世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
メルクがリーリャの元へと戻ってきた。
「リーリャ、取り敢えずあそこに居た人たちはドメリアスさんが逃がしてくれたよ!」
「分かった。それじゃあ今度は、私の番だね。」
リーリャが魔力で具現化された黒いピアノの椅子に座り、深く息を吸って再び指を鍵盤に添える。そして、指が鍵盤を丁寧に押していった。リーリャは「パッサカリア」※を演奏する。音が流れるように繋がっていき、虹色の魔力を帯びた黒い五線譜が伸びていく。その音は建物全体に広がっていったが、まだこの街全体に聞こえるほどの影響力はない。
(届いていない...でも、きっと!!)
リーリャの演奏はその建物の地下、古代の魔具の前に居たノイトにも聞こえていた。ノイトは禁忌魔法を唱えようとしたときに魔法で肺を縛られた痛みが残っていて床の上に突っ伏したままであったが、リーリャの演奏を聞いて笑みを浮かべる。
[中央寄せ][[漢字][太字]広範拡声[/太字][/漢字][ふりがな]アンプリフィケーション[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトの魔法が最上階にいるリーリャのピアノに届き、リーリャの演奏の[漢字]音量[/漢字][ふりがな]ボリューム[/ふりがな]が上がる。
そしてそれは、水中都市・ウォルディード全土に届くには十分であった。
[水平線]
[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][太字][漢字]幻想奏楽[/漢字][ふりがな]パフォーマンス[/ふりがな][/太字][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
[水平線]
魔法の五線譜がさらに広がり、巨大化する。大きくなった五線譜は街の中心の石造りの建物から伸びていき、街を囲う壁の亀裂から漏れ出す湖水を押し返していった。五線譜が壁の亀裂を塞ぐとまた別の所かに亀裂が入ってしまったが、それも塞いでしまえば問題はない。
しかし、この街も小さくない。永遠にとまではいかないが、漏れ出す水はほとんどキリがない。それでもリーリャは自身の演奏が終わるまでその手を止めない。
[水平線]
─流れるように美しく下がっていく音。流れるように美しく上がっていく音。
─左手の旋律が優しくもしっかりと五線譜を支え、右手の旋律が五線譜の上を音符としてなぞっていく。
─白い魔力を帯びた黒い音符が壁の亀裂に触れると亀裂が魔法で塞がれる。
[水平線]
やがて五線譜と音符が街を囲う壁の亀裂を全て塞ぎ、リーリャの演奏も終わりを迎える。最後の透き通った音が街に静かに響いたあと、静寂が訪れた。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
リーリャの近くで演奏を聞いていたメルクは感動して言葉に出来ないようだった。
(すごい...。これがリーリャの魔法...。すごい...。)
リーリャが演奏を終えてピアノから立ち上がり、[漢字]幻想の首飾り[/漢字][ふりがな]ファンタジア・ペンダント[/ふりがな]が具現化させていたピアノが消えたあと。それでもまだ街に残っていた余韻が壁の亀裂を塞ぐ魔法となっていた。
リーリャはメルクに時間を稼いでくれたことと逃げ遅れていた人たちを自分の代わりに助けに行ってくれたことを感謝する。
「メルク、私の代わりに助けに行ってくれてありがとう。私がまだ心の準備を出来ていなくても、メルクが時間を稼いでくれたお陰で助かったよ。」
「べ、別にそんな大したことじゃないよ。でも、まぁ...どういたしまして。」
急に感謝されて照れているメルクはリーリャと顔を見合わせて微笑み合う。取り敢えずは、街の崩壊を止めることが出来たことを誇りに思っていた。
「でも未だに信じられないな...。私たちがこの街を救っちゃったんでしょ?夢見たい...。」
「夢じゃないよ。リーリャの魔法、大活躍だったね。」
リーリャは嬉しさが混ざっていても図に乗ることなく答える。
「そんな...、ノイトの魔法があったお陰で...、!![大文字][斜体]ノイト、忘れてた!![/斜体][/大文字]」
「[大文字][斜体]あっ...!![/斜体][/大文字]」
リーリャとメルクはノイトのことを思い出してノイトを探しに行こうとする。
「きっとまだ地下の魔具の前にいるはずだよ!急ごう!!」
2人は最上階から地下へと向かって階段を下り始めるのであった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
これはまだリーリャの演奏が続いていたときのこと。
五線譜が伸びている街を覆う、分厚い岩の壁の上に座って様子を見ている人物がいた。ドメリアスである。
「友達、か...。大したもんだな...これは予想外だった。」
ドメリアスはゆっくりと立ち上がって陸上へと避難させていた住人たちの元へと戻ろうとする。
「ノイトか...まだ若いのにどデカいことしでかすものだな。だが...」
ゆっくりと街の方を振り返って目を細めて冷静に言い放つ。
「目の前の大きなことばかり見ていて、残された小さなものが見えていない。流石に全ては救えない、か...。諦めることも知るんだな。」
ドメリアスは壁の上から小声で魔法を唱えて再び空中を蹴るようにして移動し、湖の外へと消えていった。
※ハープシコード組曲 第1巻 第7番 ト短調 HWV.432 第6曲「パッサカリア」
/ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
メルクがリーリャの元へと戻ってきた。
「リーリャ、取り敢えずあそこに居た人たちはドメリアスさんが逃がしてくれたよ!」
「分かった。それじゃあ今度は、私の番だね。」
リーリャが魔力で具現化された黒いピアノの椅子に座り、深く息を吸って再び指を鍵盤に添える。そして、指が鍵盤を丁寧に押していった。リーリャは「パッサカリア」※を演奏する。音が流れるように繋がっていき、虹色の魔力を帯びた黒い五線譜が伸びていく。その音は建物全体に広がっていったが、まだこの街全体に聞こえるほどの影響力はない。
(届いていない...でも、きっと!!)
