世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
3人は湖に辿り着き、馬車を見送る。メルクとリーリャはまだノイトが先程の言葉を放った意図を理解出来ていない。
「ノイトくん...怒ってたらごめんね?」
「...別に、もう怒ってないよ。」
先程は怒っていたのか。メルクはリーリャが自身のことをどう思うかとノイトに聞いて、それにノイトは大切な友達だから好きだと言っていた。さらにそれを聞いたメルクが変に弄ろうとしたためにノイトが怒った...というところだろうか。
「ノイト...、ごめんね。私が急に変なこと聞いちゃったから...。」
「気にしなくて良いよ。別にリーリャもメルも悪いわけじゃないから。」
リーリャは知っていた。ノイトは辛いことは1人で抱え込もうとする。他の人を極力辛い目に合わせない。それがノイトなりの優しさだった。
「ごめんね、ノイトくん...。何でもするから、許し(許す?私を...?)」
メルクは言いかけた言葉を飲み込む。自分が言っていることに違和感を感じたのだ。
(何でもする、って言ったところで、私は本当に何にでも耐えられる自信はない...。それに、何かすれば許されることじゃないよね?許してもらおうとして、相手に何か条件を出す。それで許して貰おうだなんて、戦犯のくせに甘すぎない?しかも、その条件を出したことに満足していた私は...。)
急にメルクが言おうとしていたことを言わずに居たので、リーリャもノイトに言おうとしていたことを言いにくくなってしまう。そんな2人の様子を見たノイトは深い深呼吸をした。ノイトは何となく気が楽になった感覚を感じ、それから2人に話しかける。
「リーリャ、メル、この先は水中だよ。はぐれたら困るから、あんまり離れないで。」
「「...分かった。」」
「それと、メル。[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]か[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]、頼める?」
ノイトの表情からは一切の怒りを感じない。むしろメルクへの信頼と期待があるようにも見えた。ノイトが怒っていないことに安心したメルクは自身の中の罪悪感を感じながらも答える。
「うん、私で良ければいくらでも。[漢字]仲間[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]なんでしよ?」
メルクは何かが吹っ切れたような気がした。そして手を空中へとかざし、魔法を唱える。
[中央寄せ][[漢字][太字]瞬間移動[/太字][/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]][/中央寄せ]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚水中都市・ウォルディード〛[/中央寄せ]
3人はメルクの魔法で水中都市に移動した。水中であるにも関わらず、呼吸が出来る。それに驚いたリーリャはノイトにそれが何故かを質問してみた。
「ねぇ、ノイト。どうして私たち、呼吸できてるの?ここって水中なんでしょ?」
「まぁそうだね。多分この街は何らかの魔法で守られているんだよ。水中の酸素濃度を極限まで上げたのか...もしくは水があるように見える幻覚魔法がかかっているかだね。」
「後者だ。」
ノイトたちの背後にこの都市の住人らしき男が立っていた。服装はいかにもファンタジーのゲームなどで見るような住人のもので、この世界の陸上に住んでいる者たちと大して変わった様子はない。
「幻覚魔法がかけられているのですか?」
流暢な敬語で男に質問したのは、誰かと思えばメルクだ。一瞬誰か理解出来なかったノイトだったが、すぐに昨日のことを思い出す。
(そういえば、初めて会ったときは敬語だったな...。今はかわいらしい見た目とは裏腹にいかにも前世に関係ありそうなものから際どいものまでジョークを飛ばしてくるような本性まで出してきてるし、タメ口かつ結構フランクに話してたからすっかり忘れてた...。)
メルクの質問に男が答えた。
「あぁ、そうだ。現に、街の中に魚が泳いでいるように見えるが、触れても感触がない。それに、本来なら水中では濡れるとされている紙なども濡れた状態になっていない。」
「なるほど...。こんなに広い街全体に影響する魔法をかけた人なら、きっとすごい人なんだよね!ノイトは同じこと出来る?」
