世界に溢れる夢
[中央寄せ]・・・[/中央寄せ]
[中央寄せ]エリア〚ヴェルグランド大陸/いにしえの地・オボロノサト〛[/中央寄せ]
ノイトたちはオボロノサトに辿り着いた。リーリャが隣に居るノイトに向かって話しかける。
「以前来た時はあまりゆっくり出来てなかったから今日はゆっくりしたいね。」
「そうだね。日が暮れるくらいまではここに居られるから。」
そのとき、町の中から小さなくノ一たちが駆けつけてきた。ツバメとスズメである。
「イグ様ー!」「イグ様〜!!」
「おぉ、ツバメにスズメ。無事だったか。」
「イグ様こそご無事で何よりです!」「です!」
ツバメがノイトとリーリャに気が付きじっと見つめてくる。スズメはツバメの影に隠れてじっと見つめてきた。
「えっと......以前会った......?」
「あぁ、うん。会ったね。」
「ねえちゃん、この人だあれ?」
「あ〜、イグ様の......知り合い?」
「まぁ、そんなところだね。」
「他の人たちは?」
[太字][明朝体]「私はノルティーク帝国の第2王女のルミナス=ノルティークと申します。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「私はレイク=ファザール。ノルティーク王族に仕えている者だ。」[/大文字]
(スズメ......だっけ?を相手にしてるとルミナスがすごくお姉さんに見える......。)
「ねえちゃん、王族って偉いの?」
「うん、偉い人だ。なんで偉いのか知らないけど。」
[太字][明朝体]「確かに、私も気にしたことありませんでした......!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「他の王族に関しては詳しくありませんが......ノルティーク王族はノルティーク大陸にかつて現れたという“原初の魔神”の討伐に大きく貢献し、その後文明を築いたことでその功績が後世に受け継がれた結果だと言われております。」[/大文字]
[太字][明朝体]「なるほど!! それなら私のご先祖様はすごい方だったのですね......!」[/明朝体][/太字]
そこでアテルがノイトの服の裾を引いて話しかけてきた。
「ノイト、ツルさんのところまで案内するから着いてきて〜。」
アテルに引っ張られるがままに町の中を歩いていると所々に壊れた建物が目に入った。耳を澄ませてみれば昨夜何かあったようだ。
「イグさん、これって......。」
「......朱羅だな。」
朱羅が暴れた際に現れた嵐や雷で瓦や木片などが転がっている。
(やっぱりこっちに連れてこなくて正解だったか。)
アテルはノイトの腕を引っ張りながらツバメやスズメと話していた。
「ねぇ、後でツルさんに[漢字]二重息吹[/漢字][ふりがな]ふたえいぶき[/ふりがな]の練習の成果見せに行こう?」
「良いよ!2人ともできるようになった?」
「ボクは出来るようになったけど、まだどうしてもズレちゃうときがある。」
「わたちはもうちょっとでできそう!アテルちゃんは?」
「ふっふっふっ......私はもう完璧だよ!」
リーリャがノイトの隣で微笑んでいてノイトに話しかけてくる。
「ノイト、なんかすっごく微笑ましい光景だね〜......。」
「そうだね〜。見てるだけで癒される......。」
アテルはツバメとスズメの2人と話していて、イグは町の人たちから話しかけられている。そしてルミナスはレイクと何かを話しているようだ。自然にノイトとリーリャが残り物同士で話すことになっていた。
「メルクたちも楽しんでると良いね。」
「霊峰観光グループのルートは癒しって感じではなさそうだけどね。でもまぁ、山頂は空気が美味しいと思うよ。そこまで高い山じゃないから酸素も十分にあるだろうし。カメリア様が山道に慣れているか分からないけど、リオールさんがついているから心配ないと思う。」
「そっか。ノービリア観光グループはどうかな?朱羅が燥いでそうだけど。」
「実際そうだろうね。ノービリアは温泉まんじゅうとか温泉卵とか美味しいものがたくさんあるから食べ歩きでもしてそう。フィルさんもユリメラさんが居るから精神的に安定するだろうし、まぁお父さんが居れば大丈夫でしょ。」
「それはそう。ミドネイトさん、なんかすごく安心感あるよね〜。なんでかな?」
「あれは生まれ持った気質じゃないかな?魔力で誤魔化そうとしても騙されなさそうなフィルさんが懐いてるくらいだしね。」
「そうだね。あの人と話したとき、結構色々話せちゃったよ。」
「ん〜、何話したの?」
「ミドネイトさんが私の現世でのパパのことを知ってるだとか、私が転生者だってすぐに見抜いたとか、そういう感じ。あの人も転生者なんだって。」
「あ〜、やっぱり。」
「やっぱり、ってことは何となく分かってたの?」
「まぁね〜。名前で分かったよ。」
「名前?」
「僕の現世での名前“ノイト”に似てる単語がいくつかあるんだよ。夜を意味する言葉だと英語では“night”、フランス語では“nuit”。他には、フィンランド語で魔術師っていう意味の“noita”とか。」
「へぇ〜、偶然とは思えないね。」
「そう。さらに、お父さんの名前。英語表記でのスペルは恐らくM・I・D・N・A・T・E。さらに“ソルフォトス”の頭文字のSを入れて並べ替えると“MEDITANS”。これはラテン語で“考える者”みたいな意味の単語だよ。」
「アナグラムまで?それはもう転生者説が濃厚だったね......。それにしても、ノイトはなんでそんなに知ってるの?」
「響きがかっこいい単語は好きだからね。後は、以前あっち側に言ったときに調べた。」
「そっか。」
そんな会話をしているうちに橋の上に通りかかった。ルミナスは橋の欄干を両手をかけて川を覗く。
[太字][明朝体]「わぁ......!綺麗......!!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「......鯉ですね。」[/大文字]
[太字][明朝体]「こ、恋......!?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「魚の名前の方です。」[/大文字]
ルミナスはホッとして胸を撫で下ろした。
(ルミナ、僕とリーリャがキスしたってこと知ってからずっとあんな感じだな......。まぁ、ルミナも年頃の女の子だし、恋愛に興味が出てくるのも全然ありえるか。)
先程から歳下の少女らの遠足の引率をしている気分である。一応最年長のイグも一緒に居るが余ってしまっているようだ。丁度そのときアテルとツバメとスズメの3人がこちらへ振り向いた。奥に見える道場のような建物を背に何やら誇らしげに胸を張っている。目的地に着いたようだ。
「ノイト!ここがツルさんの道場だよ!」
「ボクたちはここで忍術を習ってる。」
「わたちのヨーエンさにみほれるがいいー!」
一拍空いて。
「将来が心配だなぁ。誰に吹き込まれたんだか......。」
「ツルさんがたまにいってるのきいておぼえた。」
「そうなんだ......あんまり使わない方が良いと思うけどね。」
ノイトは再びアテルに手を引かれて道場の中へと入った。見上げると高い天井には年季が入っているが、板張りの床にはホコリはまったくない。
「ようこそ、私の道場へ。」
大きな広間の中央に立っていたのは1人の女性。手に持っているのは竹刀。
「私の名前はツル。うちの敷居を踏んだからには新入りと見做すぞ。構えろ。」
「リーリャ、下がってて。」
次の瞬間、ツルが踏み出した。一歩踏み出したかと思えば眼の前に居る。
(速い......!)
ノイトはそうは言いつつも勘で躱した。
「見事。次は受けろ。」
「え、丸腰 [斜体][太字]でっ!?[/太字][/斜体]」
ギリギリで腕を使って受け止め、そのまま竹刀の動きに合わせるように転がって受け身を取る。
「ほう。これを受け止めるか。なら次だ。」
ツルが煙のようになって消えた。
(気配が読めない......風も吹いてない......けど。ここだ。)
ノイトが回し蹴りでツルの竹刀を受け止めた。
「んっ!!」
ツルが足を払ってくるがノイトはそれを飛んで躱し、同時にツルの手首を掴んで着地と同時に投げる。ツルは受け身を取ったためダメージはない。
「合格だ。入門を認めよう。」
「あ、いや、入門したくて来たわけじゃなくてですね......?」
「?」
アテルが手を挙げて発言する。
「はいっ!私が連れてきましたー!」
「アテルが......?」
「はい!ノイトは昨日魔神と戦ってて疲れてるから観光させてます!」
「魔神と......?それは面白い......是非ともその実力を見せてもらいたいところだ。」
ノイトとリーリャには既視感があった。以前凱旋都市・コロフェリスにて。リーリャの発言によってノイトが魔神と戦ったことがバレてしまい、チャンピオンに目を付けられてしまった。結果としてはノイトが勝ったが、それでも相手から警戒と好奇心の混ざった目を向けられるのはあまり好きではない。
「が、疲れているのなら強制はしない。アテルの知人と言うのであればゆっくり休んでいくと良い。せっかくだからツバメとスズメの練習の成果でも見学していけ。」
ノイトたちは広間の端によって3人(2人とスライム1体)の様子を見守ることにした。
「先日渡しが3人に課した課題は息長の練習だ。」
[太字][明朝体]「おきなが?」[/明朝体][/太字]
首を傾げるルミナスを見てノイトが説明する。
「息長っていうのは呼吸法の1つで、深くゆっくりと呼吸をすることで心を落ち着かせる効果があるものだね。」
「詳しいな。」
「少しだけですけどね。」
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは色んなことを知っていてスゴいです!よく本を読んでいるリブラムなら分かるかもしれませんが......。」[/明朝体][/太字]
リブラムはノルティーク帝国の第3王子であり、第2王女のルミナスの弟である。ノイトはあまり関わりがないが、視界に映ったときはいつも本を手に持っていた。
(個性ってすごいな......。)
大広間の真ん中で3人の少女が息長の練習の成果を見せている。ツバメとスズメはあまり上手く出来ていなかったが、アテルは上手く出来ていた。
