私たち、...勝てたの...?」
「...そう...だね。...勝てた...。」
リーリャの視界はぼやけ始めた。魔神や自身の過去への恐怖と向き合ったからだろう。リーリャは振り返ってノイトに泣きつく。
「[斜体]...!![/斜体] ...リーリャ、本当にお疲れ様。怖かったよね...?」
「[斜体][大文字][明朝体]うん...、怖かった...!![/明朝体][/大文字][/斜体]」
ノイトの視界もリーリャにつられて涙で滲み始めた。リーリャの温もりからは生きているという実感、リーリャの震えからはリーリャの恐怖と勇気を感じる。
「もう、大丈夫だからね...!! 本当に、ありがとう。」
そのまましばらく2人は森の中で座り込んでいた。日が落ちてきたがまだ立つことが出来なさそうだったが、ノイトはマジックバッグから[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]を取り出して喉へと流し込んで立ち上がる。
「ん〜。」
リーリャが両手を広げてノイトを見上げながら[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]を求めるが、ノイトは渡さなかった。ノイトのように[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]に依存すると、後々これなしでは生きていけなくなってしまう場合があるからだ。
「ごめんね、あんまり慣れて良いものじゃないんだよ。その代わりに僕が次の町までおんぶして行ってあげるから...。」
ノイトがしゃがむとリーリャがノイトの背中によじ登ってしがみつく。ノイトはゆっくろと立ち上がって森の外へと歩き出す。森の外は何事も無かったかのように平和な情景が広がっていた。
「この森の外には何の影響もないみたいで良かった...。」
「ねぇ、ノイト〜。この大陸には何があるの〜?」
リーリャは顔を少しノイトに埋めながら質問する。ノイトは次の街の方へ歩きながら答えた。
「この大陸には昨日行った魔導都市・マギノシティを始めとする3つの大きな都市といくつかの小さな町や村があるよ。流石に全部の町を回っていくのは無理だけど、都市に行くまでの経路にあるのは寄っていっても良いかもね。ルミナへの良い思い出話にも出来そうだし。」
「そうなんだ...。ノイトが住んでたミストルの町みたいな感じ?」
「そうだね、大体合ってるよ。」
リーリャはしばらくノイトの話を聞いているうちにだいぶ元気になってきたようだ。そもそもリーリャは魔力を使い切ったわけではない。それを知っていながらもリーリャをおんぶして運んであげるのがノイトだ。
「やった〜!大正解!!」
「"大"がつく程でもないけどね〜。」
「えぇ〜!?」
ノイトは心と比べて身体が重いのを感じつつも、リーリャを運びながら次の街まで何とか歩いていったのであった。
ノイトの魔法で魔神の動きが止まった。魔神の身体にはノイトの魔法を帯びた斬撃によって皓く深い傷が刻まれている。魔力を使い果たしたノイトはその場に倒れ込んだ。
[大文字][明朝体][太字]「バカな...。...なるほど、そうであったか。前もってその武器に魔力の一部を...いや、大部分を移動させていたのか...。」[/太字][/明朝体][/大文字]
「ハァ...ッ...随分と声がッ、...弱々しくなっ、てるけど...ちゃんと効いて...るんじゃない?」
そう言うノイト自身の声も弱々しくなっていたのだが。ノイトもリーリャが倒れたノイトに駆け寄る。
「ノイト、大丈夫!?」
ノイトはリーリャが無事であることを確認して安堵のため息をつく。
「僕は大丈夫。...問題は、僕の魔法がアイツにどれだけ効くかだよ。僕はもうしばらく動けそうにないから、ちゃんと効果が出てきてくれないと困るなぁ...。」
リーリャは不安そうに魔神の方を見た。魔神はしばらくの間立ったまま動かなかったが、やがて一歩踏み下がる。
[大文字][明朝体][太字](...なんだ、身体に力が入らん...!!それに...私は、一体何をしようとしていたんだ?...今、私は....!! ........."今"?)[/太字][/明朝体][/大文字]
魔神は自身が"今"に集中していることに気が付いた。今まで他者に対して過去ばかりを押し付け、自身も過去が全てだと思っていたのに。
[大文字][明朝体][太字](私は...何故..."今"を...?)[/太字][/明朝体][/大文字]
魔神の力が抜けて魔神は後ろに倒れた。魔神は相変わらず"今"に集中していて、本来の存在意義を見失っている。その様子を見たノイトは再びニヤリと笑う。
「...どうした?"逃げとは、弱さ"なんでしょ...?」
ノイトの言葉を聞いた魔神は青ざめて慌てて走って逃げようとした。魔神は身体にあまり力が入っていないせいで走るに走れず、実際には地面を這いつくばって移動している。それでも少しずつノイトたちから距離を取ろうとしている。今のノイトは動けないため、このままでは魔神を逃がしてしまう。魔神の乱れた呼吸が、この静寂の森に響く。
そこで覚悟を決めたのはリーリャだった。リーリャは今までピアノの演奏による魔法しか使ったことがない。しかし、リーリャは今まで誰よりも近く、そして長くノイトの魔法を見てきた。
(ノイトは優しいだけじゃなくて才能もあるんだよね...それは分かってるよ。でもね、ノイトは私に色々と教えてくれた!! 私のせいで前世のノイトは死んじゃったんだよ...これで相子になるなんて思わないけど、罪滅ぼしになんてならないけど...!!ここでアイツを逃がしたら余計にノイトに申し訳が立たない!!)