リーリャがノイトの顔を覗き込んできながら聞いてくる。ノイトはリーリャのしぐさに僅かだがメルクのようなあざとさを狙ったものを感じつつ答えた。
「う〜ん、出来ないわけではないけど、多分長時間はきついかな...?持ってせいぜい3日。それ以上は持続的に安定した魔力を扱うのはちょっとな...。」
「いや、この魔法は誰か1人がかけたものではないぞ。この街に伝わる伝説らしいがな、どうもかつてあった大きな戦よりも前の時代からこの街の下には膨大な魔力の地脈のようなものがあるらしいんだ。今もそこから魔力を吸い上げていると聞いたことがある。もちろん供給量には多少の誤差が日毎に生まれるが、それを安定させるための巨大な魔具がこの都市の中枢部の、ここよりも更に深い場所にあって、それがこの街を守る役割もしているらしい。」
男の説明にリーリャとメルクは相槌をうっていたが、ノイトの脳内にはいくつかの疑問が浮かぶ。
(大昔の魔具ならいつ壊れてもおかしくはない。仮に禁忌魔法で補強されていても、それが施されたのがかつてあったとされる大きな戦とやらの前であれば...この街は危ないかも知れないな。そして...この人、やけにこの街のことを客観的に見ている。恐らくこの街で生まれ育った人ではないんだろうな。探索者か研究員...じゃなくて...。そうだ、調査員だ。その可能性が高いな。)
ノイトがじっと男を見ていたことで、男が何かを察してノイトに話しかけた。
「どうかしたのか?...あぁ、そうか。自己紹介がまだだったね。俺はノルティーク帝国の王家直属の研究調査機関・イスラで現場調査員として勤めている、ドメリアスと言う者だ。」
「あ、...わざわざご親切にどうも。僕はノイトと言います。こっちの子がリーリャで、この子がメルク。3人で旅をしています。」
ドメリアスはノイトの紹介を聞いて微笑んだ。
「旅か...若い子たちは良いな。世界をその目で確かめてみると良い。...それじゃあ、俺は次の用事があるので失礼する。」
ノイト、リーリャ、メルクの3人は揃ってドメリアスにお辞儀をした。
「「「ありがとうございました。」」」
「あれ?ハモった!偶然〜」
「ノイトの声だけ私たちの声よりもちょっと低いから何か少しだけ浮いてたね。」
「う〜ん、まぁそれはしょうがないでしょ。」
3人は互いに顔を見合わせて笑う。ドメリアスはその笑い声に見送られて街並みの中に消えていった。
3人は湖に辿り着き、馬車を見送る。メルクとリーリャはまだノイトが先程の言葉を放った意図を理解出来ていない。
「ノイトくん...怒ってたらごめんね?」
「...別に、もう怒ってないよ。」
先程は怒っていたのか。メルクはリーリャが自身のことをどう思うかとノイトに聞いて、それにノイトは大切な友達だから好きだと言っていた。さらにそれを聞いたメルクが変に弄ろうとしたためにノイトが怒った...というところだろうか。
「ノイト...、ごめんね。私が急に変なこと聞いちゃったから...。」
「気にしなくて良いよ。別にリーリャもメルも悪いわけじゃないから。」
リーリャは知っていた。ノイトは辛いことは1人で抱え込もうとする。他の人を極力辛い目に合わせない。それがノイトなりの優しさだった。
「ごめんね、ノイトくん...。何でもするから、許し(許す?私を...?)」
メルクは言いかけた言葉を飲み込む。自分が言っていることに違和感を感じたのだ。
(何でもする、って言ったところで、私は本当に何にでも耐えられる自信はない...。それに、何かすれば許されることじゃないよね?許してもらおうとして、相手に何か条件を出す。それで許して貰おうだなんて、戦犯のくせに甘すぎない?しかも、その条件を出したことに満足していた私は...。)
急にメルクが言おうとしていたことを言わずに居たので、リーリャもノイトに言おうとしていたことを言いにくくなってしまう。そんな2人の様子を見たノイトは深い深呼吸をした。ノイトは何となく気が楽になった感覚を感じ、それから2人に話しかける。
「リーリャ、メル、この先は水中だよ。はぐれたら困るから、あんまり離れないで。」
「「...分かった。」」
「それと、メル。[漢字]瞬間移動[/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]か[漢字]空間転移[/漢字][ふりがな]テレポート[/ふりがな]、頼める?」
ノイトの表情からは一切の怒りを感じない。むしろメルクへの信頼と期待があるようにも見えた。ノイトが怒っていないことに安心したメルクは自身の中の罪悪感を感じながらも答える。