(そういえばアテルって何歳なんだろう......?まだ1歳にもなってないと言われても、1000歳を超えてると言われても納得出来る......。)
上手く出来て笑っているアテルを見ていると余計に分からなくなってくる。
「ノイト〜!どうだった?ちゃんと見てた?」
「うん、見てたよ。すごく上手だったね。」
「えっへん!」
ツバメとスズメの2人も忍耐強く練習を続けていた。またもや微笑ましい光景が広がっている。リーリャが少しだけノイトとの距離を詰めてきた。
「ねぇノイト、ツルさんってどのくらい強いのかな?」
「そうだなぁ......ん〜、見た感じ剣術と柔術は使えそう。後はアテルたちが忍術を習ってるみたいだから、それも使えるんじゃないかな。」
「器用だね......。」
「“器用”は色々なことが出来ることじゃなくて一部のことで本領発揮出来ることだと僕は思ってるよ。」
「なるほどねぇ。」
ツルはアテルに次の課題を課す。
「アテル、次は分身の術だ。」
「はい!分身します!!」
アテルは身体を分裂させて全く同じ姿の分身を2体作った。
「え......?」
「ツルさん!分身しました!!」
「これでどうですか〜?」
「別々で動けますよ!」
3体のアテルは各々が好きな動きをして燥いでいる。ツルはその様子を見て困惑していた。それも当然である。ツルが想像していた分身は魔力で作った囮のこと。違う動きを別々に出来ることだけでも至難の技であるにも関わらず、アテルのそれは各々の意思があるかのように喋っていた。
「ノイト〜!どう?すごい?」
「うん、すごいよ〜。」
「待て待て!どういう仕組みだ......!?」
ツルが分身のアテルを順につついてみたが、すべてに本物のような感触がある。
「ツルさん。アテルのそれは結構特殊なやつですよ。アテルはスライムなので姿形を変えるのは容易なことでしょうし、魔力密度が悍ましいことになっているので魔力で具現化した質量も元の質量と同じである必要はありません。」
「......とんでもない者を入門させてしまったな......。」
「まぁ、柔術は必要なさそうですけど、剣術くらいは覚えさせてあげてください。」
「まいったな......。」
額を押さえるツルを見てノイトは気まずそうな笑顔を作った。ふとリーリャの方を見てみると目があった。
「どうしたの、ノイト?」
「なんでもないよ。」
ルミナスはノイトとリーリャの様子を見て頬を赧めていた。
[太字][明朝体]「レイク、お兄ちゃんとリーリャ様の関係って......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「ただの友情を超えた何か、それを控えめにしたように見えますね。」[/大文字]
[太字][明朝体]「......リーリャ様は羨ましいですね。楽しそうです。でも、リーリャ様と居るときのお兄ちゃんはなんか変です。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「変、ですか。」[/大文字]
[太字][明朝体]「はい。いつもよりも浅いと言うか、一歩引いているような......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「迂闊に踏み出してしまわず、慎重に丁寧に関係を築き上げていますね。それだけ相手のことを意識しているのかもしれません。」[/大文字]
[太字][明朝体]「そう、ですか......。」[/明朝体][/太字]
無邪気に燥ぐアテルが1つに戻ってツルはまた驚いていた。アテルはその様子を見て笑っている。ツバメとスズメも連られて笑い始めた。
[太字][明朝体](なんだか......すごい良い。羨ましい。あんなに笑えるのが。私は一応一国の王女という身分で、いつかは誰かと結ばれて、ノルティーク帝国を支える必要がある。背負うことが生まれ持って課された義務なのは分かるけど......責任まで取れるかどうか......。)[/明朝体][/太字]
[太字][明朝体]「レイク......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「はい。」[/大文字]
[太字][明朝体]「私は、このままじゃダメだと思うんです。もっと強くなって、誰かをすぐ側で支えられるようになって、いつか責任感ある大人にならなければいけない。どうすれば良いと思いますか?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「............。ご年齢を理由に逃げることなく向き合っているその姿勢、感服致しました。責任を取れるような心持ちに必要なのは経験と知識と状況判断能力です。これらを身につけるためには少し時間がかかりますが......学びある場所に身を置けば身につくかと。」[/大文字]
[太字][明朝体]「学びある場所......?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「ラクスドルム大陸にある学園都市・ノウスエーテリアには魔術、錬金術、占星術を始めとする色々な学問の専門家たちが集うと聞いたことがあります。」[/大文字]