リーリャの演奏はその建物の地下、古代の魔具の前に居たノイトにも聞こえていた。ノイトは禁忌魔法を唱えようとしたときに魔法で肺を縛られた痛みが残っていて床の上に突っ伏したままであったが、リーリャの演奏を聞いて笑みを浮かべる。
[中央寄せ][[漢字][太字]広範拡声[/太字][/漢字][ふりがな]アンプリフィケーション[/ふりがな]][/中央寄せ]
ノイトの魔法が最上階にいるリーリャのピアノに届き、リーリャの演奏の[漢字]音量[/漢字][ふりがな]ボリューム[/ふりがな]が上がる。
そしてそれは、水中都市・ウォルディード全土に届くには十分であった。
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[中央寄せ][明朝体]『超級魔法:[大文字][太字][漢字]幻想奏楽[/漢字][ふりがな]パフォーマンス[/ふりがな][/太字][/大文字]』[/明朝体][/中央寄せ]
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魔法の五線譜がさらに広がり、巨大化する。大きくなった五線譜は街の中心の石造りの建物から伸びていき、街を囲う壁の亀裂から漏れ出す湖水を押し返していった。五線譜が壁の亀裂を塞ぐとまた別の所かに亀裂が入ってしまったが、それも塞いでしまえば問題はない。
しかし、この街も小さくない。永遠にとまではいかないが、漏れ出す水はほとんどキリがない。それでもリーリャは自身の演奏が終わるまでその手を止めない。
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─流れるように美しく下がっていく音。流れるように美しく上がっていく音。
─左手の旋律が優しくもしっかりと五線譜を支え、右手の旋律が五線譜の上を音符としてなぞっていく。
─白い魔力を帯びた黒い音符が壁の亀裂に触れると亀裂が魔法で塞がれる。
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やがて五線譜と音符が街を囲う壁の亀裂を全て塞ぎ、リーリャの演奏も終わりを迎える。最後の透き通った音が街に静かに響いたあと、静寂が訪れた。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
リーリャの近くで演奏を聞いていたメルクは感動して言葉に出来ないようだった。
(すごい...。これがリーリャの魔法...。すごい...。)
リーリャが演奏を終えてピアノから立ち上がり、[漢字]幻想の首飾り[/漢字][ふりがな]ファンタジア・ペンダント[/ふりがな]が具現化させていたピアノが消えたあと。それでもまだ街に残っていた余韻が壁の亀裂を塞ぐ魔法となっていた。
リーリャはメルクに時間を稼いでくれたことと逃げ遅れていた人たちを自分の代わりに助けに行ってくれたことを感謝する。
「メルク、私の代わりに助けに行ってくれてありがとう。私がまだ心の準備を出来ていなくても、メルクが時間を稼いでくれたお陰で助かったよ。」
「べ、別にそんな大したことじゃないよ。でも、まぁ...どういたしまして。」
急に感謝されて照れているメルクはリーリャと顔を見合わせて微笑み合う。取り敢えずは、街の崩壊を止めることが出来たことを誇りに思っていた。
「でも未だに信じられないな...。私たちがこの街を救っちゃったんでしょ?夢見たい...。」
「夢じゃないよ。リーリャの魔法、大活躍だったね。」
リーリャは嬉しさが混ざっていても図に乗ることなく答える。
「そんな...、ノイトの魔法があったお陰で...、!![大文字][斜体]ノイト、忘れてた!![/斜体][/大文字]」
「[大文字][斜体]あっ...!![/斜体][/大文字]」
リーリャとメルクはノイトのことを思い出してノイトを探しに行こうとする。
「きっとまだ地下の魔具の前にいるはずだよ!急ごう!!」
2人は最上階から地下へと向かって階段を下り始めるのであった。
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
これはまだリーリャの演奏が続いていたときのこと。
五線譜が伸びている街を覆う、分厚い岩の壁の上に座って様子を見ている人物がいた。ドメリアスである。
「友達、か...。大したもんだな...これは予想外だった。」
ドメリアスはゆっくりと立ち上がって陸上へと避難させていた住人たちの元へと戻ろうとする。
「ノイトか...まだ若いのにどデカいことしでかすものだな。だが...」
ゆっくりと街の方を振り返って目を細めて冷静に言い放つ。
「目の前の大きなことばかり見ていて、残された小さなものが見えていない。流石に全ては救えない、か...。諦めることも知るんだな。」
ドメリアスは壁の上から小声で魔法を唱えて再び空中を蹴るようにして移動し、湖の外へと消えていった。
※ハープシコード組曲 第1巻 第7番 ト短調 HWV.432 第6曲「パッサカリア」
/ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル