世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
リーリャとメルクは街の中央の建物の最上階から階段を降りて地下の魔具がある場所へと向かう。切り取られた石の階段を数段ずつ飛ばして軽々と階段を降りていくメルクはリーリャよりも一足早く地下へと辿り着いた。リーリャもワンテンポ遅れて地下に着く。そこで2人の目に映ったのは、巨大な青い球体の魔具の前で両手を床についているノイトの姿だった。
「ノイト!!」
「ノイトくん!!」
ノイトは駆け寄って来た2人の声を聞いて顔を上げた。その顔からは安堵が感じられる。
「リーリャ...メル...。もう大丈夫そう?」
「大丈夫だよ、ノイトくん。もう痛くないからね〜、ヨーシヨシ...」
「僕のことじゃないよ。でもまぁ、その様子だと都市の崩壊は一時的に防げたみたいだね。」
リーリャはメルクの活躍を嬉々としてノイトに報告しようとした。
「あのね、さっきリーリャがピアノを弾いたらね!なんかこう、バーッとすっごく大きな五線譜が出てきてね!壁の亀裂を塞いでくれたんだよ!ホントにすごかったんだから!」
「ちょっと、メルク...そこまですごくはないよ。あそこまで出来たのはノイトの魔法のお陰だよ。ありがとう、ノイト。それに、お疲れ様。ごめんね、1人で背負わせちゃって...。ノイトに託されたもの、ちゃんと出来る限りのことはしたよ。」
ノイトは謙虚な態度を取りながらもだんだんと顔が赤くなっていって内心照れているリーリャを見て微笑む。
「2人とも、お疲れ様。」
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちは街に戻った。街の幻覚は完全に消え、壊れた壁の瓦礫が街中に散らばっていて建物も壊れている。壁の亀裂があったところは何やら虹色にキラキラと光っている光の粒が抑えているようだ。
(完全に塞げたわけじゃないし、地下の魔具はもうどうしようも無かった...。残念だけど、この街はもう...。)
ノイトは俯きながら拳を握りしめる。リーリャは自分の魔法がここまでの影響を及ぼしていたことを感じて驚いていた。
「本当に...私がやったの...?これ、全部?」
目を丸くして壁の亀裂が塞がった位置を見上げているリーリャに、メルクが話しかける。
「そうだよっ!私の剣よりも広範囲で丈夫だし、私なんかよりも全然役に立ってたよ!最初にノイトくんやリーリャと会ったときも、リーリャの魔法で防がれちゃったしね〜。すごいよ、本当に。」
そのとき、再び街全体が大きく揺れた。どうやらリーリャの演奏の余韻が完全に終わり、魔法が解け始めて壁の亀裂が再び開け放たれてしまったようだ。3人の近くの亀裂も同様に水が漏れ出している。
「[斜体]ど、どうするのノイトくん!![/斜体]」
「[斜体]まだ逃げ遅れた人がいるかもしれないのに!![/斜体]」
ノイトは俯いたまま黙っていた。そして、手にはめていた革の手袋の魔具をリーリャとメルクの方へかざし、魔法を唱える。
[中央寄せ][[太字][漢字]金縛り[/漢字][ふりがな]パライシス[/ふりがな][/太字]][/中央寄せ]
[大文字][斜体]「「!?」」[/斜体][/大文字]
ノイトは2人の行動を魔法で封じ、今度は街の地面に向かって魔法を使用する。
[中央寄せ][太字]『[明朝体]上級魔法:[大文字][漢字]聖巨樹[/漢字][ふりがな][大文字]イルミンスール[/大文字][/ふりがな][/明朝体]』[/太字][/中央寄せ]
足元から魔力の結晶で出来た裏葉柳色の巨大な樹が出来た。その樹はどんどん空へと伸びていき、やがて街がある湖のさらに上まで届いた。
途中で幹から分かれた枝のような部分が3人を攫い、次の瞬間には3人が居たところに大量の湖水が押し流れてきていた。リーリャとメルクは動こうとするがノイトの魔法に縛られていて身動きが取れない。
[斜体]「待って!ノイト、まだあそこに人影が...!!」
「ノイトくん、私がすぐに連れて来るから早く!魔法を解いて!お願い!」[/斜体]
ノイトは依然として黙ったままだった。やがてリーリャとメルクは強い違和感に襲われる。2人は、急に水中にいるような感覚になり目を見開いた。
「[斜体]なっ...!!息がっ...!?[/斜体]」
「[斜体]水の中、にっ...!![/斜体]」
ノイトは少し顔を上げて2人に状況を説明した。
「リーリャ、メル、落ち着いて。魔具が完全に壊れて、今まであの魔具に溜まっていた魔力の[漢字]歪[/漢字][ふりがな]ひず[/ふりがな]みが放出されているだけ。だから、実際に水中にいるわけじゃないよ。」
ノイトの説明を聞いても未だに信じられない。実際に呼吸が出来ない感覚に襲われているのだ。
「[斜体]でも...ノイ、トっ。ホン、トに息、が[小文字]あ[/小文字]!![/斜体]」
[中央寄せ][[太字][漢字]真実[/漢字][ふりがな]トゥルース[/ふりがな][/太字]][/中央寄せ]
ノイトが魔法をかけた途端に、2人の感覚が元に戻った。
「...あれ?戻った...。」
「幻覚の魔法が強まってただけだったの...?」
ノイトはどういう顔をすれば良いのか分からなかった。取り敢えず2人から目を背けて空を見上げながら話す。
「リーリャ。メル。よく聞いて。世の中には本当にどうしようもないこともたくさんあるんだよ。だから、今この街にいる人たちはもう助けられない。」
「そんな...!!それじゃあ、あの人たちは...。」
リーリャはもう既に湖水で沈んでいる街を見下ろした。
「だけど、別に2人が気にする必要はない。正直なことを言っちゃえば...人間、自分が興味あるものにしか目が行かない。僕は2人が無事で良ければ、それ以外はどうでも良い。世界はおまけなんだよ。」
リーリャとメルクは静かにノイトの話を聞く。
「大事なものは自分で守る。一人ひとりがそれを意識出来ていたから、この世界は今の形を保てているんだよ。...2人は、助けられなかった人たちの分まで笑って、喜んで、楽しんで...そして、生きてね。」
ノイトの言葉を聞いたリーリャはノイトに尋ねた。
「ノイトは...?まさか...。」
「僕は、あの人たちの分まで苦しんで生きる。助けられなかったことが何よりの罪であり、罰なんだよ。2人には笑っていてほしいから、2人の分も僕が背負う。」
メルクは悲しそうな表情でノイトに尋ねる。
「でも、そんなに溜め込んだら...」
「大丈夫。人間は所詮自分勝手で独りよがりに生きていく。だから、僕もツラくなったら苦しみなんか捨てて逃げるよ。僕である必要はないからね...。」
リーリャとメルクもノイトが見ている空を見上げる。
虚しいほどに青い空がどんどん近づいてきて、3人は後悔ではない何かを思い残しながらただじっと湖の上に立っているのだった。
リーリャとメルクは街の中央の建物の最上階から階段を降りて地下の魔具がある場所へと向かう。切り取られた石の階段を数段ずつ飛ばして軽々と階段を降りていくメルクはリーリャよりも一足早く地下へと辿り着いた。リーリャもワンテンポ遅れて地下に着く。そこで2人の目に映ったのは、巨大な青い球体の魔具の前で両手を床についているノイトの姿だった。
「ノイト!!」
「ノイトくん!!」
ノイトは駆け寄って来た2人の声を聞いて顔を上げた。その顔からは安堵が感じられる。
「リーリャ...メル...。もう大丈夫そう?」
「大丈夫だよ、ノイトくん。もう痛くないからね〜、ヨーシヨシ...」
「僕のことじゃないよ。でもまぁ、その様子だと都市の崩壊は一時的に防げたみたいだね。」
リーリャはメルクの活躍を嬉々としてノイトに報告しようとした。
「あのね、さっきリーリャがピアノを弾いたらね!なんかこう、バーッとすっごく大きな五線譜が出てきてね!壁の亀裂を塞いでくれたんだよ!ホントにすごかったんだから!」
「ちょっと、メルク...そこまですごくはないよ。あそこまで出来たのはノイトの魔法のお陰だよ。ありがとう、ノイト。それに、お疲れ様。ごめんね、1人で背負わせちゃって...。ノイトに託されたもの、ちゃんと出来る限りのことはしたよ。」
ノイトは謙虚な態度を取りながらもだんだんと顔が赤くなっていって内心照れているリーリャを見て微笑む。
「2人とも、お疲れ様。」
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
ノイトたちは街に戻った。街の幻覚は完全に消え、壊れた壁の瓦礫が街中に散らばっていて建物も壊れている。壁の亀裂があったところは何やら虹色にキラキラと光っている光の粒が抑えているようだ。
(完全に塞げたわけじゃないし、地下の魔具はもうどうしようも無かった...。残念だけど、この街はもう...。)
ノイトは俯きながら拳を握りしめる。リーリャは自分の魔法がここまでの影響を及ぼしていたことを感じて驚いていた。
「本当に...私がやったの...?これ、全部?」
目を丸くして壁の亀裂が塞がった位置を見上げているリーリャに、メルクが話しかける。
「そうだよっ!私の剣よりも広範囲で丈夫だし、私なんかよりも全然役に立ってたよ!最初にノイトくんやリーリャと会ったときも、リーリャの魔法で防がれちゃったしね〜。すごいよ、本当に。」
そのとき、再び街全体が大きく揺れた。どうやらリーリャの演奏の余韻が完全に終わり、魔法が解け始めて壁の亀裂が再び開け放たれてしまったようだ。3人の近くの亀裂も同様に水が漏れ出している。
「[斜体]ど、どうするのノイトくん!![/斜体]」
「[斜体]まだ逃げ遅れた人がいるかもしれないのに!![/斜体]」
ノイトは俯いたまま黙っていた。そして、手にはめていた革の手袋の魔具をリーリャとメルクの方へかざし、魔法を唱える。
[中央寄せ][[太字][漢字]金縛り[/漢字][ふりがな]パライシス[/ふりがな][/太字]][/中央寄せ]
[大文字][斜体]「「!?」」[/斜体][/大文字]
ノイトは2人の行動を魔法で封じ、今度は街の地面に向かって魔法を使用する。
[中央寄せ][太字]『[明朝体]上級魔法:[大文字][漢字]聖巨樹[/漢字][ふりがな][大文字]イルミンスール[/大文字][/ふりがな][/明朝体]』[/太字][/中央寄せ]
足元から魔力の結晶で出来た裏葉柳色の巨大な樹が出来た。その樹はどんどん空へと伸びていき、やがて街がある湖のさらに上まで届いた。
途中で幹から分かれた枝のような部分が3人を攫い、次の瞬間には3人が居たところに大量の湖水が押し流れてきていた。リーリャとメルクは動こうとするがノイトの魔法に縛られていて身動きが取れない。
[斜体]「待って!ノイト、まだあそこに人影が...!!」
「ノイトくん、私がすぐに連れて来るから早く!魔法を解いて!お願い!」[/斜体]
ノイトは依然として黙ったままだった。やがてリーリャとメルクは強い違和感に襲われる。2人は、急に水中にいるような感覚になり目を見開いた。
「[斜体]なっ...!!息がっ...!?[/斜体]」
「[斜体]水の中、にっ...!![/斜体]」
ノイトは少し顔を上げて2人に状況を説明した。
「リーリャ、メル、落ち着いて。魔具が完全に壊れて、今まであの魔具に溜まっていた魔力の[漢字]歪[/漢字][ふりがな]ひず[/ふりがな]みが放出されているだけ。だから、実際に水中にいるわけじゃないよ。」
ノイトの説明を聞いても未だに信じられない。実際に呼吸が出来ない感覚に襲われているのだ。
「[斜体]でも...ノイ、トっ。ホン、トに息、が[小文字]あ[/小文字]!![/斜体]」
[中央寄せ][[太字][漢字]真実[/漢字][ふりがな]トゥルース[/ふりがな][/太字]][/中央寄せ]
ノイトが魔法をかけた途端に、2人の感覚が元に戻った。
「...あれ?戻った...。」
「幻覚の魔法が強まってただけだったの...?」
ノイトはどういう顔をすれば良いのか分からなかった。取り敢えず2人から目を背けて空を見上げながら話す。
「リーリャ。メル。よく聞いて。世の中には本当にどうしようもないこともたくさんあるんだよ。だから、今この街にいる人たちはもう助けられない。」
「そんな...!!それじゃあ、あの人たちは...。」
リーリャはもう既に湖水で沈んでいる街を見下ろした。
「だけど、別に2人が気にする必要はない。正直なことを言っちゃえば...人間、自分が興味あるものにしか目が行かない。僕は2人が無事で良ければ、それ以外はどうでも良い。世界はおまけなんだよ。」
リーリャとメルクは静かにノイトの話を聞く。
「大事なものは自分で守る。一人ひとりがそれを意識出来ていたから、この世界は今の形を保てているんだよ。...2人は、助けられなかった人たちの分まで笑って、喜んで、楽しんで...そして、生きてね。」
ノイトの言葉を聞いたリーリャはノイトに尋ねた。
「ノイトは...?まさか...。」
「僕は、あの人たちの分まで苦しんで生きる。助けられなかったことが何よりの罪であり、罰なんだよ。2人には笑っていてほしいから、2人の分も僕が背負う。」
メルクは悲しそうな表情でノイトに尋ねる。
「でも、そんなに溜め込んだら...」
「大丈夫。人間は所詮自分勝手で独りよがりに生きていく。だから、僕もツラくなったら苦しみなんか捨てて逃げるよ。僕である必要はないからね...。」
リーリャとメルクもノイトが見ている空を見上げる。
虚しいほどに青い空がどんどん近づいてきて、3人は後悔ではない何かを思い残しながらただじっと湖の上に立っているのだった。