[太字][明朝体]「......!行ってみたいです!!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「承知致しました。ノルティーク王城に帰ったらノルティーク王様に“知識の魔神”に関する報告と共に相談してみましょう。」[/大文字]
[太字][明朝体]「はい!」[/明朝体][/太字]
ノイトはルミナスとレイクの会話が耳に入ってきたためあることを考えていた。
(ルミナの短期留学......面白そうだね。多分レイクさんが着いてくれる。メルやラルカにもまだまだ伸び代があるし、そういうところを成長させる期間でも設けようかな。)
アテルがイグの方にトテトテと歩いて話しかけに行く。
「ん?アテル、どうしたんだ?」
「イグはツルさんの稽古つけないの?」
「今日は休みに来ただけだ。また今度だな。」
「ふ〜ん......。イグ、町に戻って甘味屋のお団子食べに行こ!」
「ふむ、そうだな。」
「ノイト〜!お団子食べに行こ〜!!」
アテルが手を振って名前を呼ぶ。ノイトとリーリャも立ち上がってツルにお礼を言った。
「改めて、いつもアテルがお世話になってます。これからもよろしくお願いします。」
「あぁ、もう帰るのか。それならこれだけ持っていけ。」
ツルに手渡されたのは紙で出来た形代。魔具の一種だろう。
「魔力を込めれば想像したものが作れる。ただ、本体が風に飛ばされたり壊れたりしたら使えなくなるがな。」
「ありがとうございます。」
ノイトはお辞儀をして道場を後にした。
アテルに案内されてノイトたちは町の中を歩いていく。やがて甘味屋に辿り着き、アテルの表情がさらに明るくなった。
「おばちゃん!お団子くださいな!!」
アテルの声で店の中に居た割烹着を着たお婆さんが出てきて笑顔で出迎えてくれる。
「おやまぁ、今日はお友達たくさん連れてきたのねぇ。ちょっと待っててね。」
お婆さんが串団子を持ってきて全員に配った。アテルがフライングで食べ始め、残りの面々も一口食べる。
「ん〜!おいしい!!」
「みたらし団子久しぶりに食べた〜!」
[太字][明朝体]「ん!! おいしいです!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「程よい弾力が良い......。」[/大文字]
お婆さんはアテルの満面の笑みを見て微笑んでいた。
「アテルちゃんは本当に良い顔をして食べるねぇ。お陰で作って良かったって思えるよ。」
「おばちゃんのところのお団子は世界一〜!ね、ノイト?」
「うん、世界一美味しい。」
(多分この世界でみたらし団子作ってるのはここしかないし。)
ノイトは空を見上げる。青空。町に瓦礫を転がした嵐があったことなど嘘のように晴れている。
(......あれ、僕たちはオボロノサトでお団子食べて、ノービリア観光グループは町で温泉まんじゅう食べて......霊峰観光グループ、食料持ってたかな?まぁ1日くらいなら食べなくても体調不良で済むか。)
リーリャが何か言いたげな表情を浮かべてノイトの横顔を見つめていた。視線に気が付いたノイトがそちらを向くと目が合う。
「ん、どうしたの?」
「ん〜?別に〜?」
「?」
「ノイトがボーっとしてるときは大抵何かを考えているとき。何かを考えてるときのノイトはいつも空を見てる。しかも、そういうときは私でも分からない難しげなこと考えてる。違う?」
「丁度そういうことを考えようとしてたところだったんだけど......今回はまだ未遂だよ。よく分かったね。」
「私もノイトとの付き合いは長いからね〜。私もそうだし。」
「リーリャもなの?正直意外だなぁ......。」
「......それって私が全然そういうこと考えたりしない人間だと思ってるってこと?酷〜い!」
「あはは、ごめんって。でもさ、リーリャ。」
「......?」
「何かに集中するときは他を削ぎ落とすときでもあるってことは忘れないようにね。」
「......分かった。」
ルミナスはノイトとリーリャの様子を見て小声でレイクに話しかけた。
[太字][明朝体]「やっぱりお兄ちゃんとリーリャ様は良い感じです。お兄ちゃんは昨夜も頑張っていたので少しだけ2人にしてあげませんか?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「そうですね。イグ殿はどう致しますか?」[/大文字]
「そうだな、わしも壊れている家の様子を見てくるとしよう。」
アテルは甘味屋の中でお婆さんと楽しそうに話していたが、ルミナスたちの動向に気が付いてノイトとリーリャの後ろ姿をぼんやりと見つめた。
「あら、若いわね〜。」
「おばちゃん、2人ともお団子食べ終わっちゃったみたい。もう1個持ってく?」
「いや、このままにしてあげましょう。邪魔したら悪いもの。」
「?」
「アテルちゃんにもいつか分かるかもねぇ。」
ノイトはルミナスたちが気を遣って離れたことに気が付いていないのか。あるいは気づいた上でその気遣いを無駄にするまいと気が付かないフリをしているのか。どちらにせよ、他の人から見れば外の晴空と対象的に影になって並んでいる2人の間に割り込もうという気にはならないだろう。