「うん、私で良ければいくらでも。[漢字]仲間[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]なんでしよ?」
メルクは何かが吹っ切れたような気がした。そして手を空中へとかざし、魔法を唱える。
[中央寄せ][[漢字][太字]瞬間移動[/太字][/漢字][ふりがな]ワープ[/ふりがな]][/中央寄せ]
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚水中都市・ウォルディード〛[/中央寄せ]
3人はメルクの魔法で水中都市に移動した。水中であるにも関わらず、呼吸が出来る。それに驚いたリーリャはノイトにそれが何故かを質問してみた。
「ねぇ、ノイト。どうして私たち、呼吸できてるの?ここって水中なんでしょ?」
「まぁそうだね。多分この街は何らかの魔法で守られているんだよ。水中の酸素濃度を極限まで上げたのか...もしくは水があるように見える幻覚魔法がかかっているかだね。」
「後者だ。」
ノイトたちの背後にこの都市の住人らしき男が立っていた。服装はいかにもファンタジーのゲームなどで見るような住人のもので、この世界の陸上に住んでいる者たちと大して変わった様子はない。
「幻覚魔法がかけられているのですか?」
流暢な敬語で男に質問したのは、誰かと思えばメルクだ。一瞬誰か理解出来なかったノイトだったが、すぐに昨日のことを思い出す。
(そういえば、初めて会ったときは敬語だったな...。今はかわいらしい見た目とは裏腹にいかにも前世に関係ありそうなものから際どいものまでジョークを飛ばしてくるような本性まで出してきてるし、タメ口かつ結構フランクに話してたからすっかり忘れてた...。)
メルクの質問に男が答えた。
「あぁ、そうだ。現に、街の中に魚が泳いでいるように見えるが、触れても感触がない。それに、本来なら水中では濡れるとされている紙なども濡れた状態になっていない。」
「なるほど...。こんなに広い街全体に影響する魔法をかけた人なら、きっとすごい人なんだよね!ノイトは同じこと出来る?」
リーリャがノイトの顔を覗き込んできながら聞いてくる。ノイトはリーリャのしぐさに僅かだがメルクのようなあざとさを狙ったものを感じつつ答えた。
「う〜ん、出来ないわけではないけど、多分長時間はきついかな...?持ってせいぜい3日。それ以上は持続的に安定した魔力を扱うのはちょっとな...。」
「いや、この魔法は誰か1人がかけたものではないぞ。この街に伝わる伝説らしいがな、どうもかつてあった大きな戦よりも前の時代からこの街の下には膨大な魔力の地脈のようなものがあるらしいんだ。今もそこから魔力を吸い上げていると聞いたことがある。もちろん供給量には多少の誤差が日毎に生まれるが、それを安定させるための巨大な魔具がこの都市の中枢部の、ここよりも更に深い場所にあって、それがこの街を守る役割もしているらしい。」
男の説明にリーリャとメルクは相槌をうっていたが、ノイトの脳内にはいくつかの疑問が浮かぶ。
(大昔の魔具ならいつ壊れてもおかしくはない。仮に禁忌魔法で補強されていても、それが施されたのがかつてあったとされる大きな戦とやらの前であれば...この街は危ないかも知れないな。そして...この人、やけにこの街のことを客観的に見ている。恐らくこの街で生まれ育った人ではないんだろうな。探索者か研究員...じゃなくて...。そうだ、調査員だ。その可能性が高いな。)
ノイトがじっと男を見ていたことで、男が何かを察してノイトに話しかけた。
「どうかしたのか?...あぁ、そうか。自己紹介がまだだったね。俺はノルティーク帝国の王家直属の研究調査機関・イスラで現場調査員として勤めている、ドメリアスと言う者だ。」
「あ、...わざわざご親切にどうも。僕はノイトと言います。こっちの子がリーリャで、この子がメルク。3人で旅をしています。」
ドメリアスはノイトの紹介を聞いて微笑んだ。
「旅か...若い子たちは良いな。世界をその目で確かめてみると良い。...それじゃあ、俺は次の用事があるので失礼する。」
ノイト、リーリャ、メルクの3人は揃ってドメリアスにお辞儀をした。
「「「ありがとうございました。」」」
「あれ?ハモった!偶然〜」
「ノイトの声だけ私たちの声よりもちょっと低いから何か少しだけ浮いてたね。」
「う〜ん、まぁそれはしょうがないでしょ。」
3人は互いに顔を見合わせて笑う。ドメリアスはその笑い声に見送られて街並みの中に消えていった。