糖花のような恋に落つ
数分後。オレは遥を軽く見送ってから、コンビニで救急用品を買い、学生の怪我に応急処置を施した。
「怪我も処置してくれて……ありがたいです。怪我の処置、手慣れてますね?」
「あー……。オレ大学生なんだけどな、一応大学では[漢字]医療技術学部[/漢字][ふりがな]いりょうぎじゅつがくぶ[/ふりがな]なんだよ。だからこれぐらい大したことねえ」
「へえ……すごいですね!」
学生が目を輝かせてこちらを見る。まあ、大学云々よりも、親の介護をしてる時に怪我の応急処置は何十回もやったから、本当にこれぐらいは大した事ないのだ。救急用品はコンビニで買うと少しだけ高くつくが、それも人命や健康に比べれば、どうって事ない。安い買い物だった。
もう傷の手当も終わり、少し遅くなってしまったが、学生は家に帰る時間だった。
「家、どっちだ」
「こっちです」
「オレの家と同じ方向だな。……その怪我じゃ危ねえだろうし、ちょうどいい。送ってってやるよ」
オレがそういうと、学生は少し申し訳無さそうにしつつ、ありがとうございますとお礼を言ってきた。これぐらいでお礼を言われるのは少し気恥ずかしいが、悪い気はしないので、礼は受け取っておこう。
家に帰ろうとした時、スマホに通知が来た。スマホの画面を確認すると、遥からのメールだった。そういえば今日の昼、連絡先交換してたのを思い出した。少しだけ忘れていたのだ。
『全員やっつけたけど、どうしたらいい』
そういえば、あの時後の事は言ってなかった。とりあえず遥にこっちに来てもらおうか。でも、そうするとこの学生も連れて行くか、一人で帰らせる事になるか。それだと少し不安な気もする。
「どうするか……」
ふと、学生の方をちらっと見ると、誰かに連絡している様子だった。
「誰にメール送ってんだ?」
「ああ、母さんに……。送ってもらうのは申し訳ないから、母さんに来てもらおうかなって……」
そうだ。オレが届ける必要は別に無いんだった。
「おお、そうか!じゃあ、母ちゃんに送ってもらえ。オレな……この後行かなきゃいけねえトコあったんだ」
学生は、はいと頷いてくれて、安心したオレは、学生と少しだけ話をした後、学生と別れた。そしてオレは、遥の元へと向かう事にした。
[水平線]
「遥!来たぞー!」
「遅えよ!」
「おいおい、来てくれたヤツにそんな事言うなっての……」
それから数分後。遥に居場所を伝えてもらってから、オレはすぐそこへと駆けつけた。そしてそこには、少し血を流して倒れているチンピラが四人。遥は本当に全員をやっつけてしまったのだ。
「マジか……。ほんとにお前が全員やったの?」
「そうに決まってんだろ。んで、どうすりゃいい」
チンピラは完全に気を失っている訳ではなくて、少し体がピクピクしていた。意識が[漢字]朦朧[/漢字][ふりがな]もうろう[/ふりがな]としているだけだろう。
「うーん……まあ、とりあえずここに寝かせときゃあいいよ」
「は?」
「警察に届けたらオレらがあーだこーだ言われるだけだろ。どうせもうこの先、同じようなヤンチャは出来ねえだろ。ほっとけばいいんじゃね」
オレがそう言うと、遥はなんというか、バツが悪そうな、そんな顔をしていた。その表情の意味はよく分からないが、警察に色々言われるのは、流石に昔も今も変わっていないだろう。
「なあ、遥」
「んだよ」
チンピラを転がしながら、オレはじっと遥の方を見る。
「ありがとな。お前が居なかったら、オレは迷って何もできない所だった。ありがとう」
オレは本心から、遥に感謝をしていた。実際、あそこで遥が通りすがらなかったら、オレは迷ってしまって、どうしようもなかっただろう。だが、コイツがたまたま居てくれたからここまで出来た。ありがたかった。
感謝を聞くや否や、なぜか遥は顔を赤くさせて、そっぽを向いた。
「べ、別に助けるためじゃねぇよ!」
後ろを向いているが、耳まで赤くなっているので、照れているのはすぐに分かった。
「……お前……なに照れる事があんだよ?」
「う、うるっせぇ!」
遥の声は震えているというか裏返っていて、声色だけでも恥ずかしがっているのが伝わってくる。