「おばちゃん、2人とも良い感じだね〜」
「ふふっ、そうね〜。」
しばらくの間ノイトとリーリャは黙っていたが、周りからの視線が少し減ったためか表情が少し柔らかくなったように感じた。
[中央寄せ]エリア〚ヴェルグランド大陸/いにしえの地・オボロノサト〛[/中央寄せ]
ノイトたちはオボロノサトに辿り着いた。リーリャが隣に居るノイトに向かって話しかける。
「以前来た時はあまりゆっくり出来てなかったから今日はゆっくりしたいね。」
「そうだね。日が暮れるくらいまではここに居られるから。」
そのとき、町の中から小さなくノ一たちが駆けつけてきた。ツバメとスズメである。
「イグ様ー!」「イグ様〜!!」
「おぉ、ツバメにスズメ。無事だったか。」
「イグ様こそご無事で何よりです!」「です!」
ツバメがノイトとリーリャに気が付きじっと見つめてくる。スズメはツバメの影に隠れてじっと見つめてきた。
「えっと......以前会った......?」
「あぁ、うん。会ったね。」
「ねえちゃん、この人だあれ?」
「あ〜、イグ様の......知り合い?」
「まぁ、そんなところだね。」
「他の人たちは?」
[太字][明朝体]「私はノルティーク帝国の第2王女のルミナス=ノルティークと申します。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「私はレイク=ファザール。ノルティーク王族に仕えている者だ。」[/大文字]
(スズメ......だっけ?を相手にしてるとルミナスがすごくお姉さんに見える......。)
「ねえちゃん、王族って偉いの?」
「うん、偉い人だ。なんで偉いのか知らないけど。」
[太字][明朝体]「確かに、私も気にしたことありませんでした......!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「他の王族に関しては詳しくありませんが......ノルティーク王族はノルティーク大陸にかつて現れたという“原初の魔神”の討伐に大きく貢献し、その後文明を築いたことでその功績が後世に受け継がれた結果だと言われております。」[/大文字]
[太字][明朝体]「なるほど!! それなら私のご先祖様はすごい方だったのですね......!」[/明朝体][/太字]
そこでアテルがノイトの服の裾を引いて話しかけてきた。
「ノイト、ツルさんのところまで案内するから着いてきて〜。」
アテルに引っ張られるがままに町の中を歩いていると所々に壊れた建物が目に入った。耳を澄ませてみれば昨夜何かあったようだ。
「イグさん、これって......。」
「......朱羅だな。」
朱羅が暴れた際に現れた嵐や雷で瓦や木片などが転がっている。
(やっぱりこっちに連れてこなくて正解だったか。)
アテルはノイトの腕を引っ張りながらツバメやスズメと話していた。
「ねぇ、後でツルさんに[漢字]二重息吹[/漢字][ふりがな]ふたえいぶき[/ふりがな]の練習の成果見せに行こう?」
「良いよ!2人ともできるようになった?」
「ボクは出来るようになったけど、まだどうしてもズレちゃうときがある。」
「わたちはもうちょっとでできそう!アテルちゃんは?」
「ふっふっふっ......私はもう完璧だよ!」
リーリャがノイトの隣で微笑んでいてノイトに話しかけてくる。
「ノイト、なんかすっごく微笑ましい光景だね〜......。」
「そうだね〜。見てるだけで癒される......。」
アテルはツバメとスズメの2人と話していて、イグは町の人たちから話しかけられている。そしてルミナスはレイクと何かを話しているようだ。自然にノイトとリーリャが残り物同士で話すことになっていた。
「メルクたちも楽しんでると良いね。」
「霊峰観光グループのルートは癒しって感じではなさそうだけどね。でもまぁ、山頂は空気が美味しいと思うよ。そこまで高い山じゃないから酸素も十分にあるだろうし。カメリア様が山道に慣れているか分からないけど、リオールさんがついているから心配ないと思う。」
「そっか。ノービリア観光グループはどうかな?朱羅が燥いでそうだけど。」
「実際そうだろうね。ノービリアは温泉まんじゅうとか温泉卵とか美味しいものがたくさんあるから食べ歩きでもしてそう。フィルさんもユリメラさんが居るから精神的に安定するだろうし、まぁお父さんが居れば大丈夫でしょ。」
「それはそう。ミドネイトさん、なんかすごく安心感あるよね〜。なんでかな?」
「あれは生まれ持った気質じゃないかな?魔力で誤魔化そうとしても騙されなさそうなフィルさんが懐いてるくらいだしね。」
「そうだね。あの人と話したとき、結構色々話せちゃったよ。」
「ん〜、何話したの?」
「ミドネイトさんが私の現世でのパパのことを知ってるだとか、私が転生者だってすぐに見抜いたとか、そういう感じ。あの人も転生者なんだって。」
「あ〜、やっぱり。」
「やっぱり、ってことは何となく分かってたの?」
「まぁね〜。名前で分かったよ。」
「名前?」
「僕の現世での名前“ノイト”に似てる単語がいくつかあるんだよ。夜を意味する言葉だと英語では“night”、フランス語では“nuit”。他には、フィンランド語で魔術師っていう意味の“noita”とか。」