リーリャは今までのノイトの魔法を遡っていく。巨大な魔力の結晶で出来た樹。水で出来た剣。迷宮の地図。ゴーストたちを祓う聖なる光。岩で出来た壁。魔物から逃げるための霧。
そして。リーリャが見た1番最初の魔法は――
[中央寄せ][[漢字][太字]灯火[/太字][/漢字][ふりがな]トーチ[/ふりがな]][/中央寄せ]
リーリャの手のひらから小さな火が生まれる。リーリャはノイトの言葉を思い出す。
[水平線]
――『上級魔法』はその応用、『超級魔法』はさらに自分に合ったカタチの表現ってイメージだと思う。
[水平線]
(魔法が魔神に当たる...イメージ!!)
火が大きくなって炎となり、さらにどんどん大きくなっていく。
(熱い炎がアイツへ飛んでいって、燃え上がる...そのままアイツを焼き尽くして...)
リーリャはノイトが牢獄都市・サラヴァルトでリーリャを守るために使った上級魔法を思い出す。
[中央寄せ][[漢字][太字]獄炎[/太字][/漢字][ふりがな]インフェルノ[/ふりがな]][/中央寄せ]
リーリャの手のひらから生まれた小さな火は今や巨大な火球...もとい炎球となっていて、標準はもちろん“記憶の魔神”ゲデニスだ。
[大文字][斜体](逃さない...!!)[/斜体][/大文字]
リーリャはさらにイメージを深める。思い出すはノイトが凱旋都市・コロフェリスでアクレウスと戦った時に水を圧縮して作った剣。リーリャが思い描いた炎を形は、[漢字]緋[/漢字][ふりがな]あか[/ふりがな]い弓矢。リーリャが弓を引くように右手を引くと、リーリャのイメージと連動して変形する。リーリャの目と左手の人差し指が魔神の背中と一直線上に並んだ時、リーリャは右手を開いた。
[中央寄せ][太字]超級魔法:[大文字]『[明朝体][漢字]獄炎弓箭[/漢字][ふりがな]プロクス・ヴェロス[/ふりがな][/明朝体]』[/大文字][/太字][/中央寄せ]
真っ直ぐと放たれた[漢字]緋[/漢字][ふりがな]あか[/ふりがな]い炎の矢は不思議な程に静かに魔神の背中を貫き、皓い傷を内から塗り替える。
[大文字][明朝体][斜体][太字]「[大文字]ぐわあぁぁぁ[/大文字]ぁぁぁ[小文字]ぁぁぁ[/小文字]」[/太字][/斜体][/明朝体][/大文字]
魔神の断末魔が静寂の森を包み、魔神はリーリャの魔法によって灰と化す。ノイトリーリャの2人は“記憶の魔神”ゲデニスにたった2人で勝ったのだ。ノイトの武器【[漢字]時憶の指針[/漢字][ふりがな]トオクノハリ[/ふりがな]】が記憶の魔神との相性が良かったこともあるが、それでも魔神を倒したことは大きな結果となる。
リーリャは大技で魔力を大量に消費してしまってその場に座り込んでしまったが、丁度そこには頑張って立ち上がろうとしていたノイトが居たため、ノイトに受け止めてもらえた。
「ねぇ、ノイト...。私たち、...勝てたの...?」
「...そう...だね。...勝てた...。」
リーリャの視界はぼやけ始めた。魔神や自身の過去への恐怖と向き合ったからだろう。リーリャは振り返ってノイトに泣きつく。
「[斜体]...!![/斜体] ...リーリャ、本当にお疲れ様。怖かったよね...?」
「[斜体][大文字][明朝体]うん...、怖かった...!![/明朝体][/大文字][/斜体]」
ノイトの視界もリーリャにつられて涙で滲み始めた。リーリャの温もりからは生きているという実感、リーリャの震えからはリーリャの恐怖と勇気を感じる。
「もう、大丈夫だからね...!! 本当に、ありがとう。」
そのまましばらく2人は森の中で座り込んでいた。日が落ちてきたがまだ立つことが出来なさそうだったが、ノイトはマジックバッグから[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]を取り出して喉へと流し込んで立ち上がる。
「ん〜。」
リーリャが両手を広げてノイトを見上げながら[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]を求めるが、ノイトは渡さなかった。ノイトのように[漢字]回復薬[/漢字][ふりがな]ポーション[/ふりがな]に依存すると、後々これなしでは生きていけなくなってしまう場合があるからだ。
「ごめんね、あんまり慣れて良いものじゃないんだよ。その代わりに僕が次の町までおんぶして行ってあげるから...。」
ノイトがしゃがむとリーリャがノイトの背中によじ登ってしがみつく。ノイトはゆっくろと立ち上がって森の外へと歩き出す。森の外は何事も無かったかのように平和な情景が広がっていた。
「この森の外には何の影響もないみたいで良かった...。」
「ねぇ、ノイト〜。この大陸には何があるの〜?」
リーリャは顔を少しノイトに埋めながら質問する。ノイトは次の街の方へ歩きながら答えた。
「この大陸には昨日行った魔導都市・マギノシティを始めとする3つの大きな都市といくつかの小さな町や村があるよ。流石に全部の町を回っていくのは無理だけど、都市に行くまでの経路にあるのは寄っていっても良いかもね。ルミナへの良い思い出話にも出来そうだし。」
「そうなんだ...。ノイトが住んでたミストルの町みたいな感じ?」
「そうだね、大体合ってるよ。」
リーリャはしばらくノイトの話を聞いているうちにだいぶ元気になってきたようだ。そもそもリーリャは魔力を使い切ったわけではない。それを知っていながらもリーリャをおんぶして運んであげるのがノイトだ。
「やった〜!大正解!!」
「"大"がつく程でもないけどね〜。」
「えぇ〜!?」
ノイトは心と比べて身体が重いのを感じつつも、リーリャを運びながら次の街まで何とか歩いていったのであった。