なにに照れているのか、オレは一瞬分からなかったが、遥を見ていると、なんだか分かってくるような、そんな気がしなくもなかった。
「お前、昔のオレに似てるな」
「ああ?」
昔、オレが風鈴生だった頃。あの頃の風鈴は、今みたいに街中からボウフウリンと呼ばれるような存在では無かった。だが、オレも気まぐれで人助けをする事が数回ほどあった。それで褒められた時に、オレは褒められ慣れていなくて、確かに遥と同じような反応をしてしまった事がある。今思い出した。
思わず、昔のオレに似ていると遥に言うと、遥はやっとこっちを向いて、なんのこっちゃといったような表情でこっちを見てきた。やっぱり、少しだけ昔のオレと重なるような気がした。
ここまでやってくれた彼には、何かしらお礼でもしなければいけない。手持ちのお礼になるようなものはあまり無いのだが、とりあえず渡しておこう。
「なあ遥。今これしかねえんだが、一応礼だ。受け取っとけ」
オレはそう言って、懐から金平糖の袋を取り出した。今持っている礼になりそうな物が、金平糖ぐらいしか無かったのだ。
「はあ?なんで金平糖なんだよ」
「今手持ちこれしかねえんだよ。ほれ、とりあえず受け取れ!」
ほぼ強引に、遥に金平糖を渡すと、遥は疑問だといった雰囲気半分、お礼されて恥ずかしいといだた気持ち半々の、なんともいえない顔をしていた。
「……お、おう……」
遥のその顔を見て、オレは昼以来の、感じた事がない感情になった。心臓が喜ぶような、脳が喜びで麻痺するような、そんな感情。オレは知らなかった。
「ああ、そのなんだ……。今度改まった礼でもしてやるよ。とりあえず今はこれで……。オレ、明日早いからよ……」
オレはそこまで言うと、遥の顔をあまり見ずに、その場から立ち去ってしまった。金平糖は遥に渡しておいた。
遥の顔を見ようとはしたのだが、なんだかこっちも恥ずかしくなってしまって、よく見る事が出来なかった。意味不明な気持ちに揺さぶられたまま、オレは帰路についた。
「怪我も処置してくれて……ありがたいです。怪我の処置、手慣れてますね?」
「あー……。オレ大学生なんだけどな、一応大学では[漢字]医療技術学部[/漢字][ふりがな]いりょうぎじゅつがくぶ[/ふりがな]なんだよ。だからこれぐらい大したことねえ」
「へえ……すごいですね!」
学生が目を輝かせてこちらを見る。まあ、大学云々よりも、親の介護をしてる時に怪我の応急処置は何十回もやったから、本当にこれぐらいは大した事ないのだ。救急用品はコンビニで買うと少しだけ高くつくが、それも人命や健康に比べれば、どうって事ない。安い買い物だった。
もう傷の手当も終わり、少し遅くなってしまったが、学生は家に帰る時間だった。
「家、どっちだ」
「こっちです」
「オレの家と同じ方向だな。……その怪我じゃ危ねえだろうし、ちょうどいい。送ってってやるよ」
オレがそういうと、学生は少し申し訳無さそうにしつつ、ありがとうございますとお礼を言ってきた。これぐらいでお礼を言われるのは少し気恥ずかしいが、悪い気はしないので、礼は受け取っておこう。
家に帰ろうとした時、スマホに通知が来た。スマホの画面を確認すると、遥からのメールだった。そういえば今日の昼、連絡先交換してたのを思い出した。少しだけ忘れていたのだ。
『全員やっつけたけど、どうしたらいい』
そういえば、あの時後の事は言ってなかった。とりあえず遥にこっちに来てもらおうか。でも、そうするとこの学生も連れて行くか、一人で帰らせる事になるか。それだと少し不安な気もする。
「どうするか……」
ふと、学生の方をちらっと見ると、誰かに連絡している様子だった。
「誰にメール送ってんだ?」
「ああ、母さんに……。送ってもらうのは申し訳ないから、母さんに来てもらおうかなって……」
そうだ。オレが届ける必要は別に無いんだった。
「おお、そうか!じゃあ、母ちゃんに送ってもらえ。オレな……この後行かなきゃいけねえトコあったんだ」