「へぇ〜、偶然とは思えないね。」
「そう。さらに、お父さんの名前。英語表記でのスペルは恐らくM・I・D・N・A・T・E。さらに“ソルフォトス”の頭文字のSを入れて並べ替えると“MEDITANS”。これはラテン語で“考える者”みたいな意味の単語だよ。」
「アナグラムまで?それはもう転生者説が濃厚だったね......。それにしても、ノイトはなんでそんなに知ってるの?」
「響きがかっこいい単語は好きだからね。後は、以前あっち側に言ったときに調べた。」
「そっか。」
そんな会話をしているうちに橋の上に通りかかった。ルミナスは橋の欄干を両手をかけて川を覗く。
[太字][明朝体]「わぁ......!綺麗......!!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「......鯉ですね。」[/大文字]
[太字][明朝体]「こ、恋......!?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「魚の名前の方です。」[/大文字]
ルミナスはホッとして胸を撫で下ろした。
(ルミナ、僕とリーリャがキスしたってこと知ってからずっとあんな感じだな......。まぁ、ルミナも年頃の女の子だし、恋愛に興味が出てくるのも全然ありえるか。)
先程から歳下の少女らの遠足の引率をしている気分である。一応最年長のイグも一緒に居るが余ってしまっているようだ。丁度そのときアテルとツバメとスズメの3人がこちらへ振り向いた。奥に見える道場のような建物を背に何やら誇らしげに胸を張っている。目的地に着いたようだ。
「ノイト!ここがツルさんの道場だよ!」
「ボクたちはここで忍術を習ってる。」
「わたちのヨーエンさにみほれるがいいー!」
一拍空いて。
「将来が心配だなぁ。誰に吹き込まれたんだか......。」
「ツルさんがたまにいってるのきいておぼえた。」
「そうなんだ......あんまり使わない方が良いと思うけどね。」
ノイトは再びアテルに手を引かれて道場の中へと入った。見上げると高い天井には年季が入っているが、板張りの床にはホコリはまったくない。
「ようこそ、私の道場へ。」
大きな広間の中央に立っていたのは1人の女性。手に持っているのは竹刀。
「私の名前はツル。うちの敷居を踏んだからには新入りと見做すぞ。構えろ。」
「リーリャ、下がってて。」
次の瞬間、ツルが踏み出した。一歩踏み出したかと思えば眼の前に居る。
(速い......!)
ノイトはそうは言いつつも勘で躱した。
「見事。次は受けろ。」
「え、丸腰 [斜体][太字]でっ!?[/太字][/斜体]」
ギリギリで腕を使って受け止め、そのまま竹刀の動きに合わせるように転がって受け身を取る。
「ほう。これを受け止めるか。なら次だ。」
ツルが煙のようになって消えた。
(気配が読めない......風も吹いてない......けど。ここだ。)
ノイトが回し蹴りでツルの竹刀を受け止めた。
「んっ!!」
ツルが足を払ってくるがノイトはそれを飛んで躱し、同時にツルの手首を掴んで着地と同時に投げる。ツルは受け身を取ったためダメージはない。
「合格だ。入門を認めよう。」
「あ、いや、入門したくて来たわけじゃなくてですね......?」
「?」
アテルが手を挙げて発言する。
「はいっ!私が連れてきましたー!」
「アテルが......?」
「はい!ノイトは昨日魔神と戦ってて疲れてるから観光させてます!」
「魔神と......?それは面白い......是非ともその実力を見せてもらいたいところだ。」
ノイトとリーリャには既視感があった。以前凱旋都市・コロフェリスにて。リーリャの発言によってノイトが魔神と戦ったことがバレてしまい、チャンピオンに目を付けられてしまった。結果としてはノイトが勝ったが、それでも相手から警戒と好奇心の混ざった目を向けられるのはあまり好きではない。
「が、疲れているのなら強制はしない。アテルの知人と言うのであればゆっくり休んでいくと良い。せっかくだからツバメとスズメの練習の成果でも見学していけ。」
ノイトたちは広間の端によって3人(2人とスライム1体)の様子を見守ることにした。
「先日渡しが3人に課した課題は息長の練習だ。」
[太字][明朝体]「おきなが?」[/明朝体][/太字]
首を傾げるルミナスを見てノイトが説明する。
「息長っていうのは呼吸法の1つで、深くゆっくりと呼吸をすることで心を落ち着かせる効果があるものだね。」
「詳しいな。」
「少しだけですけどね。」
[太字][明朝体]「お兄ちゃんは色んなことを知っていてスゴいです!よく本を読んでいるリブラムなら分かるかもしれませんが......。」[/明朝体][/太字]
リブラムはノルティーク帝国の第3王子であり、第2王女のルミナスの弟である。ノイトはあまり関わりがないが、視界に映ったときはいつも本を手に持っていた。
(個性ってすごいな......。)
大広間の真ん中で3人の少女が息長の練習の成果を見せている。ツバメとスズメはあまり上手く出来ていなかったが、アテルは上手く出来ていた。