学生は、はいと頷いてくれて、安心したオレは、学生と少しだけ話をした後、学生と別れた。そしてオレは、遥の元へと向かう事にした。
[水平線]
「遥!来たぞー!」
「遅えよ!」
「おいおい、来てくれたヤツにそんな事言うなっての……」
それから数分後。遥に居場所を伝えてもらってから、オレはすぐそこへと駆けつけた。そしてそこには、少し血を流して倒れているチンピラが四人。遥は本当に全員をやっつけてしまったのだ。
「マジか……。ほんとにお前が全員やったの?」
「そうに決まってんだろ。んで、どうすりゃいい」
チンピラは完全に気を失っている訳ではなくて、少し体がピクピクしていた。意識が[漢字]朦朧[/漢字][ふりがな]もうろう[/ふりがな]としているだけだろう。
「うーん……まあ、とりあえずここに寝かせときゃあいいよ」
「は?」
「警察に届けたらオレらがあーだこーだ言われるだけだろ。どうせもうこの先、同じようなヤンチャは出来ねえだろ。ほっとけばいいんじゃね」
オレがそう言うと、遥はなんというか、バツが悪そうな、そんな顔をしていた。その表情の意味はよく分からないが、警察に色々言われるのは、流石に昔も今も変わっていないだろう。
「なあ、遥」
「んだよ」
チンピラを転がしながら、オレはじっと遥の方を見る。
「ありがとな。お前が居なかったら、オレは迷って何もできない所だった。ありがとう」
オレは本心から、遥に感謝をしていた。実際、あそこで遥が通りすがらなかったら、オレは迷ってしまって、どうしようもなかっただろう。だが、コイツがたまたま居てくれたからここまで出来た。ありがたかった。
感謝を聞くや否や、なぜか遥は顔を赤くさせて、そっぽを向いた。
「べ、別に助けるためじゃねぇよ!」
後ろを向いているが、耳まで赤くなっているので、照れているのはすぐに分かった。
「……お前……なに照れる事があんだよ?」
「う、うるっせぇ!」
遥の声は震えているというか裏返っていて、声色だけでも恥ずかしがっているのが伝わってくる。
なにに照れているのか、オレは一瞬分からなかったが、遥を見ていると、なんだか分かってくるような、そんな気がしなくもなかった。
「お前、昔のオレに似てるな」
「ああ?」
昔、オレが風鈴生だった頃。あの頃の風鈴は、今みたいに街中からボウフウリンと呼ばれるような存在では無かった。だが、オレも気まぐれで人助けをする事が数回ほどあった。それで褒められた時に、オレは褒められ慣れていなくて、確かに遥と同じような反応をしてしまった事がある。今思い出した。
思わず、昔のオレに似ていると遥に言うと、遥はやっとこっちを向いて、なんのこっちゃといったような表情でこっちを見てきた。やっぱり、少しだけ昔のオレと重なるような気がした。
ここまでやってくれた彼には、何かしらお礼でもしなければいけない。手持ちのお礼になるようなものはあまり無いのだが、とりあえず渡しておこう。
「なあ遥。今これしかねえんだが、一応礼だ。受け取っとけ」
オレはそう言って、懐から金平糖の袋を取り出した。今持っている礼になりそうな物が、金平糖ぐらいしか無かったのだ。
「はあ?なんで金平糖なんだよ」
「今手持ちこれしかねえんだよ。ほれ、とりあえず受け取れ!」
ほぼ強引に、遥に金平糖を渡すと、遥は疑問だといった雰囲気半分、お礼されて恥ずかしいといだた気持ち半々の、なんともいえない顔をしていた。
「……お、おう……」
遥のその顔を見て、オレは昼以来の、感じた事がない感情になった。心臓が喜ぶような、脳が喜びで麻痺するような、そんな感情。オレは知らなかった。
「ああ、そのなんだ……。今度改まった礼でもしてやるよ。とりあえず今はこれで……。オレ、明日早いからよ……」
オレはそこまで言うと、遥の顔をあまり見ずに、その場から立ち去ってしまった。金平糖は遥に渡しておいた。
遥の顔を見ようとはしたのだが、なんだかこっちも恥ずかしくなってしまって、よく見る事が出来なかった。意味不明な気持ちに揺さぶられたまま、オレは帰路についた。
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