(そういえばアテルって何歳なんだろう......?まだ1歳にもなってないと言われても、1000歳を超えてると言われても納得出来る......。)
上手く出来て笑っているアテルを見ていると余計に分からなくなってくる。
「ノイト〜!どうだった?ちゃんと見てた?」
「うん、見てたよ。すごく上手だったね。」
「えっへん!」
ツバメとスズメの2人も忍耐強く練習を続けていた。またもや微笑ましい光景が広がっている。リーリャが少しだけノイトとの距離を詰めてきた。
「ねぇノイト、ツルさんってどのくらい強いのかな?」
「そうだなぁ......ん〜、見た感じ剣術と柔術は使えそう。後はアテルたちが忍術を習ってるみたいだから、それも使えるんじゃないかな。」
「器用だね......。」
「“器用”は色々なことが出来ることじゃなくて一部のことで本領発揮出来ることだと僕は思ってるよ。」
「なるほどねぇ。」
ツルはアテルに次の課題を課す。
「アテル、次は分身の術だ。」
「はい!分身します!!」
アテルは身体を分裂させて全く同じ姿の分身を2体作った。
「え......?」
「ツルさん!分身しました!!」
「これでどうですか〜?」
「別々で動けますよ!」
3体のアテルは各々が好きな動きをして燥いでいる。ツルはその様子を見て困惑していた。それも当然である。ツルが想像していた分身は魔力で作った囮のこと。違う動きを別々に出来ることだけでも至難の技であるにも関わらず、アテルのそれは各々の意思があるかのように喋っていた。
「ノイト〜!どう?すごい?」
「うん、すごいよ〜。」
「待て待て!どういう仕組みだ......!?」
ツルが分身のアテルを順につついてみたが、すべてに本物のような感触がある。
「ツルさん。アテルのそれは結構特殊なやつですよ。アテルはスライムなので姿形を変えるのは容易なことでしょうし、魔力密度が悍ましいことになっているので魔力で具現化した質量も元の質量と同じである必要はありません。」
「......とんでもない者を入門させてしまったな......。」
「まぁ、柔術は必要なさそうですけど、剣術くらいは覚えさせてあげてください。」
「まいったな......。」
額を押さえるツルを見てノイトは気まずそうな笑顔を作った。ふとリーリャの方を見てみると目があった。
「どうしたの、ノイト?」
「なんでもないよ。」
ルミナスはノイトとリーリャの様子を見て頬を赧めていた。
[太字][明朝体]「レイク、お兄ちゃんとリーリャ様の関係って......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「ただの友情を超えた何か、それを控えめにしたように見えますね。」[/大文字]
[太字][明朝体]「......リーリャ様は羨ましいですね。楽しそうです。でも、リーリャ様と居るときのお兄ちゃんはなんか変です。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「変、ですか。」[/大文字]
[太字][明朝体]「はい。いつもよりも浅いと言うか、一歩引いているような......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「迂闊に踏み出してしまわず、慎重に丁寧に関係を築き上げていますね。それだけ相手のことを意識しているのかもしれません。」[/大文字]
[太字][明朝体]「そう、ですか......。」[/明朝体][/太字]
無邪気に燥ぐアテルが1つに戻ってツルはまた驚いていた。アテルはその様子を見て笑っている。ツバメとスズメも連られて笑い始めた。
[太字][明朝体](なんだか......すごい良い。羨ましい。あんなに笑えるのが。私は一応一国の王女という身分で、いつかは誰かと結ばれて、ノルティーク帝国を支える必要がある。背負うことが生まれ持って課された義務なのは分かるけど......責任まで取れるかどうか......。)[/明朝体][/太字]
[太字][明朝体]「レイク......。」[/明朝体][/太字]
[大文字]「はい。」[/大文字]
[太字][明朝体]「私は、このままじゃダメだと思うんです。もっと強くなって、誰かをすぐ側で支えられるようになって、いつか責任感ある大人にならなければいけない。どうすれば良いと思いますか?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「............。ご年齢を理由に逃げることなく向き合っているその姿勢、感服致しました。責任を取れるような心持ちに必要なのは経験と知識と状況判断能力です。これらを身につけるためには少し時間がかかりますが......学びある場所に身を置けば身につくかと。」[/大文字]
[太字][明朝体]「学びある場所......?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「ラクスドルム大陸にある学園都市・ノウスエーテリアには魔術、錬金術、占星術を始めとする色々な学問の専門家たちが集うと聞いたことがあります。」[/大文字]
[太字][明朝体]「......!行ってみたいです!!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「承知致しました。ノルティーク王城に帰ったらノルティーク王様に“知識の魔神”に関する報告と共に相談してみましょう。」[/大文字]
[太字][明朝体]「はい!」[/明朝体][/太字]
ノイトはルミナスとレイクの会話が耳に入ってきたためあることを考えていた。
(ルミナの短期留学......面白そうだね。多分レイクさんが着いてくれる。メルやラルカにもまだまだ伸び代があるし、そういうところを成長させる期間でも設けようかな。)
アテルがイグの方にトテトテと歩いて話しかけに行く。
「ん?アテル、どうしたんだ?」
「イグはツルさんの稽古つけないの?」
「今日は休みに来ただけだ。また今度だな。」
「ふ〜ん......。イグ、町に戻って甘味屋のお団子食べに行こ!」
「ふむ、そうだな。」
「ノイト〜!お団子食べに行こ〜!!」
アテルが手を振って名前を呼ぶ。ノイトとリーリャも立ち上がってツルにお礼を言った。
「改めて、いつもアテルがお世話になってます。これからもよろしくお願いします。」
「あぁ、もう帰るのか。それならこれだけ持っていけ。」
ツルに手渡されたのは紙で出来た形代。魔具の一種だろう。
「魔力を込めれば想像したものが作れる。ただ、本体が風に飛ばされたり壊れたりしたら使えなくなるがな。」
「ありがとうございます。」
ノイトはお辞儀をして道場を後にした。
アテルに案内されてノイトたちは町の中を歩いていく。やがて甘味屋に辿り着き、アテルの表情がさらに明るくなった。
「おばちゃん!お団子くださいな!!」
アテルの声で店の中に居た割烹着を着たお婆さんが出てきて笑顔で出迎えてくれる。
「おやまぁ、今日はお友達たくさん連れてきたのねぇ。ちょっと待っててね。」
お婆さんが串団子を持ってきて全員に配った。アテルがフライングで食べ始め、残りの面々も一口食べる。
「ん〜!おいしい!!」
「みたらし団子久しぶりに食べた〜!」
[太字][明朝体]「ん!! おいしいです!」[/明朝体][/太字]
[大文字]「程よい弾力が良い......。」[/大文字]
お婆さんはアテルの満面の笑みを見て微笑んでいた。
「アテルちゃんは本当に良い顔をして食べるねぇ。お陰で作って良かったって思えるよ。」
「おばちゃんのところのお団子は世界一〜!ね、ノイト?」
「うん、世界一美味しい。」
(多分この世界でみたらし団子作ってるのはここしかないし。)
ノイトは空を見上げる。青空。町に瓦礫を転がした嵐があったことなど嘘のように晴れている。
(......あれ、僕たちはオボロノサトでお団子食べて、ノービリア観光グループは町で温泉まんじゅう食べて......霊峰観光グループ、食料持ってたかな?まぁ1日くらいなら食べなくても体調不良で済むか。)
リーリャが何か言いたげな表情を浮かべてノイトの横顔を見つめていた。視線に気が付いたノイトがそちらを向くと目が合う。
「ん、どうしたの?」
「ん〜?別に〜?」
「?」
「ノイトがボーっとしてるときは大抵何かを考えているとき。何かを考えてるときのノイトはいつも空を見てる。しかも、そういうときは私でも分からない難しげなこと考えてる。違う?」
「丁度そういうことを考えようとしてたところだったんだけど......今回はまだ未遂だよ。よく分かったね。」
「私もノイトとの付き合いは長いからね〜。私もそうだし。」
「リーリャもなの?正直意外だなぁ......。」
「......それって私が全然そういうこと考えたりしない人間だと思ってるってこと?酷〜い!」
「あはは、ごめんって。でもさ、リーリャ。」
「......?」
「何かに集中するときは他を削ぎ落とすときでもあるってことは忘れないようにね。」
「......分かった。」
ルミナスはノイトとリーリャの様子を見て小声でレイクに話しかけた。
[太字][明朝体]「やっぱりお兄ちゃんとリーリャ様は良い感じです。お兄ちゃんは昨夜も頑張っていたので少しだけ2人にしてあげませんか?」[/明朝体][/太字]
[大文字]「そうですね。イグ殿はどう致しますか?」[/大文字]
「そうだな、わしも壊れている家の様子を見てくるとしよう。」
アテルは甘味屋の中でお婆さんと楽しそうに話していたが、ルミナスたちの動向に気が付いてノイトとリーリャの後ろ姿をぼんやりと見つめた。
「あら、若いわね〜。」
「おばちゃん、2人ともお団子食べ終わっちゃったみたい。もう1個持ってく?」
「いや、このままにしてあげましょう。邪魔したら悪いもの。」
「?」
「アテルちゃんにもいつか分かるかもねぇ。」
ノイトはルミナスたちが気を遣って離れたことに気が付いていないのか。あるいは気づいた上でその気遣いを無駄にするまいと気が付かないフリをしているのか。どちらにせよ、他の人から見れば外の晴空と対象的に影になって並んでいる2人の間に割り込もうという気にはならないだろう。
「おばちゃん、2人とも良い感じだね〜」
「ふふっ、そうね〜。」
しばらくの間ノイトとリーリャは黙っていたが、周りからの視線が少し減ったためか表情が少し柔らかくなったように感じた。